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それいけ!東光学園野球部!  作者: 紅夜アキラ
第三部・第一章
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第121話 合宿3日目・守備編

 合宿の3日目は守備力重視で捕球や送球などを重視した練習となる。


 そこで夜月(やつき)は本職を諦めたわけじゃないという事で外野の守備にも入り、(パク)や尾崎、木下(きのした)など有望な外野手を育成する役割を与えられた。


 もちろん他にも坂本や田村、高田もレギュラーに負けじと外野の守備力をアピールする。


 そこで石黒監督がアメフト部から借りてきたあるマシンを持ってきた。


「よし! 外野手諸君は今からこのマシンで練習してもらう! 使い方はこのマシンの目の前から背走(はいそう)でダッシュし、ランダムでこのマシンからアメフトボールが投げられるからそれをキャッチしてもらう。アメフト部のワイドレシーバーがよくやってる練習だな。外野はどうしても後ろに落としたら責任重大だからな。上手い外野手は後方(こうほう)守備の扱いが上手いからその背走を最低限にさせる練習だ。グローブは使わず両手でキャッチしたら俺の方に思いきり投げてくれ!内野手が中継(ちゅうけい)を繋いでこっちに投げるからな!」


「はい!」


 こうしてアメフトのレシーバーが練習するようなキャッチングの練習に入り、外野手たちは野球とは違う背走で戸惑(とまど)いを見せる。


 そんな中で夜月と尾崎だけは慣れた動きでキャッチし、投げるときも無駄のない綺麗なフォームで投げ、コースもバッチリだった。


 一方のようやく苦手な守備を克服しつつある朴にとってはなかなかの鬼門(きもん)で、慣れないボールの軌道(きどう)や回転、捕り方に何度も落球した。


 そこでベンチ外とはいえ真価(しんか)を発揮したのは……


「よっ!」


「ジェームズよく捕れるな! 動きは鈍いのに!」


「中学では野球だけでなくアメフトもしていた(ゆえ)。アメリカでは時期によって活動する部活を変えて兼任する事は珍しくはないでござる。夏に野球、冬にバスケかアメフトなどでござる」


「なるほどな、日本とは違ったメニューやってるからアメリカはどのスポーツも強いんだな」


「人種や民族が多種多様だから得意分野で攻めてるのもあると思うよ」


「ふーん、やるじゃん」


「ジェームズと朴、木下は加速派、尾崎と坂本、影山に田村、高田は初速派(しょそくは)なんだな。加速派はスタートを早くといってもスタートから飛ばすんじゃなく、スタートの判断力を極めれば少し遅れても加速力で捕球まで追いつくと思うぞ。逆に初速派はスタートが早いが時々判断力を誤って追い抜いたりすることがある。せっかくいいスタートを切ってるんだから逆に減速して調整する事を覚えよう。勢いよく打球に突っ込んだらその反動でグローブから弾き飛ばしちゃうからな」


「だから夜月先輩ってスタートがいい上に判断力もあって加速と減速の使い分けが上手いんですね」


「これはホセ先輩や渡辺先輩の直伝だよ。俺もただ偉大な先輩方に教わっただけさ」


「先輩と後輩の距離感がいい意味でないから俺も楽だよ兄貴」


「だろ? お前はあんまり距離感を感じると遠慮しがちだからな。遠慮がない方が東南アジア的にはいいだろう?」


「確かに中学の時から兄貴にだけタメ口効いても何も言われなくて安心したんだよね。おかげでわからない事を聞きやすいよ」


「これが夜月チルドレンの強さの秘密か……ふーん、なるほどね。じゃあ俺たち後輩が先輩に何かアドバイスしてもいいって事ですか?」


「そりゃそうだろう。外野で頼れるのは夜月だけじゃないさ。俺たちはベンチ入りしたとはいえレギュラーじゃないけど、俺たちも頼っていいんだぞ」


「確かにその判断力や送球の安定感は正直言って俺よりも田村や高田の方が安定しているな。とくに田村は左利きだし肩も強い。高田は堅実で俺よりもエラーしないし、そして二人とも足が速い。マジで一年の時のデビュー戦は助かったぞ」


「もう君一人に背負い込ませないよ?」


「けど甲子園では夜月から外野のレギュラーを奪うから覚悟をしてくれよな?」


「俺もあきらめたわけじゃないって言ったぞ」


 外野手の空気は非常に良好で、生意気が原因でトラブルを呼んだ尾崎、何を考えてるかわからない木下、バットを持つと性格が豹変する朴にとって田村と高田は堅実(けんじつ)で落ち着いているのか頼りやすく、夜月の負担をこっそり減らしたおかげで夜月も指導に回れる。


 アメフトボールに慣れてきた夜月たちはその感覚で外野ノックを受ける。


 すると不思議な事に背走が上手くいき、簡単に難しい大きな当たりを補球する事が出来るようになった。


 一方こちらは内野陣、夜月はファーストも兼任しているので内野の練習にも入る。


 キャッチボールではあえてハーフバウンドやショートバウンドを投げてもらうなどファーストとしての練習も清原と共に欠かさなかった。


 それに清原は指名打者だがファーストとしてのレギュラーを諦めたわけではなく、自分に出来る事があるなら指名打者で活躍してからファーストに復活しても遅くはないと判断し苦渋(くじゅう)の決断をしたのだ。


 ランダムシートノックを終えて休憩に入ると、夜月は一年生のレギュラーである布林(ぬのばやし)と西野、さらに将来性のある前沢(まえさわ)水瀬(みなせ)に声をかける。


「お前ら一年生ってさ、本当に守備の時に勘が優れてるよな。もしかして打球のコースが見えてるとか?」


「えっと……僕はキャッチャーのサインを把握してて、『そのコースに来たらここに来やすいかも』って予想をしているだけです」


「俺も西野と同じで予測してますね。それにファーストにお兄さんがいると投げやすいから捕球と送球に集中できて楽なんですよ。清原先輩だと腰痛持ちと聞いてちょっと暴投(ぼうとう)すると舌打ちするから投げづらくて……」


「僕も同じですね。清原先輩は威圧感を味方にまで出してしまうんです。野村先輩は安心感がありますがあまり声を出しませんし、そうなるとやっぱりエラーしても声をかけてくれる夜月先輩の方がサードとして投げやすいです」


「ん? 俺は気にしたことないけどな。でも清原先輩がめっちゃ俺を(にら)んでくるんだがそんな理由があったんだな。俺は知らなかったぜ」


「やっぱり……前沢くんは変に鋼メンタルだから羨ましいよ。ミスしてもヘラヘラしてて開き直ってるというか……全く気にしてないというか……。でもそのメンタルのおかげで何度か偶然なのか狙ってたのか、普通じゃあり得ないファインプレーをしたり、いきなり道を切り開いてくるから怖いよ」


「ん? 俺にそんな能力あったっけ?」


「自覚ないんだな」


「僕もそんなメンタル欲しい……」


「僕たち一年生は先輩に気を使うからどうしてもね」


「ん? オイラは気にしないぞ? ミスは誰にでもあるんだから次のプレーで決めればいいんだぞ」


「山田先輩……確かにそうですね。ちょっと弱気になってました。よし、ミスを恐れずどんどん積極的に守備をしていこう!」


「おー!」


「水瀬や布林って案外リーダーシップあるんだなー」


 内野ではファーストの事情で投げにくかったり投げやすかったりという話を聞き、いかにファーストが第二の女房役(にょうぼうやく)で送球時の心理的負担が変わるかが夜月は実感した。


 夜月自身は意識していないが、『自分は内野の送球が安定しない身分なので責めても仕方ない』と思ってるし、何より『攻めた結果ミスしたんだから責めても意味はない』と思っている。


 キャッチャーの時もいかに『今のピッチャーの状態を見てリードを変えるか』も意識している。


 声を積極的に出すのは一年生には荷が重いが、それでも声を出しやすいようにするのが先輩の役目だ。


 連携プレーの練習では素早く声をかけ、そして素早く捕って投げる練習をする。


 合宿で上手くダイエットできた布林の動きにキレが増し、西野と水瀬のような小柄な選手は小回りが利き、山田や松田、野村、木村の上級生も負けじと頑張った。


 すると山田と木村のあるプレーがさく裂する。


「やべっ! 捕れないところ打っちまった!」


「うおーっ!」


 ズザーッ!


「木村!」


「頼むぞ山田!」


「よっと! それっ!」


「おおー! ナイスプレー!」


 木村はどう見てもセンター前の当たりの打球を逆シングルでスライディングしながらキャッチし、山田がカバーに回っていたので木村は山田にグラブトス、そこで山田は素手でキャッチして夜月へ送球する。


 しかしショートバウンドしてしまったが夜月がそれをファーストミットですくい上げるようにキャッチ。


 三人による超ファインプレーを見せられ西野は不安になる。


 だが石黒監督はあえて西野と水瀬のペアを挑発すべく、わざと同じセンター前の当たりを打った。


「悪い! 間違えて打っちまった!」


「監督わざとっしょ!?」


「一年相手に鬼だなー!」


「光太郎! お前の守備の勘ならいけるぞ!」


「お兄さんが俺を信じてるんだ……! 俺だって出来るはず! うおーっ!」


 パシッ!


「げげっ!? スライディングせずに捕りやがったぞ!?」


「オイラたちよりスゲー……!」


「こっちだ水瀬くんっ!」


「はいっ!」


「ナイストス! それっ!」


「ノーバウンドかよっ!?」


「おーい三年の二遊間(にゆうかん)! 一年にもっといいの見せられたぞ!」


「くっそー! 俺だって負けてねえ! もっと厳しいの来い!」


「オイラだってやれるんだぞー!」


「この二遊間……サードの俺いらなくね?」


「石田! 弱気になるな! 俺たちも負けないぞ!」


「は、はい! 松田先輩!」


「いいぞ松田! じゃあいっちょいくぞ!」


「おっしゃー!」


 ベンチに入れなかった石田が弱気になり、松田が(かつ)を入れて負けじと素早い守備と強肩(きょうけん)で動けるサードとしてアピールする。


 布林にレギュラーを取られるもそれでも持ち前の熱血とポジティブさで何度も苦難を乗り越えた。


 ムードメーカーとして山田や木村と一緒にベンチを盛り上げ、津田に負けない声の大きさで鼓舞(こぶ)するなど大事な役目を果たしている。


 夜月にも松田には声の大きさで『俺たちが弱気になったら喝を入れてほしい』と頼まれ、プレー以外でも貢献できることを実感している。


 ここに来て野手陣は夜月の言葉で覚醒をし始めた。


 3日目を終えて4日目は投手陣を中心とした練習で、野手陣はいかに練習で投手陣を打ち負かすかに集中する。


 走塁でも投手陣を揺さぶって勝負を支配し、投手陣の心身共に厳しい練習で能力の向上に付き合う。


 こうして4日目が行われた。


 つづく!

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