第38話 秋季大会県予選
秋季大会の県予選の抽選結果が決まり、中田は上原マネージャーと共に学校に帰ってくる。
中田は溜息交じりに全員を呼び出し、ついに初戦の対戦相手の発表をする。
その相手とは……
「集合! 県予選の初戦の相手が決まったぞ! 今から発表するからよく聞けよ? 相手は……青葉学院だ」
「いきなりですか……!」
「中田ってくじ運悪いんだな……」
「地区予選のくじ運のよさは奇跡だったんだな……」
「おい! 俺のせいじゃねえからな! とにかく相手は青葉学院になった以上はまた乱打戦になるから守備を強化すんぞ!」
「お、おー!」
中田は器用にまとめる事が出来ないタイプで、どちらかといえばプレーで引っ張り、気合と根性でモチベーションを上げるタイプのようだ。
不良としては一度だけトップになったことあるが、野球では素行不良だったために主将経験がなく、どう引っ張っていけばいいかわからなかった。
それでも中田は不器用なりの指揮能力を見せ、部員たちを気迫で引っ張っていった。
こちらは青葉学院、東光学園が相手だと決まって夏のリベンジをと燃えていた。
「集え皆の衆! 初戦の相手は東光学園に決まったぞ!」
「おおー!」
「去年は先輩方があそこに無念の負けを喫したが、次の試合でその雪辱を果たすときが来たのだ! 全員バッティングでホームランを狙って大量得点するぞ!」
「おおー!」
「盛り上がってるね!」
「監督! ちゃっす!」
「ちゃっす!」
「うんうん、気合いのこもった声っていいね! それよりもベンチ入りで変更があるんだ。夏休みの練習試合を考慮した結果……佐倉とボイドをベンチ入りにするよ。当初の予定では同じ一年の子が入るはずだったけど、どうも彼らは『夏になると不振になっちゃう』から外す事にしたんだ。佐倉は初心者ながら打球の飛距離はこの中の誰よりも飛んでいるし、いいロマン砲だと思うんだ。さあもっと筋肉を仕上げてたくさん点を取ろう!」
「おおー!」
青葉学院では初心者だったがミートが安定し始めた佐倉が、守備でもエラーが減ったボイドがベンチ入りになり、一年が新戦力として台頭し始めていた。
東光学園では純子の特別メニューを週に一回のペースで練習し、選手個人の能力底上げが期待された。
日曜になり、野球部一同は青葉学院野球場に向かい、その隣のラグビー場ではラグビー部がハードな練習をしていた。
「げげっ! こいつら本当に高校生かよ!?」
「てか同い年とは思えないくらい大きいんだけど……!」
「あおいちゃんから聞いたけど、『ここの野球部ってラグビー部と合同練習をよくやってて、タックルも喰らったりしてるから体幹も柔軟性もある筋肉系チーム』なんだって」
「高坂は何でそんなことを知ってるんだ……?」
「勝つために相手校の野球部のデータを集めるのが好きなんですよ。でもそれは公開された練習風景だけだから、全部はさすがに集められなかったんです」
「はえ~……」
「ここのラグビー部に郷田は負けたんだったな……」
「そうだね。郷田くんもラグビーでは有名だったみたいだけど、まさか青葉学院に手も足も出ないなんて」
「そういや夜月は池上荘にラグビー部のやつがいたって言ってたな。どんなやつなんだ?」
「あまりお喋りじゃないクールで硬派な筋肉野郎ですよ。でも筋肉の部位や名称、さらにはその部位の役割を理解し、管理方法まで知ってるんです。将来は『日本空軍になりたい』とか言ってました。中学時代のあだ名は番長だそうです。あ、でも喧嘩は確かに強いですが喧嘩が大嫌いです」
「本当に硬派なやつなんだな。けどあの鬼軍曹の内田先生の指導だったらそうなるか」
「スパルタ教育だもんな。でも自主性も兼ね備えてるから悪く言う人はいないみたいだよ」
「まあ内田は暴言と暴力が大嫌いだからな。あの鬼軍曹ならそのうち花園に出場するだろうよ。着いたぞ、ここが青葉学院のグラウンドだ」
青葉学院のグラウンドは芝生こそ整ってないが、土の方は非常に整っており、本当に名門校って感じの設備だった。
照明もついていてベンチも全部屋根付き、ブルペンも両サイド2つずつと環境がよかった。
秋季大会では三年生が抜ける事を考慮して指名打者制ではなく、ピッチャーも打つ制度になっている。
今回の試合のスターティングメンバーは――
先攻・青葉学院
一番 セカンド 奏流院明由 一年 背番号4
二番 ライト ウラジーミル・ボイド 一年 背番号9
三番 サード 厳流岩雄 二年 背番号5
四番 ファースト 佐倉響介 一年 背番号26
五番 レフト 郷里大助 二年 背番号7
六番 センター 上原彩弥 一年 背番号8
七番 ショート 安元貴宏 二年 背番号6
八番 キャッチャー 北斗昌雄 二年 背番号2
九番 ピッチャー 舞海勝 二年 背番号1
後攻・東光学園
一番 ショート 志村匠 二年 背番号6
二番 センター 夜月晃一郎 一年 背番号8
三番 キャッチャー 天童明 一年 背番号2
四番 サード 中田丈 二年 背番号5
五番 ライト 本田アレックス 二年 背番号9
六番 ファースト 清原和也 一年 背番号3
七番 セカンド 岡裕太 二年 背番号4
八番 レフト 三田宏和 二年 背番号7
九番 ピッチャー 榊大輔 一年 背番号17
となった。
「今日の試合は中途半端な球速だと間違いなく甘く入って打たれることを考慮し、多少荒れ球でも球が重く感じる上に球速も速く、変化球も落差が激しい榊を選んだ。榊は公式戦初登板で緊張もしているだろう。むしろ緊張しない方がおかしいんだ、打たれても恥じる事はないぞ」
「はい!」
「長打が期待できるのは夜月と天童、中田、本田、清原、三田だ。小柄な岡と技巧派の志村、ピッチャーで負担の激しい榊はコツコツでもいいから堅実に行ってもいいぞ。長打組はデカいのを狙いたい気持ちはわかるが、それが原因で自分のスタイルを見失わないようにな!」
「はい!」
「よし! 行って来い!」
「おおー!」
「集合!」
「いくぞー!」
「「おう!」」
「ただいまより、秋季大会神奈川県予選1回戦、青葉学院と東光学園の試合を開始します。両主将握手をお願いします」
「お願いします!」
(中田丈、確かに威圧感があるし、かっ飛ばしそうだな……)
(こいつが郷里大助……握力からして強いのがわかるぜ……)
「では……礼!」
「「お願いします!」」
「「っしゃーす!」」
1回の表は奏流院が最後のフォークで三振、ボイドもスライダーで三振と榊の立ち上がりが順調だった。
三番の厳流にライト前ヒットを許すも四番の佐倉を三振に取った。
だが榊は威圧感に押されているのか、少しだけ息が荒くなっていた。
「榊、大丈夫か?」
「あいつら全員フルスイングするから心臓に悪いぜ」
「だよな。俺もファールチップが怖いもん。でもお前は恐れずインコースも入りつつあるし、球も充分に伸びてる。威圧感でしんどいだろうけど、お前のピッチングなら早々打たれやしねえよ。というか、打たせねえよ」
「はは、頼もしいな!俺だって打たせる気はないぜ!」
「その意気だ!さあ志村先輩!何でもいいから塁に出ましょう!」
「舞海勝か……あの白鵬さんといい、ここのピッチャーは重量級が多いんだな。でも太ってるわけでもないし、見た感じは脂肪ってわけでもないんだな。でもパワーで投げてくるだろうから……」
「短く持った……? コンパクトに堅実にいこうってか。だったら力で押し通してやろうぜ」
「わかった。ふんっ!」
「ボール!」
「あ、あはは……」
「何だ、あのストレートは……!」
「今、竜巻が吹いたよな……?」
「どんなパワーの持ち主だよ……!」
「参ったな……見ただけなのにここまで重く感じるとは。詰まったら手がしばらく痺れそうだ。やっぱりここは……」
「ベースから離れたか。さっきの投球でビビったのなら都合がいい。ストレートインコースだ」
「インハイでいいんだな? 本気でいくぞ? ふんっ!」
「よしきた!」
「残念だけど俺の得意コースはインハイなんだよね。それっ!」
「なっ……!?」
志村の放った打球は二遊間を抜けてセンターの前へ。
そのまま一塁ランナーになった志村は喜びつつも、芯に当たったというのに手がしびれたと一塁コーチの片岡にアピールした。
「大丈夫か志村?」
「いってー……! 芯に当たったのにこの痺れようはすごいな……!」
「まるで横綱だな」
「ああ」
片岡はリーゼントにサングラスが特徴的な先輩で、光に過敏なために普段からサングラスをかけている。
授業中でもその病気のせいでサングラスをかけていて、教師からも病気なら仕方ないと公認しているのだ。
その後の二番の夜月はフォアボールでチャンスになるも、天童がボール球で三振、中田もゲッツーとチャンスをものに出来なかった。
2回はお互いに進展がなく、三者凡退に終わってしまった。
3回のウラになると、八番の三田が何やら舞海のピッチングを見切ったのかソロホームランを浴びせた。
「おおーっ!」
「よっしゃー!」
「ナイスバッティング三田!」
「ボサボサなロン毛が鬱陶しくないかー?」
「髪を切れそろそろ!」
「ロン毛は関係ないだろー!」
「まさかの伏兵だな」
「ああ……中田と夜月は警戒したが、まさか八番に打たれるとは」
「そろそろ『技のデパート投球』をするか?」
「そうだね。キャラを作ってもう力任せに投げるのはやめておくよ」
「ここに入ったら筋肉野郎キャラが身につくから仕方ないな。よし、ここからは舞海らしいピッチングが出来るようにリードするわ」
「頼んだよ」
「さあ来い!」
榊が初打席に立つと、舞海はさっきのホームランが全く響いてないのか落ち着いて投げ抜いた。
榊も長打力があるがホームランは打ったことがないらしく、足の速さもあって長打を稼ぐタイプだ。
だが舞海が落ち着いて以降、榊、志村、夜月は凡打に終わった。
4回はとくに進展がなく、ここで5回の表となった。
5回の表、上原の打席になると、榊にも疲れが目立ち始めた。
つづく!




