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第148話 香川県立讃州中央高校

 香川(かがわ)県立讃州(さんしゅう)中央高校との試合が決定し、夜月(やつき)は急遽津田と木村、松田をキーマンに指名し、相手に勢いづけないためにもこちらも勢いづけられそうな選手を出してなるべく東光(とうこう)学園の流れにしようという作戦だ。


 石黒監督もそれに賛成し、夜月だけでなく石黒監督もいざという時に責任を取る姿勢でいた。


 短い練習中にある連絡が夜月に届く。


 その連絡とは――?


 翌日になり、県立讃州中央との試合の日が訪れて甲子園は相変わらず満員状態だった。


 そんな中で東光学園野球部は、控室に入る前のミーティングを終えて中に入ろうとする。


 すると夜月にとって聞き覚えのある女性の声が聞こえた。


「おーい晃一郎(こういちろう)~! 応援に来たぞ~!」


「げっ、また酒飲んでるし……。てことはまた彼氏にフラれたのかよ」


「だってさー、『目玉焼きにソースは邪道(じゃどう)だ』って言うんだよ~? あたしはソース派だってのにさ~……ちょっと好みが違うだけで別れるなんてありえなくな~い?」


「まあそうだな……。てか急いでるから邪魔(じゃま)するなよ?」


「ん~? 何だ~? お姉さんに対してその反応は~? 弟の癖に生意気だぞ~!」


「離れろって! 暑いんだけど!」


「夜月先輩、監督が早くしろって……先輩? その女は誰ですか? なんか馴れ馴れしいんですけど……」


「いや井吹(いぶき)助けろよ! この酔っ払いに絡まれてるの見てないで助けろって!」


「ん~? 君かわいいね~? お姉さんがキスしちゃおうかな~?」


「いい加減にしてよ姉さん!」


「姉さん……? えっ!? 姉さん!? 夜月先輩、お姉さんいたんですか!?」


「あ~、君は私の事知らないんだっけ? はじめまして、私は夜月都子(やつきみやこ)、この晃一郎の5つ年上の姉です」


「どうも、井吹純平(いぶきじゅんぺい)です。それよりも夜月先輩、急ぎましょう。監督がお呼びです」


「おう、そうだったな。じゃあ姉さん、俺はもう行くから応援してくれよな」


「は~い」


「あ、いた! 都子さんまた(こう)ちゃんに絡んでる! お酒もほどほどにしてくださいよ?」


「あらあら瑞樹ちゃん、大きくなったね~。今日は別れた記念に弟の応援を頑張るぞ~!」


「また価値観の違い? もう仕方ないなあ」


「夜月先輩、お姉さんがいたんですね」


「ああ。他にも3つ上の兄と4つ下の弟もいる。姉さんも兄さんもうちの卒業生で、姉さんはラクロス部で兄さんはアメフト部だ。弟はハンドボールのクラブチームに入ってる。その内に兄さんに会えるかもな。どうやら留学先であるアメリカから応援するために戻ってきたらしい」


「スポーツ一家(いっか)なんですね。それにしてもお姉さん、美人ですね。てっきり二股(ふたまた)しているのかと……」


「顔つきと色黒の肌、赤い瞳に黒い髪を見ればせめて親戚(しんせき)と思うだろ。姉さんはなかなか彼氏と上手くいかなくて、別れるとすぐ酒を飲むんだよ。そんで酒癖(さけぐせ)が悪くすぐ酔っぱらう。あれで大手商社のOL(オーエル)なんだから信じられないわ」


「そうですか、僕なら都子さんを不幸にしませんけど……」


「なんか言ったか?」


「いえ、何でもありません。試合、頑張りましょう」


「ああ!」


 こうして夜月の姉の都子が応援に駆け付け、呼ばれた夜月はSNS(エスエヌエス)の目撃情報で酔っ払いの女性に絡まれたことを監督が知り、『お前も大変だな』と肩をたたいて励ました。


 『自分の姉だ』と話した際は、『じゃあお姉さんの前でいいところ見せてやろうぜ』と一声かける。


 そんな県立讃州中央との試合のスターティングメンバーは――




 先攻・香川県立讃州中央


 一番 センター 楠志吹(くすのきしぶき) 二年 背番号8


 二番 ショート 犬吠埼伊月(いぬぼうさきいづき) 一年 背番号6


 三番 サード 東郷美良(とうごうみよし) 二年 背番号5


 四番 レフト 三ノ輪銀太郎(みのわぎんたろう) 二年 背番号7


 五番 セカンド 加賀城進(かがじょうすすむ) 二年 背番号4


 六番 指名打者 乃木園介(のぎそのすけ) 二年 背番号10


 七番 ライト 弥勒真夕海(みろくまゆみ) 三年 背番号9


 八番 キャッチャー 犬吠埼風太(いぬぼうさきふうた) 三年 背番号2


 九番 ファースト 山伏流礼(やまぶしながれ) 二年 背番号3


 ピッチャー 結城友太(ゆうきゆうた) 二年 背番号1





 後攻・東光学園


 一番 セカンド 山田圭太(やまだけいた) 三年 背番号4


 二番 ファースト 野村悠樹(のむらゆうき) 二年 背番号23


 三番 サード 松田篤信(まつだあつのぶ) 三年 背番号15


 四番 レフト 朴正周(パクセイシュウ) 二年 背番号7


 五番 指名打者 前沢賢太(まえさわけんた) 一年 背番号24


 六番 ライト 坂本大輝(さかもとだいき) 二年 背番号18


 七番 センター 高田光夫(たかだみつお) 三年 背番号14


 八番 ショート 木村拓也(きむらたくや) 三年 背番号16


 九番 キャッチャー 津田利光(つだとしみつ) 二年 背番号12


 ピッチャー 川口尚輝(かわぐちなおき) 三年 背番号21



 ――となった。


「俺がついに先発か! 燃えてきたぞ!」


「今回はピッチャーは継投(けいとう)の作戦で行く。一人で投げ抜くと公立フィーバーでかえってプレッシャーになるだろう。そのプレッシャーをなるべく短く終わらせたいから継投にした。川口の次はニコニコ笑顔の佐藤、その次にマイペースの木下(きのした)、勝利の方程式で抑えに井吹だ。どこかで代打として俺が出ることもあるだろう。尾崎と清原はこの明るい空気に流されて余計なトラブルが起きると面倒くさいからベンチにいてほしい。だが出番は全くないわけではなく、時と場合によっては出てもらう。各自自分にできることを最大限にやろう!」


「おー!」


「整列!」


「「いくぞ!」」


「「おー!」」


 整列を終わらせ、礼をした後に東光学園ナインは守備位置に着く。


 野村は空気を読むことが出来るし、坂本と木村は持ち前の明るさで盛り上げ、津田と松田が大きな声で鼓舞(こぶ)する。


 元々ムードメーカーの山田と木村は鉄壁の二遊間(にゆうかん)コンビとして名をはせていたが、秋と春では不振に終わり甲子園で組む最後のチャンスだ。


 一番の楠を相手に川口は甲子園に出る選手は全員強打者のつもりで投げ抜き、得意のスプリットで三振を奪う。


 二番の犬吠埼伊月と東郷もヒット性の当たりながら二遊間に(はば)まれチェンジ。


 1回のウラの山田はエースの結城の球速についていけず三球三振。


 二番の野村は一発があるがシャイで空気を読むタイプなので、チームバッティングを心がけて右打ちをするもサードゴロ。


 しかしここで三番の松田が――


「それっ!」


「よっしゃ! 得意なストレートもらったーっ!」


 カキーン!


 松田は得意なインコースへのストレートを狙い打ちし、そのままレフト方向へ大きく伸びていった。


 するとその打球はレフトスタンドへ一直線で入り、いきなりホームランを打ったのだ。


 東光学園ベンチが盛り上がると、全員でベンチから出て松田とハイタッチする。


 その後、松田は右の拳を握りしめベンチにいる津田と木村、坂本にこう叫んだ。


 同時にその三人も一緒になって……


「せーのっ!」


熱男(あつお)ぉーっ!」


「いいっすね松田先輩!」


「さすが熱血男(ねっけつおとこ)だな!」


「ナイスホームランっす!」


「どうだ!」


「やられたなー、まさか松田がここで打つなんて」


「でもあの人って布林(ぬのばやし)くんが入るまでレギュラーだったんですよ? こんな名門校相手にいきなり打たれたのは痛いですけど、強い相手と思うと楽しいです!」


「友太らしいなその楽しそうな笑顔は。さあ打たれたものは仕方ない! ()せば大抵(たいてい)何とかなる! その勢いで逆転しよう!」


「はい!」


 その後結城はギアが上がり、朴をあっさりセンターフライに打ち取る。


 2回の表では四番の三ノ輪が打席に立ち、豪快にフルスイングして川口を威圧する。


 三ノ輪は大きく構え、津田はインコース苦手そうって考えてインコース攻めを試みる。


 川口も単純なのですぐにサインが決まり、インコース攻めを中心にすぐにツーストライクとなった。


 するとその3球目……


「あ、やべっ!」


「先輩! それはさすがに甘すぎ……」


「まずい! 失投だ! このままでは三ノ輪に一発を……」


「これが俺の魂ってやつだっ!」


 カキーン!


 川口の甘く入ったスプリットを三ノ輪は豪快にフルスイングで打ち、右中間(うちゅうかん)へ大きく抜けた当たりを打つ。


 すると打球はグングン伸びていき、勢い止まらずそのままスタンドインした。


 三ノ輪は先ほどのお返しと言わんばかりにソロホームランを打ったのだ。


「悪い! すっぽ抜けた!」


「大丈夫っす! あんなのまぐれっすよ! それよりも次も手強いんで切り替えましょう!」


「だな!」


 五番の加賀城は堅実な打撃が持ち味で、セーフティバントでサードを揺るがすも、松田のバント処理の速さであっさりアウトにする。


 六番の乃木はまだ眠たそうにしているのか、なかなかアクセルが効かずに見逃し三振。


 七番の弥勒はショートの内野安打を決めるも、八番の犬吠埼風太が空振り三振を喫し交代。


 2回のウラ、前沢の打席は甲子園レベルとはいえまだ初心者、甲子園ピッチャー相手に手も足も出ず三球三振。


 坂本はライトフライで高田はファーストゴロに終わり、東光学園は松田の一発以降ピリッとしなかった。


 それでも川口の全力全開のピッチングで三振の山を築き、たまに打たせて取って球数を減らしていく。


 もちろんフォアボールも多いがそれでも三ノ輪の一発から無得点で済んでいる。


 そのまま6回の表まで進み、グラウンド整備をしてミーティングをする。


「お疲れ、なかなか結城から打てないな」


「あいつ手元で急に伸びてくるから厄介(やっかい)だよ」


「プロも注目のエースだよな。打てる気がしないな」


 夜月が心配そうにミーティングをすると、木村が警戒して高田が少しだけ弱気になる。


 すろと津田と園田が立ち上がって(かつ)を入れる。


「何言ってんですか! うちには(さかき)先輩という絶対的最強エースがいるんですよ! 打ててない俺が言うのもあれですけど、球速も伸びも変化球も榊先輩の方が上ですって!」


「津田……」


「その通りだ。大輔(だいすけ)の方が結城よりも上だ。だが何故打てないのかというと、この公立フィーバーの中で打ってるんだ。そりゃあプレッシャーだろう。夜月、ついにやるんだな」


「ああ。野村、本来ならシャイなお前には荷が重いと代打を出すところだが、今日の試合は二安打と頑張っている。そこでお前には右打ちだけでなく、右打ちを心がけながらフルスイングしてほしい。だからって大振りにしろって意味じゃないぞ。いかに最小限の力で最大限のパワーを発揮できるかを意識してみてほしい。お前はチームプレーを意識するがあまりにお前なりの全力を出せていない。野村だけでなく坂本や高田もそうだ。ただ坂本や高田は野村と違って一発があるわけじゃない。そこで坂本は次の塁を狙うために足を活かし、高田にはエンドランでもバントでも小技で相手を翻弄してほしい。木村と津田はバッティングは苦手だが、嫌いではないんだろう?」


「まあ、はい」


「むしろ好きなんだけどなー」


「お前ら二人は当てる技術はある。ただ打つタイミングが悪すぎる。ピッチャーが足を上げようとした瞬間に自分も前足を動かしてみろ。そうすれば溜めて打つのに余裕が生まれ、下ろすときにゆっくりすることで無駄に力まず我慢できる。たとえ内や外、高さなどののコースが外れてもある程度は修正が効くぞ」


「あー! だから夜月先輩、ミートがやや苦手なのに最近当たってたんですね!」


「おう、地味に失礼だぞ津田。でも事実だから仕方ないな」


「なるほど……じゃあ俺たちはタイミングが遅れていて余裕がないから来た球を打つのに間に合ってないんだな! よっしゃ、そうとわかれば次の打席で試してみるぞ!」


「とは言ってもそんなすぐに結果を出すのは難しいだろう。だがお前らなら適応できると期待している。むしろ……ベンチ外含め全員に期待している。このままうまくマッチすれば、俺の代打は必要ないかもな。さあグラウンド整備が終わったぞ!礼をして守備に着き、さっき言ったことを早く実践するように守り抜くぞ!」


「「おー!」」


 つづく!

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