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第39話 佐倉響介

 5回の表で六番の上原の打席では、(さかき)はあまりのフルスイングの威圧感に精神的に疲れてしまい、それが体にも出てしまった。


 いくら気迫のピッチングをする榊でも、ここまで豪快(ごうかい)な迷いなきフルスイングを連続でされたら当然怖いのも無理はない。


 しかし石黒監督はこれも経験だと、あえて榊をそのままマウンドに送ったのだ。


 上原は右中間(うちゅうかん)に長打を放ってツーベース、七番の安元のタイムリーヒットでついに1対0と先制された。


 その後は天童が一旦間を空けて一声かけると落ち着き、後続の三人を連続で三振に抑えた。


 5回のウラで清原の打席になり、清原は自分にはない迷いのなさに感心して一旦深呼吸をする。


「さあ来い!」


「清原は迷いは確かにないが、ちょっと考えが単調なところがあるから抑えやすいな。アウトコースにシュートだ」


「低めに放ってみるとするか……ふんっ!」


「うらぁっ!」


「ストライク!」


「清原! あんまり大振りしすぎるな!」


「自分のバッティングを見失っちゃダメだ!」


「はっ……! 俺はあいつらのパワーに負けないって思い込みすぎてたか……! これはまずいな……タイムお願いします」


「タイム!」


「ふぅ……」


「ちょっと行ってきます」


「おい夜月(やつき)……?」


 夜月はファーストの師匠でもある清原に突然歩み寄り、何か声をかけようとした。


 清原がそれに気付くと、もう一度深呼吸をする。


 夜月が肩をポンッと叩くと、清原は夜月の方を向き、夜月が清原にこう声をかける。


「あいつらを見てるとちょっと羨ましいよな」


「は? いきなり何を言ってんだお前……」


「迷いなくフルスイングして、それも自分のバッティングを維持(いじ)しているところ。お前はそれに感化されて大きいの狙ったんだろ?」


「それが何だってんだよ?」


「だったら簡単だ、お前はお前らしいバッティングに切り替え、自分に出来る事をやり遂げればいいんだ。金浜(かなはま)の監督が言ってたが、『やる事は至ってシンプルで、どんな形でもランナーを溜めて点を取ればいいんだ』って事だよ」


「むう……確かにお前の言う通りだわ。ありがとな夜月、お礼に捕球のし方を教えるよ」


「それは勘弁して。捕球エラーしたくないから」


「何おう! この野郎今に見てろよ! 俺らしく打ってぐうの音も出ないようにしてやるからなノーヒット!」


「うっせー! これから打つんだよ! いいから行って来い!」


「ちょっと揉めてたけどなんだ、ただのじゃれ合いか。こいつらしさって何だ?わかんないからいったん外そう」


「わかった。ふんっ!」


「俺らしいバッティングは……フルスイングしつつコースに逆らわない広角打法である事! おらあっ!」


「レフト! フライだ!」


「いや……大きすぎ……!」


カコーン!


 清原の放った流し打ちはそのままレフトスタンドへ入り、ついに待望(たいぼう)のソロホームランとなった。


 これで同点に追いつき、清原の自分らしさを取り戻したことで東光学園の流れが出始めた。


 岡がフォアボールで三田が送りバントを決めると、ここで榊の打席に回った。


 すると石黒監督がここで動きだした。


「よし、榊! 代打を出すから下がれ!」


「はい!」


「頼んだぞ、片岡」


「うす! タイム!榊に代わって代打片岡です」


「わかった。代打に片岡が入ります!」


「バッターの榊くんに代わりまして、代打、片岡くん。背番号15」


 片岡は光に弱いためにサングラスをかけていて、少しだけハンデがある選手だがバッティングの技術力は確かで、引っ張りを得意とする力もある。


 舞海(まいのうみ)は片岡の未知なる雰囲気に少しだけ恐怖を感じ、極道(ごくどう)みたいなビジュアルに本当に同い年なのかと疑った。


 そのせいか3球目でど真ん中の甘い球にしてしまい、片岡はその甘い球を思い切り打った。


「しまった!」


「っしゃー!」


「センター下がれ! ショートもう少し右だ! そこ! カットだ!」


「ここで勝ち越してやる! うおぉぉぉぉぉぉっ!」


 俊足の岡が全力で二塁からホームに走ると、キャッチャーの北斗(ほくと)とのクロスプレーに入る。


 すると岡は忍者のごとく見事なすり抜けでホームベースを手に触れ、見事ベンチに生還して2点目を獲得した。


 片岡は一塁に留まると代走に山田が入る。


「ナイスバッティングですよ! 片岡先輩!」


「山田か。後は頼んだぞ」


「オイラに任せてください!」


「参ったな……。さすがに攻略され始めたか……。ん?街雄(まちお)監督?」


「ピッチャー交代だ。よく頑張った、後は任せてくれ」


「ああ……頼んだよ」


「青葉学院のピッチャーの交代をお知らせします。ピッチャーの舞海くんに代わりまして、武蔵丸(むさしまる)十兵衛(じゅうべえ)くん。背番号10」


 ピッチャーに二年の武蔵丸(むさしまる)が入り、彼もまた剛速球派(ごうそっきゅうは)のピッチャーだった。


 それもサウスポーなので左打ちにはちょっと厳しい相手となる。


 そのためか志村は詰まってしまってゲッツーになるも、夜月がデッドボールを浴びてまたランナーが溜まる。


 しかし天童がキャッチャーフライに終わって1対2でリードをする。


 東光学園も榊からピッチャー交代し、川口が登板した。


「東光学園のピッチャー交代をお知らせします。代走の山田くんに代わりまして、ピッチャー川口くん」


 川口はスプリットが特徴で球速は園田よりも速く、榊よりコントロールがいいといういいとこ取りのピッチャーだ。


 ボイドをファーストゴロに抑えたと思われたが……


「よっしゃ! オッケー! あっ……」


「え……!?」


「あーっと! ここで清原がトンネルをしてしまった! これは痛すぎる!」


「す、すまねえ!」


「あ、ああ! 次は気を付けろよ!」


 川口は清原のエラーが少し堪えたのか、安定したピッチングも乱れ、厳流(がんりゅう)にツーベースヒットを放たれてランナーが二塁と三塁のピンチとなった。


 ここに来て佐倉の出番だ。


「おっしゃー! かかってこい!」


「色黒に金髪でムキムキとかボディビルかよ。こいつ初心者でいまだいい打球は来てないし、川口なら抑えられるだろ」


「本当に自分のリードと俺たちピッチャーのピッチングに自信があるんだな。でもだからこそ安心してなげられるんだよねっ!」


「ストライク!」


「ナイスボール! 次はスプリットでカウントを稼ごう」


「オッケー。ふんっ!」


「よし! これで空振り……は?」


「スプリットを待ってたんだよ! うるあぁっ!」


「んなっ……!?」


 佐倉の放ったフルスイングはバットの芯に当たり、あっさりスタンドどころかグラウンドの外まで飛ばしてしまった。


 佐倉は場外スリーランホームランを放ち、一気に4対1になってしまった。


 それ以降の川口はうろたえる事なく三人連続で抑え、6回の攻撃になる。


 6回では中田のツーベースから本田のツーランで3点を、清原が汚名返上(おめいへんじょう)のツーベース、岡と三田の連打で満塁、川口のスクイズが決まりワンアウトの4対4となった。


 志村は三振になり、夜月の出番だ。


「俺も俺らしいバッティングをするか……」


「ベースから離れたって事はインコースが苦手なんだな。だったらインコースに投げやすいだろう」


「わかった。ふんっ!」


「ボール!」


「ギリボールだったか。じゃあ少しスライダーで牽制(けんせい)だ」


「わかった。ふんっ!」


「スライダー? でも小さめならっ!」


「ファール!」


「クッソ……! やっぱ普通のスイングだと詰まるか……!」


「オープンスタンスにまた変えた……? インコース攻めで詰まって抑えさせてもらおう」


「ツーシームってわけか。いいよ、ふんっ!」


「勝った! これで打ち取れる!」


「うおぉぉぉぉっ!」


カキーン!


 夜月はインコースがあまりにも苦手なので、普通の踏み込みから前足をあえて外側に開く事で窮屈(きゅうくつ)なスイングから解放され、同時に下半身主導で最短距離から振る事と顔を上下(じょうげ)左右(さゆう)前後(ぜんご)残す事でコンパクトかつ弱点克服した全力スイングが出来た。


 純子のプロデュースがここで開花し、セオリーや基本から離れてしまったが独自性のある打撃で佐倉並みの場外ホームランを放った。


 5対4となり、東光学園がまた逆転を決めたのだ。


 それ以降は青葉(あおば)学院は投手陣が乱れ、継投(けいとう)をするも結局東光学園の独自の打線に捕まってしまい、抑えの道下が抑えきり、気が付けば8対4となった。


「ではこれより、東光学園と青葉学院の試合は8対4で東光学園の勝利です! では……礼っ!」


「「ありがとうございました!」」


 「「っしたーっ!」」


夜月晃一郎(やつきこういちろう)……お前のマッスルパワーを気に入ったぜ! これからお前は俺の()()()()だ!」


「佐倉か、生憎(あいにく)だが俺よりも中田先輩や清原の方がパワーがあるぞ?」


「知るか! 俺と同じ距離を放ったんだから負けるか! 俺はもっともっとパンプアップしてお前を越えてみせる!」


「望むところだ! オフになったら一緒にウエイトしようぜ! ついでにラグビー部の友人連れてくるわ!」


「おお! 待ってるぜ!」


 佐倉と夜月は筋肉関係で気が合ったのか堅い握手を交わし、試合終了後はLINE(リーネ)の連絡先を交換した。


 冬のオフにはスポーツクラブPUMP(パンプ)でトレーニングする事を約束し、郷田(ごうだ)も一緒に連れていくことも約束した。


 青葉学院への勝利が真奈香の記事によって学校でニュースになり、硬式野球部はさらにスターとなった。


「おおー!硬式野球部だ!」


「青葉学院に初戦で勝ったんだろ!すげーな!」


「中田大将やるねー!」


「田中くーん!」


「榊くんもお疲れさまー!」


「くっそー……最初にホームランを放ったのは俺なのに何で俺に歓声はないんだよ!」


「清原は女子対象の学年ごとの部員人気投票でたったの13票しか集まらなかったからな。中田も15票で二年生の中ではビリだったんだ」


「それを言うんじゃねえ!気にしてるんだから!」


「あ、俺なんて夏までは0票で今は10票しかないっす」


「上には上がいたか……」


「ある意味そうだな」


「いいんだ、俺が人気ないのわかってたし、0票から10票に増えたのは小さな幸せってものですから」


「おう……」


(それにしても俺に投票したやつは誰なんだ?物好きな女子もいるんだな……)


 青葉学院での勝利のおかげで夜月の人気もわずかながら上がり、人気投票でも大分話題となった。


 ちなみに0票の記録は硬式野球部が人気投票を設けて以来初の出来事で、夜月は不名誉(ふめいよ)な初記録を叩きだしてしまったのだ。


 ところがその10票に入れたのは……池上荘メンバーの瑞樹、あおい、麻美(あさみ)、クリス、優子、つばさ、そして有希歩(ゆきほ)だった。


 もう二人は真奈香と純子だということが石黒監督の情報でわかったが、残りの一人は果たして……?


 ちなみに2回戦は東光学園第一野球場で行われ、県立小田原城北(おだわらじょうきた)高校との試合は18対0のコールドで勝利した。


 3回戦の王政(おうせい)大学第二高校との試合が決まった。


 つづく!

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