第30話 金浜高校
こちらは横浜スタジアム、夏の高校野球神奈川予選の決勝戦だ。
東光学園の明るくてキレのあるアップと、金浜高校の統一感あふれるアップに観客は拍手喝采だ。
東光学園のアルプスは満員を通り越して溢れているのに対し、金浜は男子校だからか男子しかいないにも関わらず満員と、両校ともに野球に力を入れているのがわかる。
東光学園アルプスを仕切る百目鬼団長は、いつものあごひげを生やしながら学生帽を被ってバンカラ風の風格で応援の説明をする。
チアリーディング部も吹奏楽部も幸いその日は大会がなく、全員の参加が可能でクリスも麻美もそこにいた。
もちろん池上荘のみんなも一緒だ。
「はぁ……はぁ……! 間に合ったよー!」
「もうー! つばさが寝坊なんかするからだよー!」
「まったくだ。郷田が強引におんぶしたから間に合ったものの……」
「悪かったよー! あたしだって寝坊するなんて思わなかったし!」
「まあまあ、間に合ったんだしいいんじゃないかな。それよりも百目鬼団長は相変わらず威厳があるね」
「ああ、まるで西暦の昭和時代の番長って感じだな」
「それあだ名が番長と呼ばれてる郷田が言うか?」
「え? 俺ってそう呼ばれてるのか……?」
「河西、またお前はそうやってズバズバと……」
「悪かったよー! つい口に出しちゃうんだって!」
「その口の軽さ、口が堅い阿部を見習えよ」
「……。」
「ぐぬぬ……あいつは無口なんかじゃなくて、聞こえないくらいの声量でボソボソ喋ってるだけだもん! なあ阿部!」
「……。」
「いやこういう時だけ無言になるな!」
「それよりも晃ちゃんがいるよ! 晃ちゃーん!」
「うふふ、水瀬さんは彼の事が大好きなのですわね」
「友達としてだと思うわ。長年一緒だもの、応援したくなるのもわかるわ」
「そういや有希歩って夜月の両親と仲がいいんだっけ?」
「親同士がね。でもその私の両親はもうこの世にいないの。でも……彼と再会したのはある意味運命かもしれないわね。新人とはいえ、生徒会として硬式野球部を支えないと」
「おい、何をしゃべってるんだ?団長の話を聞いてくれよ!」
「あ、すみません……」
「って、一じゃん!」
「同じクラスの新田一か。まさか応援指導部だったとはな」
「今日は甲子園がかかった大事な試合だからな! お前らも同じ寮に住んでるんだから声を出してくれ!」
「おう!」
「やっぱり暑苦しいな、新田って」
「そこが応援指導部のいいところなんだけどな。しかし応援指導部ってさ、昭和の不良みたいなのが集まってるよな」
「リーゼントにスキンヘッド、ドレッドヘアにモヒカンと、硬派で怖い印象だけど親しみやすいところがあるのよ」
「そうなの!?」
「彼らの応援スタイルは、何も知らない一般客を煽る天才なの。まるでアイドルのコール&レスポンスみたいにかけ声も独特で、誰もが東光学園の応援をしたくなるようになるような声のかけ方をするのよ」
「そうなんだ~」
一方こちらはブラスバンド隊
「吹奏楽部、ジャズ研究部、マーチング部、そして管弦楽部の管楽器パートが全員集まりました」
「わかった。遠藤さんも一年ながらファンファーレのソロパートを頼んだよ」
「はい。頑張ります」
「あの子も今回の試合で張り切っているね。やっぱり今日はあの子が一緒に応援に来るからかな? うちの『千年に一度の天才音楽家、滝川留美』が。在校生にもかかわらず、たった一晩でオリジナル応援歌を一人で作り上げた天才……。僕も指導できて誇りに思うよ」
「睡眠時間を確保できるくらい簡単な作業でした。後は私が指揮を担当しますので、山田先生は声出しをお願いします」
「言ってくれるね……確かに指揮者としては君には敵わないけどね……。じゃあ頼んだよ」
「はい」
「両校のスターティングメンバーを紹介いたします」
先攻・東光学園スターティングメンバー
一番 センター ホセ・アントニオ 三年 背番号8
二番 キャッチャー 天童明 一年 背番号2
三番 ライト 渡辺曜一 三年 背番号9
四番 ファースト ロビン・マーガレット 三年 背番号3
五番 サード 中田丈 二年 背番号5
六番 ショート 志村匠 二年 背番号6
七番 セカンド 我那覇涼太 三年 背番号4
八番 指名打者 山岡正人 三年 背番号25
九番 レフト 夜月晃一郎 一年 背番号26
ピッチャー 小野裕也 三年 背番号1
後攻・金浜高校スターティングメンバー
一番 ショート 石井利一 二年 背番号6
二番 セカンド 田畑秀吾 三年 背番号4
三番 ライト 影山貴雄 二年 背番号9
四番 レフト 筒井義智 三年 背番号7
五番 ファースト 園垣内勝 三年 背番号3
六番 キャッチャー 大河文也 三年 背番号2
七番 指名打者 杉本裕次郎 三年 背番号20
八番 センター 今岡将司 二年 背番号8
九番 サード 大石拓哉 三年 背番号5
ピッチャー 山口鉄雄 三年 背番号1
となった。
「お? 今日は三年が多いな」
「これは総力戦になりそうだぞ」
「どっちが厚い選手層か試されそうね」
「どっちもがんばれー!」
金浜高校ベンチ
「よし! 集合!」
「はい!」
「まさか大学卒業していきなり『監督やれ』と依頼されて、いきなり甲子園がかかった決勝に行けるなんて誰が思った? 誰も思わなかっただろう。前任の監督さんが『お前らを育て上げ、俺に後を託した』。この意味が分かるか? 監督さんがいなくてもお前らなら立派な選手になれる、そして俺にお前らを任された。こんな若造が監督でもよくついてきてくれた! こっから先はわかってるな? この試合でやる事はシンプルだ! この俺を甲子園に連れてけ! そして自分たちの手で甲子園を掴んで来い! 向こうは女子が多いだろうが、こちとら野郎どもの野太い声で今まで威圧してきたんだ! 共学なんかに負けんじゃねえぞ!」
「はい!」
東光学園ベンチ
「みんなこんな球場で試合出来て、それも甲子園を賭けた試合に出れて羨ましいなあ……本当に恵まれてるよ。しかも女子にキャーキャー言われるなんていいなぁ~……」
「はは、監督だって僕たちと同じ年の頃に同じ体験したじゃないですか」
「なんだ渡辺くん、俺たちの時代を知っているのかー?」
「それはわかりませんが、当時から硬式野球部の人気が凄かったのはわかります。昔の映像見る限り、その時代が全盛期だったみたいですね」
「それは過去の話だ。今が全盛期って思わなきゃダメよ? さあプライベートの話はここまでにしよう。君たちは楽しみながらも厳しく苦しい練習に耐えて決勝まで来た。この意味が分かるな? 勝ち負けにこだわるのも大事だが、もっと大事な事を忘れるんじゃないぞ! 勝利を目指しつつ心から野球を楽しみなさい!」
「はい!」
「自分に自信を持って全力で挑みなさい!」
「はい!」
「整列!」
「いくぞ!」
「おー!」
「ただいまより、東光学園と金浜高校の試合を行います。両主将握手」
「お願いします」
「では……礼!」
「っしゃーす!」 「よろしくお願いします!」
エースの山口は平均球速が147キロを出す剛腕で、緩急のカーブとキレのあるシュートとスライダー、小さく曲がるカットボールが特徴で、ピッチャーとしてはバランスのいい選手だ。
一方の小野はコントロールと小さい変化量の変化球を自在に使い分ける軟投派で、サイドスロー独特の低め投球が武器だ。
本格派と軟投派によるぶつかり合いは……果たしてどちらに勝利の女神がほほ笑むのか。
つづく!




