表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/175

第47話 縁の下の力持ち

 2回の表になり、四番の注目選手の有原が打席に立つ。


 天童はまたも同い年のすごい選手と対決する事に喜びを感じ、こいつを抑えられれば自信にもつながると好機(こうき)と思ったのか、松井を強気なリードでサインを送る。


 松井もそのくらい強気じゃないと勝てる相手じゃないと判断したのか、サイン通りに投げてツーボール、ツーストライクに追い込んだ。


 しかし有原は決してあきらめない男で、追い込まれても強気で振り続け、ファールを二回連続で打つ。


「あれが松井くんの変則ストレートかあ。どこに変化するかわからないからもう的を絞るのは止めよっかな」


「バットを短く持たないんだな。だがこいつはムービングを待っているから今回はやめておこう。スライダーで外れてもいいからギリギリを攻めて手が出せないくらいにしてやろう」


「うん、そうしよう。ふんっ!」


「スライダー……! それっ!」


「げっ!」


二遊間(にゆうかん)だ! これで抜けたぞ!」


「させないっ! それっ!」


「嘘っ!?」


「志村!」


「ナイストス! そいっ!」


「おっしゃー!」


「くっ……!」


「アウト!」


 セカンドの岡がダイビングキャッチを決め、投げようにも体勢が悪いために志村に送球をトスで託し、清原がきっちり捕球をする。


 岡と志村の超ファインプレーに観客は拍手喝采(はくしゅかっさい)、相手の常海大(じょうかいだい)相模(さがみ)ベンチも拍手しざるを得なくなった。


 有原は悔しそうに見つめつつ、ナイスキャッチ!と岡を大声で褒めた。


 後続の野崎もセンターフライ、九十九(つくも)もキャッチャーフライに打ち取ってチェンジする。


 2回のウラで四番の中田が打席に入り、中田は一度打席を外してフルスイングをする。


「ふんっ!」


「豪快なスイング……。野崎くんよりもかっ飛ばしそう……」


「さあ来い!」


「この人のバッティングは怖いし敬遠したいけど、ここで敬遠したら間違いなく後続の清原くんに打たれるし、やっぱり打ち取ってもらった方がいいのかもしれません。倉橋先輩のストレートでも中田さんに通用するか……」


「今チェンジアップ投げたら甘く入りそうだ。ストレートで様子見したい」


「チェンジアップがダメですか。じゃあストレートにしましょう」


「それがいい。ふう……ふんっ!」


「ストレート来たっ! おらあっ!」


「ファール!」


「ちっ、手を出すのが早過ぎたか……!」


「この人はどの投球でも迷いがないんだ……。だったらカウントを稼ぎつつ際どいところにカーブにしましょう」


「そうしよう。今のでストレートは怖いってわかった。だったらカーブで……空振ってもらうよっ!」


「クソッ……! カーブかよっ!」


「やった! これでタイミングがズレ……」


「うらあっ!」


「え……!?」


 中田は体勢が崩れながらも強引に引っ張り、レフト線へ打球が転がった。


 レフトの岩城(いわき)がそれを全力で追いかけ、二塁へ送球して中田は安打を稼いだ。


 次の清原はツーベースでランナーが二、三塁とチャンスになる。


 ここでチャンスに強い志村の打席になった。


「よし……来い!」


「この人は何を仕掛けてくるかわからないから少しウエストで揺さぶってみよう」


「ウエストは俺はあまり好きじゃないが、中田は足が遅いしスクイズ来るかもだから仕方ないか……。ふんっ!」


 スッ……と志村はスクイズの姿勢に入った。


 しかし中田は一向に走る気配はない。


 それでも鈴木はスクイズが来たと身構えてウエストをキャッチする。


「ボール!」


「走らないか……。ナイスボールです! 多分中田さんの足だとスクイズしても間に合わないと判断したのかな……。そうだとしたら都合がいいかな。ここからは少しだけ強気でいきましょう」


「それがいい。ふんっ!」


 スッ……


「またスクイズ……!? それともまたハッタリ……!?」


 スパーンッ!


「ストライク!」


「オッケーです! ストライクは稼ぎました! またフェイント……三回目は三度目の正直で本当にスクイズするかもしれない。倉橋先輩、ここは新たに取得したアレでいきませんか?」


「さてと、そろそろ仕掛けるか。監督もスクイズのサイン出してるし。中田……俺の腹を見てるよな……?」


「腹を三回さすった……。スクイズをやるんだな、任せろ」


「フォークボール……。あんまり実戦では使えないからもう少し練習したかったけど……今しかないかっ!」


「来たっ! 走れっ!」


「おっしゃー!」


「スクイズだっ!」


「捕るっ! 絶対にっ!」


「なっ……! 落ちた……!?」


「何だと……!?」


 パシッ!


「ストライク!」


「やべっ……!」


「よし! タッチアウト!」


「うぐ……!」


「アウト!」


 スクイズを仕掛けたものの、倉橋の新変化球のフォークに翻弄され、中田は三塁から飛び出してしまった結果となってタッチアウトとなった。


 その後は志村は三振、三田もショートの有原のダイビングキャッチに阻まれて得点ならず。


 3回と4回は膠着(こうちゃく)状態が続き、なかなか点が取れない状況となった。


 5回の表で四番の有原が試合を動かした。


 カキーン!


「なっ……!?」


 カコーン!


 有原の放った打球は左中間(さちゅうかん)を抜け、そのままホームランとなった。


 有原は決してパワーがあるタイプではなく、上手くバットにボールを当ててそのまま放るという技術で打つタイプだ。


 東雲(しののめ)と野崎は逆にパワーでホームランを打つタイプなので追い打ちにもなり、野崎も続くようにライトスタンドへ運んでいった。


 松井はそのままノックアウトしてしまい、精神的にも参ったのでピッチャーを交代する。


 天童も天童自身のリードの甘さが出てしまったのでキャッチャーも交代させられた。


 ピッチャーには(さかき)、キャッチャーには今まで試合に出ていなかった石田が交代要員で出場する。


 ベンチでは松井が天童に頭を下げる。


「すまない天童! 俺が弱いせいでお前にまで迷惑かけて……」


「いや、松井先輩は何も悪くないっす。ピッチャーのせいになるのはフォアボールやデッドボールだけですから。打たれたのはキャッチャーである俺の甘さっすよ。もう少し田中先輩にリードのあり方を教わります」


「ああ……俺ももっと球速を上げるよ」


「自信家だが自責の心はあるんだな。それだけでもキャッチャーとして立派だよ。後は石田に任せておけ。あいつは俺や天童が出るから出場機会は少ないけど、ああ見えて『俺たちにはない武器を持ってる』からな」


「田中先輩……」


 続く九十九には石田のリードで榊は徐々にヒートアップする。


 榊はまだスロースターターなところがあるが、登板するだろうとあらかじめ石田はブルペンキャッチャーを自ら務め、榊の身体を温めつつ感覚を養わせたのだ。


 普段はブルペンキャッチャーをするが、ピッチャーの準備を(おこた)らないのが石田のキャッチャー論で、いかにピッチャーを楽にさせるかを心掛けているようだ。


 おかげで九十九、岩城、鈴木を三振に取って終わらせた。


「すげえ。あのスロースターターの榊がこんなに早くエンジンがかかるなんて……!」


「俺はピッチャーの状態や能力で判断してその時のベストなリード、お前は強肩と打力、そして俊敏性(しゅんびんせい)を活かした打てるタイプ、そして石田はピッチャーの状態を仕上げる天才で、縁の下の力持ちってタイプだ。今までブルペンキャッチャーの姿しか見てなかった一年には信じられない光景だろうな」


「お、オイラも正直驚きました……!」


「石田先輩にあんな能力があったなんて思わなかったです!」


「だろ? 俺もさすがにあんなに早く準備を整わせられないよ」


「いいピッチングだったな、榊」


「石田先輩がブルペンに付き合ってくれたおかげっすよ」


「ピッチャーはどうしても準備しなきゃと焦りがちだからな。だから『リラックスさせつつ、感覚を覚えさせる』んだ。疲れない程度じゃないと試合で倒れるしね。だからあえて意識改革させたってことさ」


「おかげでいつもよりミットが近くに感じました!」


「大輔、一体石田先輩に何を言われたんだ?」


「ああ、夏樹か。だったらピッチャー全員に言った方がいいな。投げるときって結構力いっぱい投げると思うんだけど、逆に力いっぱい投げようとするとリリースが上になりやすいんだ。そこでいかに『下に前にリリースしてレーザービームのように貫通させるつもりで投げるか』って意識したら、自然と力みが消えて真っ直ぐ放れるようになるんです。変化球も同じだけど、変化球はさらにリラックスしてないと抜けたり引っかかったりして変化しづらいんですよ」


「だから俺は球速ばかりに目が行って力んだせいで思うように投げれなかったのか……」


「まあ松井先輩もまだ引退まで遠いし、そんな焦らずに今からでも意識すればいいと思います。天童も俺たちピッチャーの武器を活かそうと頑張ってるみたいだし、球速が遅くても天童の強肩(きょうけん)と動体視力なら盗塁されても刺しますよ。だから気にせず自分だけのピッチングしてくださいね!」


「榊……ありがとう。石田もありがとう」


「構わないよ。さあ攻撃だ、全力で声援を送ろうじゃないか」


 5回のウラの攻撃では志村がスクイズのリベンジを誓い、倉橋の緩急に惑わされないようにバッターボックスの前の方へ立った。


 速い球はあまり得意ではないが、確実に当てる技術があるので苦にもならないので前に出ても打てる自信があった。


 その後は志村はフルカウントに追い込まれるも、ライト前ヒットでリベンジを果たした。


 しかし三田と高田で連続で凡退し、次のバッターは榊となった。


「よし!来い!」


 榊はバッティングに自信はあったが、野手陣と比べると打力は落ちる。


 それでも一発が望める強打者であることには変わらない。


 鈴木は榊のバッティングを警戒していたが、あっさりツーストライクに追い込んだことで少しだけ安心した。


 そして3球目……


「ふんっ! あっ……」


「倉橋先輩……コースが甘い……!」


「もらったーっ!」


 カキーン!


 榊の放った打球はレフト方向へ飛んでいき、そのままスタンドに入ってホームランとなった。


 これで同点になったのだ。


 その後の夜月の二者連続ホームランが決勝点になり、9回の表で道下がきっちり締めくくり……


「ゲームセット! これより常海大相模と東光学園の試合は……3対2で東光学園の勝利です! 両校とも礼っ!」


「「ありがとうございましたっ!」」


「「っしたーっ!」」


 榊のピッチャーとしての活躍もなかなかで、奪三振率(だつさんしんりつ)がまた上がるなど話題を呼び始める。


 道下も不動の守護神となり、石田もキャッチャーとしてまた成長した。


 残る課題は打撃の連打力と松井の球速、天童の強気すぎるリードの改善となった。


 ちなみにもう一つの準決勝は、帝応義塾(ていおうぎじゅく)金浜(かなはま)が試合し、金浜の勝利となり、決勝の相手は()()()()()()となった。


つづく!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ