第118話 早めの合宿
「全員集合!」
「はい!」
6月上旬、全体練習を終えて石黒監督は急に全員を呼び出す。
夜月たちは一体何が起こるのかはわからなかったが、三年生は全員夏の合宿の事ではないかと思いついた。
一年生にとっては何の事なのかわからないし、二年生は合宿がある時期なのは覚えているがそれが本当にやるのか確信持って言える立場ではない。
全員集まり石黒監督は咳払いをしてからミーティングをする。
「まず三年生は卒業遠足からおかえり! ドリームランドは楽しめた様でなによりだ。ただもうすぐ夏のメンバーを発表して大会に備えなければならない。これまでの公式戦や練習試合を考えてこのメンバーにする。よーく聞いておくんだぞ! まず背番号1番……榊大輔!」
「はい! ……って俺ですか?」
「君の速球とスタミナと根性、そして勝負強さは本物だ。もうノーコンなんて言わせはしない。園田がエースなのも考えたのだが、園田はもう既にピッチャーとして完成されてしまって、榊ほどの勝負強さを感じないんだ。だから榊、君がエースとして引っ張ってくれ」
「そういう事なら任せてください!」
「次! 背番号2番……天童明!」
「はい!」
「よく疲労骨折や靭帯の炎症から這い上がってくれた。君の強肩は少し陰りがあるがそれでも強い。リードも入院中に勉強してくれたみたいだし、俺としてはこれほど成長した天才を見た事ないよ頼んだよ。背番号3番……夜月晃一郎!」
「はい!」
「わざわざ報告ありがとう。まさか君が本職の外野からファーストにコンバートするとはな。清原の指名打者専念でファースト不足な中で何故コンバートをしたのかみんなに話してくれ」
「はい、実は外野には朴や尾崎、そして木下もいます。木下は俺から見ても将来性が見込め、外野手不足も相まって木下を外野に選出して俺たちが引退後に後ろを任せられるような選手になってほしいからです。それに俺は外野だけでなくファーストやキャッチャーも出来ます。俺がわざわざ外野をやる必要はもうなくなったのでコンバートを決意しました」
「君の外野としての犠牲は忘れない。だが必要な時には外野として出すからな。背番号4番……山田圭太!」
「はい!」
「君の足の速さと守備力、そして小技のレパートリーは俺の期待を越えてくれる。チビだからってなめられるかもしれないが、それで油断させて相手を翻弄してほしい。背番号5番……布林太陽!」
「はい!」
「サードとしての即戦力として君には頑張ってもらう。しかし入部当初と比べたら結構痩せたな~。おかげで動きにキレが増したし守備の動きもいい。見た目以上に打つ技術もあるし期待しているぞ。背番号6番……西野崇!」
「は、はいっ!」
「君は自信がないと思ってるのはわかってる。でも君はパワー以外は本当に超高校級だ。前のチームでは何でもナンバースリーに甘んじて自信をなくしたのだろうが、ここでは思う存分好きなプレーするといい。背番号7番……朴正周!」
「はい!」
「守備が苦手だった君が夜月の指導のおかげで大分上手くなったな。もうエラー確定なんて言わせないように頑張ってくれ。ホームランを狙えるレギュラーは今のところ君くらいだからな。背番号8番……木下泰志!」
「はい!」
「夜月の指導で成長した君ならセンターを任せられる。だが夜月が本職のセンターを君に譲ったって事はどういう意味を表すか自覚を持ってプレーに励んでほしい。陸上部でハードル走をやって俊敏性と瞬発力を身に付けたのだから自信を持っていこう。背番号9番……尾崎哲也!」
「ういっす!」
「君のレーザービームは相手にとって最大の脅威となるだろう。守備力なら誰にも負けないところを見せてやれ。打撃の苦手なところは目を瞑るからやれることを精一杯やればいいんだぞ。背番号10番……園田夏樹!」
「はい!」
「今回は榊にエースを譲る事になったが、甲子園では君をもう一度エースにする可能性もある。ダブルエースなのだから卑屈にならずにそのストイックな性格でみんなを引っ張ってほしい。背番号11番……楊舜麗!」
「はい!」
「君のコントロールはもう誰にも真似できない。あんな際どいコースを投げ分けられるのは君くらいだろう。その几帳面かつクールで謙虚な姿勢で審判をどんどん味方につけてくれ。背番号12番……津田俊光!」
「はいっ!」
「声の大きさは間違いなく武器になる。ただ判断を誤りやすい癖があるから天童の堂々とした姿を見て成長してほしい。ムードメーカーとして声出しと天童の捕手としての援護を頼むぞ。背番号13……清原和也!」
「おう!」
「腰が痛い中でよく三年も続けられたな。ファーストを譲る事になって申し訳ないが、君の打撃センスは本物だし、指名打者として化けてくれる事を願っているぞ。背番号14番……高田光夫!」
「はい!」
「ユーティリティープレイヤーとして成長したな。おかげで困った時に君を起用できるよ。もちろん試合にも出てもらうし、困ったなと思ったら頼りにしている。君の器用さでみんなを救ってくれ。背番号15番……松田篤信!」
「はい!」
「声の大きさとムードメーカー度は山田や津田にも負けてない。サードとしての守備もいいし打撃センスもいいが、布林の即戦力と将来性を賭けて君から譲る事になって申し訳ないと思ってる。でも君は不貞腐れずにちゃんと指導したり励ましたりした。優しい君だから試合にも出すぞ。背番号16番……木村拓也!」
「はいっす!」
「チャラチャラしてて女遊びしてる割に毎日部活には来るし真面目にやってるしプレーは器用だし本当に遊んでるのかと疑ったよ。それほど君は見た目や素行以上に真面目で努力家だな。ベンチ入りだが西野の将来性に賭けただけで実質松田と同じレギュラーだと思ってほしい。背番号17番……田村孝典!」
「はい!」
「左利きとはいえ第二のユーティリティープレイヤーとして困った時に代打や守備交代で出そう。それに高田と違ってピッチャーも出来る。登板の方が多くなると思うがちゃんと準備して試合に備えてほしい。背番号18番……坂本大輝!」
「はい!」
「外野として将来性豊かだが三人ともピッチャーとしてあまり戦力にはならないんだ。だが君は他の外野手と違ってピッチャーが出来る。二刀流として今後も励み、レギュラー陣にはない武器で外野とピッチャーの両方を極めてくれ。背番号19番……鈴木翼!」
「はい!」
「君はスタミナ面に正直不安だ。だが中継ぎとして投げさせれば君ほど安定感のあるピッチングを見せたことがない。それにサウスポーでサイドスローなんかそうそういないだろう。マイノリティとしてのプライドでどんどん相手からアウトを取ってくれ。背番号20番……佐藤雄大!」
「はいっ!」
「君の笑顔は相手にとって不気味で何を考えてるかわからないと思われてるだろう。それに今時貴重なアンダースローを君は使える。高身長からのアンダースローはよりストレートがおっかなくなると思う。スマイル野球で見せ場を作ってくれ。背番号21番……川口尚輝!」
「はい!」
「中継ぎ投手から先発に転向したのは俺の人生で初めてだ。スタミナの不安が入部当初はあったが、小野の走り込みメニューのおかげでスタミナが進化したな。今後は先発として期待しているぞ。背番号22番……吉永裕介!」
「はい!」
「天童や津田みたいに無茶なリードはしない分、ピッチャーの調子を重視したリードで安心させてほしい。今のところ考えてリードするキャッチャーは君と本当の意味での臨時捕手の夜月くらいだ。頭を使ってチームを勝利に導いてくれ。背番号23番……野村悠樹!」
「はい!」
「四年連続で右利きのファーストだったが、久しぶりの左利きのファーストとして来年のレギュラーを想定してベンチ入りにさせた。夜月が外野に回った時に君の出番は多くなると思ってくれ。背番号24番……前沢賢太!」
「俺か!? よっしゃー!」
「うるさいぞ前沢。君の勝負強さと負けん気は本物だ。誰にも初心者だから仕方ないなんて言わさんぞ。代打要員で出てもらうがまさか始めたばかりなのにホームランを打つという意外性も持っている。おまけに肩も強いし足も速い。経験値を稼ぐ意味でベンチ入りした自覚を持って成長に励んでくれ。背番号25番……水瀬光太郎!」
「はい!」
「君の勘の鋭さと守備での初速の速さは素晴らしい。おかげで普通ならファインプレーなところを軽々と普通のアウトにしてくれている。これは見えないファインプレーだと思う。自分には何もないと思ってるだろうが、ここのベンチ入りを一年で果たした時点で何かあると思ってくれ。最後に背番号26番……井吹純平!」
「は、はいっ!」
「君については夜月がどうしても入れてほしいと言ったメンバーだ。君はスタミナこそかつての病弱な身体で失ったが、今の君はコントロールと多彩な変化球、そして変則ストレートで試合の最後を飾る抑えとして任命する。知ってるか?うちの守護神のセーブ率は凄く高くて優秀な選手が多いんだ。練習試合であれだけ抑えきって勝ったんだ。その事を誇りに思ってくれ。以上がベンチ入りの選手だ!最後にマネージャーの背番号27番……高坂あおい!」
「はい!」
「君の情報力は敵味方両方とも磨き上げられ、そして今や相手にとって一番嫌なマネージャーにもなった。第二の監督として記録を書いたり指示を出したり応援したりして陰から支えてほしい。28番を新顧問の長谷川理英先生に、29番をヘッドコーチに、そして30番は監督である俺だ。このメンバーを中心に夏の合宿を行うぞ。選ばれなかったメンバーは裏方に……ではなく甲子園に出場したときに入れ替わるチャンスを狙って一緒に練習に参加してほしい。もちろん……不貞腐れるような子はベンチにすら入れんぞ? たとえ三年生だとしてもな。以上! 来週から合宿を始めるから各自ご両親や寮長さんにちゃんと伝えておくように!」
「はい!」
こうして夏の大会出場メンバーが決まり、一週間後には夏の合宿が始まる。
夜月の思い切ったコンバートに選手全員が困惑したが、石黒監督だけは夜月の自己犠牲と将来性を見据えた勇気ある行動に感動し、今回のコンバートを引き受けた。
だが外野として諦めたわけではなく、状況によっては外野もやるしキャッチャーとして臨時で試合に出る事もある。
夜月は不器用ながらも縁の下の力持ちとして隠れユーティリティープレイヤーとなり、後輩たちの士気を上げていくつもりだ。
そしてついに……合宿が始まった。
つづく!




