第2話 登校
夜月は入寮式を終えて、それぞれの部屋に配置される。
部屋は一人一部屋で、男女別々の寮となる。
東棟が男子寮で西棟が女子寮となる。
夜月は東棟の203号室になり、引っ越しの荷物の準備をした。
荷物の準備を終えると夜月は眠くなり、すぐにベッドで眠りについた。
翌日になり、夜月は東光学園生として初登校をする。
制服は紺色のブレザーにグレーのズボン、ネクタイは赤い制服だ。
制服をキッチリと着て、スクールバスに乗る。
そこには隣に瑞樹がいた。
「おはよ、晃ちゃん」
「ああ、おはよ」
「どうかな?高校の制服。可愛いかな?」
「まぁ……いいんじゃね?」
「もう、素っ気ないなぁ。晃ちゃんも似合ってるよ」
「サンキュ」
「よっ!お二人さん!幼なじみだからっていきなりイチャつきか?」
「そんなんじゃねぇよ。それより河西、揺れるから気を付けろよ」
「平気平気!俺はこれでも体幹は強い方だからさ!」
「あーそう」
「何だよ冷たいなぁ。中学時代に何があったかは知らないけど、3年間も一緒に過ごす仲なんだからさ、あんまりツンツンすんな……いった!何すんだよ黒崎ぃ!」
「だからお前はすぐに人に絡みに行くのやめろ。すごく迷惑だろうが。悪いな、こいつちょっと空気読めないところあるからさ。それよか朝からうるさい黙れ」
「ひどっ!?」
「あはは……朝から賑やかだね」
「いつもこうさ。でも河西も悪気があるわけじゃない」
「わかってるよ。きっと彼もそう思っていると思う」
朝から賑やかな登校に夜月は困惑するも、中学ではこんなに友達とワイワイすることがなかったなと少しだけ嬉しそうに微笑んだ。
瑞樹もその様子を見て、この学校でよかったと最初から感じた。
学校に着いてクラス分け表を見ると、夜月は河西、林田、郷田、黒崎、阿部と同じクラスになった。
女子では瑞樹、あおい、クリス、麻美、有希歩、つばさ、優子と池上荘メンバー全員が同じクラスになる。
教室へ移動して席に着いてしばらくすると、担任の先生が教室に入ってくる。
「おー全員席に着いたか?今からホームルームを始めるぞ。クラス分けは入学式ではやらなかったが、あれは人数が多かったから後日分けたんだ。そして今こうしてようやく分けられたんだ。今日からみんなの担任になる内田裕だ。よろしくな」
「あの先生って、なんか怖いな……」
「あの人って確かラグビー部の『スパルタ顧問』で監督らしいよ……」
「ラグビー部はスパルタ育成で花園に出る名門だろ……?」
「そんな人が担任かぁ……」
「それじゃあそれぞれ自己紹介を簡単にしてくれ。その前に俺から自己紹介しよう。俺は内田裕、ラグビーをこよなく愛するただの教師だ。顧問の先生をやりつつ、監督も兼任している。この中にラグビー部に入部を希望する子がいたら先生に報告に来てくれよな。以上!じゃあみんなの番だ」
新クラスで自己紹介をする夜月たちは、後ろにあるカメラが少し気になっていた。
そのカメラは不登校や病気で登校できない生徒のためのオンライン授業の配信用カメラで、通信科の生徒が使用するものだ。
この学校には就職や仕事のエリート、資格取得など社会人としての心得を教える総合学科。
進学か就職か決まっていない生徒が集まり、学力がそこそこ上がる普通教科を中心とした普通科。
偏差値が非常に高く、難関大学や海外留学を目標にした特別進学の特進科。
何らかの事情で不登校になったり、病気やケガで自宅療養や入院中でもオンラインで授業に出れる通信科。
学費が払えず、高校進学をあきらめた子が働きながら高校卒業資格を得れる高専科。
身体障碍や発達障碍などの障碍者の生徒が多く集まり、将来有望な人間に育てる特別支援科。
そして芸能活動をしていて、その活動をしながら高校卒業資格を得れる芸能科がある。
夜月たちは1年生なのでまだ科目を選べない立場だが、2年生になるとどの科に所属するかが決まる。
それが東光学園の特徴だ。
それぞれ今日の全ての授業を終え、ついに部活動説明が行われる。
1年生は全員部活ガイドブックを読み、どの部に入るかを決める事になる。
ただこの学校はアルバイトも申請すればOKで、部活に入らないという選択も出来る。
そして夜月は――
「決めたわ。俺は硬式野球部に入るわ。やっぱり拾ってくれたあの監督に恩があるからな」
「おー夜月、お前は硬式野球部か。あそこはたった一年で初心者やベンチ外の選手を甲子園選手に育てられるほど育成に力を入れているんだ。頑張れよ」
「うす」
「内田先生!俺は……」
「郷田か!お前の事を待っていたぞ!やっぱりラグビー部に入るのか?」
「はい!」
「よし!じゃあ早速学園ラグビー場に来てくれ!俺は準備して待ってるから、来るまでコーチや先輩のいう事を聞いてくれよ!」
「はい!」
「やっぱりそれぞれ入る部活は決まってるか」
「僕はバスケ部、黒崎くんはバレー部、河西くんはサッカー部、そして阿部くんは陸上部だね」
「そうこなくちゃ面白くねぇしな」
「……。」
「真っ先に全国に出てやるってか。俊太は相変わらず気が早いな」
「晃ちゃん!やっぱり硬式野球部なんだ!」
「そういう瑞樹は水泳部か?またあの恥ずかしい水着で本番に臨むんじゃないだろうな?」
「恥ずかしいなんて言わないでよー!私はあのハイレグじゃないとタイムが伸びないの知ってるでしょ?」
「あれは男のいやらしい目線がだな……」
「さては晃ちゃん、嫉妬?可愛いなぁ」
「うっせぇ!いいからあのハイレグはもうやめろ!」
「あのっ!夜月くんって野球部に入るんだよね?」
「お前は確か……」
「池上荘の高坂あおいです!えっと……私も硬式野球部に入るんだ。マネージャーとして」
「そういや寮の自己紹介でも言ってたな。まぁよろしく」
「うん!」
「うー……」
「水瀬さんもよろしくね」
「よろしく……」
「水瀬って『ぷくー』ってしてるの可愛いな……」
「お前なあ、そうやってすぐ女をそういう目で見るんだから……」
こうして夜月とあおいは野球部に入部する事が決まる。
その事で夜月とあおいは学園第一野球場へ移動する。
第二野球場は軟式野球部が使用していて、区別としては第二野球場は本当にグラウンドという扱いだが、第一野球場はもはや地方球場のようないい施設になっている。
第一野球場に着いた二人は、あまりの恵まれた環境に見上げるばかりだった。
見とれていると、二人の男子があおいに声をかけた。
「お!あおいじゃん!お前も野球部に入るのか?」
「大輔くん!夏樹くんも!」
「まさかまた三人で野球をやれるとはな。まぁ、あおいは肩を壊して選手にはなれないが」
「うん、でも悔いはないよ。マネージャーに憧れてたからね」
「そっか。んでその人は……?」
「あ、紹介するね!同じ寮に住んでいる夜月晃一郎くん」
「どうも」
「夜月……?こいつ夏樹からホームラン打った夜月じゃねぇか!」
「思い出した。お前に打たれて悔しかったが、誰も続いてくれなかったな。神木中は強かったと聞いたが……?」
「どうも俺が活躍すると試合に負けるんだとよ。だから俺を劣等性として学校は見下して試合に出さなかったんだよ」
「なるほど……ひでぇ話だな。ま、俺たちはそんな薄情な事はしねぇからよろしくな!俺は榊大輔。こいつは幼なじみの園田夏樹。よろしく!」
「ああ」
「俺たち三人は小学校からの幼なじみでね。長い付き合いなのさ。それよりも急ぐぞ。硬式野球部は『早い者勝ちで人数制限がある』んだからな」
「おお、そうだった!じゃあ夜月、急ぐぞ!」
「あ、ああ!」
夜月は榊と園田と出会い、新たなチームメイトとして少しだけ交流を深める。
坊主頭で見た目から熱血漢が伝わるのが榊大輔、クールなのが伝わるのが園田夏樹だ。
そしてマネージャー希望の茶髪ポニーテールの女の子で、同じ池上荘の高坂あおいも野球部入部希望だ。
早い者勝ちで初心者でも万年補欠でも受け入れるので、4人は急いで入部届を受付に渡す。
夜月はギリギリ最後の入部希望者となり、なんとか野球部に入部出来たのだ。
もちろん中学で使っていた練習着や道具も持参しており、いつでも練習に参加できる。
入部希望者が全員揃い、先輩野球部員も少し遅れて登場した。
「よし、全員集合!今日は入部希望者が集まる日だったね。入部希望者の人数は……11人だね。僕が硬式野球部主将の渡辺曜一です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
「それじゃあそれぞれ名前と出身中学、希望ポジション、野球部としての抱負をここで自己紹介をしてね。僕ら先輩はメモを取って君たちの事を知ろうと頑張るからね」
「はい!」
こうして夜月は正式に硬式野球部に入部する。
天才と呼ばれた天童、あおいと幼なじみの榊と園田。
この三人に出会って夜月は硬式野球部で選手として甲子園を目指す。
夜月の入部早々の運命は――
つづく!




