第165話 ミスコン
文化祭のリハーサルでシークレットゲストに『スマイリング娘。』と『月ノ姫』が登場し、最近始動した『SBY48』も来るなどアイドルのゲストが話題になっている。
夜月は初めて月ノ姫を見て感動し、修学旅行の時に出会った花柳小次郎のプロデュースしたアイドルをようやく見れたことが嬉しかった。
本番でも夜月はスタッフ運営に回って一般客も『甲子園優勝チームがいる』という事で野球部のギャラリーが多く集まった。
甲子園を優勝すると文化祭の来客数や入学希望者数が増えるのだ。
そしてついに文化祭も最終日を終えて後夜祭に入ると、夜月たちはミスコンのために会場である校門前に向かう。
「ただいまよりミス東光学園コンテストを開催いたします。参加者はなんと30人です。ご参加ありがとうございます。審査員は……前・生徒会長の長田有希歩さん、卒業生の黒田純子さんと灰崎真奈香さん、そして文化祭実行委員長の松下賢人さんです」
ミスコンが開催され、参加者控室では女子たちが男子に見られることに緊張しているのか、鏡を見て『自分は可愛いんだ』と自己暗示をかけた。
池上荘からは審査員の有希歩を除く8人が参加、野球部のマネージャーからの参加者は一年の桜井桃香のみとなった。
最初の入場者の1番の生徒から始まり、1番の生徒はミスコンの基準であるアイドル力をアピールする。
歌やダンス、パフォーマンスとトーク力、そして目には見えないプラスエネルギーを審査対象にしているのでプラスエネルギーだけは参加者全員自分がどれだけあるかは知らない。
3番と4番まで回り、ついに麻美とさやかの出番となった。
「エントリーナンバー3番と4番、こちらはコンビで出場です。奥原さやかさんと遠藤麻美さんです」
「さやかちゃん、一緒に行こう」
「う、うん……」
「「おおーっ!」」
「「きゃーっ!」」
「俺たちの遠藤さんがコスプレしている!?」
「やっぱり遠藤さん可愛いな!」
「というか隣の子って誰かしら?」
「こんな可愛い子いたかな?」
「思い出した! 同じクラスの漫画を描いてる奥原だ!」
「あの暗くて目立たないあの子!? こんなに可愛かったんだ!」
「素顔を初めてみたけど惚れた……!」
麻美の提案で素顔を全部さらさなくても見せられるコスプレ姿で登場し、夜月はさやかの変貌に驚いて見惚れた。
さやかも可愛いと言われて自信が少し湧いたのか、堅かった表情がほぐれてようやく笑顔を見せた。
7番の優子も自分の得意分野の着物でお淑やかさと大和撫子をアピールし、歌もかなりの美声を響かせた。
11番のつばさは持ち前の明るさとノリのよさでトーク力を発揮し、ソフトボールで鍛えた体力でダンスを披露する。
16番のクリスはチアリーディングで鍛えたキレのあるダンスと明るい笑顔で男子たちのハートを射抜き、女子からも可愛がられる妹キャラを上手く活かした。
21番の世奈はいつもの王子さまキャラを出したのだが……
「世奈姉さん、はい」
「ありがとう純平くん」
「えっ……? あのぬいぐるみって……!?」
「あのカワイイキャラを多く出してるサンキュートの……」
「プリプリプディンだ!」
「あんな可愛い一面もあるんだ……!」
「てかニコニコしててギャップ萌え……!」
「ワンワン!」
「犬の鳴き声……?」
「ついに来たんだね、虎建」
「ええーっ!? 世奈さまって愛犬家だったの!?」
「チワワに懐かれてる……」
「王子さまがカワイイーっ!」
「あはは……くすぐったいよ。これが私の一面だよ。がっかりさせたかもしれないが、歌もダンスも見せたしもう本当の自分を出そうと決めたんだ。これからもこの私をよろしくね」
「世奈さまーっ!」
世奈のカワイイキャラ好きと愛犬家の一面を前面に出し、歌やダンスだけでなく『ありのままの自分を見せる』というアピールで高評価を得た。
女子生徒ファンたちはあまりのギャップ萌えに興奮し、王子さまでも可愛くていいじゃないとSNSに投稿する子が絶えなかった。
そして夜月も注目しているのが27番の桜井で、桜井は『プロのアイドル事務所に所属しながらも野球部のマネージャーとして貢献してきた子』だ。
しかし桜井は多くの男子たちに囲まれて震えていた。
夜月はその震えに気づいてすかさず控室へ向かい、桜井を呼び止める。
「桜井!」
「や、夜月先輩……?」
「お前震えてるじゃねえか。何でそんなに怖がってるんだよ? 自分で決めた事なのによ」
「それは……ううん、もう隠しても仕方ないですね。憧れの先輩にだから話します。実は桃香……日本民主党支持者のパパに小さいころから虐待されてて、何度も殴る蹴るをされただけでなく、酒と異性を言い訳に桃香の事を放置してたんです。おまけに異性と上手くいかないからってママや桃香を性的欲求に使おうとして……ママは自殺してパパは捕まったんです。でも桃香はそれ以来、男性恐怖症になって、孤児になって親戚も受け取らなかったんです。でも……今の事務所のマネージャーが私を我が子代わりにしてくれて、愛情を注いでから少しずつ克服したんです。でも……こんなに多くの男性がいたらやっぱり怖いです……」
「そうだったのか……。それでそのマネージャーの名前は?」
「黒田総一郎ですが……?」
「やっぱり黒田先輩の父親か……。あの人は何でもやるな。別に男性が怖いのは無理に克服する必要はない。最悪なのはお前らしさを見失って何も出来ない事だ。お前はちょっとぶりっ子っぽくてウザいところがあるが、それでも『怖がりながらも男子のモチベを上げるために献身したり、その人の事を知って心を徐々に開いてきた』じゃないか。選手だけじゃなくてマネージャーの事もずっと見てたけど、桜井は優しくて献身家で、何よりも恐怖と戦う努力家だ。怖かったら俺の顔を見て我に帰ればいいぞ」
「先輩……わかりました! ウザいはショックですけど、夜月先輩のおかげで目が覚めました! 桃香、行ってきます!」
「ああ」
こうして桜井は男性恐怖症のトラウマを無理に克服しなくとも自分らしい笑顔全開のパフォーマンスをし、男性を怖がりながらもその人個人を知っていたら献身するところが男心をくすぶり、男性ファンが多く集まった。
桜井は夜月の言葉が励みになり、自分の父とみんなは違うことが分かり男性恐怖症は克服した。
だがその努力もむなしく、28番の音原奏という二年生の女子が圧倒的な歌声とプロ顔負けのダンス、そして曲はすべて自作と卒業生の滝川留美でさえも驚く音楽のエリートぶりを発揮する。
「音原さんは音楽のエリートと聞きました。どんなパフォーマンスを心がけましたか?」
「そうですわね、『常に完璧を求めて曲を自ら作り、プロ以上に努力を続けた事』ですわね。でも……わたくしはもっとやれますわ。このミスコンに選ばれて自分の可能性をもっと試したいのですわ。プロの歌手になるためにどんな厳しいことも厭いませんわ」
「おおーっ……!」
音原の圧倒的なパフォーマンスとビッグな発言に世界を見据えていることに純子たちは驚いた。
有希歩は『スクールアイドル部に欲しい』と言わせるほどの実力で、最後に控える二人に大きなプレッシャーとなった。
金髪の縦ロールロングの髪形で優雅さを醸し出し、今まで出てきた女子たちは戦意喪失しかけた。
あおいと瑞樹が出てくるまでは……
「エントリーナンバー29番と30番、高坂あおいさんと水瀬瑞樹さんです」
「みんなー! ミスコンも最後だけど盛り上がっていこうねー!」
「みんなともっともっと一緒になりたいな! 最高にテンション上げていこうー!」
あおいのセルフチューブでのノウハウを活かし、瑞樹は夜月が出てる動画をすべてチェックしていて、野球部も歌って踊ってみたの動画を参考に完璧なコピーをしてみせた。
同時に二人は明るく朗らかで接しやすいという事で男女ともにマドンナの麻美並みの人気を誇っていて、美少女二人の王道アイドルパフォーマンスにスターティングオベーションが起きた。
こうしてミスコンの出場者が全員パフォーマンスを終えて投票が始まる。
投票の集計を終えると、有希歩はマイクを取って結果発表をする。
「ではベスト8を発表します。ベスト8となった子には、卒業前夜のライブにアイドルとして出演させていただき、そして今後もセルフチューバーとしての活動をしていく権利がもらえます。では8位、大和優子さん。7位、中村つばささん。6位、奥原さやかさん。5位、クリス・マーガレットさん。4位、白波吹世奈さん。3位、高坂あおいさん。2位、水瀬瑞樹さん。1位は、遠藤麻美さんです」
「おおーっ!」
「ありがとうございます♪」
「決め手は何ですか?」
「自分だけでなく『自分に自信のない奥原さんの魅力を最大限に生かし、他人をも魅力的にするところが優しくて自他共に引き立てられるところ』ですね。そんな遠藤さんはプラスエネルギーがダントツでありました。他の7人も自分の武器を最大限に発揮し、そしてまだまだ成長出来る見込みも感じました。おそらく池上荘の夜月くんによるプロデュースもあったんでしょうね」
「ふっ、わたくしはどうやら完璧さばかりに目が行ってファンの方々を置いて行ってしまいましたわね。わたくしもまだまだ甘かったですわ」
「音原さんは歌もダンスも上手くて作詞も作曲もこなせる器用なアイドル、ただそれだけでした。それでもプロ顔負けの実力があるので自信を失わないでくださいね」
「もちろん大丈夫ですわ長田さん。わたくしに足りないものは『ファンとの一体感』ですわ。やはり完璧なものなど存在せず、もっと自分らしさを出すべきでした。このミスコンの経験は決して無駄ではありません。遠藤さん、そして池上荘の皆さん、本当におめでとうございます。卒業ライブと今後のセルフチューブの活動で歌って踊る時に作詞作曲を提供いたしますわ。きっとあなた方の活動で世の中がポジティブに向かう事でしょう。わたくしはプロの歌手として、あなた方はアイドルとして精進いたしましょう」
「めっちゃいい人だったね……」
「ビックリしちゃった……」
「うん、音原さんも完璧なパフォーマンスに少し弱気になっちゃった。それくらい凄かったよ。お互いに頑張ろうね」
「ええ」
こうして文化祭も後夜祭のミスコンも終わりを告げ、本格的に三年生は受験や就活に向けて準備を進めるのだった。
ホッとしたのも束の間で、夜月に澄香からメッセージが届く。
「ん? 澄香からだ。どれ……」
『親愛なる晃一郎さんへ、受験勉強は順調ですか? 晃一郎さんが大学に進学すると聞き、またしばらく会えないと思うと寂しく思います。ですが晃一郎さんの進路のために私はいつまでも応援します。もしクリスマスや初詣にお時間があるのでしたら、願掛けとして私とデートしてください。晃一郎さんは受験勉強でお疲れだと思いますので、デートで息抜きしましょう。返信待ってます、澄香』
「ったく、アイドルが簡単にデートしていいのかよ。まあいいや、送るか。『澄香、メッセージとデートの誘いありがとう。俺も少し息抜きしたかったし、澄香にしばらく会えないのは寂しかったからちょうどよかったよ。デートならそうだな……澄香はアニメが好きなら朝の10時に秋葉原駅で待ち合わせしよう。俺は早く着く予定なので待ってる、晃一郎』っと……。久しぶりのデートか、緊張するな。お、返信早いな」
『わかりました、ではクリスマスイブの10時に秋葉原駅で待ち合わせしましょう。デートを楽しみにしてますね♪』
「よし、デート決定だな。楽しみだな……」
受験勉強の息抜きにデートが決まり、夜月は澄香とデートすることになった。
文化祭も終えてこれからの時期に息抜きするのも受験生にとって大事なことで、追い込むのもいいが休むのもまた心身を整えるのに大事なものだ。
そしてクリスマスイブ、ついにデートが始まる。
つづく!




