第34話 渡辺世代引退
決勝に負けた翌日、優勝祝賀会用に頼んだ出前の食べ物を泣きながら食べ、一、二年の後輩たちは三年の先輩に気を遣うように涙をこらえた。
その翌日になると、一、二年の練習を見学に行く三年生は制服姿でグラウンドに姿を出し、ついに引退式が行われる。
それに気づいた石黒監督は後輩全員を呼んで集合させる。
「集合! 今からマネージャー含む引退式を行うよ。といっても、手短だしただ新しいキャプテンの指名だけだけどね。渡辺、早速だけど引退する部員として三年生全員一言頼んだよ」
「はい。じゃあ主将である僕からの一言は最後になるけど、ここからは背番号順に引退の一言を言ってもらうよ。まずは……背番号1、小野裕也」
「えっと……完投したのに勝てなくて申し訳ないが、このチームでみんなとプレーできたことは誇りに思う。後は投手陣がもっと走り込んで足腰の強化と有酸素運動による連動性と酸素の使い方を知ってください。俺からは以上です、ありがとうございました」
「背番号3番、ロビン・マーガレット」
「はい。僕はこのチームで野球をやった経験を糧に、メジャーリーグのドラフトに立候補しました。指名されるかはわかりませんが、卒業後はアメリカに帰国する事は確実です。最後に日本で野球が出来て幸せでした。ありがとうございました」
「背番号4番、我那覇涼太」
「僕は沖縄から海を渡ってきたけど、ロビンやホセと比べたらまだまだちっぽけなんだと最初は思いました。でも同じ野球をやる仲間として意識し、春の甲子園で準優勝を果たしました。そこは悔いはないです。本当にありがとうございました」
「背番号7番、尾崎哲人」
「えっと……何回か俺の弟が試合を観に来てくれたらしく、しかもここを受験するらしいんだ。俺がいなくなっても、弟がおそらく入部すると思うので、もし入部したら面倒を見てやってください。ありがとうございました」
「背番号8番、ホセ・アントニオ」
「ボスやみんなと一緒に夏の甲子園に行けなかったのは悔しいが、キューバから日本に来ていい思い出が出来た。俺もロビンと同じメジャーリーグに挑戦するんだ。指名されたら注目してくれよな。本当に……|Muchas gracias」
「背番号10番、斉藤敦」
「俺のような体力のないピッチャーでも、こんなに試合に出る機会を与えてくれた監督には感謝しています。そしてみんなも俺を守護神と頼ってくれて嬉しかった。こんなに後悔してないって気持ちははじめてです。本当にありがとうございました」
「背番号15番、中村鋼兵」
「えっと……食事は基本だと後輩たちには何度も言ったけど、食事をしないと体力も減るし、疲労も回復しないからちゃんとたくさん食べて、夜はたくさん寝るようにしてください。それが健康の秘訣です。ありがとうございました」
「背番号16番、島田正道」
「最後の最後で手首を負傷しても、俺を置いていくことなく一緒に戦ってくれて嬉しかった。同じショートの志村に夏だけレギュラー取られたのは悔しかったが、今では悔いはないから自信持っていってくれ。ありがとうございました」
「背番号17番、中島雄太郎」
「俺たちの世代は外野が豊富で、一気に抜けるのは痛いと思う。それでも後輩のみんなならそれを乗り越え、一年の夜月を中心に今後も外野が成長してくれるって信じてます。外野の人はこれからも頑張ってください。ありがとうございました」
「背番号18番、大島秋人」
「三年間も外野の選手と何度もしのぎを削ってきたけど、結局最後までレギュラーは取れなかった。でもこのメンバーだったら納得しているよ。それでも何度もスタメンに選んでくれた監督には感謝しかありません。ありがとうございました」
「背番号22番、福田俊樹」
「あまり試合では出番はなかったけど、中継ぎとして甲子園で斉藤に繋ぎ、何度か先発して後輩にも繋ぐ役割だったけど、俺はその役割が結構好きでした。後悔なんて一つももうないと言えば嘘になるけど、本当に最高でした。ありがとうございました」
「背番号24番、新田彰」
「甲子園の準決勝でサヨナラタイムリーを放ったのは今でも鮮明に覚えています。あの時ほど感動したことはありません。でも俺の野球人生はここでおしまい。これからは寿司屋の修行に行くから、たまには寄ってくださいね。ありがとうございました」
「背番号25番、山岡正人」
「春の甲子園でスリーランホームランを打った時にさ、俺はまだ捨てたもんじゃないなと思った。守備面に不安があっても指名打者として使用してくれて感謝しています。バッティングに不安があったらいつでも相談してください。ありがとうございました」
「最後に主将、背番号9番、渡辺曜一」
「えっと……元々は平凡で何の取り柄もなかった自分を主将に任命したときは驚きましたが、今ではこんな最高の仲間たちに恵まれ、春の甲子園で準優勝し、夏もあと一歩まで来ました。この無念は後輩たちが晴らしてくれると信じています。そこで……新しい主将をここで任命します。背番号5番、中田丈くん」
「おおーっ!」
「えっ!? 俺っすか……?」
渡辺による任命で中田は困惑する。
中田自身は次期主将は田中や志村あたりだと思って自分をノーマークだったので、急に指名されて驚きを隠せなかった。
それでも渡辺は中田の肩をポンっと叩いてスピーチを続ける。
「君は一見怖くて絡みづらい雰囲気もあるし、『怒鳴られたらどうしよう』って思われていることもあると思う。でも君はそれでも勇気を出して一年に声をかけ、面倒くさがらずに成長を見届けながら指導をしてくれた。こんなに面倒見のいい人を主将にしないわけがないさ。君の面倒見の良さを買って指名したんだ。引き受けてくれるかい?」
「俺がキャプテン……? 面倒見がいいとか、そんなのよくわかんねえっすよ……。けど、やるからには全力でやり遂げてみせます! えっと……先輩方はいいかもしれませんが、こいつらはどう思ってるかも重要っすよ?」
「いや、俺だと後輩たちを導ける自信がないよ。俺って結構慎重な性格だろ? それで後輩たちが頼りないなと思うだろうし」
「俺も結構性格悪いからな。後輩たちが怖がって声をかけられないのもキャッチャーとしてマズいし、俺は適任ではないな」
「俺もこんな自由人だぜ? 後輩たちに何をしでかすか、俺にも全くわかんないぜ」
「俺みたいな職人気質の男に主将を任せたら、語るより慣れろの一辺倒だと思う。でも中田だけに負担をかけさせないようにするよ」
「お前らな……」
「まあまあ、それよりも中田くんには副主将を二人指名してほしい」
「それならよ……よく一緒に話をする本田アレックス、そして職人気質ながら器用な志村匠にします。こいつらなら俺を支えてくれそうだと信じてますので」
「そっか、丈は俺を選ぶんだな。指名されたからには自由さに呆れるなよ?」
「俺でいいんだな? だったら期待に応えてやらないといけないな」
「ありがとうございました。それじゃあ僕たち三年は本日より、東光学園硬式野球部を引退します。三年間……ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
こうして三年生の引退式を終え、後輩たちはいつも通りの練習に入る。
三年生は受験や就活に備え、ここからは勉強に集中する。
同時にロビンとホセはメジャーリーグのドラフトに参加を表明し、プロの野球選手になる事を誓った。
小野、渡辺、島田、大島、福田は大学へ。
我那覇は漁師、斉藤は工場勤務、新田は寿司職人、山岡は運送業に就職活動へ。
尾崎は俳優の、中村は料理の、中島は整体の専門学校へ向けて勉強をする。
一方のキャプテンに任命された中田は、より責任感が増して声をさらに出す。
ここからが新チームとしての活動となり、夜月たちの秋の大会へ向けての活動が始まった。
つづく!




