第126話 抽選会~開会式
抽選会当日になり、夜月とあおいは二人でその会場へ向かう。
東光学園は春の県大会で初戦敗退なのでノーシードとなり、甲子園に行くには8回も勝たなければならない。
運よくシードくじを引けば7回なのだが、夜月は『くじ運が悪くハズレしか引いたことがない』ので不安だった。
会場に着き、夜月とあおいは受付に行って東光学園の出席を言う。
「東光学園の夜月晃一郎です」
「東光学園だね……んっ? 夜月くん! 元気だった?」
「お久しぶりです藤原監督」
「へえー大きくなったねー! 小学校の頃はあんなに小さかったのに! んでその子はマネージャーかな?」
「えっと……高坂あおいです」
「可愛いマネージャーさんじゃないか」
「そんなことないですよ?」
「それよりも自己紹介をしないと。高坂が戸惑ってます」
「あ、そうか。実は私は彼の母親とは小学校から高校までの同級生でね。彼が生まれた頃の名付け親だったんだ。んで少年野球では私が当時監督をやってたんだ。でも私は夜月くんが高校生になったと同時に少年野球から高校野球の理事になってね、こうして将来のプロ野球選手を見つめるようになったんだよ。中学時代の事はいろいろと聞いているが、あまり抱え込まずに甲子園を目指すんだよ!」
「はい、ありがとうございます」
「夜月くんって結構顔が広いんだね」
「ははっ! 暴力事件を起こして有名人になっただけだろ?」
「そうか……そういや川崎国際の主将だったんだな、植木」
「まあお前ら東光学園は一年の時は強かったが、お前が主将になってからは全然ボロカスチームで甲子園なんか無理だろうな。俺たちは最強のチームを作り、全国制覇をして本当の天才というのを世に見せつけてやるよ。お前みたいな悪魔の子は早々に負けて消えるんだな」
「あなたね……! 夜月くんは悪魔の子なんかじゃあ……」
「いいんだ。中学になってから俺のせいで負け続けたのは事実だし、あいつらが覚醒してから実力で勝った事がない」
「夜月くん……」
「だが覚えておくがいい。甲子園に行くのは俺たちだ。お前らのような戦争野球に俺たちは屈しない」
「言ってくれるじゃねえか……! まあせいぜい吠えているんだな!」
そう言って植木はその場を立ち去り、夜月は主将になってから大きくなった上に理性を保てるようになった。
あおいは夜月を侮辱されたことに怒り、絶対に川崎国際にギャフンと言わせてやると思った。
しかしライバルは天敵である川崎国際だけではない
「おーっす夜月!」
「夜月くんも抽選来たんだ!」
「お前と戦うのが楽しみだな」
「まあ勝つのは俺なんだけどね!」
「佐倉!有原に赤津木、それに涼宮まで!」
「俺たちもいるぞ」
「えへへ……ライバルに会いに来たよ」
「俺たちだって忘れないでね!」
「天海に渋谷、それに一十木に山中もか!」
「夜月、お前とは去年こそ勝てたが今年はどうなるかわからない。一切油断せずに全力でかかってこい」
「おいおい、絶対王者の金浜の主将である俺を置いて熱くなるなよ?」
「赤津木、お前の事も忘れてない。お前には苦労はさせられたからな。今度は完全攻略させてもらうぞ。それよりも神田の方はもう大丈夫か?」
「たかっちならもう完治したよ。お前らには心配かけてすまなかったな。だがその分、全力で最強の黄金バッテリーの実力を見せてやるよ」
「こっちこそ全員野球で甲子園に今年こそ行くもん!」
「負けない」
「お前らなんかこの俺が全員抑えてやるから覚悟しろ!」
「俺がホームランを全打席放ってやるぞ!」
「誰が勝っても恨みっこなしだからね!」
「もちろんだ!」
「お前ら……抽選次第だが試合で会おうぜ」
「おう!」
こうして金浜の赤津木暁良、常海大相模の有原翼、帝応義塾の一十木拓也、横浜工業の山中俊介、鷺沼学園の天海春太、日ノ本大湘南の涼宮晴人、青葉学院の佐倉響介、川崎総合の渋谷凛太郎に再会し、夜月は『試合では負けない』と約束した。
こうしてライバルたちとの闘志を燃やし、全員と別れた後は会場に入り抽選を始める。
シード校はライバルの中では金浜高校、常海大相模、川崎総合、帝応義塾、鷺沼学園だ。
日ノ本大湘南、青葉学院、横浜工業もシード校だが第二シードなのでさきほどの第一シードと比べたらあまり結果は残していない。
夜月は舞台に上がってくじを引く。
結果は……
「東光学園、59番です」
「おっとここで開幕戦を引きましたね。東光学園が開幕戦を迎えるのは創部以来初の事です」
「相手は神奈川県立伊勢原西高校かあ。新暦の高校野球は普通の公立校でさえレベルが上がってて西暦ほどの格差はないから念のために情報を集めようっと」
あおいはいくら無名校でも去年の夏を思い出し、『もう二度と甲子園に出てない普通の公立校が相手でも油断をしない』と決めていたので情報を全力で集めようとする。
東光学園は惜しくもシードくじを外し、1回戦からのスタートで8回勝たないと甲子園に行けない状況になる。
順調に勝ち進めば青葉学院、横浜工業、常海大相模、金浜、日ノ本大湘南、鷺沼学園に当たる。
帝応義塾、川崎総合は決勝で当たるところとなり、ライバルたちは決勝で夜月と対戦したいと思った。
こうして抽選会を終えて大会の組み合わせ票が完成した。
開幕戦だと知ったチームメイトは全員喜び、これで本格的な夏が始まる。
開会式を迎えて26人の選手たちはユニフォームに着替え、横浜スタジアムで開幕戦なので最後の入場に備えて並ぶ。
プラカードを持つのは……
「俺っすか!?」
「前沢の度胸ならテレビに真っ先に映るのは光栄な事だろ。初心者とは思えないその度胸を買ってお前を先頭に出すんだ。行進の足踏みを乱すなよ?」
「俺を誰だと思ってんすか? 俺は最強の高校球児、リズム感くらいあるぜ!」
「確かにドリルとかでもリズミカルだもんな。じゃあ頼んだぞ」
「うす!」
という事があって前沢がプラカードを持って先頭で行進する。
開会式のファンファーレが鳴り響き、シード校のライバル校が続々と入場する。
もちろんシード校の中には川崎国際もいる。
夜月は嫉妬はするものの、『自分たちは自分たちの野球をすればいい』と言い聞かせ、目の前の事に集中した。
川崎国際が入場すると、川崎市民以外から盛大なブーイングが発生した。
それほどラフプレーや審判の買収、さらにひいきすぎる判定に対してファンは嫌な思いをしているのだろう。
そして東光学園の入場の時間がやってきた。
「よし! 行くぞ!」
「「おう!」」
「「いち・に! いち・に!」」
「東光学園高校」
「去年の夏は市立横浜工業に敗退し、秋や春の大会でも悔しい思いをしてきました。夜月が主将してから成績が振るわずでしたが今年の夏はどうでしょう?」
「人数こそちょっと強い公立校並みと少ないですが、選手の層は非常に厚くバラエティに富んだ選手たちが多くいますからね。毎年夏を楽しませてくれるのがこの学校です。ただ川崎市民は東光学園派と川崎国際派に分かれてまして川崎国際派からは相当嫌われていますね」
「なるほど。さあこれで全チームが入場いたしました。ここからは国歌斉唱、優勝旗返還と各会長の言葉、そして選手宣誓です」
国歌の君が代を斉唱し、市立横浜工業の主将である山中が優勝旗を返還し、高野連神奈川支部会長、神奈川県知事のスピーチを手短に済ませ、ついに選手宣誓が始まる。
「選手宣誓。戸塚学園主将、会津若松くん」
「宣誓! 我々選手一同! 高校球児一同は! 世界には野球がやりたくてもやれない子どもたちがおり! その恵まれた環境である日本の高校球児として! 世界中の子どもたちが野球に憧れ! 我々が手本になるよう心掛けつつ! 今この瞬間!野球が出来る喜びと感謝をし! 正々堂々と戦う事を誓います! 選手宣誓!戸塚学園主将! 会津若松!」
選手宣誓を終えて選手が全員退場し、開幕戦である東光学園と伊勢原西はベンチに向かってウォーミングアップをする。
キャッチボールとトスバッティングをし、先発の佐藤と捕手の津田がブルペンで投げ込んで体を温める。
試合が開始すると、開幕戦で早々に打線が大爆発を起こす。
伊勢原西のエースが打たれ込むも、投手不足が招いて交代する事が出来ずにノックアウトし、そのまま打たれ込んで5回コールドで勝利。
2回戦の戸塚学園と3回戦の大和川も順調にコールド勝利してついに4回戦を迎える。
その相手は横浜工業となる。
去年の夏のリベンジを果たすべく、夜月たちは気合いを入れて練習に励んだ。
そしてついに……そのリベンジを果たすときが来た。
つづく!




