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第106話 冬の合宿・バレーボール編

 冬の合宿の2日目を迎え、学園第一体育館で男子バレーボール部の練習に参加する。


 そこには主将である黒崎が野球部を歓迎し、ウォーミングアップをして準備をする。


 夜月(やつき)はバレーボールの自主練ではスパイクを放つ程度しかやってないが、黒崎はリベロなのでレシーブやトスをするのであまり実力を付けなくても問題はなかった。


 そんな中でバレーボール部の練習会を始める。


「あー、これから野球部にはレシーブの基本を教えるぞ。まずレシーブ以前に、ボールの拾い方には二種類あって、『オーバーハンドパス』と『アンダーハンドパス』があるんだ。オーダーハンドパスはいわゆるトスでよく使われるな。ただそれには例外があって顔の近くや頭の上に打球が飛んだらそれでレシーブする事もある。逆にアンダーハンドパスはレシーブの際によく使われる。基本的にサーブは下に落とすものだからこれが主流になるな。今からそのハンドパスの練習をする。各自今の実力を見せてもらうぞ」


「はい!」


「おお……さすが野球部だ。返事の声がデカいし素直だな……」


 野球部の声の大きさと素直さに黒崎は驚くが、強豪なだけあって別に本来なら驚くほどではない。


 だが黒崎のいる男子バレーボール部は不良の溜まり場で、チームメイトの同級生や後輩は全員舎弟(しゃてい)か、かつて敵対していたグループのリーダーばかりだ。


 黒崎がバレーを楽しそうにしているのを見て『自分も始めたい』と思った不良たちが『黒崎が東光学園を受験する』と聞いて受験し、初心者ながら持ち前の負けん気で関東大会でも準優勝をしたチームだ。


 そんな部を率いるのは女性監督で、その監督もまた不良上がりの元スケバンだ。


 黒崎を中心に(ねえ)さんと呼ばれているが、いつも恥ずかしいからやめろと言われている。


 そんな姐さん監督がついにやって来た。


「姐さん! ちわっす!」


「だからその呼び方はやめろ! 監督と呼べとあれほど言っただろ! ましてや学園のアイドル野球部の目の前でよ!」


「何となくだけど姐さんって呼びたくなる気持ちわかるわ」


「威圧感もあるし喧嘩(けんか)も強そうだしな」


「しかもこんな不良たちを束ねるなんて何者なんでしょうね……」


「えーっと、(さかき)と天童と津田だっけか? 全部聞こえてんぞ? レシーブ練習では覚えてろよな?」


「怖っ!?」


「ラグビー部の内田先生より怖いんですけど!?」


「ああ、言っておくが男子バレー部ではいつもの事だぞ」


「マジかよ……」


「ああ、紹介するぞ。男子バレー部監督の山口理子(やまぐちりこ)監督だ。よろしく」


「よ、よろしくお願いします……!」


「ん? お前まさか、夜月か!? ほら! あたしが高校生の時に何度か家にお邪魔した山口だよ!」


「山口って……まさか都子(みやこ)姉さんを知ってますか?」


「やっぱりあいつの弟か!話は聞いてるぞ!野球部に入ったんだな!」


「はい、俺もです。確か『()()()()()』って……」


「おい……? ()()()()()から二度とその名前で呼ぶな……?」


「すみません……!」


 早速山口監督に野球部一同は(にら)まれ、夜月は姉の知り合いという事で呼んでほしくない名前で呼ばれて(むな)ぐらを掴まれるなど野球部にとって恐怖の対象となった。


 ただ野球部はさすが強豪なだけあってバレーボールの最低限の動きは瞬時に出来た。


 とくに守備力の高い山田と尾崎はレシーブが上手く、打撃が上手い(パク)はスパイクが上手く決まっていた。


 ただ体重が重くて腰痛(ようつう)持ちの清原、身体能力は高いが不器用型の榊はちょっと苦戦をしていた。


 すると山口監督は野球部主将である夜月をいきなり呼び出す。


「夜月、あの清原ってやつ、腰を痛めてるな?」


「バレてましたか。確かに腰痛持ちでジャンプするのは苦労しますが、スパイクで上手く当たれば誰も止められませんよ、多分」


「相当信頼してるんだな。まあ見た感じは一番パワーがありそうだしな。身長もそれなりに高いし上手くハマればだな。そういうお前は黒崎の自主練に付き合ってくれてんだろ? うちの守護神(しゅごしん)をここまでにしてくれて感謝してるぞ」


「いえ、俺も自主練に付き合わせてますから」


「よし! じゃあサーブ練習だ!」


 バレーボール式のキャッチボールを終えて今度はサーブ練習で、パワーのある選手は勢いのあるサーブを、コントロールが自慢の選手は相手の嫌がるコースへ狙い撃つサーブを打つ。


 さらに予測不能な無回転サーブ、回転をかけて急に曲がったり落ちたりする変化球を打つ選手もいて、野球部一同はこんなの拾える気がしないと思った。


 それでも投手陣は上から投げる事に慣れてるからかサーブ練習に苦戦はしなかった。


 ただしジャンピングサーブだけは出来なかった。


 もう一方でレシーブ練習だが、こちらは非常にハードな練習だった。


「このゴミ箱に入れるようにレシーブしてみるんだ。素人(しろうと)の野球部は無理だろうから妥協(だきょう)はするが、黒崎のレシーブをよく見てみるといい」


「なあ夜月、そんなに黒崎のレシーブは凄いのか?」


「俺も気になるんだけど、黒崎ってバレー上手いの?」


「まあ見てな。あいつは全国レベルのリベロだって思えるからな」


「おっしゃあ! 来やがれ!」


「全部入れられなかったら俺にジュース奢れよ!」


「そっくりそのまま返してやる! 早く来い!」


「いいぜ! おらっ!」


「ほっ!」


「もういっちょ!」


「ほっ!」


「クソっ……これでどうだっ!」


「余裕っ!」


 かつて一番の天敵だと言われた不良がエースストライカーとして活躍していて、そんな彼が『これでもか』と厳しいコースにスパイクをするが、黒崎はそれをことごとくセッターの定位置の場所に置いてあるゴミ箱にボールを入れていった。


 その百発百中のレシーブを見た野球部たちは、あまりの美しさに魅入ってしまい、エースストライカーの不良の立場はだんだん薄くなっていった。


 50球に達しても全部入れた事で、黒崎の正確無比なレシーブコントロールは本当となった。


「マジかよ……!」


「あのスパイクも相当嫌らしく速い球だったのに……!」


「名リベロって本当だったんだな……!」


「だから言ったろ。あいつはこれでも中学時代はブランクがあったけど並ならぬ努力でここまでになったんだよ」


「ちくしょー! 次はお前からレシーブミスさせてやるからな!」


「へへっ! また返り討ちにしてやるぜ! これで50戦中全勝だな! お前のスパイクが一番ウザいしやりづらいからいい練習だぜ!」


「お前がレシーブの化け物なんだよ! 俺の立場がないじゃねえか!」


「ぶっちゃけ黒崎だから拾えた説はあるよな……」


「正直言ってあの先輩以外誰も拾えてないですしね……」


「ふーん、黒崎先輩やるじゃん」


「ふう……ゲーム形式で練習するのはお互いさまのようだな野球部」


「遊びながらもガチで練習するのはうちだけじゃないみたいだな」


「そうだな。よし、これからレシーブをセッターのいる位置に上げ、セッターは指定されたゾーンにトスをする練習だ。出来なかったら全員で腕立てと腹筋と背筋を10回ずつその場でやるんだ。野球部は出来ない前提だから……せめて全力でやらなかったらその筋トレをやろうか」


「よし! やってやるぞ!」


 張り切ったはいいものの、前半こそ多くの部員はサーブやスパイクを拾えたのだが、慣れない打球の行方で体がついていけなくなり、ついに半分以上が筋トレを連続でするようになった。


 いくら自主練で慣れてる夜月でも、本格的にレシーブやトスをするのは初めてなので、不器用さも重なって苦戦する。


 さらにスパイク練習ではスパイクのコツを先ほどのエースストライカーに教わり、瞬時に指定されたゾーンに打ち込むというパワーとコントロール、さらにブロックが不定期で飛んでくるので瞬時の判断力も練習する。


 ジャンプ力に自信がない清原は着地の時点でドシンと大きな音が鳴り、いかにジャンプが苦手がが見えた。


 身長が高い榊と朴はその身長を活かして綺麗なスパイクを決める。


 ただ身長が小さめの山田はもはやネットに届かないと思われたが……


「やった! スパイク決まった!」


「山田ジャンプ力あるな!」


「さすが山田! お前の守備力がジャンプに活かされてるな!」


「あいつチビの癖に何で……!?」


「清原は無駄な動きが多すぎるぞー。もっとコンパクトに最低限の力で最大限のパワーを出せるよう正しいフォームでやんなきゃだな」


「うるせえ! わかってるわ!」


「なるほどな……山田は耐空力(たいくうりょく)があるが瞬発力派(しゅんぱつりょくは)か。耐空時間が長いタイプは野球部にはいないんだな。そうとなれば紅白戦はこの組み合わせだな……集合!」


 山口監督は部員全員を集め、ついに紅白戦の準備に差し掛かる。


 紅白戦は全部で4チームいて、夜月と黒崎は同じチームとなった。


 他にも木下(きのした)や津田、バレー部からも何人かが同じチームになった。


 バレーは固定ポジションかポジションローテーションがあるが、今回は大会形式のローテーション形式でやる。


 そのため得意と苦手がハッキリしてしまうタイプは難しいのだ。


 ただし黒崎はリベロなので前衛に出る事が許されないので黒崎がいる内に点を稼ぐ作戦に出るようだ。


 紅白戦の結果は……


「すまねえ……! 俺がいながら最下位だった……!」


「いや、オイラたちが黒崎のレシーブを拾いきれなかったのが悪いんだぞ……」


「やっぱりバレー部のサーブは返せねえわ……!」


「スパイクがバカ速え!」


「さてと、まさか守護神がいながら最下位になったBチームはそうだな……フライングを5周してもらおうか!」


「げっ! マジかよ……!」


「フライング……?」


「あー……フライングはあのレシーブで飛び込むとこあるだろ。それをこのコートを5周回るんだよ」


「うわ……結構きついやつじゃん!」


「素人の俺たちにもやれってか!?」


「野球部は3周くらいに妥協するが、もし5周をやりきったらアタシがおにぎり作って食わしてやるよ! そしてバレー部の奴らも野球部全員が五周やりきったらお前らにもおにぎり作ってやる!」


「マジ!?」


「あの監督おにぎり作れるんだ!?」


「姐さんのおにぎりは店に出せるほどだぞ」


「だったら世話になったこいつらの分までフライング5周頑張るぞ!」


「兄貴の言う通りだ! やりましょう!」


「おし! 野球部に負けるな! 俺に続け!」


「おう!」


 こうしてフライングを5周終えた夜月たちは本当に山口監督の作ったおにぎりを食べる。


 他のチームの人は順位ごとにおにぎりの数が増えるが、ビリでもちゃんとおにぎりを食べさせるなど監督の人柄の良さが見えた。


 そしてそのおにぎりの評価は……


「監督、このおにぎり、うちのマネージャーにも負けないくらい美味しいです」


「本当だ……私もおにぎり作るの自信があったんだけど、こんなに美味しいのはじめてだよ!」


「さすがバレー部監督ですね。私なんておにぎりを握るの下手なのに……」


浅倉(あさくら)だっけか? お前の握りはちょっと強すぎる。もっと優しくしつつ形を整えるようにするんだ。多く握るのは悪いことじゃないし素人はそれでいい」


「おにぎりに詳しいんですね」


「何せアタシの実家は『おにぎり(ざむらい)』という店を経営してるからな」


「おにぎり侍って……? もしかして野球部に伝わるおにぎりの握り方を教えた……!?」


「お、知ってんのか。アタシはその社長の直系(ちょっけい)だ。おにぎりの会社を継ぐのが嫌で暴走族になったんだが、バイク事故で入院したときに社員からの差し入れで食べたおにぎりがとんでもなく美味しくてな、それで舎弟たちに何度もおにぎりを与えたんだ。その舎弟たちはみんなうちの社員だよ。アタシは普段は営業をしながら監督も兼任してるってわけさ」


「監督って優しいんですね。私ももっと上手く握れるように頑張ります」


高坂(こうさか)といったな、お前のはアタシが握るより美味いよ。だが浅倉はうちで練習した方がいいな」


「うっ……わかってますから言わないで!」


 こうしてバレー部と交流し、強い打球への恐怖感の克服、ジャンプ力、絶対にボールを落とさない執着心(しゅうちゃくしん)を身に付け、守備力やスパイクによる利き腕の連動性が向上した。


 次の3日目はチアリーディング部になる。


 いつも応援してくれるチア部の練習は……


 つづく!

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