第36話 それぞれの始動
こちらは金浜高校、甲子園で3回戦まで進んだものの、東東京代表の聖英学園に敗退して、主将の大河文也やプロ注目選手の筒井義智が引退となった。
新たに鈴原優人が主将となった。
金浜高校の様子は……
「さあ声を出していこう!夏の悔しさは来年にリベンジだよ!」
「まさか初心者なのに主将に任命されるなんてなあ……」
「まあ鈴原は周りをよく見る目を持ってるからな」
「実力で引っ張れないからその人目線で話せるあいつを任命したのは適任かもしれないな」
「ねえ優さん。せっかくだから俺の球を受けてみてよ」
「暁良くんも俺の球を受けてくれよ?」
「わかってるって。ストレートを磨きたいんでしょ?だったら俺に任せてよ」
「じゃあ暁良くんには緩急の付け方を教えようかな。暁良はスライダーとシュート、フォークは一級品だけど、どれも高速系で変化量はさほどないからバレれば打たれるからね」
「うぐ……! 言ってくれんじゃん……!」
「だから最低でもカーブかチェンジアップのどっちかを覚えてもらうよ」
「庶民変化球で本当に抑えられるのかな……?」
「はは、それは君次第だよ。神田くん、カメラを用意してくれるかな?」
「はい」
神田貴洋、赤津木暁良の中学時代のバッテリーで、赤津木監督がスカウトした司令塔だ。
中学3年の時に突発性難聴で全聾となってしまったが、それでも経験の差で埋めれるほどの実力を持つ天才キャッチャーだ。
大河が好き勝手なプレーする赤津木を手懐けたから正捕手になれなかったものの、三年生の引退から一年ながら正捕手となった。
「しゃんなろーっ!」
「おおー! 月野はよく飛ばすなー!」
「へへ、フルスイングがモットーですからね!」
月野葉月、一年ながらベンチ入りしたスラッガー。
全力フルスイングがモットーで、ガサツそうだが実は繊細で、メンタルに左右されるが調子がいいと全打席ホームランも打てる。
金浜高校の一年もクセが強いメンバーだが、それを上手くまとめた大河がいかに名将かが伺えた。
赤津木監督は基本的に放任主義で、選手のやりたいメニューを出しつつ、自分なりの目的のあるメニューを提示するなど石黒監督にも負けない自由さがあった。
一方こちらは常海大学付属相模高校、新主将に阿佐田青太が任命されていた。
「さあランニングを開始するのだ!」
「おおー!」
「いち! に! いちに!」
「「そーれ!」」
常海大相模は相模原の住宅街にあるので声は控えめだが、それでもシンクロしたアップで住民たちを楽しませている。
とくにリーダーシップのある有原翼は一年ながらレギュラーに選ばれ、不動のショートとして確立しつつある。
「バッチ来い!」
「ショート!」
「ふっ!」
「ナイスボール!」
「ふぅ……」
「やるじゃん。さすが俺のライバルだな。本当ならお前とは敵同士でやりたかったが、まさか同じ学校なんてな」
「それはお互い様だよ。最初は同じチームだって知った時に、東雲くんと上手くやっていけるか不安だった。東雲くんはガチで追い込みタイプで、俺はのびのびと個性を磨くタイプだから衝突も何度もあったね」
「あの時ほど先輩方に迷惑かけたことはないな。だが今は目的は違えど、真理はひとつだとわかってから衝突もなくなったな」
「それがいいと思うよ。それに……こんなにすごいメンバーが集まってるもん」
有原が言うすごいメンバーは中学時代に名をはせた人ばかりで、有原と中学時代シニアチームで二遊間を組んでいた河北智也。
サウスポーでファーストとしてはホームランの量産、ピッチャーとしてはキレのあるシュートが武器の野崎友樹。
データ野球が得意で相手のクセを簡単に見抜く事が出来る鈴木若士。
何でもこなせる上にレーザービームを持つ九十九嶺二。
このチームを一年からエースをやっている倉橋舞人。
ガッツのあるプレーで、フルスイングで威圧するプルヒッター岩城芳巳。
相手の偵察だけでなく守備面でも素早さが目立つ中野綾雄。
そしてまだまだ初心者でも勝ち運がある宇喜多紅郎だ。
阿佐田は天才肌で何でもすぐこなしちゃうが、あまり考えない癖があるので勘頼みである。
それでも主将に任命されたのは有原と東雲の仲違いを収めた実績があるからだ。
常海大相模もまた強豪として一歩踏み出したのだ。
こちらは源氏学園、第1回からの参加校で鎌倉にある伝統校だ。
新主将に天道春真が選ばれ、伝統校らしい練習を……と思いきや意外にも根性派な天ヶ瀬俊哉はタイヤを引きずって走り込んでいた。
「はぁ……はぁ……!」
「俊哉くん、あんまり追い込みすぎるとオーバーワークで倒れるよ?」
「まだなんだ……まだ俺はこんなもんじゃないんだ……!」
「君が一年だからって甘えてられないのはわかるけど、ケガしたら意味ないからたまには休んだら?」
「伊集院先輩……まあ先輩がそう言うならそうします」
「本当に……無茶ばっかりするから目が離せないよ。春真くんは周りが見えない猪突猛進派キャプテンだし、僕がしっかり見なきゃな」
天道は熱血外野手で、矢のような送球と守備範囲が持ち味だ。
他にもセカンドで堅実な攻守を武器とする桜庭遼、癒し系でありながら豪快なスイングをする柏木空夫が先輩にいる。
天ヶ瀬は一年ながらエース候補だが、それに甘んじたくないのかすぐ練習したがるようだ。
まとめ役の伊集院南斗はそんな彼らをまとめるが副主将である。
それでもファーストとしては鉄壁の守備を誇り、頭上を越えない限り捕球ミスをした事がない逸話もある。
『練習は熱く、試合はクールに』をモットーとし、熱血派の天ヶ瀬や天道がいながらも伝統校らしい野球をしていた。
鷺沼学園もまた、我那覇が新主将として新たなチームを始動していた。
「ナイスボール天海!」
「ふぅ……」
「調子はどう?」
「大丈夫、そういう如月もまさかキャッチャーにコンバートなんて大丈夫?」
「元々キャッチャーだったのもあるけど、来年には僕の後輩の高槻弥生がショートとして入るから内野は終わり。だから『メンバーが不足してるキャッチャーになる』って赤羽根監督にお願いしたんだ。そしたら50人中1人しかいないから助かるって言ってた」
「あはは……それほど四条先輩に頼りきりだったんだ……」
「それに四条先輩に毎日指導してもらったから、今から実戦でも使えると思う」
「だったら頼りにしてるよ!」
天海と如月が急造バッテリーとなり、如月は引退した秋月の指導の下でキャッチャーにコンバートしていた。
県立川崎総合も公立校ながら豊富な部員の中での新チームが発足した。
「島村佐津樹、新しい主将として頑張ります!」
パチパチパチパチ……
「島村先輩が主将かあ。ふーん……まあ、悪くないかな」
「よろしくね! 島村キャプテン!」
「へへ、何だか照れちゃうなあ……。あんなに東光学園に打たれたっていうのに」
「エースでキャプテンなんてなかなかうちのチームではないからね。野手陣の個性が強すぎて投手陣が薄いなんて言われてたけど、今年に入って濃くなったってのはあるかなー」
「それは本田が入ったからでしょ?」
「渋谷テメー!それはあんまりじゃないか!?」
「あはは! やっぱりこのチームには笑顔が一番だねっ!」
県立川崎総合はいつも通り笑顔あふれる明るくて強いチームがまた作られた。
島村が主将になると笑顔がさらに増え、厳しい練習もみんなで乗り越えられたのだ。
筋肉自慢の青葉学院の様子を見てみよう。
「ふんがーっ!」
「いいぞ佐倉! もっと仕上げていこう!」
「シュッ! シュッ!」
「いいスパーリングだね! ロシアでは普段こんなことしてるの?」
「まあね。ロシアは厳しい軍事訓練を学生時代からやってるからね。なんせ冬将軍に備えないと寒さで死んじゃうからさ」
「軍事力というよりサバイバルじゃん……」
「言い換えればそうだな。じゃないと寒さで体が凍えるし、食べ物も凍り付いて底をつくから仕方ない」
「それほど寒いんじゃあ代謝を良くするために筋力上がるんじゃね?」
「それもあるな」
「とにかく野球はパワーだぜ! もっともっと鍛え抜いて……」
「佐倉はまずバットにボールを当てられるようになろうな?」
「お、おう……」
青葉学院もまたマッスルパワーで新チームが発足。
郷里大助率いる新チームでホームランを量産するつもりだ。
王政大学第二や帝応義塾、横浜向学館、日ノ本大学湘南も新チームを始動しはじめる。
もちろんこの学校は……
「新チームと言っても、俺たち一年しかいないからあんま実感わかないな」
「だな。だが今はどこも新チームでガタガタだからその隙を突いて俺らが甲子園に行けるはずだ」
「あんな選ばれなかった奴らに俺らが負けるかっての」
「それよりも俺たち全員を落とした東光学園にだけはどんな手を使ってでも勝たないとな」
「ああ、ここからは復讐の時だ」
「俺たち川崎国際を援助してくれたあの方の名の下に!」
「おおー!」
こうして各校ともに新たなチームとして始動し、秋季大会の県大会に臨む。
中田丈率いる東光学園はどこまで秋季大会で勝ち進めるのか。
つづく!
 




