第152話 準決勝~聖英学園
東光学園にとって夜月が一年の頃の春の選抜のリベンジを果たす時だ。
その相手は東東京代表の聖英学園だ。
ピッチャーには沢村だけでなく降谷、川上のトリプルエースがいる。
打者には俊足の倉持、天才キャッチャーの御幸、プルヒッターの前園、堅守の白洲白洲もいる。
前に一年ならがレギュラーだった者だけでなく、もう卒業したが滝川の負傷によって台頭してきた御幸もいるなど盤石な層の厚さを見せつけてきた。
そんな聖英学園とのスターティングメンバーは――
先攻・東光学園
一番 セカンド 山田圭太 三年 背番号4
二番 サード 布林太陽 一年 背番号5
三番 キャッチャー 天童明 三年 背番号2
四番 レフト 夜月晃一郎 三年 背番号3
五番 指名打者 前沢賢太 一年 背番号24
六番 ファースト 野村悠樹 二年 背番号23
七番 センター 木下泰志 二年 背番号8
八番 ショート 西野崇 一年 背番号6
九番 ライト 尾崎哲也 二年 背番号9
ピッチャー 榊大輔 三年 背番号1
後攻・聖英学園
一番 ショート 倉持友介 三年 背番号6
二番 セカンド 小湊秋一 二年 背番号4
三番 ライト 白洲三郎 三年 背番号9
四番 キャッチャー 御幸和貴 三年 背番号2
五番 ファースト 前園賢也 三年 背番号5
六番 センター 東条秀吉 二年 背番号8
七番 レフト 麻生拓夢 三年 背番号7
八番 指名打者 結城将司 一年 背番号26
九番 サード 金丸信一 二年 背番号5
ピッチャー 降谷聡 二年 背番号10
――となった。
「この準決勝で勝てば確実に決勝に進める。ともなれば『エースをぶつけてせめて決勝まで行こうという意思表示』だ。榊、俺の期待に応えてくれ」
「お、おう。それよりもお前スタメンで大丈夫か?」
「ああ、先生から『フル出場も大丈夫だ』とゴーサインが出た。それに練習でも全く立ちくらみもしなくなったしな。練習の合間に休憩を入れてよかったよ。おかげで完治した、とにかく俺が出れるようになったんだ。無様な真似は出来ないが、だからって委縮することはない。自分たちのできるベストを尽くそう!」
「「おー!」」
「整列!」
「「行くぞ!」」
「「おー!」」
こうして聖英学園と試合が行われ、一番の山田がいきなりスリーベースヒットを放つと、布林がカット打法でファールの粘り打ちをし、なんと降谷の立ち上がりの悪さでフォアボールとチャンスになる。
すると天童がズボンを調整する仕草をする。
その後はすぐに山田と布林がスチールをはじめ、天童はフルスイングで外野まで運ぶ。
山田はホームインして1点を獲得、布林はそのまま三塁へ全力疾走した。
そして四番の夜月だ。
「来い!」
「こいつが復活したってことはベストな状況になったんだな。だが主力の朴は足首を痛めてると聞いた。外野が本職だからこいつにはファーストでいてほしかったが、そうも言ってられない。このままこいつを抑えるぞ」
「強打者との試合は楽しみ……。この人を抑えたらチャンスを掴める。絶対に抑える!」
「うっ……!」
「ストライク!」
「天童や山田はこんな速い球を打ってたんだな。なかなかやるじゃないかあいつら」
「ビビりはしたが委縮はしてないな。そうなるといずれはお前の球を打つかもな。でもビビることはない。そのまま強気でインコース攻めで行くぞ」
(コクコク)
スパーン!
「ストライク!」
「粗削りなやつと思ったけど、変化球投げれんじゃんか」
「スプリットしかまともに投げれないけどな」
「そうなんだな。でも充分脅威だと思うぞ」
「どうも。脅威に感じてくれただけありがたいな。インコースばかりだったがアウトコースの高めに放ってもいいだろう。ただすっぽ抜けたり棒球にはなるなよ?」
「まともに投げれないけどツーシームか。前の試合で沢村くんが頑張ったから僕がしっかりマウンドで抑えなきゃ……なっ!」
「ストレート……ふんっ!」
「二遊間……! ショート!」
「はははっ! 面白え打球だな! おらよっ!」
「捕りやがった……!」
「アウト!」
久しぶりの試合に夜月はまだ感覚が取り戻せておらず、いい当たりながら倉持の俊足に抑えられてワンアウト、前沢は降谷の球速についていけず三振でツーアウト、野村も目が追い付かずサードフライでチェンジになる。
聖英学園高校の攻撃は倉持からで、前はスイッチヒッター(右打ちと左打ちの両方が出来るバッターのこと)だったが、『格好つけている場合じゃない』と左打ちに専念したバッターだ。
先ほど夜月のいい当たりをナイスキャッチした選手で、よほどの俊足だというのが分かる。
天童は『倉持にだけは塁に出したくない』と思い、いつもの強気に加え田中直伝の相手のクセや心理を見抜くリードで倉持をキャッチャーゴロのボテボテに抑える。
二番の小湊は小湊陽介の弟であり、意外にも兄を超えるバッターで木製バットを使う。
「おお……木製バットだ!」
「夜月と同じ木製使いか。」
「去年まで前髪で目が隠れてなかった?」
「去年の夏で何かあったんだろうな。とにかく吹っ切れてプレー出来ているのが分かるぜ。この小湊はどんなコースにも打ち分けられるバッターだ。しかも木製ともなるとよほどミート力に自信があるんだろう。だったら……」
「勝負に出るんだな。天童らしいなっ!」
「いきなりフォーク……!」
「ボール!」
「ナイスボールだ! 今のを見極められたか、さすがの選球眼だな。準決勝はそう甘く勝てないようだ。フォークは見せ球にしたいが、フォーク中心でやってみようか」
「フォークは得意球だけど、やりすぎると握力が鈍るからあまり中心にしたくないな」
「ダメか、まあいくら自信があるって言ってもリスクがあるからな。じゃあいっそ……」
「変化球中心ならいいぞ。ストレートはツーシームもカットボールもあるしな!」
「真っ直ぐ……? それにしては遅い……しまった! スライダー……くっ!」
「ファースト!」
「お、オッケー!」
「アウト!」
小湊を抑えきり、三番の白洲もライトライナーでアウトに抑える。
2回の表では木下がフォアボールで盗塁も決めて西野が送りバントでランナー三塁とチャンスになり、バッティングが苦手な尾崎もフォアボールで出塁。
そして山田が――
「それっ!」
「レフト!」
「おっしゃ!」
「まだだ……捕ったぞ! 行け!」
「おう!」
山田のレフト深めの犠牲フライでチーム一の俊足の木下がホームスチールを仕掛ける。
すると麻生が堅実な守備と送球までの動作の速さでいい送球をする。
キャッチャーの御幸がそれを捕ってクロスプレーをする。
結果は――
「アウト!」
「あの木下が……!」
「間に合わなかった……!」
「あの麻生ってやつ、動作も守備もいいけど肩も強いぞ……!」
「俺以外にもまだこんな強肩がいるなんてね、やるじゃん」
「尾崎、俺たちも負けてられないな。まああの人は三年だからあと一年で麻生さんを越えようぜ」
「最初からそのつもりだけど?」
「生意気にクールぶってるけど、こっそり闘志に燃えてるの尾崎らしいな」
「うるさいぞ坂本、いいからいつでも守備に着けるように準備してよ」
麻生と同じくレーザービームの持ち主である尾崎と坂本は会話を交わし、尾崎の闘志に火が付いたところを坂本がいじる。
2回のウラでは御幸はまだバッティングにムラがあり、チャンスでないとなかなか打てないところがある。
それでも夏の甲子園の期間で大分克服してツーベース、前園も前までは『チームバッティングを意識する』あまりに空回りしてなかなか打てなかったが、御幸の助言もあってプルヒッターとして覚醒してから打てるようになり、引っ張ってレフト前ヒットとランナーが一塁と三塁のピンチになった。
すると榊はピンチになると燃えてきて、だんだんとギアが上がった。
後続の東条と麻生、結城を簡単に三振に抑えきる。
3回と4回はどちらも三者凡退、5回には西野にまさかのデッドボール、尾崎の代打で坂本が入り坂本がツーベースのチャンス。
山田は『もう犠牲フライは通用しない』と判断し転がしてレフト前ヒット。
西野がホームインして2対0になる。
すると聖英学園の片岡鋼心がピッチャーを交代する。
「沢村を連投か……」
「左利きで確かリリースが分かりづらいピッチャーだっけな」
「わははは! ボスが俺に出番をくれたぞ!」
「うるさいぞ沢村、お前には期待してるんだからその元気はマウンドにとっておいてくれ」
「は、はい!」
「そして打たせて取るコントロールも上がってるピッチャーか。これはなかなか打たせてくれそうにないぞ」
「大丈夫です、僕に任せてください。ヒットを打てるかわかりませんが、球数を増やすことはできます」
「地味に恐ろしいこと言うな……w じゃあ頼んだわ!」
布林は有言実行で本当に10球も投げさせ、最後の11球目でサードのファールフライに倒れる。
布林は天童に『あの人はストレートだけでなくナチュラルムービングを持っている』と伝言を残す。
夜月やほかのベンチメンバーにも伝え、二年生までは卒業した『松井と同じタイプか』と思い出した。
しかし天童は沢村の卒業した松井以上に手元が見えないピッチングでタイミングをずらされ三振。
夜月もまた沢村の見えないピッチングでタイミングをずらされ、セカンドゴロに終わった。
5回のウラでは東条の打席で、天才ピッチャーと中学時代に有名だった選手だ。
そんな選手にフルカウントに持ち込まれ――
「こいつ確か『天才ピッチャー』と言われていたのに何で外野やってるんだ? よほど聖英の投手陣の層が厚いんだろうな。それに……あのデータマンで背番号25の渡辺久実のデータもあってか榊のフォークにだんだん合ってきている。ストレート主体に変更だ」
「おっしゃ、その方がいいな。俺もそんな気がしてきたぜ!」
「単純なバッテリーだけど、川口さんよりは榊さんは判断力がマシなのかな? ちょっと考え込んでたし榊さんはただの単純な人ではなさそう。でも……キャッチャーが少し単純かなっ!」
カキーン!
「しまった! レフト! 追えるか!?」
「ホームランギリギリの打球か……! 何とか追ってみるぞ! うおぉーっ!」
パシッ! ドンッ! ポロッ……
「あーっと! 夜月、ナイスキャッチもフェンスに直撃し落球! さすがの堅守の夜月も久しぶりの試合で感覚が戻ってなかったか!? 東条はそのまま三塁へ! センターの木下がカバーに入るも間に合わず!」
「大丈夫か兄貴……?」
「いって……! 慣れないことはするもんじゃねえな……」
「兄貴……」
「この大会で俺たち三年は最後なんだ……。こんなところで安全策なんか取れるかよ……!」
「兄貴、でも怪我だけはもうやめてくれよ? 神奈川予選の決勝の離脱と同じ思いはもう二度としたくないからさ……!」
「だな……同じギャンブルでももう二度とあんな無茶はしねえわ」
夜月のガッツあるプレーに、チームメイトは全員冷や汗が出て動悸が起こった。
それもそのはず、夜月は一度危険球のデッドボールで戦線離脱したことがある。
その悪夢がフラッシュバックしたのだ。
『もう二度と精神的支柱を失いたくない』、と石黒監督もあおいも冷や冷やしていたのだ。
その夜月のプレーに火が付いた榊はギアが上がるも、麻生のソロホームランで2対2の同点に、結城は三振に抑えるも金丸にセンター越えのツーベース。
倉持にセーフティバントで一塁と三塁に、小湊には木製バットで長打を打たれ3対2と逆転された。
それでも白洲をショートライナーでアウトにし、6回の表に入る。
このまま東光学園は春の選抜と同じ相手に負けるのか……?
つづく!




