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それいけ!東光学園野球部!  作者: 紅夜アキラ
第四部・最終章
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第167話 最後の高校生活

 受験を終えて夜月(やつき)は一段落ついて両親に報告する。


 常海(じょうかい)大学は学力こそそこまでではないが、優秀な卒業生が多くいたという事で母の恵美(めぐみ)は安心したのか『実家からも通ってもいい』という許可も出た。


 他にも東光学園の生徒は全員受験に合格し、誰も一浪(いちろう)しなくて済んだので学園からすれば嬉しいことなのだ。


 となるとここからは三年生の卒業式のシーズンになる。


 3月になり池上荘(いけがみそう)でも卒業の準備が進む。


「もうすぐで俺たちはこの寮を出るんだよな」


「だな。三年間長かったようであっという間だったな」


「僕たちも晴れて社会人だったり大学生だったりそれぞれの道へ進むんだね」


「そうだな。卒業しても元気でな」


「阿部とも今月でお別れかー、ずっと一緒だったから実感湧かないや」


河西(かさい)……」


「そうなるとこんな可愛い女の子たちともお別れかー。高校生の内から彼女ほしかったなぁ~……って痛い!」


「お前本当にブレねえな!」


「だからってゲンコツはねえだろ黒崎い~!」


「黙れ、お前が三年間変わらなすぎなんだ」


「むきー!」


「そうなるとあいつとももうお別れか……」


「どうした? 水瀬(みなせ)とはもう別の進路か?」


「一応同じ大学だ。学部はスポーツ育成部らしい。プールのインストラクターをやるらしい。あいつはスポーツそのものが好きだからさ」


「いい夢だな。夜月は教育学部だったな。教師にでもなるのか?」


「いや、出来れば教師は避けたいかな。それよりも社会に出た時に後輩や部下を指導出来るよう人間になりてえんだ」


「夜月らしいな。俺は日本空軍に入るよ。けど……この7人でもう一度集まってセルフチューバーを始めるなんて思わなかったな」


「ああ、これも世のプラスエネルギーのためだ。よし、寮長さんに挨拶(あいさつ)するぞ」


「だな。河西に黒崎、いつまでもコントやってないで制服に着替えろ」


「はーい!」


「おう!」


 男子たちは制服に着替えて寮長に挨拶をし、もうすぐ卒業する東光学園に登校する。


 卒業式前夜という事で三年生の全員で思い出作りとしてステージに立ったり、いろんな懐かしい話をしたりとする。


 夜月たちは少ししんみりしながらも卒業する学校の思い出を少しでも多く残そうと同級生たちと話し込んだ。


「夜月!」


「天童か」


「最初にお前に会った時はぶつかって悪かったな」


「いや、俺も瑞樹(みずき)と話しててよそ見してたからお互い様だ。けどそのおかげで俺たちは出会い、切磋琢磨(せっさたくま)してきたな」


「ポジションは違うけどな。でも二年生の時にお前が真っ先に病室に来てくれて、本を買ってくれたり何度も来て話し込んだりしたな。あれ凄く嬉しかった。あれがなかったら俺は今頃……野球を()()()()()()しれねえしな。お前のおかげでプロになれた、ありがとう」


「急になんだよお前……。俺の方こそ復帰してくれて助かった。お前がいなかったら優勝なんか無理だった。榊や園田、山田たち同級生や入部してくれた後輩たちにも感謝している。だが明日でお前らとはお別れだ、正直に言えば寂しいもんだ。プロでも頑張れよ」


「ああ!」


「おいーっす! オイラたちも来たぞ!」


「思い出話なら野球部全員で集まってやろうぜ」


「お前ら……よし、野球部全員集まるか!」


「おう!」


 野球部全員で集まり、夜月は(さかき)と園田、あおいの三人とグラウンド前で出会い、ギリギリのところで入部が間に合ったことを懐かしく話し合った。


 名門の監督だからてっきり『スパルタで厳しい監督なのか』と思ったことも、何度も分裂(ぶんれつ)してチームが崩壊しかけたことも、今となっては懐かしいのだ。


 先輩たちもみんな厳しくも優しく、自分たちの事を大事にしてくれたことも思い出した。


 野球部で話を終えると、今度は瑞樹がよそよそしく夜月に声をかける。


(こう)ちゃん……少しいいかな?」


「瑞樹か、いいぞ」


「うん。高校を卒業したら、もう晃ちゃんとは大学でも一緒だけど、別の学部なんだね」


「そうだな。お前はインストラクターだっけな。いい夢じゃないか」


「うん、スポーツそのもの大好きだからね。晃ちゃんのおじいちゃんやおばあちゃんを見て、インストラクターに憧れたから、私もなりたいって思ったんだ。水泳を経験してるからプールトレーニングで頑張るね」


「そうか、頑張れよ」


「晃ちゃんは教師というより、社会人として部下や後輩を育成するんだよね?」


「ああ。教師に対しては正直言っていい印象はない。ただ教育は学校だけじゃなく、社会にもあるという事を学んだからな。いい先輩、いい上司になって日本社会をよりよくしたいんだ。それに……黒田先輩は俺を『自分の会社に欲しがってた』。おそらくそういう仕事をさせるんだろう。だから遠い将来でもそういう仕事をしようと思う」


「いい夢だね、応援してるよ。でも……生まれた時からずっと一緒なのに別々の進路で大学では離ればなれかあ……凄く寂しいな……」


「確かにそうだな……。家は隣同士にまたなるとはいえ、きっと社会に出たら疎遠(そえん)になるだろうしな」


「うん……それに晃ちゃんには好きな人がいて、きっとその人と結ばれるんだよね。その人と幸せにね?」


「ああ。と言っても、瑞樹も知ってる子なんだがな。『水野澄香(みずのすみか)』って覚えてるか?」


「えっ……? 小学校の合同遠足のペアだったあの子!? そういえばアイドルで晃ちゃんの推しのすーみんだったよね!? すごい! じゃあもしかして……」


「澄香のマネージャーになれるように目指す。プロデューサーになってたくさんのアイドルを育てたいんだ。まあアイドルにここまでハマったのは野球部の後輩の影響だが」


「そんな立派な子と一緒なら晃ちゃん、きっといいプロデューサーになれるよ! 私も応援してるね! でも……」


ギュッ!


「うおっ!? 急になんだよ!?」


「やっぱり私……晃ちゃんと一緒じゃないと寂しい……! 今だけ……少しでもいいから抱きしめて……!」


「瑞樹……わかった」


 瑞樹は夜月が好きだって気持ちが抑えられず、もう既に彼女がいた事、進路が別々で離ればなれになること、『社会人になったら疎遠になるかもしれない』という不安が爆発して夜月に抱きついた。


 同時に夜月の胸の中で泣き出し、そんな姿を見て寂しくなった夜月は涙をこらえて抱きしめてあげた。


 瑞樹は気が済んだのか泣き止み、お互いの進路を応援して別れた。


 談話の時間を終え、卒業生によるパフォーマンスの時間が訪れた。


 瑞樹たち池上荘女子による卒業式前日限定アイドルユニット、あの『音原(おとはら)かなで』がプロデュースし、長田有希乃(ながたゆきの)を中心としたミスコンに選ばれた女の子たちのアイドルグループがライブをし、男子生徒は大いに盛り上がった。


 次に軽音楽部だった生徒たちが最後のバンドを組み、音楽系や演劇系に所属していた生徒はコンサートを開く。


 そして一番の大目玉(おおめだま)はこれだ。


「よし、川崎アルコバレーノの最初の動画は卒業式前日のコントをやるぞ」


「この日のためにめっちゃ練習したからな。スベらないようにするぞ!」


「せっかくのデビュー戦だ。全力でいこう」


「ああ、やってやろう」


「ふふっ、もう阿部くんもすっかり喋れるようになったね」


「めっちゃアガらないよう練習したからな。セルフチューバーとして恥じないようにすんぞ」


「川崎アルコバレーノ! ファイッ!」


「「オー!」」


「では最後に、セルフチューバーをデビューする夜月晃一郎(やつきこういちろう)くん、河西裕樹(かさいゆうき)くん、郷田猛(ごうだたけし)くん、阿部俊太(あべしゅんた)くん、松下賢人(まつしたけんと)くん、林田翔太(はやしだしょうた)くん、そして黒崎亮介(くろさきりょうすけ)くんによるコントです。演劇風のお笑いに注目です」


「おおー!」


 夜月たちは自分たちで脚本したコントをし、金属のタライを頭の上に落としたり、不慣れな歌って踊るパフォーマンスをしたり、郷田のタックルを耐えるにはどうすればいいのかを道具をそろえて検証したりと三年生を笑いに巻き込んだ。


 河西の天然のボケや黒崎の天然のツッコミはとてもテンポがよく、自然と笑顔が溢れていたのだ。


 こうして卒業式前日の卒業生パフォーマンスを終え、後は卒業式を待つだけだ。


 寮に戻る前に池上荘メンバーを全員揃えて買い物に行く。


 夜月たちは自分たちのお小遣(こづか)いを使って寮長にプレゼントをするのだ。


 そして寮に戻り――


「おうおかえり! 君たち随分遅かったな! 心配したんだぞ!」


「連絡もなしにごめんね父さん。でもどうしても父さんに見てほしいものがあるんだ」


「見てほしいもの……? 何だそれは?」


「実は俺たち、明日からこの寮を出るじゃないですか」


「そうだったな……寂しくなるなあ」


「だから私たちで感謝の気持ちをプレゼントしようってなんて……」


「お小遣いを貯めてようやくプレゼント出来るようになったんです!」


「だから……受け取ってくださいっ!」


「これは……箱か? 開けるぞ。えっ……?これって……」


「はい、寮長さん! 三年間ありがとうございました!」


「君たち……バカ野郎! こんなプレゼントなんて……嬉しすぎて卒業が寂しくなるだろう……! 君たちがもし立派な社会人になったら……またいつでも遊びに来てくれよな!」


「はい! その時はぜひ!」


 寮長の松下に感謝の気持ちを込めてケーキをプレゼントし、池上荘の寮生たちはそれぞれ別々の進路へ進む。


 夜月は常海大学で教育学部に進み社会で指導力のある上司を目指す。


 河西は大手の商社に入りサラリーマンとして営業職に就きつつ、プロサッカーチームのスポンサーとなる。


 郷田は日本空軍になるべく軍の訓練を大学で受けれる自衛大学に進学し、空軍兵として日本を護る。


 阿部は自動車に興味を持つようになり、超大手のトヨダ自動車に就職することに成功し、コミュニケーションが苦手なので工場勤務となる。


 黒崎は教師になるために日本教育大学に進学し、元不良というキャリアを活用して不良たちを更生の道に導く。


 林田は神宮(じんぐう)学院大学に進学し、商学部で商売の事を学んで大好きなアニメグッズを世界中に展開すべく勉強する。


 松下は一度警察学校に入って法律や警察としての訓練をしつつ、父である松下のスパイ活動を取り入れて探偵として事務所を立ち上げる準備をする。


 瑞樹は夜月と同じ常海大学でコーチングを学び、夜月の祖父母に憧れてスポーツインストラクターを目指す。


 あおいは東京スポーツ治療専門学園でスポーツメディカルを学び、将来はスポーツトレーナーとしてアスリートを支える。


 つばさは無理しすぎたのか肩を痛めてソフトボールを引退し、元々好きだった美容の道へ進むべく美容師になるために横浜美容専門学校へ進む。


 麻美は洗徳(せんとく)大学に進学してプロのトランペット奏者になるためにトランペットを専攻し、将来は楽器メーカーに就職して楽器に携わる。


 クリスは母国であるアメリカに帰国し、マンハッタン大学でプロのチアリーダーになるためにアスリート育成学部に進学する。


 さやかは出版社から本格的に連絡が来て、今後はプロの漫画家として連載が始まるのでサイン会やアニメ化イベントと引っ張りだこだ。


 世奈は劇団を離れて芸能事務所にスカウトが来て、超大手芸能事務所で名女優が多く集まる松竹(まつたけ)芸能事務所に所属が決まった。


 優子は実家の大和組(やまとぐみ)の後継ぎとして平安館(へいあんかん)大学で文化学部として文化を学び、大和流(やまとりゅう)茶道を普及させるために京都に帰郷(ききょう)する。


 有希歩(ゆきほ)帝応義塾(ていおうぎじゅく)大学に進学し、将来は叔母(おば)の後を継いで東光学園の理事長候補として教員免許を獲得しながら経営学を学ぶ。


 それぞれ進路は違えど、男子7人はセルフチューバーとして、女子9人はネットアイドルとして、社会人をやりながらアマチュア芸能活動をするという大変な二刀流で夜をプラスエネルギーに満ちさせる。


 そしてついに……卒業式が始まるのです――


つづく!

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