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それいけ!東光学園野球部!  作者: 紅夜アキラ
第一部・第一章
14/175

第12話 合宿試合

 夜月(やつき)たち夏のメンバーは合宿の7日目にてグラウンドの準備を進める。


 7日目は無冠(むかん)の強豪と呼ばれる横浜向学館(こうがっかん)と、新たに新設された川崎国際との試合だ。


 横浜向学館は野球部が強豪で、未だに甲子園に出場したことがないのが信じられないと言われているほどの学校だ。


 設備も整っていて、応援が統一されたシンクロのようだと言われている。


 一方の川崎国際は、元々は川崎朝鮮高校だったが、現・川崎市長が個人的に買収(ばいしゅう)して新たに国際高校として創り直した新設校だ。


 しかし元々いた韓国籍の生徒たちは川崎国際の校風が()()()()と言って生徒のほぼ全員が転校し、東光学園に来た韓国人も数多くいる。


 一体何がその評判を悪くしたのか、そして本当は別の高校と試合するはずが、川崎国際の校長の強い要望で試合する事になった。


 石黒監督は川崎国際と試合するのを渋るのは何か理由があるのだろうか……?


 そんな中でここ、学園第一野球場ことグラウンドでは――


「全員集合!」


「はい!」


「さてと、第一試合は横浜向学館。第二試合は川崎国際になる。君たちはこの合宿でどこまで成長したのか、この目で確かめさせてくれ。というわけで試合のスターティングメンバーの発表をする」


 第一試合 横浜向学館戦メンバー


 一番 センター ホセ・アントニオ 三年


 二番 キャッチャー 天童明(てんどうあきら) 一年


 三番 ライト 渡辺曜一(わたなべよういち) 三年


 四番 ファースト ロビン・マーガレット 三年


 五番 サード 中田丈(なかたじょう) 二年


 六番 指名打者 本田(ほんだ)アレックス 二年


 七番 セカンド 我那覇涼太(がなはりょうた) 三年


 八番 ショート 志村匠(しむらたくみ) 二年


 九番 レフト 尾崎哲人(おざきてつと) 三年


 ピッチャー 小野裕也(おのゆうや) 三年





 第二試合 川崎国際戦メンバー


 一番 センター ホセ・アントニオ 三年


 二番 キャッチャー 田中一樹(たなかいつき) 二年


 三番 レフト 夜月晃一郎(やつきこういちろう) 一年


 四番 ファースト ロビン・マーガレット 三年


 五 番 サード 中村鋼兵(なかむらこうへい) 三年


 六番 ショート 島田正道(しまだまさみち) 三年


 七番 ライト 大島秋人(おおしまあきと) 三年


 八番 指名打者 清原和也(きよはらかずや) 一年


 九番 セカンド 新田彰(にったあきら) 三年


 ピッチャー 松井政樹(まついまさき) 二年



 となった。


「以上が試合のメンバーだ。どうした夜月、顔が硬くて暗いぞ?何かあったのか?」


「いえ、別に……」


「それならいいけど。とにかく今日の試合は自分を試す場だと思って全力で楽しんでこい!」


「はい!」


 石黒監督の言葉に東光ナインたちは気合いを入れ、試合に向けてウォーミングアップをする。


 キャッチボールを済ませてペッパーバッティングをする。


 バント練習もしたり、ドリルで軽く動いたりと疲れない程度に身体を温める。


 すると横浜向学館野球部と、川崎国際野球部がようやくグラウンドに姿を出した。


「っちゃーっす!」


「おはようございます!」


「うーっす」


「お待ちしておりました。僕が東光学園硬式野球部主将の渡辺曜一です。更衣室は三塁側のロッカーがありますのでそこでお着替えください。ロッカーは一塁側にもありますが、幸いどちらも二部屋ありますので各自底を使ってください」


「ありがとうございます。横浜向学館野球部主将の堀江雪斗(ほりえゆきと)です。今日はよろしくお願いします」


「えっと……」


「こんな奴らに挨拶(あいさつ)などしなくていい。時間の無駄だし、何よりもチャラいのが移る」


「それもそうですね。じゃあ失礼」


「えーっと……僕、川崎国際に何か悪い事でもしたかな?」


「いや、明らかに感じ悪い監督と主将だった。あの主将は確か一年だったよな。『態度に気をつけるよう』に言っておくか?」


「大丈夫。小野くんはまず体を冷やさないようにしてね。ここは冷暖房完備(れいだんぼうかんび)だから肩が冷えると投げれなくなるからね」


「ふっ、お前は冷たくされても優しいな。だから表では菊池のことを苗字(みょうじ)呼びな上にさん付けしているのに、裏では菊池と付き合ってるんだろ?」


「はは、それは()()()()だよ。彼女には別の彼氏がいるさ。それに何だか胸騒(むなさわ)ぎがするな……。ちょっと夜月くんの様子を見てくるよ」


「ああ、わかった」


 渡辺は夜月の様子が変な事をずっと気にしていて、同時に何か悪い予感がすると胸騒ぎがして昨夜は眠れなかった。


 川崎国際の名前を聞いた時点で顔が暗くなり、声もいつもより自信なさげだったので気になって仕方なかった。


 一方こちらは一塁ベンチ側、ウォーミングアップが済んだ東光ナインは道具の手入れやサインの確認などをする。


 そんな中で夜月は突然ベンチから立ち上がる。


「ちょっとトイレ行ってきます」


「おう、()らすなよ」


「……。」


「どうした天童?お前も漏れそうなら我慢しなくていいんだぞ」


「俺も行ってきます」


「おう」


 天童もまた川崎国際の名を聞いた夜月の様子を気にしていて、瑞樹から過去の話を聞いていたことと何か関係があるのではないかと思い、夜月の後を追った。


 しかし行った場所は本当にトイレで、殴り込みに行かなくてホッとしたのか立ち去ろうとした。


 ところが……先ほどの川崎国際の主将がトイレに入り、何やら怖い顔をしていたので様子を伺う。


 夜月は手を洗っていると、その主将が夜月に声をかける。


「おい」


「っ……!? テメェ……何の用だよ、植木!」


「相変わらずムカつく喋りしてんだな、夜月……」


「テメェこそ相変わらず態度だけはデカいな……!」


「あれが夜月の同級生だった奴か……? 神木(しぼく)中出身の連中は噂以上の()()ばっかだな……!」


「あれ? 天童くん?」


「キャプテン……静かにしてください。今、夜月が川崎国際の生徒と揉め事で、今飛び出したら面倒なんです」


「なるほどね……それで盗み聞きってことなんだね。わかった、僕も聞いてみるよ」


「お前さ、何で東光学園にいんの? それも俺の方が『結果残してる』のに何でお前が東光に入れたんだよ? 俺なんてあんだけ『中学で結果残した』ってのに、名門校に全く声もかけらんねぇで川崎国際という新設校にスカウトされた程度なんだよ。他の連中も同じさ。高畠も、柳も、鳥越や清水、木野もさ。でも何でテメェみたいなやつがここにいるわけ? 俺たちの試合をメチャクチャにしたテメェがいるなんて……そんなオカルトありえねぇんだよ」


「あーそうかよ……。俺だって選ばれたのが奇跡だって思ってるよ。わかったからその足をどけやがれ!」


「また暴力か。そういやお前の妹、元気にしてるか?あの時のお前の妹の泣き顔は……本当にブサイクだったな。お前に似てブサイクで、存在価値のない顔してて、いるだけでムカつく奴は……せいぜい負け犬になって自殺でもしてな?」


「何だと……!? テメェぶっ殺してやらぁ!」


「このままだとマズい……! 天童く……」


「おーい夜月ー! もうすぐ試合だって監督が探してるぞ!」


「天童……」


「ちっ……! 暴力沙汰(ぼうりょくざた)をもう一度起こさせて落ちぶらせる作戦失敗かよ……! 本当に東光学園の連中はムカつくわ……」


「あ、ちわっす」


「ん……。じゃあな、二度とその面、見せんじゃねぇぞ」


「クソっ! ふざけんなっ! ふざけんなよっ!! ちくしょーっ!!」


「おい、それよりも妹の泣き顔って、何……?」


「聞いてたのかよ……!」


「おい! お前が傷害事件(しょうがいじけん)を起こしたって言うのは、あいつらが関わってんじゃねぇのか!?」


「うっせぇな! テメェには関係ねぇだろ!」


「夜月くん! 少し落ち着いて!」


「これが落ち着いていられるか!」


「やっぱり……中学時代、何かあったんだな?」


 渡辺がなだめるも、夜月はパニック状態になって壁を殴ったり、トイレのごみ箱を蹴ったりと暴れる。


 理性を失った夜月は、もはや先輩だろうと歯向かうほど怒っていて、もはや誰も止められそうになかった。


 そんな時に瑞樹の話を思い出した天童は、核心を突くかのように夜月の過去を知ろうと声をかけた。


「何でそのことを……? 誰から聞いた?」


「水瀬が()()話してくれた」


「あいつめ……! 余計な事を……!」


「とりあえず落ち着けと言われても今すぐにはムリだ。一度全部吐いてそこから吸ってくれ。落ち着いたら俺と一緒にベンチに戻るぞ。それから全部話してもらうからな」


「ああ……。キャプテン、さっきはすみませんでした……」


「君ほどの人がそこまで取り乱すなんてね……。わかった、君の話はゆっくり聞くよ。謝罪はいらないから、過去に何があったのか全部話してくれるかい?」


「はい……」


 理性を取り戻した夜月は、天童と渡辺によって上手くなだめられ、落ち着いたところでベンチに戻る。


 二人に肩を借りて運ばれた夜月は、試合前に少し疲れてしまい、出番が第二試合からなのが救いだった。


 ベンチに戻ると、心配した中田が夜月を軽く叱る。


「おいコラ夜月! 遅いじゃねぇかよ! 次遅刻したらぶっ飛ばすからな!」


「すんません……」


「キャプテン、そろそろ……」


「うん。みんな!監督やマネージャー、夏のベンチ外のメンバーも全員ベンチに集めてくれ! 夜月くんが話したい事があるんだ!」


「やっぱり話すんだね……」


高坂(こうさか)さん、何か知ってるの?」


「はい」


 渡辺の指示で監督やコーチ、スタッフ、部員やマネージャーを集めてミーティングを行う。


 夜月はみんなの前で話すのに緊張して一旦(いったん)深呼吸をする。


 本当は話したくない気持ちでいっぱいだが、天童に知られた以上はもう白状しなければならない。


 勇気を出して晃一郎は中学時代の全てを語った。


「俺は中学一年まではレギュラー候補で、もう既に三年の先輩を越えるくらいホームランを打ってたんだ。勉強はまぁ……お察しだったが、野球だけは頑張ったんだ。だが中学の顧問は『俺が試合に出れば他のメンバーが活躍できずにチームは敗退するから試合には出さない』って言われて……俺は中学野球部を辞めた。それ以来は学校では『劣等性』のレッテルを張られ、勉強も部活も出来ないゴミ扱いされ、理不尽ないじめも受けた。教師も見て見ぬふりでむしろ加担(かたん)するしな。親に相談して全力で助けられるも……学校から証拠隠滅(しょうこいんめつ)を図って両親の仕事を奪われたんだ。だがそれが油断だった……三年目の受験前に、あいつら野球部だけじゃない、他の同級生、それも大規模な人数で俺の妹を『拉致(らち)して、暴力を振るって泣かせた』んだ。女子もその中にいたさ。だから俺は『妹を泣かせる奴は許さねぇ』って暴れたんだ。おまけに男子は幼なじみの女子を『無理やり犯そう』としやがったんだ。それを止めるために抵抗(ていこう)もした。だがそれを問題視した上に、普段から俺を毛嫌(けぎら)いした学校が俺を不良とか犯罪者扱いして、俺だけを処分にした。証拠も瑞樹がばっちり撮ってたのに、一方的に俺を警察に放り込んだんだ。だから頭に来た俺は……校長を殴った。全治1ヵ月のケガだ。瑞樹も校長に怒りを(あら)わにして、『もうあなたの学校にはついていけない』と、水泳部を退部して俺について来てくれたんだ。そこで高校受験や就職活動のチャンスを学校ぐるみで奪い、俺は正真正銘(しょうしんしょうめい)、社会不適合者となった。そんな中でこの学校は俺にチャンスをくれた。だからこれは……恩返しのチャンスでもあった。なのに……あいつらに会うと……」


「もういい……これ以上は聞きたくないわ」


「そうだよな……。こんな俺の話なんて聞きたくないよな……」


「いや、むしろお前は何も悪いこととしてねぇじゃねぇか! そういや『川崎市は民主党政権になってから学校ぐるみでおかしくなった』って中学時代から聞いていたが、本当だったんだな……!」


「俺も第二試合から出番だけど、ちょっと怒りで頭がどうにかなりそうだからお前の分までキャッチャーとしていじめてやるよ」


「こんな最低な事……あってたまるもんか。俺たちがお前を勝たせてやるさ。ここのメンバーでいいんだと思わせてやるさ」


「そんな事があったんだ……。僕もバッティングで協力するよ!」


「そうかい……お前さんにはそんな事があったんだな……。やっぱり俺の目に狂いはなかったな! よし! 夜月のためにも川崎国際にだけは負けないようにしよう! あいつらはどうもウチを敵視(てきし)しているみたいだし、負けられない理由が増えたな! まずは目の前の向学館に勝利して、川崎国際にギャフンと言わせてやろう!」


「はい!」


 夜月は過去の話を全部吐いたことで少しだけ心がすっきりする。


 天童とあおいは、ようやく勇気を出してくれたと喜び、同い年の(さかき)と園田、山田は夜月の過去を知れて安心した。


 二年生では中田は怒りを露わにし、田中は報復を考え、松井は夜月を励ますように肩をポンッと叩いた。


 三年生のホセは夜月の頭を撫で、小野と斉藤はブルペンで燃え、ロビンは素振りで気合いを入れる。


 キャプテンの渡辺と石黒監督は夜月のメンタルケアを検討していて、学校のカウンセラーに頼るかを検討した。


 マネージャーの菊池と上原は夜月を優しく抱きしめ、安心したのか夜月は涙ぐんだ。


 こうして第一試合が開始した。


つづく!

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