第116話 最後の体育祭
5月に入り夜月たちにとって最後の体育祭のシーズンとなる。
今回の8月生まれの水色組の団長は瑞樹に任命され、副団長に夜月が任命された。
瑞樹と夜月の二人で一年生の出場種目のエントリーを決め、それぞれ出場する種目で登録する。
もちろん夜月たち二人は二人三脚リレーに出場が決定し、夜月と瑞樹は部活対抗リレーにも出場する。
そしてついに体育祭当日が訪れた。
「これより第2011回、東光学園の体育祭を行います。選手入場!」
全校生徒が入場し、観客席は満員御礼で拍手に見舞われている。
ネットでは何者かの工作で悪評が流れているが、それでも見ている人は全国に大勢いて川崎市自体がおかしいと勘付きながらも来てくれている。
そんな大勢のファンたちの期待に応えようと夜月世代の生徒は全員張り切っていた。
最初の玉入れでは黒組が一斉に放って一気に入れる作戦に出てそこで優勝。
綱引きでは茶色組に相撲部の生徒が集まってしまい、圧倒的なパワーを見せつけて優勝。
棒引きでは赤組と白組が決勝と紅白戦になり、白組のあえて少数で引いて引き終えた人が合流して後で大人数で一気に引く作戦が上手くいき優勝。
大縄跳びではあおいと天童が回し、他の生徒が跳んでリズムよく合わせられるようなかけ声を利用して優勝したのだ。
一方のフィールド競技ではソフトボール投げでは黄緑組の尾崎が、赤組ではつばさが無双して優勝。
走り幅跳びと走り高跳びは今年からその競技の専門の生徒は審判を務める事になり、どうにか格差を生まないように対等なルールにした。
その結果は茶色組の黒崎と黄緑組のクリスが走り高跳びを、黒組の林田とピンク組の浅倉が優勝した。
そしてついに二人三脚リレーが始まる。
「瑞樹、俺たちが出場するのはこれで三度目だな」
「そうだね。晃ちゃんと一緒でいられるのは今年で最後かあ……」
「卒業後は常海大学で経営を学ぶんだったな。頑張れよ」
「晃ちゃんはプロ野球選手にならないの?」
「俺ごときの実力じゃあ現実的じゃねえよ。どこかに就職して普通に働くか、大学に入って野球を続けるよ」
「そっか……じゃあ高校でたくさん思い出作ろうね!」
「おう」
「On your mark……」
パーン!
ピストルの音が鳴り、第一走者の選手が一斉にスタートを切る。
水色組はなんと第一走者がまさかの転倒で大きく出遅れてしまう。
おまけに普段仲良くないコンビなので走りながら口喧嘩が始まるなど幸先がよくなかった。
しかし第二走者からは徐々にトップまで追い上げ、第三走者は陸上競技部のエース級のカップル同士が息を合わせてトップにまでなった。
そして最後の名物コンビが……夜月と瑞樹だ。
「今回も瑞樹の歩幅に合わせるから足の回転遅れるなよ?」
「そっちこそ無意識に自分の歩幅にならないでね?」
「わかってるよ。じゃあいくぞ!」
「うん! これが最後の……私たち幼馴染みの力だよ!」
「やはり水色組の二人三脚といえばこの二人だ! 生まれた病院も誕生日も一緒で家が隣同士! しかしこれを見れるのは今年で最後になる! 寂しいですがあっという間に2位から離した! もう誰もその領域に入れさせない! そしてすぐにゴール! 記録は残念ながら新記録にはなりませんでしたが、個人記録ではまたもや新記録を出しています! 本当にこの二人は付き合ってないのかー!?」
「もう三年目だからそのいじりには慣れたわ」
「うん……そうだね……」
「瑞樹……?」
「ううん、何でもない。ほら表彰台だよ! 早く早く!」
「引っ張るなよ」
瑞樹は夜月の様子を見るからに誰か大切な人がいると察したのか、自分の失恋に対して吹っ切れた様で悲しげな表情を見せるも、それを強がっていつも通りに振る舞った。
おまけに18年間も一緒だったのに卒業後はお別れしなければならない事に胸が痛み、自分の最初で最後の恋は終わったんだと惜しんだ。
そんな中でも体育祭は進行する。
騎馬戦では青組の前沢が背の小ささとパワーを活かし、さらに豪快な性格も重なって上級生相手でも果敢に攻め落として青組優勝に貢献した。
昼食では池上荘のうち、夜月と林田、黒崎、郷田、河西、阿部、瑞樹、つばさ、クリス、麻美、世奈が部活対抗リレーに出場するためにちょっと早めに食事を取った。
昼食を終えて食休みをし、応援合戦を終えてついに部活対抗リレーが始まる。
「女子部活対抗リレーの出場チームを紹介します」
第1レーン 女子バレーボール部
伊月麻耶→日向陽子→影山翔子→月島佳
第2レーン 吹奏楽部
黄前久美→高坂麗香→川島みどり→遠藤麻美
第3レーン 演劇部
志田美紅→橋本アンナ→久住春→白波吹世奈
第4レーン チアリーディング部
雨宮亜矢香→アシュリー・リンドハースト→白咲ゆりな→クリス・マーガレット
第5レーン ソフトボール部
小笠原晶奈→鈴川梅子→宗谷冬子→中村つばさ
第6レーン 特別出場 陸上競技部・短距離チーム
川崎亮子→藤沢夏美→大和瑠衣→三浦春奈
第7レーン 水泳部
七瀬遥香→橘真琴→松岡凛子→水瀬瑞樹
第8レーン サッカー部
澤穂津絵→丸山真理沙→チョン・ソナ→ナターリア・ロナウド
――となった。
水泳部は女子全員がスパッツ型の水着だが、瑞樹だけはどうしてもハイカットタイプでないとダメなのか唯一のハイカットタイプの出場で、夜月は第4走者控え室で恥ずかしそうに下を向いた。
つばさや麻美、世奈、クリスも出場し、池上荘のメンバーがここでも揃った。
そしてスタートの時間だ。
「On your mark……set……」
パーン!
ピストルが鳴り、第1走者は精一杯のスタートを切った。
相変わらず陸上部短距離がグングン差をつけるが、その中でも追いつきそうなのがサッカー部とソフトボール部、そして水泳部だ。
ソフトボール部はアメリカ人留学生を、サッカー部は韓国人やポルトガル人留学生を入れているのでスピードは申し分ない状態だ。
しかし反撃もここまで、つばさや瑞樹を持ってしても陸上部に敵わず2位に終わった。
一方の男子は……
第1レーン 硬式野球部
山田圭太→天童明→榊大輔→夜月晃一郎
第2レーン サッカー部
白石智則→近藤隆太→レオナルド・クルール→河西裕樹
第3レーン バレーボール部
虎ノ門大悟→龍崎薫→朱雀焔→黒崎亮介
第4レーン バスケットボール部
柴田巧→ダニエル・ジャクソン・内川裕也→林田将太
第5レーン ラグビー部
ペレ・マウサウ→姫野和樹→五郎丸航→郷田猛
第6レーン ハンドボール部
レミー・ローリング→水無月桜弥→九頭竜由衣→羽宮塁
第7レーン 特別出場 陸上競技部・短距離チーム
桐生吉秀→ケンブリッジ和馬→ボルト・ソニック→阿部俊太
第8レーン 体操競技部
坂東秋希→橋本明日馬→溝口歩→徳川涼
――となった。
「On your mark……set……」
パーン!
ピストルが鳴ると男子だからか非常にレベルが高く、もう既に互角の争いを繰り広げていた。
デンマーク人留学生のハンドボール部、ジャマイカ人留学生の陸上部、アメリカ人留学生のバスケ部、そしてブラジル人留学生のサッカー部と国際色豊かな組み合わせにもなり、より疾走感があった。
さらに俊足揃いの野球部も2位をキープし、ついに夜月の出番だ。
「これは野球部速い! 陸上部に追いつこうとしている! しかし陸上部はもうインターハイの全国基準タイムを余裕で越える最強のチーム! いくら野球部でも限界か! 陸上部が1位でゴールイン! やはり陸上部の壁は分厚く、今年も部費サービスが誰も叶わなかった!」
結果は残念だったが2位なのでよしとし、3位のラグビー部とは大きく突き放した。
次の競技では障害物競走と借りもの競争では運動が苦手な生徒でも1位のチャンスがあり、なんと借りもの競争で白組の優子が、障害物競走では黒組のさやかが1位を取った。
持久走はなんとまさかの有希歩が女子で1位で会場は騒然。
どうやら有希歩には何か秘密があるようだ。
徒競走では毎年恒例のメンバーで1位が阿部、2位が山田、3位が天童のいつもの光景になった。
選抜リレーでは今年は黄緑組が圧倒的で、2位の水色組から大きく突き放したのだ。
結果発表の時だ……
「では総合順位を発表します! 11位……黄色組! 10位……紫組! 9位……ピンク組! 8位……オレンジ組! 7位……茶色組! 6位……青組! 5位……赤組! 4位……水色組! 3位……黒組! 2位……白組! 1位……黄緑組です! 12位は緑組です!」
「やったーっ!」
「まあ、こんなもんだね」
「尾崎! クールぶってないでもっと喜べ!」
「はいはい、わーやったぞー」
「棒読み!」
黄緑組に優勝旗が手渡され、団長の生徒が大きく上に掲げて喜びを分かち合った。
一方の部活対抗リレーの順位は……
女子の部
1位 陸上競技部・短距離チーム
2位 水泳部
3位 ソフトボール部
4位 チアリーディング部
5位 硬式テニス部
6位 サッカー部
7位 演劇部
8位 吹奏楽部
男子の部
1位 陸上競技部・短距離チーム
2位 硬式野球部
3位 ラグビー部
4位 サッカー部
5位 バスケットボール部
6位 バレーボール部
7位 ハンドボール部
8位 体操競技部
――となった。
こうして高校最後の体育祭を終え、みんなで片づけをして体育祭の余韻に浸りながら思い出話をする三年生も多くいた。
中には1位を取ったら告白すると言った男子たちが好きな人に告白し、カップルが誕生したりとお祝いもあった。
こうして体育祭を終えた後は三年生にとっては、東京ドリームランドの卒業遠足が控えていた。
つづく!




