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第40話 名門復活

 こちらは王政(おうせい)大学第二高校、新主将の阿部隆夫(あべたかお)が何やら東光学園のデータを集めた様子。


 人工芝という恵まれた設備の中での練習は非常に効率的で、東光学園にも負けないスタジアム風のグランドなので客も入れられる。


 そんな中で阿部は部室で投手陣の映像を見る。


「なるほどね。松井のあのストレートはムービングボールで、握りをあえて不規則にしているんだね」


「それでどうしますか?」


「あえて振り抜きすぎないのもありかもね。そろそろ王政二(おうせいに)政権を取り戻し、本当の王政というのを見せてやろう」


「はい!」


 王政二高校ではかつての栄光を取り戻すべく、厳しくも科学的な練習を重ね、王政大学のバックアップでたくさんの補強をしてきた。


 しかも希望次第では王政大学へのエスカレーター進学も可能で、いかにエリートの集まりなのかが伺える。


 東光学園では王政二は格下とはいえ、非常にバランスのいい組み合わせをする上に、女性監督の百恵真理奈(ももえまりな)が率いる予期せぬ奇策を仕掛ける中堅校だ。


 そんな中で東光学園第一野球場で試合を行う。


 日曜になり、ついに秋季神奈川県予選大会の日が訪れた。


 今回のスターティングメンバーは――



先攻・東光学園


 一番 ショート 志村匠(しむらたくみ) 二年 背番号6


 二番 ファースト 夜月晃一郎(やつきこういちろう) 一年 背番号8


 三番 キャッチャー 天童明(てんどうあきら) 一年 背番号2


 四番 サード 中田丈(なかたじょう) 二年 背番号5


 五番 レフト 三田宏和(みたひろかず) 二年 背番号7


 六番 ファースト 田村孝典(たむらたかのり) 一年 背番号13


 七番 セカンド 岡裕太(おかゆうた) 二年 背番号4


 八番 ライト 高田光夫(たかだみつお) 一年 背番号19


 九番 ピッチャー 松井政樹(まついまさき) 二年 背番号1



後攻・王政大学付属第二


 一番 センター 泉孝太(いずみこうた) 二年 背番号8


 二番 セカンド 栄口将也(さかえぐちまさや) 二年 背番号4


 三番 ショート 巣山剛樹(すやまごうき) 二年 背番号6


 四番 サード 田島裕太(たじまゆうた) 二年 背番号5


 五番 ライト 花井渚(はないなぎさ) 二年 背番号9


 六番 ファースト 沖俊平(おきしゅんぺい) 二年 背番号3


 七番 レフト 水谷亮(みずたにりょう) 二年 背番号7


 八番 キャッチャー 阿部隆夫(あべたかお) 二年 背番号2


 九番 ピッチャー 三橋蓮二郎(みはしれんじろう) 二年 背番号1



 となった。


「あそこ男子校だよな?」


「今年から共学になったんじゃなかったっけ?」


「あー、そういやそうだったわ」


「そんでもって全員二年生と来たか」


「よっぽどあいつらを信頼しているんだろうよ」


「よし! 全員集合!」


「はい!」


「相手は全員二年生ときたもんだ。そんでもって『夏のレギュラーが全員今と同じ』なんだって。きっとこの時のために手塩(てしお)にかけて育ててきたんだろうよ。しかも相手の監督は若い女性だ、あんま見惚(みと)れてプレイを乱すなよ?」


「はい!」


「そういう監督も鼻の下を伸ばさないでくださいね?」


「うぐ……夜月言ってくれるなー! まあいいや、大目に見てやろう。とにかく王政二は格下だと一切思うな! 彼らは夏のレギュラーだから戦力は全然落ちていないはずだから! さあいくぞ!」


「おー!」


「集合!」


「いくぞ!」


「「おー!」」


「ただいまより、王政大学付属第二高校と東光学園高校の試合を行います。両主将握手」


「お願いします」


「正々堂々とプレーするようにね、では礼!」


「「よろしくお願いします!」」


 「「っしゃーす!」」


 今回は東光学園のグラウンドが試合会場なので、客席が多くあるのを利用して両校ともに応援団を派遣(はけん)している。


 とくに東光学園のホームだから吹奏楽やチア、応援指導部もすぐに駆けつけられるので応援スタイルが乱れずに済む。


 ファンファーレでいきなり中央競馬の特別レースファンファーレが鳴り響き、相手を音で威圧する。


 一番の志村、二番の夜月、三番の天童は三橋(みはし)のボールに苦戦し、三者凡退で終わらせてしまった。


 おまけに三橋はコントロールがよすぎて際どい球を審判を味方につけてカウントを稼がれるなど不利な状況になった。


「あの人、球が遅え……!」


「ストレートが動かなかった?」


「動きました。なんだかストレートじゃないような……」


「もしかしたら松井先輩みたいなムービングボールかもです。それかただのクセ球のどっちかでしょう。なら松井先輩の土俵(どひょう)で戦いましょう」


「俺? あ、ああ!」


 松井もまた変則ストレート使いなので泉と栄口(さかえぐち)を三振に、巣山(すやま)をファーストゴロへと抑えた。


 夜月は初のファースト実践で、動きにやや不安はあるが守備面では問題がなかった。


 三者凡退がお互いに3回まで続き、4回の表になる。


「ここまでお互いにノーヒットか。そろそろヒット打たないと流れがこっちに来ないぞ……。だったらいっそ……」


「少し前に出た? 三橋の球が遅いからか? それとも真っ直ぐの軌道(きどう)を見抜かれた? どっちにしろ三橋の球はそう簡単に打たれやしない。この俺がそう証明してやる」


「アウトローに……カーブっ!」


「ストライク!」


「マジか……まるで小野先輩を相手にしているみたいだな」


「小野……? あのエースの小野裕也(おのゆうや)さんのことか。あの人も打たせて取る上に球速はそんなにないから似ているかもしれないな。だが三橋は生憎(あいにく)サイドスローではなくオーバースローなんだ。球筋(たますじ)が全く違うんだよ。アウトコースに行ったらもう一度アウトコースにいこう。ただし……」


「ここでは真っ直ぐを……アウトハイにっ!」


「もらった! あっ……」


「よし! ライト!」


「オッケー!」


「アウト!」


「くっ……! あの真っ直ぐはどうしても打てないな……!」


「志村先輩、あとは任せてください」


「頼んだぞ、夜月」


「よし、来い!」


「そんなにガチガチにしてたらあいつの球は打てないぞ。それにこいつはインコースが苦手とはいえ、誰かが指摘したのか克服しつつあるからな。インコースが来ると思われてるか、あえて捨てるかのどっちかだが、狙ってることにかけて望み通りにしてやろうぜ」


「わかった……。俺が阿部くんの言う通りに投げれば……勝てる試合になるはずっ!」


「ストレート……ふんっ!」


「何っ!?」


「くっ……微妙なところだ……!」


「セカンド!」


「うぐっ……!」


「抜けたーっ!」


「いいぞ夜月!」


「さては克服したからって最初から狙ってたか?」


「黒田先輩……踏み込む足をあえて開かせる打法、上手くいきましたよ!」


「あの子……想像以上に成長するのね」


「ええ、夜月くんは純子が見抜いた以上ね。不器用だからもっとかかると思ってたわ」


「あの子は『納得するまでに時間がかかる』だけなの。おまけに身も心も頭でさえ不器用だから余計にね。いかに『わかりやすく説得してしっくりきたものを否定しない』かが彼の育成ポイントなのよ」


「なるほどね。でも純子、あの子なんだけど……あなたの事を好きになったんじゃないかしら?」


「私を?」


「ええ、毎回黒田先輩って言ってるし、ずっとあなたの話ばかりしているみたいよ?何かやったの?」


「私も彼が好きだけど……『恋人として好きってわけじゃない』の。だから……彼には申し訳ないけど付き合えないわ。私よりももっと彼に相応(ふさわ)しい子がいるし、何よりあの子は私に依存してプラスエネルギーを集められなくなる恐れがあるの。だからあの子とは……私も付き合いたいけど付き合えないわ」


「そう……。あなたもあの子が好きなのね。でも彼のためにならないし、自分のためにもならないと言いたいのね」


「そうね。依存されたら私は自分のせいで彼を堕落させたと責め続ける事になるもの。自己嫌悪(じこけんお)(おちい)ったら人生は終わるってよく知ってるから」


「純子……」


「さあ応援よ。夜月くんが作ったチャンスを無駄にしないようにするわよ!」


「ええ! 同時に私も彼らの取材を頑張るわ! ファイトー!」


 純子と真奈香の会話は当然選手どころか隣にいた生徒にも聞かれてなかったが、遠い未来を見据(みす)えたこの二人は何やら不思議な力を感じたようだ。


 だが一般の生徒はどんなに近づいてもそれに気づかず、夜月が気付いたのは奇跡と言ってもいい。


 そんな彼女たちの応援のおかげか夜月は弱点を克服し、天童もそれに続いて二遊間(にゆうかん)を抜ける安打を放った。


 四番の中田は後輩の活躍に焦ったのか力んでしまってショートゴロのダブルプレー、三田もサードのファインプレーにやられて得点ならず。


 4回の表のチャンスを失ってしまった。


 4回のウラでは泉へのフォアボールで塁に出し、栄口の送りバントと巣山の長打でランナーが二、三塁となる。


 しかし巣山は松井の上手い牽制(けんせい)に引っかかってワンアウトになる。


 松井は元々技術派(ぎこうは)なところがあり、こっそりと牽制の練習も自主練でしていたのだ。


 相手は四番の田島だ。


「小さい四番だけど、この人は確か世田谷南(せたがやみなみ)シニアの四番だったな。しかも全国シニアで優勝チーム世代の四番となると、ホームランはなくても足の速さで長打に出来る巧打者(こうだしゃ)タイプなんだよな。松井先輩とは相性が悪いが、やっぱり打ち取らせてもらうよ」


「スライダーでいいんだな……? それっ!」


「ボール!」


「ふーん、サウスポーだから厳しいと思ったけど、いけそうだな」


「何だと……? 松井先輩、この人は危険です。一度外してもいいからまっすぐ行きましょう」


「そうだね……俺の球は遅いから彼に打たれそうだし。そうしよう! あ……」


「マズい……すっぽ抜けてど真ん中だ!」


「もらったーっ!」


 カキーン!


 田島の放った打球は右中間(うちゅうかん)を越える打球になり、泉は一気にホームへ還り1点を取られた。


 ここで先制されて松井は少し(こた)えたのか、そこからフォアボールの連続で乱れ始める。


 松井は少しだけ打たれ弱いところがあるので、満塁になったタイミングで天童は一度タイムを取る。


「タイムお願いします! 松井先輩、今自信のある球は何ですか?」


「えっと……自信のある球はないかな……」


「よし、だったら俺のリード通りに投げてみて、打たれたら俺のせいにしちゃいましょう。松井先輩の性格上厳しいかもしれませんが、打たれたときの開き直りも重要ですよ? とにかく自分のベストを尽くせばいいんです。さあ抑えましょう」


「あ、ああ!」


 天童が一声かけてから松井は落ち着きを取り戻し、ここからは二者連続アウトで満塁を押しきった。


 5回は両校とも進展がなかったものの、6回の表には志村がツーベース、夜月がフォアボールで天童がタイムリーを放って同点に追いついた。


 その後は中田も続くようにレフトへのホームランを放ってこの回だけで一気に4点を取った。


 1対4となったこの試合はどちらが勝利するのか……。


つづく!

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