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第157話 再試合

 甲子園の決勝が決着つかず、翌日の再試合が決まった。


 両校とも選手のほとんどがボロボロの中で、両監督は再試合のオーダーを必死に考える。


 平安館は層が非常に厚いとはいえ、荒木と井端(いばた)の最強の二遊間(にゆうかん)疲労困憊(ひろうこんぱい)で試合に出れる状態ではないことが痛手だ。


 外野陣は松井とジローが元気だが、柳田(やなぎた)は腰に違和感を覚え代わりの選手が出ることに。


 一方の東光(とうこう)学園はエース(さかき)の温存が効いたのと守護神の井吹(いぶき)がまだ控えている。


 さらに精密機械の(ヨウ)や二刀流の天才坂本もまだいる。


 しかしまだ体力が熟していない一年生のほとんどが消耗され、経験値こそ稼げたが西野と水瀬(みなせ)、そして布林(ぬのばやし)は限界という状態だ。


 そこで石黒監督と夜月(やつき)は三年生を中心に戦う決意をする。


 そして決勝戦再試合当日、そのオーダーに休場はざわめく。





 先攻・東光学園


 一番 セカンド 山田圭太(やまだけいた) 三年 背番号4


 二番 ライト 田村孝典(たむらたかのり) 三年 背番号17


 三番 キャッチャー 天童明(てんどうあきら) 三年 背番号2


 四番 センター 夜月晃一郎(やつきこういちろう) 三年 背番号3


 五番 ファースト 清原和也(きよはらかずや) 三年 背番号13


 六番 サード 松田篤信(まつだあつのぶ) 三年 背番号15


 七番 レフト 高田光夫(たかだみつお) 三年 背番号14


 八番 ショート 木村拓也(きむらたくや) 三年 背番号16


 九番 指名打者 前沢賢太(まえさわけんた) 一年 背番号24


 ピッチャー 榊大輔(さかきだいすけ) 三年 背番号1





 後攻・平安館学院


 一番 ライト 鈴木次郎(すずきじろう) 三年 背番号9


 二番 指名打者 大谷公平(おおたにこうへい) 二年 背番号10


 三番 レフト 松井秀樹(まついひでき) 三年 背番号7


 四番 サード 村上恒隆(むらかみつねたか) 一年 背番号5


 五番 ファースト 松中信長(まつなかのぶなが) 三年 背番号3


 六番 ショート 坂本隼人(さかもとはやと) 二年 背番号16


 七番 セカンド 菊池康介(きくちこうすけ) 二年 背番号14


 八番 センター 新庄清(しんじょうきよし) 三年 背番号8


 九番 キャッチャー 古田敦史(ふるたあつし) 三年 背番号2


 ピッチャー 野茂秀雄(のもひでお) 三年 背番号1




 ――となった。


「松坂がエースじゃないのか!?」


「野茂って確かアメリカから帰国した全米野球のエースじゃないか!」


「何でそんな奴が平安館に……!?」


「何度も言うけど、大和(やまと)が言うにはあそこは『武士道精神がないとどんなに学力や部活が優秀でも入れない』んだ。もしあいつにも武士道があるなら相当な人格者だと思う」


「さすが中学まで平安館にいた茶道部の大和だな」


「まああいつは家元の母親が『外部で茶道(さどう)だけでなく世界を見てこい』と言われて高校は留学みたいな扱いだがな。大学には平安館を再編入するぞ」


「よほどエリートだな……」


「夜月は平安館受けないのか? 学力そんな悪くないだろ?」


「最低レベルが明紫(めいし)とか聖教(せいきょう)神宮(じんぐう)学院、学習館、王政、龍央(りゅうおう)大学と同じとこなんか行けるかよ。それよりももうすぐ整列だ、疲れが目立つがこれを乗り越えれば優勝が待ってるぞ、行くぞ!」


「「おー!」」


 野茂という最強の帰国子女(きこくしじょ)が今大会初登板で、いまだデータがないこの状態で東光学園は挑む。


 先攻なので一番の山田が打席に立ち、野茂の投球練習では卒業した斉藤と同じトルネード投法で、榊以上の落差のあるフォークが武器だ。


 山田は野茂のピッチングを目のあたりにし、あまりの強さに絶望した。


「フォーク!? これが!? だって榊以上に消えたじゃんか……! 赤津木(あかつき)はこんなやつに負けたのか……!?」


(ひる)むな山田! 打てないなら球数増やしていけ!」


「そ、そうだな! オイラとしたことが周りが見えなくなるところだったぞ! 来い!」


「相変わらず手が痛くなる球威(きゅうい)だよ。大谷くんよりも球速は遅いけど球威も重さも君の方がある。かつてはコントロールが悪く、周りからトルネード投法はやめろと言われたが、監督が根気よく練習試合を重ね、誰も打てなかったことから公式試合で最終兵器として隠しておいてよかったよ。東光学園はダルビッシュくんや松坂くん、おそらく田中くんや大谷くんでさえ抑えられないだろう。だからこそ……頼んだよ」


「監督は非難され続けた俺に期待してここまで連れてきてくれた。感謝してもしきれないくらいすごい監督だよ。だからこそ……絶対に期待に応えてみせる!」


「速すぎ……! しまった!」


「ファースト!」


「オッケー!」


「アウト!」


「あいつの球は手元で急に伸びるぞ。それも今までのピッチャーの誰よりもだぞ」


「わかった、僕に任せて」


 田村はそう言ったものの、いざ目の前にすると全然手も足も出ず見逃し三振、三番の天童は天才キャッチャーと言われるだけあって三遊間(さんゆうかん)を抜くレフト前ヒットとなった。


 夜月にはフォアボールを出すが、ミート力が不安な清原は終始振り回され空振り三振に喫した。


 1回のウラではいくらジローが打率9割とはいえ、榊のプロ並みのピッチングに思うように打てなかった。


 二番の大谷も榊のフォークだけじゃないキレのある変化球に翻弄(ほんろう)されショートフライ、松井もレフトまで大きく飛んだが高田の俊足に追いつかれレフトフライでアウトになる。


 2回の表の松田は気合を入れて打席に入るが空回りし空振り三振、先ほどナイスプレーをした高田には――


「こいつあんまり試合に出てないし活躍してないな。少しくらい手を抜くか……? いや、そういう選手ほど怖いものはないな。やっぱり力でねじ伏せ……あっ!」


「すっぽ抜けてど真ん中……! もらった!」


 カキーン!


「あーっと! 野茂、まさかの失投でど真ん中のスローボール! 甘く入ったボールを見逃さずミートした高田、そのまま二塁へ走塁! 左中間(さちゅうかん)を抜いたツーベースヒット!」


「いいぞ高田!」


「高田先輩ナイスです!」


「けどオイラよりパワーがないなw」


「プロテイン飲んでくださいね!」


「背は山田よりも俺の方があるんだけどなあ……」


 高田の失投を見逃さないミート力でチャンスになり、木村は送りバントをしようとするも球威がありすぎて恐怖を覚え、それを察した石黒監督はバントではなくエンドランを仕掛ける。


 するとミートが苦手な木村は、どうにでもなれという勢いでフルスイングした。


 その打球は――


二遊間(にゆうかん)を抜けたー! 木村、センター前ヒット!」


「いいぞ木村!」


「彼女の前だから張り切ったんですか?」


「見た目はチャラ男、中身は生真面目(きまじめ)のギャップ萌えですね!」


「うっせー! それは言うなよー! それと彼女いねーし!」


「がははは! そんな事よりこの場面で俺の番だな! よーし、いっちょホームランを狙ってやるぜ!」


「小さいけど元気が取り柄……いや、前沢くんは幾度(いくど)のチャンスを活かして一発撃った()()()()だ。油断していると火傷(やけど)するのは他校の試合を見てわかる。野茂くん、彼はノッてくると危険だ、油断するなよ?」


「初心者ほど怖いバッターはない、ビギナーズラックだけでやってきたわけじゃないのは今までの試合を見てわかってる。夜月、お前がどんなマジックを使ったか知らないが、その天狗(てんぐ)の鼻をへし折ってやるさ!」


「ストレート来た! うらあっ!」


「何だと!?」


「センター! タッチアップあるぞ!」


「オッケー! 任せて♪」


「アウト!」


「くっそー! どうせならヒットにしたかった!」


「いいんだよ! 高田、行け!」


「犠牲フライも立派な得点だよ!」


新庄(しんじょう)くんっ!」


「慌てない慌てない♪ タッチアップはね……外野の見せ所だよっ!」


 シュッ!


「ええーっ!?」


 パシーン!


「アウト!」


「嘘だろ……!?」


「スタートダッシュが速い高田さんが刺されたとは……!」


「あの新庄ってレーザービーム出来るのかよ……!」


「そんな……! 私でも能力が読めなかったなんて……!」


「あおいでも読めない選手っているんだな……!」


 東光ベンチが絶望すると、古田は左手を『痛い……』と言わんばかりに振りながら新庄の凄さを心の中で語る。


「当然さ、なんせ新庄は開心術(かいしんじゅつ)を覚えてる僕でさえ思考が読めない宇宙人だからね。それ故に閉心術(へいしんじゅつ)も心得ていて相手に特徴を悟られない訓練をしてきたのさ。まあ僕たちは誰も彼の訓練についていけなかったけどね……」


 新庄の隠れレーザービームと人々を魅了(みりょう)する美しいフォームに球場はざわめき、高田は新庄の宇宙人的なプレーに思わず拍手をしてしまった。


 東光学園のアルプスでは大きすぎるため息が出たが、その直後には温かい拍手と『ナイスプレー』という褒め称える声が多く出た。


 東光学園は相手がナイスプレーをすると応援団一同で大声で褒め称える伝統があり、相手がいてこその野球というのを忘れていなかった。


 せっかくの流れを掴めなかった東光学園はそのまま山田がセカンドフライに終わる。


 だが東光学園も負けてなかった。


 四番の村上が一年ながらプロと同じ威圧感を放ち、榊が恐怖を感じてど真ん中に失投をしてしまう。


 その瞬間……


 カキーン!


「まずい! あまりにも大きすぎる!」


「夜月! 捕れるか!?」


「伸びるけどちょっと弾道が高すぎるな。それに勢いがあまりない、という事は……いける! うおぉーっ!」


 パシッ!


 ドンッ!


「ちょっと夜月!?」


「君はまた無茶なことを!」


「へへ……ざまあみろ村上……! 捕ったぞ!」


「アウト!」


「おおーっ!」


「大丈夫かい?」


「立てるか?」


「余裕だぜ。それよりもさっきの借りは返したぜ!」


「本当にお前には敵わないよ。お前が主将でよかったって心から思う」


「僕も君に会えてよかった。それにこの外野のメンバーは……」


「両翼が逆だが、入部時の練習試合デビュー戦のメンバーだな。今思えば懐かしいな」


「原点回帰だな。俺たちも夜月に負けない守備をするぞ!」


「うん!」


 田村と高田は夜月と二年ぶりの外野結成に懐かしみ、そして夜月のガッツプレーで火が付いた。


 松中の速すぎるゴロの打球がライトに転がり、田村はスムーズな送球フォームでファーストに投げる。


 すると足の遅い松中は屈辱(くつじょく)のライトゴロに終わった。


 田村はピッチャーもやっていて、肩の強さは尾崎に負けても坂本や高田には負けていなかった。


 坂本の巧打(こうだ)左中間(さちゅうかん)ギリギリのところへ落球しようとしたが、高田の俊足でダイビングキャッチで二回のウラを終える。


 3回の表もウラも榊と野茂の投げ合いで三者凡退。


 4回の表になり、清原の打席になった。


 すると清原は腰のあたりを気にしていて、それがバレないように打席に立つ。


 果たしてその結果は――


 つづく!

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