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第155話 決勝~平安館学院

 ついに甲子園の決勝が行われ、平安館(へいあんかん)学院の攻撃に入る。


 一番の鈴木次郎は今大会で打率が9割ととんでもないインフレ成績を起こしていた。


 天童はそんな好打者(こうだしゃ)相手に勝負出来ることに喜びを感じ、いつもよりも強気なリードをする。


「打率9割打者なんて面白くなってきたじゃんか。園田、お前には安定したピッチングがあるし勝負してもいいぞ」


「普通のストレートとジャイロボールを使い分けるか。その二種類なら好きに投げていいとは天童らしいな。まあそのサインは夜月(やつき)直伝だけどな!」


「ストレート! 急に伸びるからあえて詰まらせてポテンを狙うか!」


 カコン!


「しまった! あいつわざと詰まらせてポテンを狙う気だ!」


水瀬(みなせ)くんっ!」


「大丈です! 僕に任せてください!」


 パシッ!


「アウト!」


「ナイスキャッチ水瀬!」


「光太郎! 打者のスタイルを読んで守備位置を変える守備の勘が()えたな!」


「へへ……お兄さんに褒められた!」


「あのセカンド、ただの一年じゃないぞ」


「他人に興味がないジローが興味を持つとはな。そこまですごいセカンドなんだな」


「頼む」


 この二番の荒木も打撃は大した成績ではないが、犠打(ぎだ)についてはかなりの成績で、ファールラインギリギリのコースをバントするだけでなく、ファールにならない程度に転がせるので内野泣かせとも言われている。


 それも守備ではこの井端(いばた)とは幼なじみで、無敵の二遊間(にゆうかん)と呼ばれている。


 去年の甲子園を沸かせた花咲学苑(はなさきがくえん)(ひいらぎ)兄弟の二世とも言われる二遊間の一人で、犠打を封じたので園田は簡単にショートフライに打ち取る。


 しかし問題は一発だけでなく高いミート力を誇るガッツプレーが持ち味の小笠原(おがさわら)だ。


 去年までヒゲが生えていたが、『不潔(ふけつ)』と言われた上に最後の夏だということで覚悟を決めてヒゲを()ったのだ。


 その覚悟が決め手となり、ライトを越えるツーベースヒットを放たれた。


 そして四番の松井には――


「来い!」


「威圧感が半端ないな……。こいつだけはみんな敬遠していたが、俺はそうはいかないぞ。ここで逃げたら優勝なんか夢のまた夢だ。園田、逃げるなよ?」


「ストレートだけでなくどんな変化球にも上手く合わせる世代最強スラッガーか。そんな相手なら(パク)でもう慣れてるから逃げるわけがないぜ!」


 スパーン!


「ストライク」


「結構伸びるね……!」


雰囲気(ふんいき)温厚(おんこう)なのにこの威圧感(いあつかん)はマジで何なんだろうか……? まるで怪獣のようだ。こいつに甘い球は絶対に通用しない。厳しくいくぞ」


「わかった。しかし本当に怪獣のようだな! あっ……」


「失投してしまったか……!」


「もらったよ!」


 カキーン!


「これは大きい! 大きすぎる! これが京都の怪獣、松井秀樹(まついひでき)の圧倒的なパワーです! 確信ホームランがより余裕を感じます!」


 園田はあまりの松井の威圧感に押され、カーブが甘く入って失投を見逃さなかった松井にホームランを打たれる。


 しかも打った後も余裕の態度を取っていたので、『この人は将来はとんでもないプロ野球選手になる』と天童もすぐに感じた。


 園田は悔しそうにするも、こんな強い相手は初めてだとワクワクもした。


 普段感情を出さない園田も笑みがこぼれ、そこからギアを上げて次の大谷を三振に抑えた。


 東光学園の攻撃は、先発の松坂がピッチャーで甲子園一回戦でノーヒットノーランを達成した怪物だ。


 キャッチャーの古田(ふるた)も卒業生の田中やベンチにいる吉永以上に頭が良いうえに強肩(きょうけん)も素晴らしく、盗塁阻止率が100パーセントを誇っていた。


 水瀬が勇気を出して打席に立ち、松坂に挑む。


「来い!」


「小さい一番バッターだが、彼はさっきジローのトリック打法を読んでいたからね。きっと僕たちの心も先読みしているだろう。彼に(いち)(ばち)かは通用しない、君はそういうところあるから気を付けて」


「古田の配球はノム先輩直伝だからよく当たるんだよな。相手は一年とはいえ、あの東光学園だ。きっといい育成をして急成長したに違いない。油断はしない方がいいな!」


「嘘……!? 速すぎ……!」


 スパーン!


「ストライク!」


「これがストレート……? だって浮いたのに……! 今までのピッチャーは何だったんだ……?」


「光太郎! 一度打席をはずせ!」


 水瀬は松坂のあまりの球威に恐怖を感じ、簡単に空振り三振に喫した。


 次の布林(ぬのばやし)はいつものカット打法で(ねば)り打ちをして球数を増やそうと試みるも、浮くストレートにタイミングが合わずにいつものバッティングが出来ずファーストのファールフライ。


 天童は天才キャッチャーを言われるだけあって松坂の投球にタイミングが合ってきて、二遊間を抜くライナーでセンター前ヒットだ。


 そしてランナーがいるところで夜月の打席になる。


「来い!」


「もう彼は予選決勝の後遺症(こういしょう)はないと思っていい。多分少しはフラッシュバックするだろうけど、それでも勝負強い彼は乗り越えるだろう。ここはやはり……」


「インコースは避けるか。そりゃそうだよな、フラッシュバックして弱気になった相手とは戦いたくないもんな!」


「うおっ……!?」


「ストライク!」


「光太郎の言う通りストレートなのに浮いたな……」


「ナイスボール!」


 夜月は松坂の浮くストレートにタイミングが合わなかったが、それでも荒れ球という特性でフルカウントにまでなんとか粘る。


 松井と同じ一発はあるが、夜月はどちらかといえば必要な時しかホームランを狙おうとしないタイプだ。


 無理と判断したら無意識にミートバッティングに切り替える癖がついていて、その癖を上手く生かして松坂の緩急(かんきゅう)自在のチェンジアップに振り回される。


 しかし夜月は踏み込んでもなお我慢し続け、ついにチェンジアップを簡単に捉えた。


「うらぁっ!」


「しまった! センター! ライト! どっちか頼む!」


 夜月の打球は右中間(うちゅうかん)(つらぬく)弾丸(だんがん)ライナーで、『絶対に捕れない』と言われるようなコースに打った。


 夜月は打球の行方を見ながら次の塁へ狙う。


 天童も夜月の打球がワンバウンドしたので三塁へ向かおうとした。


 ところが……


「甘いね! そう簡単に抜かせないよ!」


「ここで三塁に行けば……チャンスの場面で一発ある清原だ! 行けるぞ!」


 シュルルルルル……!


 パシッ!


「なっ……!?」


「タッチアウト!」


「あの天童が刺された……!?」


「今のあいつの送球は何……!?」


「これは俺よりもやばいっすね……!」


「ふっ」


「ナイスレーザービーム!」


「てかクールすぎ!」


「どんだけ当たり前だという態度でいるんだよ!」


 ジローこと鈴木次郎は打率だけでなく守備もプロレベルで、守備範囲の広さだけでなく捕球能力や尾崎を超えるレーザービームの持ち主で、アメリカから帰国した帰国子女(きこくしじょ)である。


 あまりの絶望に東光学園はレベルの違いを感じ、少し気が沈んだ。


 すると山田と松田、津田が――


「まだまだ1回ですよ! ここで沈んだら応援してくれるみんなに失礼ですよ!」


「そうだぞー! せっかく強敵が相手なんだ!悔いを残したら格好悪いんだぞー!」


「気合が足りねえぞ気合が! そんなんじゃ男が(すた)るぞ! ほら! 熱男(あつお)ぉーっ!」


「お前ら……! 出番あるかもわからねえのによく声を出せるな。そうだよな、ここで諦めたら格好悪いし、男が廃るよな! みんな! やられたものは仕方ない! 次の守備でやり返してやろうぜ!」


「おー!」


 夜月の一言は有言実行(ゆうげんじっこう)で、岡本を三振に打ち取り、井端にヒットを許して盗塁されるも天童は古田以上の強肩を誇っていて盗塁を阻止し、柳田(やなぎた)はまだ大振りなので三振にした。


 2回のウラでは清原がフォアボール、木下が送りバントを仕掛けるもサードの小笠原が木下(きのした)の足の速さで焦ってハーフバウンド、岡本はボールを弾いてしまった。


 野村はレフトフライに終わるも、西野が堅実(けんじつ)三遊間(さんゆうかん)を抜くレフト前ヒットにする。


 さらに――


「どうせ俺は打てないんだ。だったら犠牲フライでもいいから1点をもぎ取ってやるさ」


 カキーン!


「尾崎が松坂の投球をミートした……!?」


「ライト!」


「あーでも浅いか!?」


「オッケー!」


 パシッ!


「アウト!」


「清原! 走れ!」


「おう! うおぉーっ!」


「させないよ!」


 シュッ!


 ジローの放ったレーザービームは真っ直ぐキャッチャーの古田の方へ投げられ、清原は甲子園期間中に足腰の負担を減らすべく減量していた。


 その結果、清原はいつもよりも足が軽いと感じ、スライディングしてホームベースにタッチする。


 結果は――


「セーフ!」


「おっしゃー! やれば出来るじゃねえか尾崎!」


「まあ、こんなもんっすよ(よし!)」


「へっ! 素直じゃねえ後輩だな!(何だよ、小さくガッツポーズしてんじゃねえか)」


 尾崎の犠牲フライが上手くいき、ツーアウトながらも2対1に追いついた。


 その後は水瀬の選球眼でフォアボール、布林も大分タイミングが掴めたのか粘り打ちが炸裂(さくれつ)


「もう浮いてくるストレートは見切りました! ダウンでもアッパーでも攻略できないならこれでいくよ!」


 カキーン!


「これも大きいぞ! 布林、まさかの松坂攻略か!? あーっと! ホームラン直前でまさかのフェンス! あわやホームランでした! ランナーは一掃していく! そのまま木下と西野がホームイン! 布林、スリーベースヒット!」


「やったー! プディンパワーだね!」


「あいつら本当に一年かよ!?」


「やべえw 三年生情けねえw」


「負けてらんねーぞ俺ら!」


「正直言ってアルプススタンドにプディンくんのぬいぐるみが見えなかったら危なかったな……」


(よう)くん……プディンくんを野球に持ち込んでから成長したわねえ。もうおばあちゃんのコーチはいらないかしら?」


 布林の活躍で3対2と逆転し、天童もそれに続こうとしたが松坂の浮くストレートだけでなく緩急のチェンジアップに翻弄(ほんろう)され三振。


 3回の表とウラはどちらも三者凡退に終わった。


 4回の表では園田の安定したピッチングで小笠原に10球も粘られるもサードゴロ、松井にはリベンジ成功の三振、大谷もレフトフライに終える。


 4回のウラは野村がデッドボールで出塁、西野が送りバントをするも尾崎がサードゴロ、水瀬がライトフライ、布林も球数を増やしたものの力及ばずキャッチャーフライになった。


 5回の表、園田も球数が70球と多くなってきたので石黒監督はピッチャー交代を告げる。


「タイム! ピッチャーの園田に代わり、鈴木翼(すずきつばさ)!」


「はい! 頑張ります!」


「鈴木、お前の緩急はそう簡単に打たれないと自信をもっていけ。たとえ打たれても味方(みかた)が何とかしてくれると思ってくれ」


「わかりました! 頑張ります!」


 サウスポーの中継(なかつ)ぎエースの鈴木がマウンドに立ち、ストレートとチェンジアップを()()ぜたピッチングを投球練習で見せつける。


 この期待のルーキースラッガーの岡本は、木下に負けない持ち前の鈍感(どんかん)さと高身長と筋力でホームランを量産できる将来の四番候補だ。


 一方の鈴木は線が細くて力負けしそうな相性の悪さである。


 果たして結果は――?


 つづく!

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