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それいけ!東光学園野球部!  作者: 紅夜アキラ
第四部・最終章
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第169話 そして物語は繋がっていく

 夜月(やつき)は澄香のマネージャーとして、純子はプロデューサーとして軌道に乗ってきた頃、所属事務所の『エガオプロダクション』にある異変が起きる。


 それは買収されるほど赤字でもないのに急すぎる買収が起きたことだ。


 おかげでアイドルとしての路線変更に適応出来ずにクビになった多くの芸能人がいた。


 そこにメガネっ子でオタクに人気な澄香も標的にされていたのだが。


「社長、少しお話があります」


「夜月くんか、一体どうしたのかな?」


「水野澄香さんですが、もし彼女を失うようなことがあれば、我が社は大きな損失をすることになると思います。このまま買収先の高飛車財閥(たかびしゃざいばつ)に屈したら……芸能界からの大きな信頼に亀裂が出るかと……」


「わかっている。私もわかってるんだ、だが……それを逃れるためには『10兆円を用意しろ』と言われているんだ。だが我が社は10億が限界だ……我が社は『世界を笑顔にする』という方針だったが、高飛車財閥は『完全実力主義でタレントを能力ごとに差別する』方針にある。『芸能界は楽しむものではなく、民衆を操るものだ』と言ってるんだ。しかも業界のお偉いさんを金で賄賂(わいろ)までしている。本当は抵抗したいが、もし逆らえば……我々は二度と業界に入ることが許されなくなる。わかってくれ……君の意見は本当に正しい、それはわかってる。だが……正しいだけでは世の中を動かすことは出来ないんだ。私も悔しいさ、本当にすまない……」


「社長……せっかく五大ドームツアーも、武道館ライブも、紅白歌合戦も手に入れたのにどうして……!」


「あの、水野澄香です。入ってもよろしいでしょうか?」


「ああ、どうぞ」


「晃一郎さん、私なら大丈夫です。おそらく妨害は入るかもしれませんが、それでも私は屈しません。私も全力で自分を守り抜いてみせます」


「澄香……」


「君がそこまで言うなら私もバックアップしよう。水野くんの事を頼んだよ」


「はい」


 夜月は急すぎる買収に少しでも抵抗し、澄香を守り抜くと心の中で誓った。


 一方こちらは高飛車財閥の会長室、高飛車会長は元々凄腕経営者だったが、突然人が変わったように他所(よそ)を陥れてでも自分だけのし上がろうとする方針へと変わってしまった。


 前から他人のせいにし、嘘のレッテル貼りで陥れていた。


 しかも日本革命隊の隊員だという。


 自分の実力でのし上がった夜月と、それを導いた純子が邪魔な存在として買収先の芸能事務所にいたのだ。


 そこで高飛車会長はある作戦をとる。


 2016年度の紅白歌合戦前日、澄香と夜月はリハーサルを終えて同棲している自宅に戻ろうとした時だった。


 不審な動きをする男が夜月たちに近づき、突然澄香の事を抱きしめてきたのだ。


「きゃっ!? 何なんですか!? やめてくださいっ!」


「澄香ちゃん……澄香ちゃん……っ!」


「離れてください! 怖いですっ!」


「もう離さないよ……! 俺だけの澄香ちゃん……!」


「おいこの野郎! 澄香が嫌がってるじゃねえかよ! 離れろってんだよっ!」


「何だテメエは! 俺と澄香ちゃんの仲を引き裂こうって言うのか!?」


「私はあなたの事を知りません! 離れてくださいっ!」


「澄香ちゃん……そんな……! 君はこの男に騙されてるんだ……だったら君を殺して俺も死ぬ! うおぉぉぉぉぉっ!」


「きゃーっ……!」


「いい加減にしろよ!」


 バキッ!


 夜月は包丁を持ってる手を掴んで受け流しながら右手をグリグリして麻痺させて包丁を落とさせ、そして柔道部で学んだ背負い投げをしてレスリング部で習った寝技で男を取り押さえる。


 その様子を見ていたコンビニの店長が通報して事が収まった。


 警察の取り調べで夜月と澄香は警察に保護されながら家に帰った。


 しかし不幸なのはその翌日だ。


「よし、今日は紅白歌合戦だ。気合入れていくぞ」


「はいっ! あれ……? 何だか外が騒がしいですね……?」


「ちょっと見てくるわ……」


「突然すみません! 水野澄香ちゃんは昨日二股をかけていたという事なんですがどうなんですか!?」


「二股……? おいおい冗談だろ? てか澄香はずっと俺につきっきりだったし、どうやって二股かけるんだよ?」


「この写真を見てください! この件についてはどうなんでしょうか?」


「は……? これってあの時の……!」


「どうしました晃一郎さん?」


「澄香ちゃん! 二股をかけてるって本当ですか!?」


「え……? 私二股なんかかけてません! それに彼とずっと一緒にいたのにどうやってするんですか!?」


「とぼけないでください! 証拠ならここにあるんです! ほら!」


「これは……昨日は急に知らない男に抱きつかれて襲われたんですよ! これのどこが二股とか浮気になるんですか!?」


「じゃあなんで抱き合ってたんですか!?」


「離れてもらうために抵抗してもらってたんです! どうして信じてくれないんですか……?」


「とりあえずどいてくれ。事務所に行かなきゃならないんだ」


 マスコミが嘘の報道で澄香が襲われたにもかかわらず『二股をしていた』という事になっており、事の重大さに気づいた夜月は急いで事務所へと向かう。


 コンビニの店長も真実を証言するも、報道をしない自由が発動され言論を封じられた。


 事務所に着くと社長に呼ばれて社長室へ向かう。


 すると社長から涙声で最悪の言葉を聞く。


「嘘だろ……!?」


「この報道はどう見ても嘘なんだが……高飛車財閥は君たち二人を解雇することになった……。拒否権はないし、『この事実をバラそうとしたらもう二度と社会に出れなくしてやる』という脅迫文(きょうはくぶん)まで来た……。やられたよ……高飛車財閥は自分にとって害になる者は意地でも排除したいようだ……。私もこの責任を押し付けられて社長から降格なんだ……!」


「そんな……あんたまで処分なんて理不尽だろ! 何でなんだよ!? 俺たちが何をしたって言うんだよ!?」


「晃一郎さん! 落ち着いてください!」


「やっと……澄香は日本一のアイドルになったというのに……! どうして……こんな事になったんですか……!?」


「残念だが……君たちのクビは変わらない……。すまないが今日でお別れだ……。紅白歌合戦も辞退させてもらったよ……。今日までお疲れ様……」


「社長……」


 事務所の社長は夜月以上に悔しい表情を浮かべ、大粒の涙を流して夜月と澄香に頭を下げた。


 夜月も社長の悔しい顔を見てどうにも出来ない事を悟り、澄香と共に事務所を去った。


 せっかく紅白歌合戦に初出場をしたのに急遽辞退され、あまりの悔しさに夜月は戦意を喪失した。


 これからどこに就職すればいいか、澄香は今後どこの事務所に所属させればいいのか、そう思っていろいろと動いた。


 だがどこもかしこも高飛車財閥の弾圧からか澄香を拾ってくれる事務所はなく、フリーで活動してもアンチのコメントで埋め尽くされてしまい売れなくなった。


 失意の中で夜月にとって転機になる出来事が新暦2017年の3月に起きる。


「はあ……どうすればいいんだよこれ……。澄香は芸能界に追放、俺も就職出来なくてお金が底を尽きた……。何でこんな事に……! ん……? 誰かメッセージか? えっと……」


『夜月くん、あなたと私がスカウトしてあなたに託した水野さんが事務所をクビになったと聞いたわ。その一か月後に高飛車財閥は腹いせに私をクビにしたの。しかも父が亡くなって影響力が落ちたタイミングだったわ。あまりにも出来すぎている追放に私はマイナスエネルギーが関係していると思ったの。このメッセージを見たらすぐに川崎国際跡地に集合してほしい。そこには私と真奈香だけの秘密があるの。ぜひ合流してほしい』


「黒田先輩……もしそれが本当なら確かめる必要があるな。『わかりました、是非同行させてください。』澄香、川﨑国際があった場所に黒田先輩が来てくれって言ってた。澄香も行くか?」


「はい、行かせてください!」


 純子からのメッセージが届き、夜月は澄香を連れて急いで向かった。


 川﨑国際跡地はすっかり廃墟となっており、近づく人を呪いそうな雰囲気だった。


 校門を通り過ぎるとそこに純子と真奈香がいたのでそこに向かって声をかける。


「黒田先輩、それにお久しぶりです灰崎先輩」


「ええ、久しぶりね。聞いたわ、純子諸共クビにされたって」


「はい、けど川崎国際と黒田先輩たちに何の関係があるんですか? ここって学校が出来る前はただの更地でしたよね?」


「ええ、ここは元々はモノクロ団と私が最後に戦った所だったの。本当は賑わってた商店街だったけど、モノクロ団の総帥(そうすい)のモノクローヌがマイナスエネルギーを暴発させて世界を壊そうとした反動で滅んでしまったの。もちろん人々は遠くに避難したわ。そしてこの地で私は……四天王の一人に歩けなくなる呪いをかけられ、真奈香は人質にされてもう後がないところで、シロガネという女性が自分の命を犠牲にモノクロ団を全員封印した。でもあなたたちの世代で川崎国際が封印されてる場所に学校を建て、そこで日本民主党政権を利用してマイナスエネルギーをここで集め、そしてモノクロ団の復活に貢献した。おそらくこの封印もあと2年で解かれると思う。さて、マイナスエネルギーが一番強く感じるのは理事長室ね、行きましょう」


 純子の過去を知り、この地がかつての魔法少女とモノクロ団との戦いの場であったことを知り、自分が陥れられた時にそんな事があったのかと一瞬恐怖を感じた。


 理事長室へ近づくとあまりにも痛々しい魔力に肌がピリッと痺れ、澄香はあまりの恐怖に全身が震える。


 純子と真奈香は覚悟を決めて理事長室へ入る。


 それに続いて夜月と澄香も勇気を出して入った、そこには――


「これって……石像ですか?」


「ええ、どうやら何者かが直近でヒビを入れたわね。このままだともうすぐ封印は解かれそうね」


「うっ……!」


「どうしたの夜月くん……?」


「いえ、何か近づいただけで頭痛が……! 何かこう……人生に絶望してるところを上手く突かれて危うく魔物になるところでした……」


「そんな魔力に対抗できるってあなた……相当プラスエネルギーが強いのね。ここにいる4人の全員が対抗出来てる……決めたわ。プラスエネルギーをより多く集めて、万が一封印が解かれたときに対抗できるように、父の遺産全てを使って私自ら芸能事務所を立ち上げるわ」


「純子……」


「本気なんですか……? それもたった一人で……」


「ええ、本気よ。それに私は一人じゃないわ。無理にとは言わないけど、夜月くんにも協力してほしいの。私にはどうしてもあなたが必要なの。お願い、私に協力して……」


「黒田先輩には高校時代にお世話になりました。恩返しという意味を込めて手伝います」


「あのっ! 私も手伝っていいですか?」


「でも澄香、お前はもう芸能界には……」


「いいえ、タレントとしてではなくスタッフとして貢献したいです! このまま世界が絶望に呑まれるのは嫌です! たとえ芸能界でチャンスがなくても、他の事で貢献したいんです!」


「澄香……お前の覚悟は心に響いたよ。黒田先輩……いや、黒田社長! 全力で俺たちもサポートしますよ!」


「ありがとう……二人とも……!」


 こうして純子は亡くなった父の遺産をすべて使い、溝の口にある小さなビルを買い取って芸能事務所を立ち上げた。


 すると純子の後を追って数々の芸能事務所から高飛車財閥の方針についていけなかった天才芸能人も多く集まり、独自の指導法で所属タレントが全員売れっ子になるほどにもなった。


 そして1年が経ち、新暦2018年の3月、夜月がセルフチューブを河西たちと収録を終えて暇つぶしに歌ってみた動画を見る。


 すると夜月はある7人の歌ってみたを聞いて感心する。


「この桃井さくら、赤城ほむら、柿沢橙子(かきざわとうこ)黄瀬千秋(きせちあき)、葉山みどり、青井海美(あおいうみ)、そして紫吹(しぶき)ゆかりか……。色の名前をもじってるってことは芸名か何かか? この子たちはまだ中学二年生か。この逸材を逃すわけにはいかないな……!」


 こうして社長室へ向かった夜月は社長室のドアをノックする。


 コンコン


「はい?」


「夜月です! 社長、いい逸材を見つけました!」


「どうぞ」


「失礼します!」


「それでどんな子かしら?」


「はい! 実は歌ってみた動画を見たのですが、この7人なんです! セルフチューブを同級生たちとやってたら、たまたま見つけました!」


「そんなにいい逸材がいたのね。どれどれ……」


「なるほど、あなたも彼女たちを探していたのですか」


「うわっ!? 何だこの子は!?」


「そんなに驚かないでください。僕は怪しいものじゃありませんから。実は純子さんと知り合いのシロガネの弟でレインボーランドの王子なんですよ」


「シロガネ……? ああ、社長がお世話になってたあの……」


「僕はシロン・ビアンコです」


「夜月晃一郎だ。それよりも社長、この桃井さくら、赤城ほむら、柿沢橙子、黄瀬千秋、葉山みどり、青井海美、紫吹ゆかりというセルフチューブの歌い手たちをスカウトしたいのですが……」


「えっ……? あなたも彼女たちを探しているんですか?」


「あ、ああ……」


「その名前って……シロンが探している子たちと完全に一緒よ!」


「マジっすか!? シロン、あんたは一体何を目的に……?」


「実は彼女たちは……うわっ!?」


「何だ!?」


「地震……!?」


「違います社長! あっちの方からありえないマイナスエネルギーが……!」


「ついに封印が解かれたか……! すみません夜月さん! 話は純子さんから聞いてください!」


「わ、わかった! 社長、詳しく話してください、彼は何者なんですか?」


「彼は……」


(彼女たちを見つける前に復活したらまずい……! 早く見つけてモノクロ団の野望を止めないと……!)


 一方こちらは川崎国際跡地


「はははは! やっと動けるぜ!」


「あの黒田純子はもう歩けないので誰も対抗出来る者はいないでしょう」


「クックック……私たちの天下……」


「モノクローヌ様、我々にご命令を」


「あなたたちは私と共に魔法少女を探しているレインボーランドの王家の人間を始末しなさい。一緒に行動ではなくバラバラになりましょう。その方が効率がいいわ」


「なるほどな! さすがモノクローヌ様だ!」


「クックック……単独行動の方が私たちにとって都合がいい……」


「魔法少女……覚醒する前に始末しないといけませんね」


「さあいくぞ、我々モノクロ団の野望である人々が絶望して生き地獄を味合わせるために」


 こちらはシロン、一刻も早く7人を探すために溝の口周辺を探し回る。


 ただし正体がバレないように子犬の姿に変身し、言い伝えの通りなら溝の口駅周辺に集まるはずだと思って探し回る。


 ところが……


「あなた、子犬に変身しているけど魔力でわかるわ。あなたはレインボーランドの王子ね?」


「しまった……! 封印されてもマイナスエネルギーで察知されたか……!」


「あなたによって魔法少女を見つけ、そして覚醒して対抗されては困るの。だからこそあなたにはここで死んでもらうわ、覚悟しなさい……」


「くっ……! 覚悟を決めるしかない……!」


 一方こちらは武蔵小杉駅、ある少女がイヤホンを付けながら音楽を聴いている。


 ピンク色の髪をしたツインテールの女の子は桃井さくら、かつてアイドルだった母と叔母を持つ普通の女の子だ。


 青井海美主催のカラオケオフ会に参加すべく、武蔵溝ノ口駅に向かっているところだ。


 そして駅に着いた瞬間だった。


「助けて……!」


「えっ……!?」


 さくらはシロンの声を聴いてその場所へ走って向かった。


 そしてあの物語が始まるのです……。


 おわり!

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