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第144話 弁天学園

 夏の甲子園が開幕となり、東光(とうこう)学園にとって熱い夏が始まった。


 開幕戦からいきなり接戦になるなど甲子園では大盛り上がりのようだ。


 開催から3日目で東光学園の試合が始まり、奈良の弁天(べんてん)学園との試合が始まる。


 弁天学園は奈良と和歌山にある仏教系の高校で、紅白のユニフォームで魔曲(まきょく)の演奏から一気に追い上げて逆転劇を重ねることから赤い炎と呼ばれている。


 そんな弁天学園との試合のスターティングメンバーは――




 先攻・弁天学園


 一番 ショート 高鴨静(たかかもしず) 一年 背番号6


 二番 ファースト 松実裕(まつみゆう) 三年 背番号3


 三番 サード 新子亜貴(あたらしあき) 一年 背番号5


 四番 指名打者 上田良平(うえだりょうへい) 三年 背番号15


 五番 センター 小走(こばしり)やすし 三年 背番号8


 六番 セカンド 丸瀬典助(まるせのりすけ) 三年 背番号4


 七番 レフト 巽由太(たつみゆうた) 三年 背番号7


 八番 キャッチャー 鷺森灼太(さぎもりあらた) 二年 背番号2


 九番 ライト 木村陽(きむらよう) 三年 背番号9


 ピッチャー 松実龍(まつみりゅう) 二年 背番号1





 後攻・東光学園


 一番 セカンド 山田圭太(やまだけいた) 三年 背番号4


 二番 サード 布林太陽(ぬのばやしたいよう) 一年 背番号5


 三番 キャッチャー 天童明(てんどうあきら) 三年 背番号2


 四番 ファースト 清原和也(きよはらかずや) 三年 背番号13


 五番 指名打者 前沢賢太(まえさわけんた) 一年 背番号24


 六番 レフト 朴正周(パクセイシュウ) 二年 背番号7


 七番 センター 木下泰志(きのしたたいし) 二年 背番号8


 八番 ショート 木村拓也(きむらたくや) 三年 背番号16


 九番 ライト 尾崎哲也(おざきてつや) 二年 背番号9


 ピッチャー 榊大輔(さかきだいすけ) 三年 背番号1



 ――となった。


「あれ? 監督、夜月は出さないんですか?」


「天童か、実はこのオーダーは夜月が決めたものだ。高坂(こうさか)の情報を(もと)に夜月自ら考え抜いたものだ。不安になるのも無理はないし、まだ夜月には頭の傷が残っていて無理はさせられない。ここぞという時の秘密兵器として温存しておきたいのだろう」


「はあ、そうですか……。じゃあ『代打、俺!』を期待しますね!」


「おう。今日のオーダーには不満があったり戸惑いを感じたりするだろう。だが高坂の情報によれば相手の松実龍はスロースターターで仕上がりの早いメンバーを選出させた。西野は前半どうしてもガチガチになる癖が抜けないからな、今回はスタートダッシュがいい木村にさせた。俺はまだ本調子じゃないんだから、決勝まで残って万全な状態で出させてくれよな!」


「「はい!」」


「整列!」


「「いくぞ!」」


「「おー!」」


 東光学園と弁天学園の試合が始まり、榊がピッチング練習をし終えて一番の高鴨がバッターボックスに立つと、甲子園独特の試合開始のサイレンが鳴り響く。


 東光学園メンバーはなぜ夜月が監督代行的なことをしているのかまだわからなかった。


 それは開会式直後の出来事……


~回想~


「いきなり監督に呼ばれてきたけど、何なんだろう? 監督、夜月です」


「夜月、ようやく来たか! どうぞ!」


「失礼します。それで話って何でしょうか? まさか俺は急遽ベンチ外になるんじゃ……?」


「それはないな。ただ夜月にとってとても重要な話なんだ。勿体(もったい)ぶってても仕方ないから単刀直入(たんとうちょくにゅう)に言う。夜月、君は俺の代わりに試合のオーダーを組んでみてほしい」


「は……? 何でそんな急に?」


「俺はこのチームを3年間見続けてきたが、どうもまだ把握していないところがあるんだ。だが君は井吹(いぶき)、木下、そして水瀬(みなせ)について把握している。尾崎や朴、(ヨウ)、前沢、西野、そして布林の覚醒、清原の腰痛持ちの見抜きと改善、天童のリハビリに健闘、榊や園田の弱点発見、山田の走り方革命、そしてその他部員の覚醒のきっかけを与えてくれた。その件について本当に感謝している。だからこそ、君には俺の代行を務めてほしいんだ。バントや盗塁のサインは俺が出すけど、試合のスターティングメンバーは君に決めてほしい。君の方がこのチームのことを詳しく知ってるから託せるんだ。ただもし自分が試合に出たいのなら自分を優先しても構わないんだぞ」


「俺が監督よりチームを把握している……? 確かに俺や高坂の助言で覚醒したやつらは多いです。でもだからっていきなり俺の指示に従いますかね? こんなクセの強い連中に」


「果たしてそうかな? みんな夜月のことを信頼しているし、『夜月がいなければ甲子園は叶わなかった』とみんな言っているよ。君の危険球に当たりながらも見せた執念のおかげなんだ。だから頼む、俺の代わりにオーダーを決めてくれ」


「監督……! そこまで俺を信じてくれるならやってみます」


~回想終わり~


「さあお前ら! 甲子園という最高の舞台を用意してくださった親や学校、そしてライバルたちや仲間たちに感謝して試合に臨め! お前らならできる! 勝つことだけでなく全力で楽しめ!」


「おー!」


 夜月が頭を痛めながら大声を出し、それに続けとムードメーカーの松田と津田が声を出し始める。


 園田と田村は念のために夜月の介護につき、いつ立ちくらみが来てもいいようにそばにいる。


 一方の試合は高鴨がいきなり先頭打者出塁、二番の松実裕が送りバントでワンアウト、三番の新子はスロースターターで三振に抑え込み、四番の上田はファーストゴロに抑えた。


 東光学園の攻撃では山田がフォアボール、布林がレフト前ヒット、天童がライト前ヒットでいきなり満塁のチャンスだ。


 四番の清原が久しぶりの四番で少し緊張しているのか、いつもよりフォームが硬かった。


 しかし腰の痛みもあるので夜月の懸命なマッサージやストレッチの効果もあって、『変に無理してホームランを狙うのはやめよう』と心掛けるようになり、コンパクトなスイングでタイムリーツーベースを放ち2点獲得。


「いいぞ清原。お前は余計なプライドを持ちやすい性格だ。だからこそ自分らしいスイングを貫けばいいんだ。でかいホームランだけが得点じゃない、それさえわかれば充分なんだからな」


「おっしゃー! 久しぶりの打点だー!」


「いいぞおっさん!」


「ちょっと太りましたか先輩!」


「うっせー! 打ったのにその言いようはなんだ!?」


 清原が先制点を入れると、いつも通りのオッサンいじりが始まる。


 オッサンと叫んだのが松田で、太ったかと(あお)ったのが津田とお調子者コンビがベンチを明るくする。


「まあ、いじられキャラであることには変わらないけどね」


「あいつはリアクションが面白いからな」


「だね。でも短気なのにいじられると何故かキレないのが不思議だよ」


「前までのあいつは余計なプライドがあってすぐキレ散らかしたからな。そうやって尾崎と喧嘩になったっけな」


「あれで夜月、すごく悩んで『自分はキャプテンに向いてない』と嘆いてたよな」


「言うな榊」


「あはは、けど本当に君の執念のおかげで甲子園に行けたよ。ありがとう」


「田村……! 次の相手次第ではお前をスタメンに出す。覇世田(はせだ)実業なら田村を、紅葉(あかば)学院なら申し訳ない」


「でも出番は与えてくれるんだね」


「ああ。それよりも応援だ。朴! いつもの熱いプレーで威圧してやれ!」


「イエス! 夜月先輩! さあ来い!」


「性格が豹変(ひょうへん)した……? さっきまで温厚で穏やかだったのに不思議な人……。確か在日韓国人だっけ? この人を勢いに乗せたらまずいから初球で手を出させてもらおう」


「そうしよう。それっ!」


「ストレートで甘い……!? いや、これは罠だ」


 パシッ!


「ストライク!」


「微妙に動いたか、じゃあツーシームか?」


「龍のストレートはツーシームじゃなくてただのクセ球だよ。バレたら打たれやすいからあまりストレートは投げないんだけどね。でも……追い込んでからが龍のターンだよ」


「いっそファールでツーストライクに追い込んであの球を投げよう!」


 パシーン!


「ストライク!」


「ナイスボール! ついに追い込んだ。あの火の玉ストレートで空振り三振だ」


「火の玉ストレート、俺の得意球だ。これで三振を……取る!」


「残念だったな燃えるドラゴン! 俺は速球に強いんだぜ! バーニングッ!」


「しまった! センター! ライト! 追って!」


「無理~っ!」


「追っても無駄そうだな……」


 カコーン!


 朴の放った打球はまさかのスリーランホームランで、一気に一回の表だけで5点も獲得した。


 松実龍はノーアウトでここまで打たれたことに涙目になり、鷺森をウルウルと見つめていた。


 その後も2回で3点、3回で1点と5回までで9対0となる。


 しかし夜月は喜ぶ様子をあまり見せなかった。


「おかしい……」


「おいどうしたんだ夜月? あんなに点を稼いで嬉しくないのかよ」


「いや、嬉しいっちゃあ嬉しいんだが……。高田、あの松実龍ってやつ、ただのスロースターターじゃなさそうだ。何かこう……あえて前半力を抑えてる感じがするんだ」


「まさか、あいつはただのスロースターターだろ?」


「いや、あいつの本来のピッチングは6回からだ。あの松実龍が投げてるうちにもっと点が欲しかったんだが……これは逆転も視野に入れた方がいいな」


「どういうことだ……?」


「高坂、奈良予選の松実龍と弁天学園打線の情報を言えるか?」


「うん、言えるよ。まずどのピッチャーにも言えるけど最初はあえて力を抜いて体力を温存するの。でも5回以降から本気を出して相手打線をノーヒットに抑え、打線に至っては相手投手や守備の連係を知ってるかの如く連打で大量得点で逆転勝利を収めているの。つまり……私たちは研究されてしまってる可能性があるってこと……?」


「ああ、だからこのメンバーで短期決戦で15点は欲しかったんだ。これはまずいことになったな……」


 夜月の悪い予感通り、回が進むごとに徐々に松実龍の球速が上がってきている。


 同時にだんだん点が取れなくなってきていて、守備もかなり堅くなってきた。


 それにいち早く気付いた布林や天童はバットを短く持ってチャンスを作ろうとするも、後の清原や朴、前沢が気付かずに打点を取れずにいた。


 逆転の弁天学園にどこまで逃げ切れるか――?


 つづく!

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