第162話 失脚
東光学園が夏の甲子園を制覇し、新チームが新たに始動した中で、日本の政治に大きな動きがあった。
夜月たちは池上荘でそんなことが起きていたことを知らずに、いつも通りに朝食を食べ、寮長である松下が天気予報を見ようとテレビをつける。
すると朝からいきなり衝撃的なニュースが放送された。
「天気予報の途中ですが、ニュースをお伝えします! 川崎市議会だけでなく国会の第一野党である日本民主党に国家反逆罪の罪で解散命令が下されました! これまで日本民主党は貧困に苦しむ国民だけでなく、性被害に遭われた女性や差別に苦しむ外国人、さらに身体・知的・精神障碍を持つ人、性的マイノリティの同性愛者やトランスジェンダーなどの人権や軍を持たない平和外交、再生可能なエネルギーのために活動していたのですが、すべて『マイノリティたちを利用して自分たちだけが得するように仕向け、さらには反対する人の個人情報を晒したり、その反対するマイノリティに対して罵声や恫喝、さらには拉致に監禁を行い、自然エネルギーのために森林を無許可で伐採して土砂崩れなどを引き起こさせ、電気やガス水道などのインフラを放置して値上げさせ、犯罪者を無暗に釈放して治安を荒らし、敵対する組織を嘘の情報を公開して失脚させて再起不能にした事』など、日本中を混乱に陥れた疑いで最高司令官の人や支援団体のトップ、さらに鳩山総理大臣や川崎市長などが全員逮捕、国家反逆罪で死刑が確定したようです」
「嘘だろ!?」
「やっぱりあいつらはそんな奴らだったんだ……」
「自分が恵まれないからってやりすぎっしょ!」
「恵まれないなら相手を陥れてでも自分だけ得をする。そうなると誰も助けてくれないしね」
「しかもこいつら、『自分は悪くない。悪いのは社会』だとまだ駄々をこねてるな」
「呆れた……」
「でもどうしてそんな急に悪事がバレたんだろうね……?」
「わからないけど……誰かがずっと調査してくれたのかな?」
「ついにやったんだな……」
「寮長さん?」
「あ、いや……何でもない。それよりも早く食べなさい。学校に遅れるぞ」
「それもそうですね。じゃあいただきます!」
テレビをつけると、今まで夜月の祖父であるバルクスの失脚が嘘であるという事が分かり、実は日本民主党やたくさんの左翼支援団体によって仕組まれた日本崩壊計画が暴露されたのだ。
実際にセルフチューブやSNSなどで動画や証拠が公開され、デマだ嘘だと言っても今更遅かった。
みんなは一体誰がこんなお手柄をしたのが不思議で、授業中も誰がやったのか考えた。
おそらく川崎国際の悪事を公開した純子や真奈香だろうと思ってこれ以上考えるのをやめた。
夜月だけは『ついにやったんだな……』と独り言をつぶやいたが、誰も聞こえなかったのか問われることはなかった。
その翌日、川崎市議会の再選挙が決まり、あるメッセージが届く。
「ん? じいちゃんからだ。えっと……日本民主党が失脚した今、ワシは来年に行われるもう一度川崎市長選に出ようと思う。晃一郎はまだ学生で選挙権はないが、来年には選挙権を得られるだろう。そこでご友人たちにワシに投票するように言ってほしい。この荒廃した川崎市を不死鳥のごとく蘇らせることを約束すると』……。じいちゃん……じいちゃんなら出来るはずだ。俺も協力を惜しまない、またカッコいいじいちゃんを見せてくれよっと……」
「バルクスさん、また川崎市長に立候補するの?」
「ああ、この荒廃してしまった川崎市を立ち直らせると張り切っていた。メッセージ越しに伝わったぜ」
「私たちも来年には選挙権を得るからしっかり投票しないとね。晃ちゃんのおじいちゃんに」
「そうだな。これで俺も心置きなく最後の学園生活を送れるよ」
平和な時間を過ごし、夜月たち三年生は就活や受験に励む。
さらに民主党の悪事はまだまだ暴露され、恫喝されたマイノリティの人たちが実は自分たちを利用するために『おとなしく言う事を聞け』などと脅迫し、逆らったら家族などの個人情報を晒して生活出来なくされるくらい追い込まれ服従しざるを得ない状態にされたりもした。
それも芸能界や経済界にもその風評が流れたのか、民主党に反対する芸能人などがフェイクニュースや偏向報道で干されたり、マスコミやメディアなども腐敗していたことまでわかった。
日が進む度に悪事がバラされ、日本中が敵となって日本民主党解散デモが行われるほどにまでなった。
しかし平和な時間も束の間で、10月の中旬になったある日、文化祭の準備を進めようとした中で事件は起きる。
「東光学園は出ていけ!」
「差別主義者学園! 人でなし! 俺たちを不合格にしやがって!」
「誰でも入れると言いながら落としやがった嘘つき! 潰れちまえクソ学園!」
「こらやめなさい! そう言ってるけど自分たちの性格に難があって落とされたことがわからないのか!」
「警察まで差別発言したぞ! 殺せー!」
「いい加減にしなさいテロリストども!」
「最近学園都市に大規模な暴動が起きているわね……」
「このまま学園に侵入されたら生徒たちが危ないです。どうすればいいのでしょうか叔母さま……?」
「あなたたち生徒の安全を確保するから気にせず学園生活を送りなさい。私たち教員や職員、街の大人たちがあなたたちを守るわ。ここは卒業生たちに任せておきなさい」
「わかりました。朝礼で伝えておきますね」
ついに日本民主党や支援団体の母体である日本革命隊は正体を隠さなくなり、東光学園都市である川崎区まで暴動デモ団体が押し入ってくる。
もはや洗脳ともいえるこの信者たちは全員、性格や思想、人間的にも問題のある人間ばかりで、その危険な思想と思考で落とされたにも関わらず『自分は悪くない、悪いのは学園と社会だ』と全部人のせいにしてきた結果、そこを日本革命隊によって腐った世の中を自分たちで変えようとたぶらかされて洗脳されたのだ。
川﨑国際は『その思想を学生の内から教育しよう』ということで立ち上げ、政治を利用して民主党を立ち上げて一番多様性を利用しやすい川崎市を本部において活動し、川崎市の内部から崩壊させていったのだ。
民主党は元市長であるバルクスの孫という事でターゲットにされ、夜月の『人の潜在能力を見抜いて成長させる能力を利用し、たくさんの問題児を覚醒させたところでバルクスを陥れ、川崎市を私物化したタイミングで植木たちを洗脳して東光学園を乗っ取ろう』とした。
ところが植木たち洗脳された生徒は落とされ、ターゲットの夜月が合格したことに怒りを覚えて川崎国際を急遽創立させたのだ。
そこから野球部を通じて戦いが始まった。
その今まで邪魔された腹いせに正体を隠さなくなり、ついに暴動を起こすようになったのだ。
その信者の多くは犯罪者や国家反逆者、極度の左翼思想の持った人々ばかりで、かつて京都を荒らし大和組とも揉めた『極度の右翼思想の持った日本愛国党の暴動』とよく似た光景だった。
その暴動に怯える中で池上荘である出来事が起こる。
ピンポーン
「はい? 誰かお客さんかな……?」
「ただいま戻ったよ、父さん」
「えっと……誰?」
「この池上荘に暮らしてる松下賢人だよ。もしかして同じ寮生かな?」
「松下賢人……知らないなあ」
「ちょっといいかね? 賢人! よく帰ってきたな!」
「ただいま、父さん」
「え……? えぇーっ!? あの見た目で男子!? それに父さんってまさか……!?」
「あはは、そうだよ。本当の正体はこれだよ」
「嘘でしょ!? みんな大変!」
「何だ? 大学のオープンキャンパスから帰ってきたら随分騒がしいぞ。何があったんだ高坂?」
「夜月くん!? あの、急に寮長さんの息子を名乗る子が……」
「寮長さんの息子って、まさか……!?」
「久しぶりだね、晃一郎くん」
「賢人!? 賢人なのか!? お前相変わらず女装癖あるな!」
「どういうこと夜月くん……?」
「実はこいつは……まあいい、上がってから話す」
「う、うん……」
インターホンが鳴ったので玄関に出たあおいは、寮長と松下賢人と名乗る者が親子であることに驚いた。
あまりの衝撃的な事実にあおいは寝ている全員を起こして大部屋に集める。
そして大学のオープンキャンパスから帰ってきた夜月は松下という少年を見て懐かしそうにしながら寮に上げる。
あおいに起こされて眠そうな黒崎は少しイライラしてしまったが、見慣れない松下にビックリして急に目が覚める。
「おい高坂、こいつ誰だ?」
「女子寮にこの人いたかな……?」
「もしかして賢人くん!?」
「え……水瀬さんも知ってるの?」
「えっと、実は俺と瑞樹はな、幼稚園から小学校三年まで一緒だった『もう一人の幼なじみ』なんだ。小学校三年で転校して離ればなれになっちまったがな」
「ええーっ!?」
「それともう一人、知ってる人がいるんだ」
「えっと……よく無事で帰って来たわね。松下くん」
「え?どういうこと有希歩!?」
「ああ、やはり理事長の姪っ子の長田は知ってたか。じゃあ何で『日本民主党の悪事が大規模にバレた』か教えてやろう。実は黒田純子や灰崎真奈香、理事長と共に川崎国際や日本民主党、さらに日本革命隊のありえない悪事を日本中に知らせるためにスパイ活動をしててな、探偵を目指してる我が息子の賢人を中心に動いてたんだ。そして絶対的な証拠を見つけたのが、川﨑国際での授業内容と削除されてもなお証拠として残してくれたSNSの無名ユーザーたちの協力もあったからさ」
「そういや寮長さんって何者なの? 部活で疲れて眠ったあたしらを軽々と持ち上げてたしさ」
「俺か? 俺は実は元日本軍人で、スパイ暗部隊隊長だったんだ」
「ええーっ!?」
「そして我が息子は正義感が非常に強く、女装が趣味というのもあってそれを利用して学生しながら探偵業をしていたんだ。黒田と灰崎の依頼をずっとやってきたわけさ。そして……依頼主は夜月だったってわけさ」
「お前いつの間に……?」
「中学の時に祖父の失脚からおかしいと思って、探偵として優秀な賢人に頼んでたんだ。それとわかったんだろ? プラスエネルギーの事」
「うん、わかったことがその日本革命隊には莫大なマイナスエネルギーが見つかってね、このままいけば全員が魔物になってしまう恐れがあるんだ。そこでプラスエネルギーを効率よく集めるにはどうしようって研究中なんだ。みんなにもその研究の協力をしてほしいんだ」
「何が何だかわからねえけど、今まで夜月が野球で勝てたのは松下のおかげなんだな。だったら俺は協力するぞ。寮長さんとの関係も知ったし、長田も理事関係で知ってたみたいだしな」
「ありがとう。それで研究の結果、『芸能関係が一番プラスエネルギーを集めるのに効率がいい』ってわかったんだ。だから長田さん……学校の伝統で禁止しているのはわかるんだけど、ミスコンを開いてアイドルとして結成し、これ以上マイナスエネルギーが集まらないようにプラスエネルギーを拡散してほしいんだ」
「あなたの言い分はわかったわ。でも美しさは好みの問題だから選ばれなかった子が傷つくのを恐れて創立以来ずっと禁止にしているの。でも……見た目ではなくプラスエネルギーを基準にするならその方がいいのかもしれないわね。わかったわ、次の文化祭で議題にしてみるわ」
「ありがとう。僕の作戦に付き合ってくれて。じゃあこれは僕個人としてお願いがあるんだ。僕は探偵になるために大学を受験するし、受験に集中しなければならない。君たちも同じだろう。だからこそ今は高校卒業まで日本革命隊との戦いには参加してほしくないんだ。学生生活も最後だし、何より『学生を巻き込みたくない』と卒業生会でも言われてね、僕はしばらく探偵業を休業していこうと思う。だからみんなはあまり首を突っ込みすぎないようにしてほしいんだ」
「わかった。だがプラスエネルギーを効率よく集めるには芸能関係がいいって言ったな?」
「うん」
「ここにいる俺と賢人、それに郷田と黒崎、林田に阿部と河西の7人でセルフチューブグループを組もうと思う。そうすればミスコンで選ばれた女子だけでなく男子からプラスエネルギーをも集められると思う。どうかな?」
「なるほどな! 黒田先輩の案だろうけど面白そうじゃん!」
「やれるかわからないけど全力でやってみようと思う」
(コクコク……)
「戦争には参加できねえが、俺たちに出来ることがあれば何でもやるぞ」
「僕たちは安全なところでプラスエネルギーを集めていこう」
「ありがとう。じゃあチーム名は……『川崎アルコバレーノ』でいこう!」
「いい名前だな。じゃあ結成だな。方向性はスポーツ系のアドバイスだけでなく『コントや歌ってみた、踊ってみた、イラスト』などいろんな挑戦系バラエティにしよう」
「いいねそれ!」
「面白そうじゃんか」
(コクコク……)
「女の子たちはアイドルをヨロシク!」
「うん! 頑張るね!」
こうして池上荘男子はセルフチューバー、池上荘女子はアイドルグループとして活動することになり、日本革命隊との戦いには参加できないもののプラスエネルギーを集める活動に入る。
最後の学園生活を送るべく平和に過ごし、集まったところでマイナスエネルギーを浄化させる作戦だ。
こうして文化祭の準備は進められた。
つづく!




