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それいけ!東光学園野球部!  作者: 紅夜アキラ
第一部・第一章
29/175

第27話 勝利

 7回の表になり、川崎総合の攻撃は双葉のフォアボールで出塁。


 双葉は普段はやる気がなくて面倒くさがりなので盗塁は一切しない堅実なプレーが持ち味で、いつもチャンスの場面でも安全策を取っている。


 そのためかエラーも三振もなく、ゲッツーを取られたことがないある意味厄介(やっかい)な選手だ。


 次の姫川は走攻守バランスがよく、とくにバッティングではパワフルなスイングが持ち味だ。


 見た目は小柄なのに強引に引っ張ったりする天才プルヒッターで、天童も少しだけ警戒する。


「夜月の言う通りだったってわけならキャッチングをもう少し練習しよう……。でも今はこの試合に集中しなきゃだな。幸い小野先輩はここまでいいピッチングをしている。だが球数(たまかず)が多いからここで抑えなきゃな。ここはスライダーをアウトコースにしましょう」


「わかった。ふんっ!」


「ストライク!」


「あの子、キャッチング上手くなったか?あの伝令(でんれい)以来際どいのもストライクになるようになったしなあ。天童もだけど、あの夜月(やつき)って子、(あなど)れないな。本当に東光学園は層が厚いよ」


「うす……。姫川さんは何を仕掛けるかわからないからちょっと怖いな。『何でもできる器用な選手』だから右打ちするかもです。でもここは真っすぐを低めに放りましょう」


「怖がってるくせに強気だな。まあそこがお前のいいところ……なんだよなっ!」


「低め……いや、外れるな」


「ボール!」


「ふぅ……」


「今のナイスボールです! ボールはたまたまっすよ!」


「ランナー走らないよ!」


「バッター勝負でいこう!」


「内野ゲッツーだぞ!」


「おー!」


「小野先輩そういやツーシーム投げれるんだっけか。ツーシームをインコースに投げちゃおう」


「判断早いな。まあそこはそうだろうなっ!」


「真っ直ぐだ! もらった! あっ……」


「よっしゃ! ショート!」


「よっしゃ! 新田!」


「よし! ファースト!」


「オーケー!」


「アウト! ゲッツー!」


「よし!」


「姫川さん……もっと俺を楽にさせてよね……」


「悪かったよー」


「まあ……負けてるけどこの後に追いつけばいいっしょ……。前川頑張ってよね……」


「わかった!さあ来い!」


「そういや前川さ、打つ時にあのかけ声はやらないの?」


「恥ずかしいからやらないよ!」


「でもその方が打率がいいし、今日の試合はいいところないじゃん」


「うるさいな! 俺のプライドが許さないの!」


「はあ!? こんな時にプライドなんか持ってるの!? バッカじゃないの!?」


「この大会ノーヒットの多田(ただ)に言われたくない!」


「何おう! 今まで空気を悪くしないように黙ってたけど、言わせておけば結局喧嘩(けんか)じゃんか!」


「喧嘩売ったのはそっちじゃん!」


「だ、大丈夫かなあの二人……」


「大丈夫です。あの二人は喧嘩ばかりですが、喧嘩した後の二人は結果を残します。監督の私がそう思うのですから安心してください。それにあの二人……何だか楽しそうですよ?」


「うーん……」


 こうして前川と多田は痴話喧嘩(ちわげんか)を済ませ、前川が打席に立つ。


 すると前川は打席に立つなり深呼吸をし、ヒットを打つことに集中し始めた。


 ツーボール・ワンストライクになると今度はファールでついに追い込んだ。


 だがしかし、前川はどうにでもなれと思ったのか、ヤケクソのスイングをした。


「にゃーっ!!」


「ちょ、打球が早い……!」


「抜けたー! 新田と島田が反応できないスピードで抜けていった! センター前ヒットだー!」


「なんだ、やれば出来るじゃん。俺も続くぞ」


 多田相手にはツーストライクのワンボールでバントエンドランを起こし、反応が遅れた中田は送球を焦り、グローブから送球手前でこぼしてしまった。


 城ケ崎(じょうがさき)も続いて単打を打ち、完全に川崎総合の流れとなった。


「四番、ファースト、諸星(もろぼし)くん」


「ひかるんパワー全開っ!」


「タイムお願いします」


「タイム!」


「小野先輩、球数的に限界なのでピッチャー交代です」


「ああ、その様だな」


「俺でいいんですか?」


「園田ならいけるさ。稗原(ひえばら)中のエースなんだから自信を持っていけばいい。自分のできる事をこなせばいい、それだけだ」


「はい!」


「東光学園のピッチャーの交代をお知らせします。ピッチャー小野くんに代わりまして、園田くん。背番号21」


「園田、調子はどうだ?」


「ああ、緊張するよ」


「大丈夫だ。俺は前半にキャッチングでやらかしたが、もう同じ事はしねえ。安心して全力で投げてくれ」


「わかった」


「一年生バッテリー?ひかるんなんだかワクワクするなぁ~!」


「どうもっす。でも打ち取りますよ」


「負けないよ?」


「諸星さんは結構この試合でノリにノッてるから園田のピッチングとは相性は悪いはずだが、今の園田は小野先輩のコントロール論に感化されて磨かれたはずだ。カーブでちょっと揺さぶろう」


「わかった。ふんっ!」


「カーブ……?うっ……!」


「ストライク!」


「やっぱり一年同士だと天童もやりやすいだろう。先輩相手だと気を使う事もあるしな」


「監督はそれをわかって園田を送ったんですか?」


「9回をリードしたままなら斉藤を送って締めくくる。斉藤、そして松井と川口も肩を温めておけ」


「はい!」


「ストライク!」


「よっしゃ!追い込んだぞ!」


「うう……!」


「まだカウントに余裕があるし少し外してボールになっても問題ないだろう。ギリギリのアウトコースで賭けに出ようぜ」


「わかった。真っ直ぐを放ればいいんだな。それっ!」


「バカ……少しだけ内に寄ってる!」


「ラッキー! そぉれっ!」


「くそっ! レフト!」


「くっ……追いついた! うおぉぉぉぉっ!」


「いっけぇぇぇぇっ!」


「あーっと! レフトの尾崎、身長が低いが故に高めのフエンスに当たった打球に届かなかった! ホセがカバーに回るも三塁ランナーの前川、二塁ランナーの多田がホームイン!これで同点です!」


「ナイスバッティング諸星!」


「やったぁ~!」


「うーむ、一年に諸星相手は早かったかなあ……」


「五番、サード、穴沢くん」


「お願いします」


「園田はショックを受けてもあんまり表に出さないんだな。ベンチで(はげ)ましてやろうっと。とりあえず真っすぐをインコース気味にしよう。あんま甘く投げるなよ?」


「今のは指のかかりが甘かったな。もう少しリリースを練習しようか。でも今はこの試合に……集中!」


「絶好球……来たっ! あれ……?」


「打ちあげた! キャッチャー!」


「うおぉぉぉぉぉぉっ!」


「……アウトー!」


「うおぉぉぉぉぉ! ファインプレーだ!」


 天童はバックフエンスに向かって突撃するようにキャッチし、川崎総合の流れを止める事が出来た。


 7回のウラは三者凡退、8回も両校ともに進展がなかった。


 9回の表で川口を登板させて安定の中継ぎっぷりを見せて9回のウラになる。


「さてと、キャプテンの僕がチャンスを作るよ」


「お願いしますよ!」


「来い!」


「渡辺くんは器用なバッターだから警戒すべきだけど、今日はあまり当たってないし真っ直ぐでいこう」


「真っ直ぐだね。わかった。それっ!」


「ストライク!」


「ナイスボール!」


「なるほど。よくわかった」


「え……?何この人……何がわかったんだろう?怖いから少し外そう?」


「『オッケー、カラオケ。』ああ、ネタが尽きちゃった……。でもいいか、勝てばいいもんね!」


「高垣くんは『ダジャレのレパートリーが切れると急に球速も変化球のキレも落ちる』んだよね。それにあまり体力もなさそうだし、体力が切れるとダジャレを考える余裕もなくなるのかな。そうだとすればもう僕の勝利だね。それっ!」


「そんな……!」


「うわっ!」


「あの巨人ファーストの頭上を越えた!」


「ナイスバッティング渡辺!」


「よし!」


「四番、ファースト、ロビンくん」


「すみません、敬遠でお願いします」


「フォアボール!」


「敬遠……!?」


「まあそうなるよな。ロビンは今大会(こんたいかい)調子がいいし、一発出ればサヨナラだからな」


「中田は今大会あまり当たってないから勝負でいいよ!」


「あいつら俺をなめやがって……! もう怒った! 絶対ホームラン打ってやる!」


「中田くん! 落ち着いて! 君は少し我こそはと力む癖がまた出てるよ!」


「キャプテン……」


「そうそう! (じょう)は自分のできる事をすればいいんだよ!」


「ロビン先輩……俺が間違ってたわ。今まで大きいの狙ってばかりで勝手に力んで……。まだ俺も未熟だな……さあ来い!」


「雰囲気が変わった? 中田くんはまだ二年だから将来性もあるし、やっぱり警戒しなきゃ。シュートで詰まってもらうか、のけぞって脅迫しようかな」


「オッケー。それっ!」


「うおっ!?」


「ボール!」


「あっぶね~……! 手を出すところだったわ……!」


「うーん、やっぱりそう簡単に手を出さないかあ。せっかちだから手を出すと思ったけど克服したんだね。もう一度シュートでいこう」


「オッケー。それっ!」


「おらあっ!」


「ファール!」


「ああ、惜しい!」


「中田! 一発でも単打でもいいから塁に出ようぜ!」


「ふぅ……」


「え……? 今までの彼に感じなかった威圧感がここで……? 高垣くん大丈夫かな……?」


「真っ直ぐでいきたい……!」


「高垣くん……。わかった、真っ直ぐで勝負しよう」


「これが最後の夏だから……負けたくないっ!」


「真っ直ぐか! うおぉぉぉぉぉぉっ!」


カキーン!


 高めのアウトコースに真っ直ぐが放たれたボールは、中田のフルスイングによって大きく飛んでいった。


 中田は今まで大きいの狙おうとして力が入っていたが、自分のできる事をすればいいという言葉に目が覚め、無駄な力みがなくなった。


 そのためか自然なスイングが出来て、ロビン以上のパワーという潜在(せんざい)能力が覚醒(かくせい)したのだ。


 純子はそれを見越して筋トレではなく柔軟や素振り、ティーバッティングなどを徹底したのだろう。


 その大きな打球は……


「は、入りました! 中田が今大会初のホームラン! 場外へと飛んでいきました! という事は……勝ち越しサヨナラホームランだぁぁぁぁぁぁっ!」


「そんな……僕の夏がここで……!」


「っしゃあああああああああっ!!」


「ナイスバッティング中田!」


「僕は信じてたよ! 君がいつかホームランを打てる日が来るって!」


「これでスランプは脱出だな!」


「それよりも整列しよう! 相手への敬意を込めて礼をするんだ!」


「はい!」


「以上を持ちまして、東光学園と県立川崎総合の試合は、4対7で東光学園の勝利です。礼!」


「ありがとうございました!」


「っしたー……!」


「中田くん、『価値ある勝ち』でした……。絶対に甲子園に行ってくださいね……?」


「高垣さん、あんたのピッチングは凄かったッス。絶対に勝ちますから見ててください」


「新田さん、あなたのリードは参考になりました。もう勝負できないのが残念ですが、新田さんの分まで頑張ります」


「うん。君もキャッチングが弱点だったけど、克服できてよかったね。これからも頑張ってね」


「はい!」


 こうして公立高校の星だった川崎総合に勝利し、ついに強豪私立しかいなくなった。


  ベスト4は東光学園や青葉(あおば)学院、金浜(かなはま)、そして常海大相模(じょうかいだいさがみ)となった。


次の相手は青葉学院で、ラグビー部からパワー野球が武器だ。


 郷田(ごうだ)のライバルである青葉学院まであと2日。


 東光学園は翌日の調整に入った。


 つづく!

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