第135話 準決勝・金浜高校
準決勝の相手は王政大第二と金浜の勝者だが、層の厚い金浜の投手陣に圧倒されてコールドゲームで金浜に決まる。
東光学園対策に赤津木と神田は温存され、この時のために本気で挑みに来ている。
あおいはなるべく多く情報を得るように金浜へ自ら偵察に行くなど行動を起こした。
そんな中で準決勝当日、横浜スタジアム前にて赤津木と夜月が出会った。
「よー、東光学園のお出ましだな」
「赤津木か。神田の方はもう大丈夫そうだな」
「まあね。おかげでリハビリもすぐに終わったし、僕も君たちを抑えるの楽しみだよ」
「ああ、今の補聴器は西暦と比べて全聾でも聴こえるようになってるんだったな。科学の力はすげえや」
「だろ? まあそれよりも……俺たち黄金バッテリーはお前らに備えて温存されてきたんだ。悪いけどもう一度甲子園に行かせてもらうよ」
「臨むところだ。かかって来やがれ」
赤津木と夜月は二人で『絶対抑える』のと、『絶対に打つ』という闘志に燃えていた。
球場の中に入り、ウォーミングアップを済ませてついにスターティングメンバーの発表に入る。
先攻・東光学園
一番 セカンド 山田圭太 三年 背番号4
二番 ショート 木村拓也 三年 背番号16
三番 キャッチャー 天童明 三年 背番号2
四番 センター 夜月晃一郎 三年 背番号3
五番 レフト 朴正周 二年 背番号7
六番 ファースト 清原和也 三年 背番号13
七番 指名打者 前沢賢太 一年 背番号24
八番 サード 松田篤信 三年 背番号15
九番 ライト 高田光夫 三年 背番号14
ピッチャー 園田夏樹 三年 背番号10
後攻・金浜高校
一番 センター 四十崎桜太 二年 背番号8
二番 ショート 近藤祐介 三年 背番号6
三番 キャッチャー 神田貴洋 三年 背番号2
四番 ファースト 月野葉月 三年 背番号3
五番 セカンド 八王子平利 三年 背番号4
六番 指名打者 有山結矢 一年 背番号19
七番 ライト 天ヶ瀬伊吹 二年 背番号9
八番 レフト 琴葉和耶 二年 背番号7
九番 サード 白家健太 二年 背番号5
ピッチャー 赤津木暁良 三年 背番号1
――となった。
「今回は三年生を中心にしたオーダーにした。正直言って一年と二年は赤津木とは相性が悪い。彼は変化球も多彩で緩急も自在。さらに球速も榊並みとなるとまさに完璧だ。だが三年生は赤津木対策をしっかりと三年間もやっている。だからこそ三年生を中心としたオーダーとなった。だがフルスイングを常に心がけられてる朴と前沢を後輩ながら出したのは、君たちのフルスイングは赤津木にとって脅威と判断したからだ。自分の与えられた仕事はきっちりこなし、やれるだけの事を全部やりきろう!」
「はい!」
「お前ら、野球とは何だ?」
「急にどうしたんだよ兄貴? まさか記憶をなくしたわけじゃないよな?」
「そんなわけないだろ。監督はわざと俺たちに聞いてるんだぜ?」
「なるほどな……はづの言う通りか。たかっち、わかるか?」
「えっと……多く点を取り、その点を守るゲームです」
「月野にはバレたか。その通りだ神田くん、野球は攻撃ではとにかくアウトにならないで点を多く取り、守備では素早くスリーアウトを9回取って点を守る。極端に言えばそんなゲームだ。ホームランだけが打ちたいのなら野球なんかやめてホームラン競争すればいい。ファインプレー狙うのもいいがそれで点は取れない。格好つけておいて失敗したら本当に格好悪い。とにかく塁に多く出て点を取るチャンスを活かせ。そして素早く正確に9回スリーアウトを奪え。やる事は本当にシンプルだ! お前らの底力をこの俺に見せてくれ!」
「はい!」
「整列!」
「「いくぞ!」」
「「おう!」」
名将の石黒監督と、若大将の赤津木監督がそれぞれの選手に喝を入れ、選手たちも大いに気合いが入る。
赤津木はスロースターターなところがあり、スタートが出遅れてなかなかコントロールが定まらない弱点があったが、さすがに三年目ともなるとそれはもう克服済みだ。
そんな事は山田も木村も天童もわかっていて、とにかく塁に出る事に集中した。
しかし赤津木は今日の試合は絶好調で、山田と木村、天童を連続で三球三振に抑え切る。
その一方の園田はスタートがよく、三人をあっさりと打たせて取るなど投手戦が予想された。
園田の弱点である見た目ポーカーフェイス、しかしボールは素直で心の状態が見える弱点は最初からランナーがいる状態で実戦バッティング練習をさせる事でプレッシャーを与える練習である程度は克服した。
2回の表、ついに夜月の打席になる。
「来い、暁良!」
「お前との勝負、一年の頃から楽しみにしていたよ……。今日ここで引導を渡してやるさ……」
「ノリノリだね暁良くん。僕も夜月くんとの試合を楽しみにしていたもう一人だよ。耳が聞こえないと知っても僕を差別しないし、特別扱いも全くしない。一人のライバルとして接してくれた君だけは絶対に抑え、うちが甲子園に行かせてもらうよ」
「たかっちもノリノリじゃねえかよ。いつもならこんな強気なリードしねえだろ!」
「うっ……!」
「ストライク!」
「やっぱ速いわ……!」
「153キロもあんのか……!」
「榊より速いんじゃねえか?」
「俺だって負けねえぞ! 吉永、ブルペン付き合ってくれ!」
「俺ですか? 喜んで!」
「いいぞ! ただし無理と無茶だけはするなよ?」
「はい監督! もちろんです!」
赤津木のあまりの球威に夜月は圧され、ついにファーストゴロに終わる。
それを見た榊は心に闘志が燃え、三番手キャッチャーの吉永をブルペンに連れて行った。
朴と清原もフルスイングで威圧するも、結局外野フライに終わってスリーアウト。
しかし赤津木はベンチに戻ると、ある愚痴を赤津木監督に吐く。
「朴正周と清原和也のフルスイング、マジで怖えんだけど! いくら最強のエースの俺でもあんなフルスイングされたらさすがにビビるっての!」
「お前、青葉学院とはやりたくないって言ってたもんな。東光学園が勝ちぬいてホッとしたろ?」
「そ、そんなんじゃねえよ! 俺が青葉学院と相性が悪いの知ってるでしょ? まあどっちにしろ俺が勝つけどな!」
「まあそうだな。相性なんか力でねじ伏せる暁良らしいな。だが神田くんのリードがあってお前のピッチングが……」
「わかってる。最強エースの俺でも俺一人じゃあ勝てない。最強の黄金バッテリーの相手のたかっちと一緒なら、俺は最強を越えた最高になれる。あいつには感謝してるし、ここで勝って川崎国際にたかっちの怒りをぶつけてやるさ……」
「そうだな……あいつらの野球は戦争だ。俺もあいつらの弱みさえわかればいいんだがな……。だがその前に永遠のライバルの東光学園に勝つことに今は集中だ。ここで勝たないとリベンジすら出来ない」
「だな! はづ、いっちょ大きいの頼むわ!」
「任せろ! 来い!」
「背は小さいのに筋肉凄いな。これは見た目で騙されたら一発出るな。園田はストレートもよく伸びるし、変化球も多彩でコントロールもいい。スタミナだって悪くないからそう簡単に打ち崩せないはずだ。弱点はもう他校にバレちまったが、だからってそのままにしていると思うなよ?」
「あの時の試合ほど悔しい事はなかった。だから何度もプレッシャーに耐える練習をした。今までは耐えてるフリをしたけど、チームのみんなに指摘されてからは、このままではいけないと努力してきたんだ。残りは自分を信じて……投げる!」
「何か甘くないか……?」
「っしゃんなろー! ど真ん中とかなめやがって! ぜってー打ってやるっ! あっ……」
「今の軌道はまさか……!? まあいいや、サード!」
「おっしゃー! そらぁっ!」
「ナイスボールだ松田!」
「アウト!」
「あームカつくー! あのストレートは何なんだよ!」
園田のストレートのカラクリは、一年の頃に卒業生の小野がかつて教えたツーシームだ。
ストレートの一種で、握る縫い目を変えて普通に投げれば微妙にシュート回転し、小さく身体の方へ動くストレートだ。
取得自体は簡単だが、使いこなすには当然練習が必要なため、誰でも投げれるがそれを活かすにはストレートが自慢である事だ。
園田は球速もそこそこ速いのでツーシームを上手く使う事が出来た。
ただ園田は少し完璧主義なところがあって、実戦で使うには長い期間を費やしていた。
その後は八王子と有山を三振に取り、3回の表で前沢だ。
赤津木は初心者ながらもホームランを何度も放った前沢を警戒し、『迷いのないフルスイングは青葉学院の佐倉並み』と見込んで本気で挑んだ。
その前沢は当たりこそ詰まったもののセカンドとライトの間にポテンと落ちるヒットを放った。
それも小太りしている見た目の割に足も速く、すぐに安打となった。
松田もそれに続けと気合いを入れて雄叫びを上げ、フルスイングで打席に入る。
「来い!」
「今日の東光学園はフルスイングするメンバーが多いな。夜月くん以降は全員フルスイングする傾向があるのかな? 暁良くん対策のつもりだけど、対策されるほど燃えるのが彼なんだよね。だから……」
「ストレート主体とはやっぱり今日のたかっちはいつもより強気だわ。それとも俺がまさか……あの状態になると信じてるのかもな!」
「ストレート……くっ!」
「ストライク!」
「ナイスボールだよ! 暁良くんがあの状態になるには、最高のライバルに出会えること。中学時代はみんな打てなくてどこか冷めてしまったけど、高校野球のレベルの高さに再燃して野球の推薦を受けた過去があるんだ。東光学園にはちょっと協力させてもらうよ」
「前言撤回、やっぱり性格悪いだけだ。俺を何かに利用しているし、相手をも利用しているかもしれないんだけど。でもいいや、それならそれで結構だよ。どのみち自分からいつでもなれるしな!」
「真っ直ぐ来た! って、えっ!? 落ちた……しまった!」
「俺が自ら行く! そらあっ!」
「アウト!」
「あー!」
神田は何やら赤津木の何かの状態にさせるべく、強気なリードかつ打たせて取る作戦に移った。
赤津木はその状態の正体がゾーンなのは察しているが、あえてチームのみんなには自分の意志でゾーンに入れる事を黙っている。
もし自在にやってしまえば自分に依存してしまうだけでなく、それがかえってプレッシャーになって貧打になる事を恐れているからだ。
そんな赤津木は九番の高田も三振に取り、両校とも無得点のまま6回の表まで進む。
この無得点の状態から先に抜け出すのは――?
つづく!
 




