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それいけ!東光学園野球部!  作者: 紅夜アキラ
第一部・第一章
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第29話 パワー野球

 1対0でリードされた中で、東光学園の攻撃はワンアウト二塁で渡辺のタイムリーツーベース、ロビンと中田の繋ぐバッティングで2点を取る。


 それに負けじと五回までで既に6対8と大量得点の嵐となった。


 とくに注目すべきは奏流院(そうりゅういん)で、実家が大手スポーツクラブ会社を経営していて、青葉(あおば)学院のウエイトトレーニングの専属トレーナーもいる。


 家柄(いえがら)上ラグビー部が強豪な青葉学院との相性がよく、野球部やバスケ部など運動部で取り入れられているのだ。


 それも文武両道(ぶんぶりょうどう)偏差値(へんさち)も高く、王政(おうせい)大学や明紫(めいし)大学、神宮(じんぐう)学院大学など一流の大学への進学率も高いところだ。


 そんな青葉学院と乱打戦になり、6回になると本田はすぐに降板して福田が登板する。


「東光学園のピッチャーの交代をお知らせします。本田くんに代わりまして、福田くん。背番号22」


「福田! 初登板だからって委縮(いしゅく)すんなよ!」


「お前の重い球なら誰も打てないからな!」


「福田さん、調子はどうですか?」


「バッチリだ。天童もよくあんなスイングを前に怖気づかなかったな」


「正直言うと怖いッス。でもここで逃げたら今後こいつらと試合する時に耐えられないかと」


「自信家なのに繊細(せんさい)なのはキャッチャーという職業柄か?とりあえず俺に任せてくれ」


「はい!」


「三番、セカンド、奏流院くん」


「よし、来い!」


「こいつにはホームラン1本とツーベースヒット2本と調子がいいやつだからな。福田さんはジャイロ回転してて、そうそう打てるものじゃないぞ。覚悟しろよ同じレギュラーの一年」


「いきなりジャイロボールを要求するとは強気だな。でも……僕も賛成だ!」


「えっ……? うわっ! しまった!」


「よっしゃ! サード!」


「よっしゃー! うらぁっ!」


「オッケー! ナイスボール丈!」


「アウト!」


 福田は中性的な見た目に反してストレートにジャイロ回転がかかってて、ストレートが速くそして重く感じるほどの球持ちが特徴だ。


 それもコントロールも小野並みで、一緒に走り込みしてコントロールも身についたと自負するほどだ。


 後続も三者凡退に打ち取り、六回のウラに回る。


「六番、ショート、島田くん」


「よし!」


「島田はヒットを量産するほどのヒットメーカーだが、あっちの監督の都合でレギュラーじゃないんだっけな。正直、二年の志村よりもすごい選手だと思ってたから意外だったな。流し打ちされたら面倒だし、インコース攻めでいくぞ」


「うす。ふんがっ!」


「ストライク!」


「相変わらずノビは悪いけど速いな……。だったら短く持つか」


「短く持ってついにビビったか?それならこっちのものだ。また真っ直ぐでビビってもらおう」


「うす。ふんがっ!」


「おっと!」


「ボール!」


 島田は選球眼も優れていて、あっという間にフルカウントとなった。


 ピッチャーの白鵬(はくほう)はやや荒れ(だま)で、スタミナこそかなりあるがコントロールが甘く、どうしても球数が多くなってしまう。


 その弱点を突くべく、志村に取られたレギュラーの無念を晴らすように白鵬から放たれたフォークにフルスイングした。


「無茶だ! あんなに落差のあるフォークを捉えるのは!」


「そんなのわかってる……。俺は志村にレギュラー取られた情けない男だからな。でも……俺だって負けてないんだっ!」


 カキーン!


「嘘っ!? ライト! 深追いするな!」


「うおーっ!」


「あー! ワンバウンドして後ろに逸れた!」


「オーバーランだ!」


「うおぉぉぉぉぉぉっ!」


「セーフ!」


「っしゃあああああああっ!」


「島田ナイスバッティング!」


「さすが選抜までレギュラーだっただけの事はある!」


「監督は俺を育成するためにあえてレギュラーにしてくれたけど、やっぱり島田先輩には敵わないな……」


「よし、そろそろ代走だ。志村、行って来い」


「はい! タイム! 二塁ランナーの代走に志村です」


「代走、志村!」


「東光学園の二塁ランナーの交代をお知らせします。ランナーの島田くんに代わりまして、志村くん。背番号6」


「先輩、お疲れ様でした」


「ああ、俺もこれで役目を終えたな。志村……これはお前に期待しているからこそ譲ったものだ。お前はいいショートなんだから俺に気を(つか)わず正々堂々とプレーしてればいい。俺はこの大会で引退だ。最後の打席、回れて嬉しかったぜ」


「はい! 先輩の分まで頑張ります!」


「監督、島田くんは今のプレーで……」


「ああ、詰まった時に手首を(ひね)ったようだ。これ以上プレーしてケガでもされたら甲子園で使えない。ここは温存して交代したんだ。島田、お前のガッツはこの目で見たぞ! 後は志村に任せて、甲子園までその手首を治してこい!」


「監督……はい!」


 島田の手首の捻挫(ねんざ)で志村に交代し、次の打席の我那覇は送りバントでランナー三塁になる。


 指名打者の山岡はプルヒッターで、中田に引っ張り打法を教えた選手だ。


 パワーもあって青葉学院とのパワー比べにも負けないほどの筋力を持つので、速くて重い球にも耐えられるのだ。


 現に白鵬からツーランホームランを放っていて、苦手な守備を上手くカバーしていた。


 そんな山岡の打席はツーベースで、また1点を取った。


 これで7対8と徐々に追いつき、逆転するかと思われたが……九番の中島は三振、一番のホセはフォアボールで出塁するも二番の天童があっさりセンターフライでチェンジとなった。


 7回の表になると、青葉学院の応援団が上半身だけ裸になり、見事な肉体美を()せて観客を魅了(みりょう)した。


「うわ、あっちの応援団すげえ筋肉……!」


「中田はもう少しお腹の脂肪を減らそうな」


「うっせえな! 俺だって好きで太ったわけじゃねえよ!」


「まあまあ中田先輩、プロテインでも飲みますか?」


「おう園田! 気が利くな!」


夜月(やつき)、9回には君を守備固めで出す。今のうちにもう一度アップしてくれ」


「あ、はい!」


「夜月くん、頑張ってね!」


「菊池先輩……はい!」


 夜月は9回に守備固めとして交代する事を告げられ、裏のブルペンで園田と共にキャッチボールする。


 現に夜月にも筋力があり、パワーも青葉学院に欲しがられるほどだった。


 だが街雄(まちお)監督は川崎市長からの弾圧で前任監督が断念し、無理してでも獲得しなかったことを後悔するほどの逸材だ。


 7回は進展がなかったが、8回のウラに渡辺のデッドボールの次にロビンがホームランを放って逆転を成し遂げた。


 しかし中田と志村、我那覇(がなは)が続かなかった。


 8対10となった9回表、ここで福田から斉藤に交代する。


 同時に中島から夜月へと交代する。


 斉藤はスタミナがなく、コントロールも悪い中で編み出したトルネード投法で安定感を手に入れ、勢いに乗ったピッチングでさらに球速を出していた。


 同時に春の選抜でものにした魔球ナックルを取得し、実戦で使えるほどになっていた。


 そのナックルを織り交ぜるも……


 カキーン!


「げげっ!」


「初球から打ちに行くとか本当に一年かよ!」


「レフト!」


「くっそ……こんなの届くかよ!」


「また入ったー! 奏流院、またもや同点ツーランホームラン! 怪物ルーキーがここに現る!」


「あの化け物め……!」


「いいねえ……面白くなってきたじゃねえか! これこそ高校野球って感じだぜ!」


「斉藤先輩のそのポジティブさ、俺も見習いたいです。けどスタミナないんですから早めに抑えましょう」


「おう! 見てな!」


 後続の武田と厳流(がんりゅう)を三振に抑え、郷里(ごうり)もショートゴロにするなど斉藤も立ち上がりに不安がありつつも、その後のカバーはしっかりしていた。


 同点にされた今、早く決着つけないと斉藤はバテてしまう。


 バットを強く握った山岡はやるぞと意気込んでバッターボックスに立つ。


「よーし! 来い!」


「山岡はここまで長打が三回とノッてきてるから抑えておきたいな。それに得点圏に来たらめんどくさいバッターがいるし、抑えてチャンスを潰してやろう」


「うす。ふんがっ!」


「ボール!」


「なるほど、あくまでインコースは今回は捨てるか……。ならインコースでもう一度攻めよう。こいつなら微動(びどう)だにしないからな」


「うす。ふんがっ!あ……!」


「うわっ!」


「デッドボール!」


「いてて……!でもランナーになれてよかった……!チャンスじゃないけど、ランナーがいるときの夜月は強いぜ……!」


「九番、レフト、夜月くん」


「ふぅ……よし、来い!」


「彼が街雄監督が欲しがってた夜月晃一郎(やつきこういちろう)か。細いようで意外とガタイがいいんだな。彼は確か引っ張りが得意だからインコースで詰まらせてゲッツー、最悪延長戦で斉藤には()()()もらおう」


「うす。ふんがっ!」


「インコースは……捨てるっ!」


「ストライク!」


「彼はインコースが苦手と言ってたが、まさか動かないとはな。捨ててるならもう一度……と言いたいがホームベースから離れてる以上は手を出す可能性もある。アウトコースのシュートで空振り狙おう」


「うす。ふんがっ!」


「真っ直ぐにしては遅い……シュートだな! おらぁっ!」


「なっ……!」


「やっべ……打ち上げちまった……!」


「よし! 芯に当たったとはいえ高すぎる! これはフライでもらったぞ!」


「オーライ! オーライ! っ……!?」


カコーン!


「は……入ったーっ!」


「サヨナラだーっ!」


「うおーっ! 夜月ーっ!」


「俺が……サヨナラ……?う……うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


「夜月! 喜ぶのはいいが踏み忘れるなよ!?」


「おっと、帰るまで冷静に……! うっしゃあ!!」


「やったーっ!」


「ゲームセット!ただいまより東光学園と青葉学院の試合は、12対10で東光学園の勝利です。両校とも礼!」


「ありがとうございました!」 「っしたーっ!」


「同じ一年でレギュラーとして、結局抑えられなかった。次こそは抑えてみせるぜ」


「それはこっちのセリフさ。今日の借りをまたホームランで返す……」


「アメリカ人はやっぱりパワフルだな。ロビン・マーガレット、絶対甲子園の後はメジャーリーガーになってくれよ?」


「うん、応援よろしくね」


「おい夜月!お前ホームラン打てるじゃんか!うちに来てればもっといいバッターになれたが……川崎市の弾圧で獲得できなかったのが痛かったぜ!また試合しようぜ!」


「郷里さん……はい!」


 パワー比べの乱打戦を東光学園が制し、ついに決勝進出が決定した。


 第二試合の結果は2対7で金浜(かなはま)が勝利した。


 金浜との試合は明日になる。


 最近は金浜の名将の渡邊将(わたなべしょう)が勇退し、日本スポーツ科学大学を卒業した赤津木暁人(あかつきあきひと)が監督に就任した。


 彼は選手としてはベンチ外レベルと無名だが、大学で指導者として覚醒し金浜高校にスカウトされた若手の名将なのだ。


 それも大学在学中に石黒指導者塾にも通い、たった一年で主席卒業をした人だ。


 東光学園硬式野球部は、金浜高校の試合を見て燃え、明日が待ち遠しくなってきた。


 そしてついに……決勝戦の時が来た。


 つづく!

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