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第42話 日ノ本大学湘南

 こちらは日ノ本(ひのもと)大学湘南(しょうなん)高校。


 主将でもないのに仕切っているのは涼宮晴人(すずみやはると)だ。


 一年ながら実力は誰よりもあり、レギュラー陣でさえ振り回される一方だ。


 それにツッコミを入れるのは須藤清(すどうきよし)だ。


 平部員ながら唯一涼宮の暴走をストップ出来る存在で、主将でさえも一目置いている。


 そんな日ノ本大学湘南高校の練習は……


「こらー! 気合と根性で何とかしろー!」


「あいつ一年ながら監督にも怖気(おじけ)づかないんだよな……」


「むしろ監督が腰痛で治療中だから部員の誰かが監督の代わりやれってなって……」


「あいつが立候補した結果、こうなったんだっけな……」


「そこの先輩たち! グチグチ言ってないで走る!」


「鬼! 悪魔! 人でなしー!」


「アホか。気合と根性だけで何とかなったら金浜(かなはま)常海大(じょうかいだい)相模(さがみ)を相手に苦労はしないし、甲子園だって簡単に掴めるぞ。だが気合と根性だけでやった結果、結局甲子園から40年以上も離れてるじゃないか。強くなりたいのは俺も同じだが、あまり強要しすぎるんじゃない」


「くっ……まあ確かに怪我でもされたらせっかくの甲子園が遠くなるし、それもそうだな。お前がいなかったらもっと暴走してたわ」


「はあ……普段は冷静なのに、何で頭に血が上るとこんなに理不尽になるんだよ」


「おお……キヨのおかげで助かった……!」


「やる気がないように見えて結構やり手だからなあいつは」


「主将をやる気がないのが残念だけどな」


「あわわ……キヨくん、よく涼宮くんにそんなに怖がらず意見言えるなあ……」


「すごい……」


「ふふっ、それがキヨくんのすごいところですね。僕たちでは敵いませんね」


 涼宮の暴走を止められる須藤はチームからも評価されていて、レギュラーの朝比奈充(あさひなみつる)長門勇樹(ながとゆうき)古泉一輝(こいずみかずき)も感心するほどだった。


 今は涼宮が監督代理を務めているが、本来の監督は非常に高齢で選手のやりたいメニューを提示しつつ、自分で考えてもらう指導法だった。


 ところが移動中にぎっくり腰になって治療を受けているので代理に任せている。


 そんな日ノ本大学湘南と試合をこれからする。


「ついに球場での試合か」


俣野(またの)球場だっけね」


「甲子園に似た黒土(くろつち)だけど、やっぱり硬さが違うね」


「そうなんですか?」


「芝生もまだまだ荒いからね。でも地方球場としては申し分ないと思うよ」


「なるほど」


「お、日ノ本大湘南だ」


「さあ! 相手は東光学園だ! やつらは個性的な選手の集まりでどんな野球をするかわからないからたくさん点を取って安心しよう!」


「おー!」


「あれ? 涼宮晴人って一年じゃなかったっけ?」


「何で監督やってるんだ?」


「そういや夏でも監督として居座ってたな」


夜月(やつき)、あおいから何か聞いてないのか?」


高坂(こうさか)の情報によれば、どうやら本当の監督が腰痛の治療中で、涼宮はあくまで代理監督らしい」


「あそこの監督って俺よりも高齢だからなー。そろそろガタが来てもおかしくなかったが、ついに来ちゃったんだな。そうなると俺も健康に気を使うかね」


「ボスは心はいつでも健康ですよ」


「また言ってくれるな本田は。さあこれからスタメンの発表だ。よーく聞いてくれよ?」


「はい!」


 今回のスターティングメンバー



 先攻・日ノ本大学付属湘南


 一番 ピッチャー 涼宮晴人(すずみやはると) 一年 背番号1


 二番 ライト 朝比奈充(あさひなみつる) 二年 背番号9


 三番 センター 長門勇樹(ながとゆうき) 一年 背番号8


 四番 セカンド 須藤清(すどうきよし) 一年 背番号4


 五番 キャッチャー 古泉一輝 (こいずみかずき)一年 背番号2


 六番 ショート 鶴屋駆(つるやかける) 二年 背番号6


 七番 サード 泉谷茂(いずみやしげる) 二年 背番号5


 八番 レフト 妹尾薫(せのおかおる) 二年 背番号7


 九番 ファースト 小野寺界人(おのでらかいと) 二年 背番号3



後攻・東光学園


 一番 セカンド 山田圭太(やまだけいた) 一年 背番号14


 二番 ショート 志村匠(しむらたくみ) 二年 背番号6


 三番 センター 夜月晃一郎(やつきこういちろう) 一年 背番号8


 四番 サード 中田丈(なかたじょう) 二年 背番号5


 五番 ライト 本田(ほんだ)アレックス 二年 背番号9


 六番 ファースト 田村孝典(たむらたかのり) 一年 背番号13


 七番 レフト 三田宏和(みたひろかず) 一年 背番号7


 八番 キャッチャー 田中一樹(たなかいつき) 二年 背番号12


 九番 ピッチャー 綾瀬広樹(あやせひろき) 二年 背番号20




 となった。


「今日は(さかき)も園田も不安があり、松井を連投で壊すわけにはいかないから綾瀬を先発にした。いつも通りクールに決めてくれ」


「はい!」


「キャッチャーは田中で同い年の方がやりやすいだろうと判断した。綾瀬はクールに決めているが、田中なら表情の微妙な変化を読めると思う。もしヤバいと思ったら必ず声をかけてやってくれ」


「はい!」


「田村と山田も初の公式戦スタメンで緊張するだろう。でも自分の出来る事さえやってれば俺からガミガミ言うことはないから安心してくれ」


「は、はい!」


「よし、行こう!」


「はい!」


「整列!」


「いくぞー!」


「「おー!」」


「ではこれより、日ノ本大学付属湘南高校と、東光学園高校の試合を行います。両主将握手をお願いします」


「お願いします」


「では正々堂々とプレーするように!礼!」


「「よろしくお願いします!」」


「「っしゃーっす!」」


 綾瀬は相手に表情を読まれないよう試合中は常に無表情で、ベンチに戻ると急に笑顔になったり、ポンコツっぷりが露呈(ろてい)したりなど意外にも馴染(なじ)みやすい性格のピッチャーだ。


 綾瀬はピッチング練習で既に肩が温まっており、もうすぐにでも投げれると言わんばかりにマウンドに上がった。


 最初のバッターは涼宮でニヤニヤしながら打席に立つ。


「涼宮晴人……こいつはおそらくかなりの好打者だろう。構えがメジャーリーガー並だが小柄だしホームランはないと思うが……ど真ん中だけは避けてほしいな」


「いきなりカットボールか。芯から外して打ち取るのは俺も得意だし、やってみるか!」


「ふんっ!」


「げっ……!」


「いきなりか!? センター!」


「クソッ……! お手本みたいなゴロ打ちやがって……!」


「ふぅ……このピッチャー球が速くないからみんなも打てるぞ! さあ俺に続け!」


「次は朝比奈か」


「よ、よろしくお願いしますっ!」


「おお……!」


「へえ、なよなよしているけど礼儀はしっかりしているんだな。これは見た目や性格に反して何か仕掛けるのが得意そうだ。念のために真っ直ぐで威嚇(いかく)するか」


「インハイに真っ直ぐね。了解!」


「うわっ!」


「ストライク!」


「ちょっと! そんなに速くないって言ったのに何でタイミング遅れてんだよ!」


「どうやら涼宮が特殊(とくしゅ)なやつらしい。綾瀬の球速は150キロは普通にいくし、手元で急に伸びるからそう簡単にはいかないぞ。おまけにコントロールもいいから怖いはず。このまままっすぐで押してみよう」


「オッケー。ふんっ!」


 このまま朝比奈を三振に打ち取り、長門ももはやスイングすらできないほどの球威で投げて三振を奪った。


 次は涼宮のストッパーの須藤だ。


「キヨ! お前四番なんだからちゃんと打てよ!」


「セカンドで四番とかそういないだろうけど頑張るか」


「空振りを狙いたいが、ギリ外したところで振ってくれるか賭けてみようか」


「アウトローにスライダーね。よーし……ふんっ!」


「ストライク!」


「はえ……! あいつはこんな球をセンター前に運んだのか……。本当にセンスの(かたまり)なやつだな……」


「ふぅ……」


「むっ……! そのポーカーフェイス、腹立つ……絶対に打ってやろう!」


 須藤の意気込みも空しく、三球三振で終えて涼宮の機嫌は軽く損ねた。


 一方の東光学園は山田がフォアボール、志村が送りバントを決めて得点圏にランナーを運んだ。


 夜月は三振に終わったが、中田がツーベースタイムリーで1点を先制。


 その後は綾瀬は2回を三者凡退に抑え、負けじと涼宮も三者凡退に終えた。


 3回の表には妹尾と小野寺を三振に取るも、涼宮によるスリーベースヒットと、綾瀬は涼宮と相性が悪いことが判明した。


 だが後続の朝比奈がスクイズに失敗し、ピンチを乗り越えた。


 3回のウラでは綾瀬が自らを援護するレフト前ヒット、山田の不意を突くセーフティバントで残塁しチャンスを作る。


 志村が犠牲フライを打って2点目を獲得、夜月もフォアボールを選んで中田に回るも、中田が三球三振と振るわず、本田もキャッチャーフライとクリーンアップがパッとしなかった。


 4回ではとくに進展がなく、5回の表となった。


「鶴屋先輩! 一発お願いします!」


「オッケー!」


 鶴屋はとてもフランクかつ明るい性格で、チームのムードメーカー的存在だ。


 そのためかチャンスには弱いがチャンスを作り出す事が出来るチャンスメーカーでもある。


 その綾瀬の投球に慣れてきたのか、大分スイングが合うようになった。


 その結果……


「ふんっ!」


「しまった……!」


「サード! 頼む!」


「おう! うらあっ!」


「ちょ……高すぎ!」


「あーっと! ボテボテの打球で焦った中田が送球ミス! 高く浮いてしまったー!」


「いってー……! 合わせるので精いっぱいだぜー……」


「ナイスバッティング鶴屋!」


「やるじゃん! 鶴屋先輩!」


「ドヤ!」


 しかし後続が二者連続三振と不甲斐(ふがい)ないところを見せた上に、小野寺がまさかの鶴屋に打球を当ててしまってランナーアウトとなった。


 小野寺は()()()で涼宮に怒られ、須藤は『次に切り替えましょう』と慰めた。


 5回の表では田村が内野安打、三田が右中間(うちゅうかん)の単打、田中がフォアボールと普段は補欠の選手が躍進した。


 綾瀬もレフトの犠牲フライで3点目を取り、山田もアウトながら進塁させるなど貢献している。


 しかし志村がダブルプレーになり、レギュラー陣は何やら今日は微妙なプレーしかしない様だ。


 石黒監督はそれを見て独り言を言い始めた。


「もしかしてあいつら……やっぱり感じてしまったか」


「え? 何を感じたんですか?」


「上原は心理まではわからないんだったな。菊池がいた時はすぐに味方の心理状態がわかったから進言も聞けたが、身体は健康なのにレギュラー陣のプレーがおかしいんだ。まさかレギュラーだから活躍して当たり前と思い込んでないかなって思ったんだ。何だか『我こそは……』と意気込みすぎてそれがかえって自分らしさを忘れさせてるんじゃないかと思う。この守備が終わったら緊急ミーティングだ。上原はとりあえず身体の状態を見極めてくれ」


「はい!」


 石黒監督はレギュラー陣が感じているプレッシャーをいち早く察知し、『守備が終わったらミーティングを開く』と言った。


 マネージャーの上原は引き続き選手の身体状態を見極める仕事をする。


 するとベンチ含め全員健康であることがわかった。


 しかし心が正常な綾瀬と田中はランナーを出すもきっちりスリーアウトを取って攻撃に回す。


 果たして石黒監督はスタメンに何を言うのか――


 つづく!

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