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第139話 因縁の決勝

 東光(とうこう)学園にとって因縁(いんねん)の決勝である今日、横浜スタジアムに着いたころには誰もがピリピリした状態だった。


 今にも一触即発(いっしょくそくはつ)な状態ではあるが、理性を取り戻すべく応援団の所へ一旦(いったん)移動する。


 するとたくさんの生徒が集まり、全校応援にしたわけではないが有志だけでも学校の半分以上が駆けつけてくれた。


 そんな中で早く来てくれたのが……


(こう)ちゃーん! 来たよー!」


瑞樹(みずき)! やっぱりお前も来てたのか!」


「は……?」


「あと一つで甲子園だね!」


「だな。俺たちは目の前の試合に集中して甲子園へ行くだけだ」


「他にも池上荘(いけがみそう)のみんなも朝早くから来てくれたんだよ?」


「あいつらが?」


有希歩(ゆきほ)は生徒会の仕事で生徒を集めたり点呼(てんこ)を取ったりと離れてるけど、ほら!」


「おー夜月(やつき)! お前らを待ってたんだぜ!」


「ここまで来たからには絶対に甲子園に連れてってくれよな?」


(コクコク……)


「お前ら……ありがとう」


「夜月くん、僕も来たよ」


「渡辺先輩! 昨日はありがとうございました。それよりもその子は……?」


「ひっ……!」


麻友美(まゆみ)ちゃん、このお兄さんは怖い人じゃないから大丈夫だよ?」


「本当……?」


「うん、本当だよ。ほら、挨拶(あいさつ)と自己紹介してごらん?」


「は、はい……。えっと……渡辺麻友美(わたなべまゆみ)です……。よろしくお願いします……」


「よく出来たね」


「恥ずかしがり屋なんですね」


「年の離れた従妹(いとこ)なんだけど、あまり人と話をしようとしないんだ。でもアイドルには興味津々(きょうみしんしん)で、すーみんというネットアイドルに憧れてるみたいだよ?」


「えっと、そのすーみんとは……」


「私の事ですか?」


「うおっ!? 澄香いつの間に!?」


「はわわ……! す、すーみんさんっ……!?」


「はじめまして、すーみんこと水野澄香(みずのすみか)です。いつも彼氏がお世話になっています」


「よろしくお願いします。夜月くん、やるじゃないか。こんな有名なアイドルとお付き合いしているなんて」


「小学校の時の合同遠足のペアだったので、それで俺のことを知ってたみたいです」


「ある意味、君の運命力は相当なものだね。アルプススタンドで応援しているよ!」


「ありがとうございます!」


 池上荘のみんなや渡辺とその従妹の麻友美、さらには澄香も応援に来てくれて大事な決勝戦というのが垣間見えた。


 夜月は応援の力でやる気が上がり、『川崎国際が相手だろうと負けない』という気持ちでベンチに入った。


 シートノックを始めると、川崎国際のアルプススタンドから大規模なブーイングが起こり、中にはノックを邪魔しようと赤外線ライトを使って集中力を切らそうとしていた。


 そんな荒れた決勝戦のスターティングメンバーは――




 先攻・川崎国際


 一番 サード 清水祐介(しみずゆうすけ) 三年 背番号5


 二番 ショート 鳥越篤也(とりごえあつや) 三年 背番号6


 三番 センター 田中秀太(たなかしゅうた) 二年 背番号8


 四番 指名打者 木野貴晶(きのたかあき) 三年 背番号17


 五番 キャッチャー 高畠岬樹(たかばたけみさき) 三年 背番号2


 六番 ファースト 関口晃大(せきぐちこうだい) 一年 背番号3


 七番 ライト 指田悠(さしだゆう) 二年 背番号9


 八番 セカンド 中里健太郎(なかざとけんたろう) 三年 背番号4


 九番 レフト 乙茂内勝治(おともないしょうじ) 二年 背番号7


 ピッチャー 植木政也(うえきまさや) 三年 背番号1





 後攻・東光学園


 一番 セカンド 山田圭太(やまだけいた) 三年 背番号4


 二番 ショート 西野崇(にしのたかし) 一年 背番号6


 三番 キャッチャー 天童明(てんどうあきら) 三年 背番号2


 四番 センター 夜月晃一郎(やつきこういちろう) 三年 背番号3


 五番 レフト 朴正周(パクセイシュウ) 二年 背番号7


 六番 ファースト 清原和也(きよはらかずや) 三年 背番号13


 七番 サード 布林太陽(ぬのばやしたいよう) 一年 背番号5


 八番 指名打者 前沢賢太(まえさわけんた) 一年 背番号24


 九番 ライト 尾崎哲也(おざきてつや) 二年 背番号9


 ピッチャー 榊大輔(さかきだいすけ) 三年 背番号1




  ――となった。


「夜月、大丈夫か?」


「ああ、大丈夫だ。今日ほど興奮する試合はない。みんなと一緒なら必ず勝てる。自分だけじゃなく、みんなのことを本気で信じてるからな」


「そうか、さすが俺が認めた男だ。君のようなリーダー気質の男を『どうしても欲しい』と理事長に頼み込んだ甲斐(かい)があったよ。何かあったらすぐに俺に言いなさい。とくに君のことを集中狙いするだろうし、君が一番ラフプレーの対象になると思ってファーストを避けたんだ。他のみんなもラフプレーが来る前に備えるように! あいつらの野球は戦争だ! せっかくの神聖なる野球を汚した罪をここで裁いてやろう!」


「はい!」


 整列をして礼をし、川崎国際の清水が打席に立つ。


 天童はあおいから事前に聞いていた情報を頼りにリードし、高めの球は必ず見逃すがストレートが速いとつい手を出す癖があると見抜き本当に空振りして三振。


 鳥越は流し打ちをしようとわざとタイミングを遅らせる傾向にあり、あえてアウトコースに投げて流し打ちシフトを組むことで抜かれないように守備位置を移動し打ち取る。


 三番の田中は中学こそ違えど民主党の洗脳に染まった人で、元々はピッチャーだったがコンバートをしてきた。


 小技が聞く選手だがパワーがあまりなく、引っ張ることが出来ないので外野が前進守備してライナーでアウトになる。


 榊はいつも以上に闘志を燃やしていて、夜月を甲子園に連れていく気持ちでいっぱいだった。


 しかし攻撃ではその力みのせいでなかなか思うようにバッティングが出来ず、なかなかチャンスに恵まれなかった。


 2回の表を順調に抑え、2回のウラで夜月の打席になり、植木は『ストレートしか投げない』と言わんばかりにストレートの握りを見せつけてきた。


「ストレート一本で勝負ってか。悪いがそんな挑発には乗らない」


「言っとけ。お前ごときでは天才の俺を止めることはできねえんだよ」


「誰のおかげで天才になったのかも忘れちまったか……。まあそれを言ったら俺も傲慢(ごうまん)になるし、こうなったら勝つしかねえか。来い!」


「何が俺のおかげだ……お前は最初からチームにいらなかったし、お前さえいなければ俺たちは簡単に一年からレギュラーを取れたのに邪魔するからだろうが。そんで才能が抜かれたから『俺に感謝しろ』だと? ふざけやがって、そんなお高くとまってるやつを徹底的にぶっ潰してやろうぜ」


「夜月……お前には感謝しているところもあるぜ? お前がいたから俺たちは天才だと思えるようになった。そして今や甲子園も目の前にある状況だ。お前に引導を渡して俺たちが正義だってところを証明してやるよ!」


 スパーン!


「ストライク!」


「なるほどな……やっぱりそういう事か。あいつのストレートは確かに速いしコントロールも悪くない。けど……」


「夜月もお前の球にビビッて動けないぞ。これはチャンスかもしれない。どんどんまっすぐでいくぞ」


「おっしゃ。ふんっ!」


「インコース……おらあっ!」


「ライト!」


「オーライ!」


 パシッ!


「アウト!」


「ちっ……まあいい。次は打つ」


 夜月は植木の球筋(たますじ)を見極めつつあるのか、後続の朴や清原にストレートは思ったよりも軽かったとこっそりと感想を伝えた。


 すると朴も清原も長打とはいかないものの安打を放つ。


 しかし布林はそれでも力負けして三振、前沢はボールの軽さをよく理解しておらずにセンターフライに終わった。


 3回の表では指田をフォアボールで出塁させると、中里が天童に向けてわざと大きく後ろにテイクバックし、このままいけば打撃妨害の判定を取られるような事をした。


 さらに指田もショートの西野の足元を目掛けてスライディングをする。


 ムッときた山田は塁審(るいしん)抗議(こうぎ)する。


「すみません、タイム」


「タイム!」


「あの、さっきのランナーはスライディングの際に西野の足元を目掛けて()()()スライディングしたところを見ていましたか?」


「見てたがそれがどうかしたのかね?」


「いや、見てたのに何で審議(しんぎ)すらしないのかなーって思っただけですよ。さすがの能天気(のうてんき)なオイラでも見逃せないなーって思ったのですが、何もないならもういいです。それに……あのバッターのテイクバックも明らかにキャッチャーにぶつけようとしましたね」


「そこまで私は見てないな……」


「でしょうね。ランナーを見るのに精一杯なら仕方ないです」


「君はさっきから何が言いたいのかね?」


「そうですねー、『審判としてのプライドとかあなたたちにはないのかなー』って疑問に思っただけですよ」


「それは……」


「ま、どっちにしろ勝つのはオイラたちだしいいんです。すみません、邪魔しちゃって」


「ああ……。(本当にこれでいいのだろうか……? 私は何のために審判になったんだろうか……?)」


二塁の塁審が山田に(さと)されて思い悩むように考え込み、どうやら審判にもある程度心があることがわかった。


 山田のやんちゃな性格とコミュニケーション能力の高さ、それに持ち前のポジティブさと明るさで悪い雰囲気(ふんいき)にしないようにし、審判の心をある程度揺さぶったのだ。


 西野は指田のラフプレーに(おび)えるばかりで何もできなかったことを反省し、『そろそろ自分も逃げてばかりいないでアピールしなきゃ』と心に(ちか)った。


 気を取り直した試合では中里はフォークで三振、乙茂内もショートゴロに終わって清水も難なくファーストフライで終わる。


 3回のウラも東光学園はあまりパッとしなかったし、4回の表では榊は徐々に打たれ始めてついに4点を先制されてしまう。


 しかし石黒監督は5回ですでに9対0なのに一向に榊からピッチャーを変えようとしなかった。


 5回のウラの攻撃を終え、6回の表の前にグラウンドを整備してミーティングを行う。


「榊、随分打たれたな」


「向こうのプレー、荒いしラフプレーとかベンチやアルプスからの妨害で思うようなプレーもできなかったしな」


「みんなお疲れ様!」


高坂(こうさか)、ドリンクありがとう」


「それで夜月、これからどうする?」


「高坂、データはどうだ?」


「うん、もう大丈夫。データは全部集まったよ」


「よし……」


「という事は夜月、まさか……?」


「ああ、そうだな。ここからは……俺たちも本気でいこうか」


 グラウンド整備を終え、夜月とあおいは何か秘密のデータ表を選手全員に見せる。


 ミーティングを終えてそれぞれ守備位置につき、選手一同はアンダーシャツを全員着替え始める。


 すると……東光学園アルプスでは生中継越しに野球部の真実が明かされる。


 その様子を試合の生配信を見ていたリスナーのチャットが荒れた。


『今、カチャって音が鳴らなかった?』


『気のせいだろ? ただアンダーシャツを着替えてただけだろ』


「しーっ、今ベンチの様子を聞いてるから!」


「なんか体がめっちゃ軽いぞー!」


「確かに今まで重かったのが嘘みたいです」


「アンダーシャツに(なまり)を入れてプレーしたんだ。リストバンドとかバッティンググローブにも入れておいてよかったな」


「さすがにスパイクやグローブ、バットには無理だったけどな」


「じゃあそろそろ行きましょうか。あの野蛮(やばん)な鬼退治が始まりますよ」


「よっしゃ! いくぞ!」


「おーっ!」


『あの人たちまさか今まで鉛を入れて手加減してたの……?』


『しかもデータは集まったって……?』


『ということは今までの試合は全部……!?』


 東光学園のベンチでは鉛の入ってたアンダーシャツをあおいが全部回収し、選手たちは全員体が軽い状態でグラウンドに入る。


 雰囲気が変わったことに川崎国際もさすがに感じ取り、今までの東光学園とは()()()()と感じた。


 それもそのはず、今までの予選の試合は全部その重りをつけた状態でプレーしていたのだから。


 疲労困憊(こんぱい)なはずだが普段の練習からつけていたので、心身のケアもキッチリ行ってきたから疲労も少なくて済んでいる。


 ここからずっと東光学園のターンが始まるのか――?


 つづく!

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