第31話 総力戦
「一番、センター、ホセ・アントニオくん。背番号8」
「おし! カモン!」
「エースを背負ってる山口だけど、短期決戦型だから早いところ抑えて次の鈴村に繋げよう。この人はアウトコースに強いけどインコースは普通……って弱点らしいものはないか。それなら真っ直ぐで微妙に外すのはどうかな」
「わかった。ふんっ!」
「ボール!」
「捕り方が悪かったかな……? もう少しキャッチングを練習した方がいいかも。でもホセくんは少し迷いが生じた。それだけでもいい収穫かも。今度はまた真っ直ぐでカウントを稼ごう」
「こんな事もあろうかと、ツーシームを覚えてよかったよ。大河のリードは慎重かつ大胆だから……キャッチャーを任せられるんだよなっ!」
「うっ……!」
「ストライク!」
「オッケー! 球が伸びてるよ!」
「山口か……こいつ力配分がなってないな。うちの敦と同じか」
「敦……? 東光学園の守護神の斉藤敦くんか。彼にマウンド上がられたら手に負えないからこの守備で失点は避けたい。そろそろ変化球でタイミングずらそう」
「アウトローに……カーブっ!」
「うぐ……!」
「ストライク!」
「ホセ! あんま狙いすぎるな!」
「タイミング外されるなんてお前らしくないぞ!」
「山口の緩急は厄介だな。ここは堅実に打って塁に出よう」
「珍しいな、バットを短く持つなんて。彼に何か手があるのかな? 怖いからカットボールで詰まらせよう。左打ちだし微妙に詰まると思う」
「いや、こいつに小さい変化球は通用しない気がする」
「ダメか……じゃあスライダーでいこう」
「それなら大丈夫だ。ふんっ!」
「もらっ……くっ……!」
「ファール!」
「危なかった……! 本当に詰まった当たりかよ……!」
「落ち着いていこう! 追い込んでるから冷静にね! どうやらホセくんは足だけが取り柄じゃないみたい。少しだけパワーも兼ね備えているようだね。じゃなきゃ長打を狙えないか。だったら……」
「シンカーか、なるほど。そのリード……乗った!」
「よし! アウトコースに来たぞ! それっ!」
「マズい! 三遊間!」
「間に合わない……!」
「俺に任せろ! それっ!」
「嘘だろ……!? くっ……!」
「アウト!」
サードの大石が抜けたと思ったらショートの石井がカバーし、速い送球モーションで俊足のホセをアウトにしてみせた。
二番の天童は三振、三番の渡辺はライト前ヒットとなり、ランナー一塁で四番のロビンの番だ。
「よーし、来い!」
「やっぱり外国人は大きいなあ。見た目は優しそうなのに威圧感も感じるよ。ロビンくんは強引に打つよりも効率よく打球を飛ばす傾向があるからミートが一番うまいはず。真っ直ぐで低めに決めてみよう」
「低めか、アウトローならそうそう打てないだろうなっ!」
「ボール……さっきはボールだったから大丈夫かな……?」
「ストライク!」
「えっ……?」
「オッケー! ナイスボール! とりあえず審判にバレない程度にフレーミングしてみてよかった……。彼は高めが得意だけど高すぎるストライクゾーンを打ったなんて聞いたことがないから少し浮いても大丈夫。でも念のために……」
「アウトハイにカットボールか。高めはリスキーだけど……俺のスタミナのなさを考慮しているならありがたいぜっ!」
「真っ直ぐ……そこだっ!」
カキーン!
「ファール!」
「うーん、ちょっと外に動いたかな……?」
「さすがアメリカの野球の名家の子だね。木製バットであのカットボールを合わせるなんて。今のでわかった、あまり棒球だと危険だって。高めのシュートで胸元に来るくらいに調整しよう」
「上手くのけ反ってくれるだろうな? ふんっ!」
「シュート……うわっ!」
「ボール!」
「危なかった……! 結構変化量あるんだね」
「山口くん! 今のは危ないよ!」
「すまん! 抜けちった!」
「ごめんね、彼はあんまりコントロールよくないから」
「大丈夫、わざとじゃないのは伝わったから」
「いい人でよかった……。でも試合となれば話は別だよ。追い込んでいるからこっちが有利のはず。多分変化球を待ってるから、そろそろ真っ直ぐで三振を取ろう」
「よっしゃ。真っ直ぐは俺の武器だから……打てるわけがないんだけどねっ!」
「ストレート! もらったよ!」
「うわ、めっちゃ飛んでる! ライト!」
「これなら捕れる……それっ!」
「アウト!」
「うっ……影山くんか……!」
ライトの影山が好守を見せてスリーアウトになる。
東光学園は初回は得点がなく、最初から苦しい展開になった。
ピッチャーの小野が投球練習をして、東光学園の守備に入る。
一番の石井を三振、二番の田畑をファーストゴロに抑えるも、三番の先ほどダインプレーをした影山にセンター前ヒットを許す。
そして今回注目の選手は……
「四番、レフト、筒井くん。背番号7」
「来い!」
「この人がプロ注目の選手の筒井さんか。ドラフト1位候補だって言ってたな。図体もデカいし大振りしてきそうだからアウトコースの真っ直ぐでいいっしょ!」
「自信あるな。それが天童か。ふんっ!」
「ストライク!」
「なるほど、精密機械は本当だね」
「どうも。まさかこの人……小野先輩の球筋を見極めるつもりか?だったらツーシームで微妙にアウトコースにずらして打ち取ってやる」
「わかった。ふんっ!」
「真っ直ぐ……うっ!」
「ファール!」
「よし! 追い込みましたよ小野先輩! さっきのツーシームは普通の真っ直ぐと錯覚起こしているな。これなら連続でやってやりましょう」
「タイミングが合ってきているから他の球がいいと思うぞ」
「ダメっすか。じゃあシンカーでいきますか」
「それなら低めに入って打ち取れるだろう。ここで抑えれば……ふんっ!」
「シュート……!? ふんっ!」
「なっ……!」
筒井はシンカーに体勢を崩されるも、強引に引っ張った打球はライトの頭上を越えた。
左利きの渡辺でさえ届かなかったので、東光学園の守備が少し乱れてしまい、筒井はすぐに二塁まで全力で走っていった。
筒井はツーベースヒットを放ち、ここで一発が大きい園垣内に回る。
「園垣内さんデッカ……!筒井さんよりもデカく感じるぞ。でもこの人は大振りで腰に爆弾を抱えてるって聞いたことある。インコースが苦手そうだしインコース攻めにしましょう」
「待て天童、それは短絡的すぎる。弱点をいきなり投げたら警戒するだろう」
「ですよね、じゃあ低めなら何でもいいっすよ」
「低めが苦手とも聞いたが、それなら大丈夫だ。ふんっ!」
「ボール!」
「小野先輩! 球走ってますよ!」
「さすがに低すぎたか。今度はもっと調整するか」
「コントロールに厳しいですね小野先輩は。じゃあもっとストライクゾーンに寄せましょう。さっきはアウト気味でしたが、もう一回アウトローにしましょう」
「わかった。ふんっ!」
「そこだっ!」
「ストライク!」
「うへー、なんつーフルスイングだよ……! 近くで見ると怖ぇ……!」
「まだだ……! もっと強くスイングしなきゃ……!」
「今のでもまだ満足しないんだ。まあそうじゃなきゃ金浜に行かないだろうな。の先輩、そろそろインコース行きましょう」
「わかった。スライダーで勝負だっ! あ……!」
「先輩……スライダーが抜けて甘い……!」
「もらった! ふんっ!」
カキーン!
園垣内へ放たれた投球は、スライダーを投げる際に抜けてしまい、ただの遅い真っ直ぐになってしまった。
小野にしては珍しい失投だが、園垣内の威圧感は中田以上で、さすがの鋼のメンタルの持ち主の小野でさえプレッシャーを感じてた。
その失投を見逃さなかった園垣内の打球はレフトの頭上を越え……
「入ったー! これが金浜高校最強のパワーヒッター園垣内勝のバッティングです!」
「へへっ! ナイスバッティング!」
「さすが僕と四番を張り合える男だね」
「筒井に唯一勝てるのはパワーだけだよ」
「よし! ナイスバッティングだ園垣内! どうだホームランを打った気分は?」
「最高です、監督。俺は野球で飯を食っていくのですから、これくらいは打たないとですね」
「おーイマドキ珍しい言い方!それなら今度はエース候補の弟の暁良の球をホームラン打ってくれよ?」
「ははは、暁良の投球は勘弁してくださいよ」
「そうそう、園垣内さんは腰が痛いオッサンなんだから無理に俺と勝負しなくていいんです!」
「相変わらず減らず口だなあ暁良は」
「へへっ、あの小野さんはコントロールがいいだけで大したピッチャーじゃないですからね! あれでエースとは東光学園のピッチャーはショボすぎでしょ!」
「暁良! 相手をなめるなと言っただろう!」
「悪かったよ兄貴」
金浜の園垣内のホームランで一気に金浜ベンチは明るくなった。
この赤津木監督の弟の赤津木暁良は今は控え投手だが、金浜高校創設以来の逸材で、兄の赤津木監督が手塩にかけて育て上げた選手だ。
金浜高校の投手陣も層が厚く、全体的にバランスのいいチームとなった。
一方の東光学園は個性の集まりで、選手個人の得意分野を伸ばして弱点をカバーするチームで、個々の力でひとつのチームになる異色のチームだ。
石黒監督は赤津木監督の若さと指導の腕に感心し、俺も年だからって学ばないのはいけないなと今回の試合を通じて感じた。
その後は六番の大河をセカンドゴロに打ち取ってチェンジとなる。
2対0となって東光学園の攻撃は、毎回ランナーを出すもののなかなか得点が遠く、0点が続いてしまった。
一方の金浜も小野のコントロールに苦戦し、キャッチングが課題だった天童も弱点を克服したことで際どいところのストライクカウントを稼げるようになり、球数が減っていった。
一方の山口は4回の表で疲れはじめ、5回の表以降は背番号10で二年の鈴原優人へ交代した。
あれから6回の表、東光学園についに流れが……?
つづく!




