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それいけ!東光学園野球部!  作者: 紅夜アキラ
第一部・第一章
30/175

第28話 青葉学院

 こちらは青葉(あおば)学院、横浜市青葉区にある名門校だ。


 かつて野球部は黄金時代を築いたのだが、今となっては金浜(かなはま)常海大相模(じょうかいだいさがみ)、さらに東光学園によって陰りを見せつつある学校だ。


 そんな時に同じく名門のラグビー部からヒントを得た街雄鳴人(まちおなると)監督は、パワーで打ち勝てばいいとウエイトトレーニングを重ねてきた。


 そんな中で夜月(やつき)と同じく年のこの4人は……


「ふんっ! ふんっ!」


「いいぞ佐倉! その調子だ!」


奏流院(そうりゅういん)! もう10キロ追加で!」


「うん!」


「おらぁっ!」


「やるなあ佐倉! 俺も負けてられないな! ふんがー!」


「俺だってロシアから来たんだ! そう簡単に負けてられないぞ! うらぁっ!」


「いいね! 仕上がってる! キレてきてる!」


「まあ俺たちはベンチ外だけどな!」


「唯一ベンチに奏流院だけが入ってて羨ましいぜ」


「だがいずれ俺たちもベンチどころかレギュラー入りしてやる!」


「おい佐倉はまず野球に慣れてからだろ?」


「はっはっは! そうだな!」


「ボイドも野球初心者だし、お手柔らかに頼むぞ!」


「おう!」


「おっ、みんないい感じに仕上げてきたね」


「監督! ちゃっす!」


「うんうん。それで明日の対戦相手は東光学園でね。おそらく乱打戦(らんだせん)になる事が想定されるよ。佐倉くんとボイドくんも野球に少しずつ慣れてきたね。ホームランもチームで1位と2位だよ」


「おす!」


「当然!」


「でも空振りも多いからもう少し当てる技術を(たくわ)えようね。技術あっての筋力なんだから」


「はい!」


「でも中田丈(なかたじょう)くんと清原和也(きよはらかずや)くんを逃したのは痛かったなあ。まさか彼らが東光学園を選ぶなんて」


「そういや夜月ってやつもいたな」


「ああ、あの悲運のスラッガーだろ?監督が好きそうじゃんか」


「へえ……そいつと是非対決したいな!」


「いいねえ! ホームラン合戦といこうじゃねえか!」


 青葉学院では相変わらずトレーニングルームにこもって筋肉トークをする。


 佐倉響介(さくらきょうすけ)を筆頭に、唯一レギュラー入りした奏流院明由そうりゅういんあきよし、ベンチ入りした上原彩弥(うえはらあや)、そしてロシア人留学生のウラジーミル・ボイドだ。


 ラグビー部の筋トレから得た野球部は、今年の春の選抜に出場したもう一つの神奈川代表で、秋季(しゅうき)関東大会を準優勝と神奈川でワンツーフィニッシュを決めたところだ。


そこに即戦力の奏流院が入ったことでよりパワーが磨かれ、東光学園にとって厄介な存在となった。


 一方こちらは東光学園、何やら投手陣が集まって話している様子だ。


 あおいを連れてミーティングを開始した投手陣は、青葉学院の映像を見て確認する。


「このように投手陣は球速第一主義で、コントロールが甘いのですが、バッティングがどの高校よりも積極的で迷いが全くないように感じます。おそらく慎重な松井先輩にとっては相性が悪いかと思います」


「そうだなあ。確かに松井は消極的(しょうきょくてき)なところもあるし、威圧感に押されて甘い球を失投しそうだしな。だからって小野を先発連投させたくないしな。荒れ球である程度スタミナがあるやつは……本田アレックスしかいないな。福田も球速は悪くないがどちらかと言えば軟投派(なんとうは)だ。本田がバテた時に福田に援護してもらおう。小野と松井にとってはあの学校は天敵だったからな。高坂(こうさか)、情報ありがとう」


「はい、お役に立てて嬉しいです」


「バッティングの安定感に欠ける清原は今回はベンチスタートだ。代わりに指名打者にパワーと安定感がある山岡を入れよう。チャンスの場面で外野のどこかから夜月を代打に送る。そしてその代走に三田か大島で守備固めだ。それでいこう」


「はい!」


「よし! 自主練に行って来い!夜月は外野ノック受けたらファーストミット持ってキャッチボールしてくれ! そしたら早めに上がってもいいぞ!」


「はい!」


 東光学園は秋季関東大会決勝で小野と松井が青葉学院に攻略され、本田と福田、そして大島の3人による中継ぎリレーで流れを止め、ロビンを中心にした連打力で打ち勝った経験がある。


 その反省を活かして小野と松井を先発から避け、投手リレーで青葉学院戦でエースの小野とエース候補の松井を温存する作戦だ。


 そこで一年に試合の機会を与えつつ、上級生で堅実なプレーで確実に勝利するのだろう。


 そして試合当日、ついに準決勝が行われた。



 先攻・青葉学院スターティングメンバー


 一番 ファースト 銀河盤常(ぎんがばんじょう) 三年 背番号3


 二番 指名打者 三島平次(みしまへいじ) 三年 背番号24


 三番 セカンド 奏流院明由そうりゅういんあきよし 一年 背番号4


 四番 センター 武田悠騎(たけだゆうき) 三年 背番号8


 五番 サード 厳流岩雄(がんりゅういわお) 二年 背番号5


 六番 レフト 郷里大助(ごうりだいすけ) 二年 背番号7


 七番 ライト 内海賢二郎(うつみけんじろう) 三年 背番号9


 八番 ショート 安元貴宏(やすもとたかひろ) 二年 背番号6


 九番 キャッチャー 立壁和樹(たてかべかずき) 三年 背番号2


 ピッチャー 白鵬博之(はくほうひろゆき) 三年 背番号1



 後攻・東光学園スターティングメンバー


 一番 センター ホセ・アントニオ 三年 背番号8


 二番 キャッチャー 天童明(てんどうあきら) 一年 背番号2


 三番 ライト 渡辺曜一(わたなべよういち) 三年 背番号9


 四番 ファースト ロビン・マーガレット 三年 背番号3


 五番 サード 中田丈(なかたじょう) 二年 背番号5


 六番 ショート 島田正道(しまだまさみち) 三年 背番号16


 七番 セカンド 我那覇涼太(がなはりょうた) 三年 背番号4


 八番 指名打者 山岡正人(やまおかまさと) 三年 背番号25


 九番 レフト 中島雄太郎(なかじまゆうたろう) 三年 背番号17


 ピッチャー 本田(ほんだ)アレックス 二年 背番号23



 となった。


 二年でレギュラーの志村は『今ここで怪我されたら将来のショートがパワープレイで潰されるのを嫌がった』石黒監督の判断で、負ければ即引退の三年生を多く出す事で将来の選手を守る選択をした。


 キャッチャーに至っては田中は非常に小柄なので、青葉学院が相手だととても(かな)いそうにないと思ったらしい。


 ベネズエラ人と日本人のハーフの本田は力いっぱい投げ込み、本格派のピッチャーは実はいるんだぞというアピールになった。


 整列と礼を済ませた両校はそれぞれのポジションに着く。


「一番、ファースト、銀河くん。背番号3」


「来い!」


「名前は『ばんじょう』と読むんだっけこの人。高坂が言ってたが『この人を筆頭に積極打法だからフルスイングしかしない』と言ってたな。こんなゴリラみたいな奴らに俺をスタメンにするとか、試されてるな俺も。じゃあこうしようっと」


「ストレートと見せかけたツーシームをど真ん中か? 随分(ずいぶん)強気だな。まあいい、全力でいくぜ!」


「真っ直ぐ来た! そらあっ! あ、やべっ……」


「レフト!」


「オーライ! よっしゃ!」


「アウト!」


「くっそー!詰まっちまったぜ!」


「おいおい勘弁してよ」


「あれで詰まってるとか化け物かよ!」


「本田先輩!落ち着いていきましょう! 彼らきっと打ち上げますよ!」


「そうだな! 強気でいくぜ!」


「二番、指名打者、三島くん。背番号24」


「めっちゃ老けた顔してるわ……。本当に高校生かよ。ツーシームをもう一度投げましょう。これ以上ど真ん中を投げるのは危険だと今のでわかった」


「さすがに学習はしているみたいだな。インコース寄りに投げればいいだろう!」


「ストレート! 来たあっ!」


「ストライク!」


「ナ、ナイスボール本田先輩!うわぁ、こいつらのフルスイング怖ぇ~……!」


「マジでストライクなら何でも振って来やがるな。天童じゃなくても怖いな」


「こんなの見せられたら際どい球しか要求できなくなるじゃんか。でもここでビビったら負けだと俺は思うんだ。アウトコースにカットボールでバットの先に当ててもらいましょう」


「俺は大きな変化球はないからな。カットボールとツーシームしか投げれないし、ちょうどいいだろ!」


「真っ直ぐだな!今度こそそらぁっ! げげっ……!」


「セカンド!」


「オーライ!」


「アウト!」


「あー……!」


「さあツーアウト!」


「ツーアウトー!」


「三番、セカンド、奏流院くん。背番号4」


「お願いします」


「おう。同じ一年で強豪校のレギュラーか。それほどの実力があるんだろう。それにこの奏流院ってなんだか小柄だしそんなに飛ばさないだろう。普通の真っ直ぐでいいと思いますよ」


「何かなめてるリードだな。でも俺は真っ直ぐ系しか投げれないし、その通りに投げさせてもらうよ!」


「真っ直ぐ……? でも先輩方は何故か詰まったりしたし……あっ……!」


「ストライク!」


「おい奏流院! 迷っちゃダメだって言っただろ!」


「すんません! 今のは普通の真っ直ぐか。もしかして……」


「おい今の球速見てもバットを長く持ったままかよ。どんだけ自信があるんだこいつ。今の『154キロは出た』はずだぞ?もし本田先輩の真っ直ぐ系しか投げれないのを知られたら最悪だ。ツーシームで詰まってもらおう」


「オーケー。やってやるぜっ!」


「ストレート……いや、何で詰まったかわかった気がする! これはツーシームだ! それっ!」


「んなっ……!?」


「センター! 追うんだ!」


「これは追っても無駄だな」


「何で追わないんだホセ先輩! 打球はフエンスに当たる……」


 カコーン


「え……?」


「うおー! 入ったぞー!」


「今日は一年坊主がホームラン一番乗りだな!」


「いいぞー奏流院!」


「やったー!」


「嘘だろ……? あれで入るのかよ……?」


「ふぅ、タイム」


「タイム!」


「明、ちょっと来い」


「え? あ、はい!どうしました?」


「やっぱり俺のような真っ直ぐだけの人間に青葉学院とは相性が悪いようだ。マウンドを降りた方が賢い戦法だろう」


「まあそうなりますよね。でも(ゆず)る気はないんでしょう?」


「まあな。そこでだ、サインをもう一つ増やそうと思う。指がパーになったらチェンジアップだ。やっぱり真っ直ぐだけじゃダメだと春から緩急の変化球を練習してたんだ」


「それならもっと早く実践(じっせん)してくださいよー!」


「まだ自信がなかったんだ。だがあれこれ言ってる場合じゃない事が今なんだ。目が慣れてないだろうがちゃんと捕ってくれよ」


「うっす! 期待してますからね!」


「四番、センター、武田くん。背番号8」


 こうして本田と天童は新たなサインを決め、真っすぐを連投して速い球に慣れさせる。


 するとフルカウントになってついに天童はパーのサインを出す。


 本田はよっしゃと頷き、ドキドキしながら全力でチェンジアップを投げ出した。


 するとまるですっぽ抜けたかのような遅い球で、武田はタイミングを崩されて体勢が崩れながらスイングしてしまった。


 それも棒球(ぼうだま)なのにゆっくりと落ちるものだからアッパースイングが乱れ、三振でチェンジになる。


 一方の東光学園の攻撃は三者凡退に終わり、1対0で青葉学院がリードしている。


 パワー野球相手に成す術はあるのか――


 つづく!

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