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それいけ!東光学園野球部!  作者: 紅夜アキラ
第一部・第一章
21/175

第19話 初戦の相手

 初戦の相手は川崎市立(みぞ)(くち)高校と神奈川県立大和川(やまとがわ)高校の勝者で、今日その試合が保土ヶ谷(ほどがや)スタジアムで行われる。


 なので部員たちは練習に打ち込み、マネージャーの菊池と上原、そしてあおいの三人で対戦相手のデータを探る。


 本来なら球場で観に行きたいが、部員たちは全員口をそろえ、『テレビ中継があるならマネージャーに任せて自分たちは練習だ』というので、監督はその熱意に応えて練習にする。


 ここはマネージャーがテレビ観戦する硬式野球部の部室。


 菊池と上原、そしてあおいはテレビの前でスコアを付けたりメモを取ったりする。


 そしてようやく試合開始の時間となった。


「プレイボール!」



 先攻・溝の口高校スターティングメンバー


 一番 センター 小坂秀斗(こさかしゅうと) 一年 背番号8


 二番 サード 引地雄太(ひきちゆうた) 一年 背番号5


 三番 ライト 中崎健(なかさきけん) 三年 背番号9


 四番 指名打者 柳原友次郎(やなぎはらゆうじろう) 三年 背番号11


 五番 キャッチャー 古谷綾人(ふるやあやと) 一年 背番号2


 六番 ショート 三田涼雅(みたりょうが) 一年 背番号6


 七番 レフト 船橋英三(ふなこしえいぞう) 二年 背番号7


 八番 ファースト 柴田卓也(しばたたくや) 三年 背番号3


 九番 セカンド 大咲友介おおさきともすけ 二年 背番号4


 ピッチャー 礒部大吾(いそべだいご) 三年 背番号1



 後攻・大和川高校スターティングメンバー


 一番 ショート 木村龍(きむらりゅう) 三年 背番号6


 二番 レフト 志田美佐斗(しだみさと) 二年 背番号7


 三番 指名打者 千葉健流(ちばたける) 三年 背番号10


 四番 ファースト 王京(ワンジン) 二年 背番号3


 五番 センター 篠原永太しのはらえいた 三年 背番号8


 六番 サード 朝田紘太(あさだこうた) 三年 背番号5


 七番 セカンド 広島海実(ひろしまうみ) 一年 背番号4


 八番 ライト 市川大(いちかわだい) 一年 背番号9


 九番 キャッチャー 大村雄一郎(おおむらゆういちろう) 一年 背番号2


 ピッチャー 本村悟(きむらさとる) 一年 背番号1



 となった。


「いきなりエースを出しますかー」


「公立校だと戦力が限られてきますからね」


「大和川のエースって一年生なんだね」


「一年でエースってすごくないですか?」


「うん、多分その学校で一番の投手なんだと思うよ。どんなピッチングなのか気になるね」


高坂(こうさか)さん、よく見ててね。私たちマネージャーは試合の偵察(ていさつ)も仕事なのよ」


「は、はい!」


「さあここで一番センター小坂。守備面では守備範囲の広さと強肩が武器ですが、打撃面ではどうでしょう?」


「そうですねえ左打ちなのできっと俊足なのでしょう」


「あの子、少し細いけど何か()()()()を感じるかも……」


「上原先輩にはわかるんですか?」


「うん、わかるよ」


「私にはわからない……」


「菊池先輩は精神面を見るのに()けてますから、本番では発揮(はっき)できますよ」


「だといいな」


 小坂はいきなりセーフティバントで揺さぶり、奇襲をかけて安打に成功する。


 すると二番の引地は送りバントで堅実(けんじつ)に塁に進め、三番の中崎でタイムリーを放つ。


 四番の柳原は三振、五番の古谷はダブルプレーになりチェンジ。


 溝の口高校は一年生がいきなり主力になり、将来が楽しみなチームという印象だった。


 一方の大和川高校は王という中国の広州(こうしゅう)出身の留学生で、新暦になってようやくアジア野球の強豪になりつつあるところからの中国人だ。


 王の豪快なスイングはピッチャーを威嚇(いかく)するほど鋭く、日本人にはない豪快さがあった。


 しかし王までつなげる事が出来ず、三者凡退でチェンジとなった。


 2回の表はとくに進展がなく三者凡退、その瞬間に王の打席になると大和川のアルプスが盛り上がった。


「ついに来たんだね」


「あの子、そんなにすごい選手ですか……!?」


「王さんですか?」


「ええ。王京、彼はうちの小野くんからホームランを2本も放った人で、ドラフト候補の一人なんだよ。小野くんも彼だけは苦手なようで、あまり対戦したくないとこぼしたほどなの」


「そんな選手が何で大和川高校に……?」


「大和川高校は国際科があって、英語だけでなく中国語とスペイン語、アラビア語のどれかを選択できるんです」


「高坂さん詳しいわね」


「対戦するだろう相手の学校の情報は頭に入っていますよ。でもまさか中国から留学した選手がいるなんて思いませんでしたが」


「それだけでもいい情報だよ。高坂さんは相手の情報を何でも知ってるんだね」


「いえ、まだまだですよ。それよりも彼のバッティングを見ましょう」


「そうね」


 あおいは相手になるであろう高校のデータや情報を入手し、偵察に行っていないのにその学校に詳しかった。


 それもそのはず、元からこの学校の硬式野球部に入ってマネージャーになると決めた頃から『ライバル校の全てを知ろう』と研究を重ねてきた。


 さらに他校のマネージャー同士で交流してどんな選手がいるのかを話したり聞いたりして情報収集をしていた。


 あおいはマネージャー界では非常に顔が広いのだ。


 そんな中で試合は大きく動いた。


「これは大きな当たりだ! これこそ王のバッティングです! これでもまだ二年生! 来年が楽しみだ!」


「甘く入ったシュートをこんなに軽々と……!」


「これが王くんのバッティングだよ?」


「小野先輩で抑えられるかしら……?」


 1対1になり、試合は中盤戦へ入る。


 5回の表ではピッチャーの木村が降板して背番号13の二年生、桃瀬卓夫(ももせたくお)が登板する。


 先ほどのオーバースローからサブマリンほどのアンダースローになり、相手にとっては打ちづらいピッチャーとなる、はずだった。


 溝の口高校の打線が急に繋がりはじめ、桃瀬は簡単にノックアウトしていった。


 気が付けば6対1となり、もう大和川高校に投げられるピッチャーは残っていなかった。


 5回のウラでは王が一人で点を稼ぐも後が続かず、次々と凡退していった。


 そして時は流れ9回のウラ、ついに最終回を迎える。


 礒部は最後まで投げ抜き、あとアウトひとつで二回戦へ進出する。


 しかし相手は残酷にも王で、ここで一発が出たら勢いに乗られるピンチの場面だ。


 幸いランナーはいないものの、ソロホームランでも打たれたら集中力が途切れ、ピッチャー交代もやむなくなっている。


 しかし礒部は気迫のピッチングでフルカウントまでもつれる。


 一方の王は三球連続ファールで粘るなど、厳しい攻防戦が繰り広げられた。


「はぁ……はぁ……!」


「はぁ……はぁ……!」


「礒部! たとえ打たれても俺たちが守ってやるから安心して投げろ!」


「さあバッチ来い!」


「お前の球なら誰も文句ないから勝ってこい!」


「お前ら……サンキュー!これで……終わらせてやるっ! はあっ!」


「ストレート……? いや、これは!? くっ……!」


「げっ! センター前か!」


「小坂!」


「投げ勝ってるな……絶対に捕ってやるぜ! うあぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 センター前で小坂が前に飛び込み、打球はグローブの中へと吸い込まれていった。


 しかし問題は捕っているのか落としているのかで、二塁の審判が追いかけて小坂の方へ向かう。


 王は落としているかもしれないと思って二塁へ全力で走る。


 しかし結果は残酷だった……


「アウト! ゲームセット!」


「やったー!」


「勝ったぞー!」


「負けた……!?」


「うう……!」


「市立溝の口高校と県立大和川の試合は、6対1で市立溝の口高校の勝利です! 両者整列!礼!」


「っしたー!」


「あの王くんでも勝てなかったんだ……」


「大和川高校は何となくですけど、王くんのワンマンチームって感じで、あまり総合力が高くないのかもしれません」


「厳しいですけど、上原先輩の言う通りかもです。もし王先輩に依存(いぞん)しすぎなければ、もっと強くなれると思います」


「そうだね……。小野くんにとっては嬉しいかもしれないけど、リベンジを果たせなかったと少し寂しがるかも」


「小野先輩ってあれで結構引きずるタイプですもんね」


「そうなんですか?」


「そうね。それよりも監督やみんなに次の相手の事を教えましょう」


「はい!」


 試合終了後にすぐに部室から出て部員たちに報告する。


 その前に監督に報告をして次の対戦相手のデータを提出する。


 練習終了後、すぐに石黒監督によって集合がかけられる。


「おーい!集合!」


「はい!」


「明後日の対戦相手がわかったぞ。相手は市立溝の口高校だ。溝の口高校は『一年生が主力で、将来性がある若いチーム』だ。公立校だからってなめてると痛い目に()うかもしれないな。そこで相手の注目選手を……菊池、頼んだよ」


「はい。相手の注目選手はなんといっても一年の小坂くん。彼の足の速さを活かした守備力と強肩で何度も犠牲フライを封じてきました。さらに同じく引地くん。見た目は太ってて鈍足(どんそく)そうだけど、身体で止める守備には何か勇気と度胸があると感じました。それにバッティングもかなり勢いがあって、ホームランも狙えると思います。最後に注目の選手は、彼も一年の礒部くん。ストレートと見せかけたカットボールでバットの芯から外す新星(しんせい)のエースです。正直言って勝てる自信しかないですが、油断していると逆にやられると思います」


「かと言ってレギュラー以外も出さないと未練も残るし、一年生の試合慣れもしておかないと将来大変な事になるからな。なので次の試合に夜月と園田、君たちを出そう。場合によっては川口も途中登板もあり得るから準備をしてくれ」


「はい!」


「今日の全体練習はここまでだ! 各自自主練をしてくれ! 心配すんな、サボリ防止に俺も最後まで残るからさ!」


「おいおいボス、誰もサボるやつなんていないぜ?」


「おー、一年の時はサボリ癖のあったホセに言われても説得力ないな?」


「あの時はあの時、今は今だぜ?それよりも陸上部にお邪魔した時に走り方を教えてもらったんだ。ボスに見てほしいんだ」


「そんなに変わったのか。どれ、見せてくれ」


 ホセはホームベースから一塁まで全力で走る。


 それだけでなく、加速力もトップスピードも明らかに1秒も速くなっていた。


 夜月はすぐに阿部の指導だと感づき、念のためにストップウォッチを確認する。


すると……


「はぁ!? 3秒51!? ホセ先輩マジっすか!」


「ふぅ……コツとしては腸腰筋(ちょうようきん)を鍛え抜くことと、お尻の筋肉を柔らかくすることだな。お前んとこの阿部俊太(あべしゅんた)ってやつに教わったんだ」


「三年の先輩でも一年に教わるんだ……。俺たちも三年だからってプライド持ってる場合じゃないな。(さかき)、サイドスローとはいえ、速球を投げられるコツを教えてくれ」


「俺でいいんですか小野先輩。斉藤先輩の方が速いしいいんじゃあ」


「確かに球速だけなら斉藤の方が上だ。だが速球で安定感があるのは榊の方だ。だから速く投げつつもどうやって安定させるかを教えてほしい」


「そういう事なら任せてください!」


「はっはっは! ホセも余計なプライドを捨ててから成長したな! じゃあ自主練を最後まで見てるから、各自頑張ってくれよ!」


「はい!」


 初戦の二回戦の相手が溝の口高校となり、東光学園は応援の準備をする。


 応援指導部の方では何やら動画配信をしたらしく、それもたった1日でバズるほどだったらしい。


 果たしてそれは何なのか、試合の日までお楽しみとなった。


 そしてついに初戦の時が来た――


 つづく!

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