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それいけ!東光学園野球部!  作者: 紅夜アキラ
第一部・第一章
20/175

第18話 開幕

 7月に入った神奈川では、ついに高校野球の夏の予選が始まる。


 この横浜スタジアムで開会式が行われる。


 そのリハーサルのために夜月(やつき)は先に横浜スタジアムに行って前日練習をする。


 東光学園は第一シードなので最初の方に行進をするが、夜月がその先頭に立って登場するので悪い話題もあるだろう。


 そんな悪いうわさもどこへやら、開会式が行われた。


「ただいまより、第1991回、全国高校硬式野球選手権大会、神奈川予選の開会式を、始めます」


 吹奏楽のファンファーレからは始まり、東光学園の吹奏楽(すいそうがく)部とマーチング部、常海(じょうかい)大学付属相模(さがみ)の吹奏楽部、横浜向学館(こうがっかん)吹奏楽部など応援でも有名かつ吹奏楽の強豪校による演奏が行われた。


 最初の入場は昨年の王者の金浜(かなはま)高校で、新任に赤津木暁人(あかつきあきひと)が就任してから練習試合では無敗を誇っていた。


 とくにスラッガーの大河文也(たいがふみや)と初心者ながらピッチャーの鈴原優人(すずはらゆうと)率いる絶対王者の貫録(かんろく)があった。


 一方の準優勝校の常海大学付属相模高校は一年生が多くベンチ入りを果たし、二、三年生よりも潜在能力が高い黄金世代候補が揃っていた。


 しかも紺色と黄金のストライプは威圧感を放っていて、去年はこの学校に悔しい思いをした事を東光学園の先輩たちは覚えていた。


 ベスト4の青葉(あおば)学院は紺色にミントグリーンのユニフォームと一新し、新たな青葉学院としてスタートを切る。


 もう一つのベスト4の……


「じゃあみんな、行こうか!」


「おう!」 「はい!」


「東光学園高校!」


 春の選抜で準優勝を果たした東光学園は、今期生の完成度も個性も高く、国際色豊かなチームとして期待されている。


 先頭に中学時代に暴力事件を起こした夜月がいても、とくにブーイングされる様子もなく、何やら世論は川崎市自体に何かを感じている様子だ。


 さらにベスト8では……


帝応義塾(ていおうぎじゅく)高校!横浜向学館高校!鷺沼(さぎぬま)学園高校!県立川崎総合高校!」


 帝応義塾高校は神奈川で一番偏差値(へんさち)が高く、帝応義塾大学から直接支援を受けているお坊ちゃまな男子校だ。


 グレーのユニフォームが歴史を物語っていて、第1回から参加している数少ない高校だ。


 横浜向学館はアイボリーのユニフォームで、紺色だけでなくゴールドやレッドがオシャレな雰囲気を出している。


 無冠(むかん)の強豪校は最高準優勝が30回と悔しい思いばかりなので今年はどうか。


 鷺沼学園は紺色と紫がモチーフで、ユニフォームにラベンダーパープルがあったり珍しいチームだ。


 しかも東光学園に刺激されて、去年ようやく試合を生配信してからバズってるらしい。


 県立川崎総合は唯一の公立校で、甲子園に三度も出場している公立の希望だ。


 渋谷凛太郎(しぶやりんたろう)本田澪(ほんだみお)島村佐津樹(しまむらさつき)というトリプルエースが自慢で、投手力が強い評判だ。


 そんな強豪校の中でひときわ目立つ学校があった。


「川崎国際高校!」


「ぶー!」


「あれ? 新しい高校なのにブーイングですか?」


「多分僕たちの試合の生配信を見たリスナーさんかもしれないね。まさか川崎国際も僕たちが生配信しているなんて思わなかっただろうね」


「僕たち東光学園に何か恨みがあるみたいだけど、僕がアメリカに帰った頃にどうなるのかな?」


「わからないが、長くは持たないだろうな」


「へぇ……」


 さらに期待されているのは鎌倉(かまくら)源氏(げんじ)学園で、第1回から出場しているものの、未だに甲子園の出場がない伝統校だ。


 応援指導部の名物である鎌倉ソーラン節が有名で、セルフチューブでも特定のファンに人気があるらしい。


 王政(おうせい)大学第二高校はかつて甲子園で優勝するほどのチームだが、近年は低迷が続いてしまっている。


 オレンジ旋風(せんぷう)を期待する声も多くあり、今年は出来が違うと毎回言っているが果たして本当か。


 日ノ本(ひのもと)大学付属湘南(しょうなん)は高校野球では珍しいピンクをモチーフにしたチームカラーだ。


 前は紅白のユニフォームだったが、あまりにも勝率が悪くてスクールカラーのピンクにしたところ、勝率が上がってきたらしい。


 そんなこんなで合計187校が集結し、西暦の頃から比べると参加校は少なくなったが、連合チームでの参加も少なくなった。


 それは少子化も景気も物価でさえ完全に克服した事、公立校も指導者の質が上がって離任しても力が弱体化しなくなった事、硬式野球部に限らず全ての部活で体勢を見直したことがきっかけで西暦時代よりも格差はなくなったのだ。


 参加校は減っても公私ともに人数が分断されたが、それでも強豪校は人数が多く余るほど集まる事には変わりない。


 なので有名選手が私立の人数オーバーで入れずに公立に入学する生徒も多くいるのだ。


 開会式の入場を終え、神奈川県知事や高野連神奈川支部の会長の三分以内のスピーチを終える。


 そして――


「選手宣誓(せんせい)!神奈川県立大和川(やまとがわ)高校三年!飯島健二(いいじまけんじ)!」


「宣誓!我々選手一同は!スポーツマンシップに(のっと)り!正々堂々!世界中の野球が出来ない子どもたち!元球児の分まで!世界の野球の手本になるよう誓います!神奈川県立!大和側高校主将!飯島健二!」


 選手宣誓を終えると新派にゃ指導者の皆勤(かいきん)賞や敢闘(かんとう)賞、感謝賞などの証書授与(しょうしょじゅよ)がされ、最後に退場する。


 公立校などは目立とうと全力ダッシュしてカメラ目線やジャンプ、ピースサインなどしてたが、シード校はさすがに落ち着いていた。


 しかし川崎国際の部員だけは無愛想(ぶあいそ)で、カメラにも目を向けなかった。


「よし、全員制服に着替えたね。これから開幕戦を観戦しよう」


「いいんスか? 監督の許可もなしで」


「ここからは自由行動だって言ってたよ? 観戦するかしないかは自分次第なんだ。僕は観戦するけどね」


「なら俺も観戦します。開幕戦で刺激を得られるかもしれないので」


「夜月くんは本当にハングリー精神が強いね。僕も社会で負けないようにしないといけないな」


「俺たちも残るッスよ!」


「中田くんたちもかい? てことは26人全員残って観戦だね」


「考える事は全員一緒だな」


「最近の公立校はどこも強化しているからな」


「おーい! 全員分のみかん氷買ってきたよー!」


「ロビン! 気が利くな!」


「俺たちベンチ外組(がいぐみ)がやるべきだったのにすみません……」


「いいんだよ大輔(だいすけ)。そこまで気にしなくても。僕は日本での思い出のためにあえて買い出ししたんだから」


「あざっす! じゃあ自分たちの分も買ってきます!」


「その前に……全員分あるから全員僕たちに料金を……ね?」


「やっぱりロビンはお茶目(ちゃめ)だな」


「だな。全員分払ったから俺たちが払うのは当然か」


「全員分あるね、ありがとう」


「じゃあいただきます!」


 ロビンやベンチ外のメンバーによって、部員全員分のみかん氷を買い出しで食べる。


 みかん氷とは、シロップを付けないただのかき氷にみかんの缶詰(かんづめ)のことだ。


 それを食べながらみんなで開幕戦を観戦する。


最初の開幕戦の試合は……


「さぁお待たせしました。開幕戦の試合は神奈川県立浦賀水産(うらがすいさん)高校と神奈川県立湘南商業しょうなんしょうぎょう高校です。始球式は去年の金浜高校でドラフト1位で横浜ハムスターズの四番バッターの松坂大介選手です」


「懐かしいな……ここで僕は甲子園を掴んだんだっけな。よーし、行くぞ!それっ!」


「松坂選手の一球がミットに収まりました。これで始球式は成功です。さぁ試合開始です!」


 先攻・浦賀水産高校


 一番 ファースト 鯖江祐二(さばえゆうじ) 二年 背番号3


 二番 センター 湊賢人(みなとけんと) 三年 背番号8


 三番 指名打者 酒井一郎太(さけいいちろうた) 三年 背番号23


 四番 ライト  空穂良(うつほりょう)  三年 背番号9


 五 番 キャッチャー 置鮎銀次(おきあゆぎんじ) 一年 背番号20


 六番 ショート 鱈尾大輔(たらおだいすけ) 三年 背番号6


 七番 セカンド 入鹿愛人(いるかまなと) 三年 背番号4


 八番 レフト 加茂芽大空(かもめそら) 三年 背番号7


 九番 サード 蟹江二郎(かにえじろう) 3年 背番号5


 ピッチャー 鮫島強さめじまつよし 三年 背番号10


後攻・湘南商業高校


 一番 ライト 原謙吾はらけんご 三年 背番号9


 二番 キャッチャー 遠藤光一えんどうこういち 三年 背番号2


 三番 セカンド 天河渚あまかわなぎさ 三年 背番号4


 四番 指名打者 柳沢龍やなぎさわりゅう 三年 背番号11


 五番 ファースト 清川誠きよかわまこと 三年 背番号3


 六番 ショート 倉持建都くらもちけんと 二年 背番号6


 七番 センター 関口秋生せきぐちあきお 三年 背番号8


 八番 サード 藤野虎太朗ふじのこたろう 三年 背番号5


 九番 レフト 稲垣恵太いながきけいた 一年 背番号7


 ピッチャー 豊島元気とよしまげんき 三年 背番号1


 となった。


 試合はいきなり浦賀水産が鯖江の先頭打者ソロホームランで先制した。


豊島は少しガックリしたもののすぐに切り替え、次の攻撃に後を託した。


だが湘南商業はあまり結果を残せていないチームで、徐々に守備のリズムが崩れて5回でもう8点も取られる。


しかし反撃の狼煙(のろし)は上げられた。


柳沢がスリーベースを放つと、清川のスクイズで1点をもぎ取る。


倉持、関口、藤野の連続安打で満塁。


すると浦賀水産はここでピッチャーを交代させた。


「浦賀水産高校のピッチャーの交代をお知らせします。ピッチャー鮫島くんに代わりまして、鯨野海太郎(くじらのかいたろう)くん。背番号1」


「鯨野を温存しようと思ったが、次の相手は北厚木(きたあつぎ)高校だから大丈夫だろう。行って来い」


「はい!」


エースの鯨野が出たことで浦賀水産のペースが上がり、一気に湘南商業のペースはなくなっていった。


そして6回に浦賀水産高校の猛攻撃(もうこうげき)が始まり、ついに11対1となった。


そして……


「ゲームセット! 浦賀水産高校と湘南商業の試合は、11対1で浦賀水産高校の勝利です! お互いに礼!」


「あざっしたー!」


「これが高校野球……!」


「大学や社会人では味わえない必死さと泥臭(どろくさ)さがあるだろう? そこにオシャレさや今時さを兼ね備えると自然とファンがつくんだ。やっぱり日本人は努力する姿が好きだからね。夜月くんも悪評(あくひょう)ばかり目をやらないで応援の声を聞いてもいいんじゃないかな?」


「そうっすね……。努力します」


「よし! 帰ったらそれぞれ自主練だ! 東光学園に戻ろう!」


「はい!」


 開幕戦は浦賀水産高校の勝利になり、東光学園の部員たちは全員にとっていい刺激となった。


 神奈川にはたくさんの強豪校がひしめく激戦区で、東西の東京、大阪、愛知、京都、千葉、埼玉、そして福岡や広島と同じ戦国地域とも言われている。


 そんな彼らの夏は、今日から始まった――


 つづく!

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