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それいけ!東光学園野球部!  作者: 紅夜アキラ
第一部・第一章
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第16話 黒田純子

  黒田純子(くろだじゅんこ)と名乗る先輩にジャズ研究部に来るように(うなが)された夜月(やつき)は、半信半疑(はんしんはんぎ)ながら念のために池上荘の同級生たちに相談する。


 練習後に河西(かさい)郷田(ごうだ)、黒崎、林田、阿部を呼んで黒田純子と名乗る先輩が来なかったかを夜月は全員に聞いてみた。


「いや? サッカー部には来てないな。夜月の知り合いか?」


「俺も初対面(しょたいめん)だって言ったろ。林田は?」


「僕も聞いたことないな。でも君にそう助言するって事は何か見抜いたのかもしれないね」


「バレー部にもいなかったわ。そうなると夜月、何かの才能があんじゃねええか?いいなあ……」


「ラグビー部には黒田純子は来なかったが、灰崎真奈香(はいざきまなか)っていう先輩が取材に来たことがあるぞ。ラグビー部の強さの秘訣(ひけつ)は何だって聞かれた。急だったから内田先生も驚いていたぞ」


「……。」


「阿部くん? 何か言いたそうだけどどうしたの?」


「来た……」


「え?」


「陸上部に黒田純子が来たことある。俺があの人に指導を受けた。その結果、陸上部は記録会で全員()()()()()を出した」


「あの阿部がここまで喋るなんて……!」


「驚くとこそこかよ……。まあ阿部は慣れた人には喋るからな。慣れてない人には緊張して喋らなくなるんだぜ。でも阿部がそこまで喋るって事は、相当な手腕(しゅわん)なんだろうな」


「でも何でジャズ研究部にいるんだ? そんなに指導できるんなら運動部のマネージャーをやればいいのにさー」


「あの人、車いすで生活していたぞ。だからマネージャーは出来たとしても、続けるのが大変なんじゃないか?」


(コクコク)


「なるほどな。じゃあその黒田純子先輩か、夜月と阿部が指導を受けた経験があって、ジャズ研究部に来いと言われて行こうか迷ってるのか?」


「まぁな……。でも阿部がそこまで買うなら、俺も行ってみるわ」


「ついでにサッカー部の指導も頼むよー」


「お前は相変わらず軽薄だな……」


「何だぁ? 君たちはまだ起きてたのか? 部活が終わって疲れてるはずなのに、もう慣れたのか? 早く寝ないと健康に悪いからそろそろ寝るんだぞー?」


「う、うす! じゃあこの話はまた後日にしよう」


「そうだな。じゃあおやすみ」


「おやすみなさい」


 こうして男子だけの秘密会議を終了し、寮長の一声で全員それぞれの部屋に戻って就寝した。


 夜月は気になりはしたが疲れが勝って眠りについた。


 翌日になり、朝食のために全員で食堂に行くと、有希歩(ゆきほ)が夜月に声をかける。


「ねえ、夜月くん。黒田純子って先輩に会わなかった?」


「昨日会ったばかりだが……何でだ?」


「あの人が目を付けた生徒は必ず『何かしらの覚醒が始まって、急激に成長する』という七不思議(ななふしぎ)があるの。もう一つは灰崎真奈香先輩に取材を受けると『人気と知名度が上がって、全国大会に行く確率が上がる』っていうものよ。あの二人にはきっと何か不思議(ふしぎ)な力があるのかもしれないわ」


「そうか。でも何で長田(ながた)が俺が会った事を知ってるんだよ?」


「たまたま部活の帰りに見かけたの。車いすの黒髪の人でしょ? それに学園合宿所に人が残ってないか確認するのも私の仕事なのよ? あなた、帰ろうとせず練習してたのよね?」


「バレてたか……」


「自分を追い込むのもいいけど、追い込みすぎて自分を壊さないようにね? じゃないとあなたを()()()()()()私は……」


「……?」


「ううん、何でもないわ。さあ行きましょう。寮長さん、ごちそうさまでした」


「おー」


 居残り自主練をしたところを見られた夜月は、いかに自分が周りを見ていなかったかを少し反省した。


 有希子は夜月に何か隠している秘密があり、夜月にだけはバレないようにと必死に隠した。


 学校の授業を終えてすぐに監督に練習を休む事を連絡し、約束通りジャズ研究部へと向かった。


 監督は『休むのは自由だけど、何かプラスになる休みなら遊んだりしてもいい』という考えで、ジャズ研究部との交流ということにして休みの許可を取ったのだ。


 学園音楽スタジオに着いた夜月は、早速スタジオからアルトサックスの音色が聴こえたのでそこに入る。


 するとそこには、黒田純子が車いす姿でアルトサックスを演奏している姿があった。


「すげえ……! あの人って、こんなに楽器が上手いのか……。ジャズはよくわかんねえけど、なんかすげえってのはわかるわ……!」


「ふぅ……。本当に来てくれたのね。約束を守ってくれる人だと思ってたわ」


「バレてたか……。まぁ気になってたんで。それよりも俺に何か用ッスか?」


「そうね……まずは第一野球場に連れてってほしいの。そこで散歩しながら話をしましょう」


「う、うす」


 純子の意外な発言に夜月は困惑(こんわく)する。


 休むと言ったはずなのにグラウンドに向かうことになり、監督に何て説明したらいいのかずっと考えた。


 でも自分の語彙力(ごいりょく)では説明が出来ず、もうどうにでもなれって気持ちでグラウンドまで送る。


「先輩は野球に興味あるんスか?」


「見るのは楽しいわ。やってみたいけど、この足ではちょっと無理ね。あなたは野球をやってて楽しい?」


「それは……あんまり楽しめてないかもです」


「そうね、夜月くんって『普段は周りが見えているけど、感情的になると急に見えなくなる』のよね。あの時の試合を見て気付いたわ。過去に何があったのか知らないけど、今のあなたにはマイナスエネルギーが溢れているの」


「何ですかそれ?」


「怒りや悲しみ、苦しみ、恨みなど負の感情を魔力としたもので、絶望してしまった時に出てしまう心のエネルギーよ。あなた覚えてる? 二年前に魔物に襲われて私に助けられた事」


「は……? あの時助けてくれた魔法少女って、先輩の事だったんですか!?」


「あなたはモノクロ団に狙われて第二の魔物にしようとしたところに、私のプラスエネルギーで何とか未遂(みすい)に終わらせたのよ。プラスエネルギーとは希望ややさしさ、笑顔など人間らしい心を魔力としたものよ。あの頃からずっとあなたの事を気にしてて、理事長やその(めい)の子にあなたがこの学校に来るようにしてほしいとお願いしたのも私よ」


「理事長だけでなく長田にまでですか……! でも何で俺なんか?」


「あなたは将来、自分自身が輝く事はないけれど、他人のプラスエネルギーを引き出してくれる存在になる可能性を秘めているの。だから高校生のうちにそれを引き出そうと思って声をかけたのよ。今のあなたでは……まだマイナスエネルギーに満ちてて矯正(きょうせい)が必要ね」


「よくわかんねぇッスけど……その魔力が俺に秘めているって事でいいんですね?」


「そうね。だから私があなたを成長させるわ。人間的にも、選手的にもね。ここがそうね?」


「え? ああ、はい。着きましたよ」


「やっぱり立派な設備ね……。それじゃあ中に入れてもらってもいいかしら?」


「それは監督の許可が必要で……」


「おおー夜月! ()()()連れて来たか!」


「あ、監督! おはようございます!」


「おー!」


「え?やっと……?」


 石黒監督の純子をやっと連れて来たという言葉に疑問を覚えた夜月は、首をかしげて考え込む。


 石黒監督はそれでも構わずニヤニヤして夜月を見つける。


 純子は石黒監督のおおらかなオーラと、彼女の言っていたプラスエネルギーに満ち溢れた魔力を見て圧巻された。


 そして困惑する夜月を見てようやく監督が説明する。


「彼女を呼んだのは俺なんだ。それよりも夜月、あの時の試合で情けないからって居残りして合宿所を出ていかなかったのは感心しないぞ? そこまで追い込んだら体にも心にも毒だってあれほど言ったぞ?」


「すんません……」


「それで君が黒田純子さんだね? 姿を見るのは初めてだよ。はじめまして、石黒貴和(いしぐろたかかず)です。君の事はうちの二年生たちから聞いているよ。もしジャズ研究部にお邪魔するなら君を連れていくだろうと助言されてね、そしたら本当に夜月が連れて来たんだよ。俺もビックリだよ」


「急にお邪魔してすみませんでした。それで……野球部の皆さんにお願いがあるんです」


「ほう? それは何だね?」


「詳しくはグラウンドの中で話します」


「わかった。くれぐれも粗相(そそう)のないようにね。夜月、彼女を案内してあげなさい」


「はい!」


 二年生の先輩から予想とはいえ、あらかじめこうすると予想していた監督は、予想通りの動きをして驚きつつも純子を歓迎した。


 夜月の案内で中に入ると、部員たちは夜月をジッと見る。


 しかもそこにはもう一人、見慣れない女子生徒がいたのだ。


「あなたが夜月くんね?」


「うわっ!? いつの間にそこに!?」


「また忍び足で来たのね。真奈香はジャーナリズムにこだわりが強いんだから」


「うふふ、純子が気になる男子が気になって取材という名目で硬式野球部にお邪魔しちゃったわ」


「えっと……この人は?」


「申し遅れました。灰崎真奈香といいます。広報部二年で、こちらの黒田純子の従姉妹(いとこ)よ」


「だから似てると思った……」


「それよりも夜月くん、一度全員ここに集めてもらえるかしら?」


「は、はい!  って……俺が一年で一番権力ないの知ってます?」


「あら、失礼」


「わざとやってません?」


「気のせいよ」


「仕方ない、俺が声かけるよ。全員集合ー!」


「はい!」


 夜月の気まずさに気を使った石黒監督が自ら声をかけて集合させる。


 夏の大会までもう一カ月もないこの状況で客人を迎え入れる余裕さは、他の強豪校にはないだろう。


 そんな中で集合した部員たちは、純子の言葉に戸惑うことになるとは、まだ全員知らない。


「今日は客人(きゃくじん)が見学に来たぞ。じゃあ自己紹介を頼む」


「ジャズ研究部二年の黒田純子です。今日は皆さんの潜在(せんざい)能力を引き出すために、しばらく臨時(りんじ)マネージャーを務めさせていただきたいと思っています。よろしくお願いします」


「広報部二年の灰崎真奈香です。こちらの黒田純子の従姉妹です。硬式野球部の取材をしつつ、皆さんの情報をより世に知らせるために頑張ります」


「二人はこの夜月経由で硬式野球部が気になり、急遽こういう形で客人となった。みんな粗相のないように練習に励もう」


「はい!」


 こうして純子と真奈香によって硬式野球部の特別メニューが開始される。


三年生の潜在能力はもう既に引き出されていて、二年生は粗削(あらけず)りだが徐々に開花しつつある。


 一方の一年生はやはりまだ(つぼみ)の段階のままで、とくに不器用な夜月は苦戦を強いられた。


 他にも(さかき)も不器用なタイプで練習に苦戦し、園田と天童は難なくとこなした。


 マネージャー陣もマネージャーとしての潜在能力を引き出され、菊池は精神状態を目だけでわかるように、上原は身体を見ただけで健康状態がわかるようになった。


 あおいはまだ一年目で慣れてないのか、もう少しだけ経験値が必要と判断された。


 こうして部員たちの能力はまた引き出され、一気に成長を遂げたのであった。


 つづく!

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