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それいけ!東光学園野球部!  作者: 紅夜アキラ
第一部・第一章
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第17話 思い出

 黒田純子(くろだじゅんこ)のプロデュースを受けた部員たちは、自分たちの武器を伸ばし、弱点を少しだけ克服する事に成功する。


 一年生はさすがにまだ(つぼみ)のままだが、天童の肩の強さを活かした送球のステップ速度、園田の安定したピッチングを活かした足腰の強化、山田の瞬発力(しゅんぱつりょく)と野生の勘が開花しつつあった。


 一方の不器用な夜月(やつき)(さかき)はまだ芽すら出てない状態で、もう少し時間がかかると判断された。


 他の一年生たちもまだ慣れてないのか、純子のプロデュースをもう少し続ける必要があった。


 そんな一週間が過ぎたある日、ようやくあの瞬間が訪れる。


「それじゃあみんな、行ってくるね。副キャプテンの小野くんやロビンくんの指示を聞くんだよ?」


「はい!」


「菊池さん、抽選(ちゅうせん)会まで一緒に行こう」


「うん。じゃあみんな、頑張ってね」


「はい!」


 主将の渡辺とマネージャーの菊池が第1991回高校硬式野球選手権の抽選会に赴く。


 現在は新暦(しんれき)2009年だが、西暦時代から主催をやってきた新聞会社が主催権を譲り、新暦18年に新たな夏の甲子園として生まれ変わったのがルーツだ。


 それも新暦の高校野球では西暦と比べ、『ベンチ収容人数が26人、アクセサリーもユニフォームやアンダーシャツなどの色と同色なら柄は自由、防具やスパイクのオーダーカラーも自由』などかなり緩和されていった。


 人数が足りなければマネージャーを複数ベンチに入れてもいいルールもある。


 その他でも『アームスリーブやロングパンツ、リストバンド、ヘアバンドなどのアクセサリーもユニフォームと合っていれば自由』である。


 ただしユニフォームの『ツートンカラー禁止』は今も続いている。


 さらにボールは普段の硬球だけでなく、雨天用(うてんよう)に作られたゴムの硬球(こうきゅう)、つまり準硬球(じゅんこうきゅう)の仕様が認められるなど、かなり硬式野球が改革されていた。


 それが新暦の高校野球で、西暦時代の野球離れの反省を活かして、より自由化されていったものだ。


 それはさておき、グラウンドでは主将を抜きにした練習が行われる。


「さあ大会前のノックだ! みんな気合い入れて行けよー!」


「はい!」


「いくぞ!」


「さあバッチ来い!」


「三年の先輩方、すげえ気迫(きはく)だな……」


「とくにロビン先輩とホセ先輩、めっちゃ気合い入ってる……」


「やっぱり卒業後は母国(ぼこく)に帰るから、日本にいられるのも最後かもだもんな……」


「おーい一年と二年! 三年に勢いで負けたらお前らが三年になったらあっさり負けちゃうぞー?」


「そ、それだけは勘弁してください! さあ来ーい!」


 三年生の気迫に押されつつも、一年も二年も負けじと声を出す。


 全体練習を終えるとすぐに自主練に入るが、夜月はロビンのバッティングやホセの守備論に指導されていった。


 自主練の時間になると、渡辺と菊池がグラウンドに戻ってきた。


 初戦は第一シード権獲得で、二回戦からの試合になる。


 自主練終了後に全員で整備を行うも、石黒監督は突然部員全員に声をかけた。


「三年生! ちょっとだけ残ってくれ! 一年と二年は先に戻っていいぞ!」


「え? あ、はい!」


「三年生集合!」


「まずは一言、渡辺と菊池、おかえり」


「ただ今戻りました」


「こうして成長した君たちを見ると、懐かしいなあって感じるよ。誰一人も退部者を出さず本当に君たちは大きくなったなあ……」


「はは、思い出話なら付き合いますよ」


「ありがとうな斉藤。じゃあ話そうか……」


そう、これは三年生が新入部員だった頃……


~回想~


「新入部員の皆さん! これから自己紹介をしてもらうよ! じゃあ最初は君から!」


「はい! ハバナ中学出身! ホセ・アントニオ! キューバから来ました! 野球経験は貧乏(びんぼう)だったためなし! 希望ポジションはもちろん外野! 憧れの選手は鈴木イチロー!」


「ふむふむ……キューバ人留学生か。面白いけど、その髪はなんだ?」


「はい! コーンロウです!」


「いや見ればわかるわ! なんでその髪にしたんだ!」


「はい! カッコいいからです!」


「じゃあその髪に似合ったプレーを見せてくれよな! 次!」


陸奥第一(むつだいいち)中出身、小野裕也(おのゆうや)! 投手希望! 雪国の中を走り込んだのでスタミナに自信があります!」


「言うじゃん! じゃあ次!」


習志野東(ならしのひがし)中出身! 斉藤敦(さいとうあつし)! 希望ポジションは投手! 三振を取るのが大好きです!」


「じゃあこの小野に負けるなよ? 次!」


高津中央(たかつちゅうおう)中出身! 渡辺曜一(わたなべよういち)! 外野手希望! 精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」


「うーん……思ったより普通だな。他のメンツが濃すぎるから地味なんだよなあ……。次!」


「ニューヨーク中出身、ロビン・マーガレットです。希望ポジションはファーストです」


「こいつがケビン・マーガレットの息子か」


威圧感(いあつかん)あるなぁ。イケメンなのに」


「好きな日本のアニメは、カプセルモンスターです」


「いや聞いてねえよ……。まぁいいや、今年の部員は個性的すぎるから俺らじゃ扱えないかもしれない。でもここに来たからには窮屈(きゅうくつ)な思いはさせないから安心してくれ!」


「はい!」


「おー! 今年の一年は面白い連中だなー!」


「監督! おはようございます!」


「おー! おはよう! じゃあ早速全体練習をやるぞ! 体力テストだ!」


「はい!」


 渡辺世代の三年生がまだ一年生だった頃、個性的なメンバーばかりで先輩たちに扱えるかどうか不安な人ばかりだった。


 それでも石黒監督はそんなメンバーを気に入り、一生懸命育ててきた。


 先輩たちもそんなメンバーを面倒くさがらずに見守り、自分たちも特技を活かそうと励んできたのだ。


 そんな彼らの初練習はいつもの体力テストに入る。


「うおぉぉぉぉぉっ! どうッスか! 俺の剛速球(ごうそっきゅう)は!」


「お前ストライク入ってない! 地肩(じがた)はいいけどコントロール! あとお前すげえ汗だな!」


「ふんっ!」


「おお! ナイスボール! 球は遅いし、変化球も小さいけどいいコントロールだな! 隣の奴よりは入ってるぞ!」


「ありがとうございます」


「ぐぬぬ……!」


「はっ!」


「おー渡辺、お前は至って普通のプレーだな。あんな個性だらけのメンバーで無個性ってなかなかないぞ」


「すみません……」


「いやいいんだ。それほど堅実なプレーってことだよ。唯一ノーミスだからそこは自信持ってくれ」


「うおぉぉぉぉぉっ! よっしゃ!」


「アントニオって本当に貧乏で野球やってなかったのか? ボールの追い方が自然だし、足も速すぎてすぐ追いつくな!」


「あ、やべっ!」


「たまに追い抜いちゃうこともあるけど……」


「それっ!」


「あいつどこまで飛ばすんだよ……」


「メジャーリーグ最強スラッガーの『ケビン・マーガレットの息子』はダテじゃないな……」


「マーガレット家ってアメリカでも野球の名家(めいか)だったよな?」


「何で日本の高校野球に?」


 こうした渡辺世代は次第に受け入れられはじめ、徐々に先輩たちになじむようになった。


 ホセに至っては先輩や指導者にタメ口を効いたりと()()()()もあったが、石黒監督は『キャラが成り立ってるし面白いから構わない』と言って、先輩たちももう咎める事はなくなった。


 彼らが一年の頃にベンチ入りを果たしたのは小野と渡辺で、レギュラー入りしたのはロビンだけだった。


 だがそれでも東光学園は決勝で金浜(かなはま)高校に敗退。


 新チームが始まるとホセがここに来て覚醒(かくせい)し、出塁率(しゅつるいりつ)が大幅に上がったのだ。


 斉藤もスタミナ不足をきっかけに抑えにコンバートした結果、秋季(しゅうき)大会の奪三振数(だつさんしんすう)も県内でトップになった。


 渡辺はというと……


「先輩のスイングだと逆方向よりも引っ張る方が向いてると思います。信じられないかもしれませんが、少しせっかちな部分があるので我慢するより意識して早く振ってもいいかもです」


「お、おう……」


「そちらの先輩は初速(しょそく)が遅いけど加速していくので、最初から飛ばすより勢いに乗せて走る方がいいでしょう」


「うわ、ホントだ……」


「スライダーが真横に絶対変化ってわけではないので、数種類のスライダーを投げられれば鬼に金棒(かなぼう)ですよ」


「よっしゃあ!」


「あの渡辺ってやつ、どんだけ俺らの事を見てんだよ……」


「まるで俺たちが把握されているみたいな……」


「しかも性格ごとに言い方や接し方を変えるなんて……」


「あの世代は化け物しかいないのか……?」


 こうして先輩たちを不安にさせながらも期待を背負わせ、二年目になるともう全員が覚醒していたのだ。


 それでも先輩たちには敵わなかったが、ロビンと小野はレギュラーを勝ち取るほどだった。


 そして……


「ゲームセット!東光学園、秋季関東大会を制し春の選抜が確実視される!」


「やったー!」


~回想終わり~


「君たちは個性が強くて扱いきれるか正直俺も不安だったよ。でもみんな素直で努力家だし、他の人を見下したりしないから育て甲斐(がい)があったなあ。でもそんな君たちも最後の夏かあ……本当に早いなあ」


「春に続いてもう一度甲子園に連れていきますよ」


「おー言ってくれるなー。それはこっちのセリフだぞ?俺が君たちを甲子園に導くんだぞ?」


「そう意地にならなくていいぞ。俺たちが連れてくんだ」


「いーや俺が連れてく!なーんてな、ははは!君たち三年生全員に期待しているぞ!」


「はい!」


 三年生と石黒監督は確かな絆に結ばれ、お互いに甲子園に連れていくと約束を誓う。


 とくにロビンとホセは卒業後に母国に帰るので、両親に応援に来るように連絡をする。


 ロビンは父親に『日本の野球のレベルの高さは高校野球にある、だからそこで野球の武士道(ぶしどう)を学んでメジャーで活躍できる選手になりなさい』と言われ、日本へ留学して留学生も多い東光学園に行った。


 ホセは家庭が貧乏で野球が出来ない中で、働きながら高校卒業資格を得られると海外スカウトをした石黒監督に声をかけられ、両親を説得して『野球をやらせてもらう代わりに帰ったら家族を裕福(ゆうふく)にする』約束をして留学したのだ。


 二人は母国に大切な家族を残し、東光学園で社会の事をたくさん学んだ。


 だからこそハングリー精神を持ってここまで来た。


 渡辺世代はそんな留学生二人に刺激を受けてここまで頑張ってきた。


 これからが夏の本番、東光学園は夏の甲子園に出場できるのか……。


 つづく!

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