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第105話 冬の合宿・文芸部、漫画研究部編

 冬休み期間中の間に硬式野球部は冬の合宿恒例(こうれい)の他の部活にお邪魔する。


 心身と頭のリフレッシュと、いつもと違うバラエティのある練習法で柔軟かつ型破(かたやぶ)りなチームを作る目的で作られている。


 もちろん他の部活との(きずな)を深めるのもあるし、何なら他の部活が野球部にお邪魔する事も珍しくない。


 そんな中で冬の合宿の1日目は……


「今日は文芸(ぶんげい)部と漫画(まんが)研究部の合同活動にご参加いただきありがとうございます。案内役は生徒会長であり文芸部部長でもある長田有希歩(ながたゆきほ)と……」


「漫画研究部部長の奥原(おくはら)さやかが務めさせていただきます……」


「よろしくお願いします」


「あら、野球部って声が大きいイメージがあったけど控えめにすることも出来るのね。さすが学園のアイドルだわ」


「長田さん……それ失礼だよ……」


「相変わらず厳しいこと言うな長田は。まあその方が長田らしいけどな。とりあえず何をすればいいんだ?」


「そうね、まずは私たち文芸部が書いたライトノベルとか小説を読んで感想会、そして今度は自分たちで物語を考えて書いてみるのはどうかしら?」


「俺たちも小説とか書くのか……」


「俺国語苦手なんだよなあ……」


「小説だけでなく詩や短編でもいいのよ? とにかく文字だけで何を表現するのかさえやっていれば大丈夫よ。夜月(やつき)くんにはよく私の小説投稿とかにも協力してもらってるの」


「ただのアシスタントと読んでみての感想を言うだけでそんな大したことじゃねえよ。奥原の漫画のアシスタントもそうだな」


「うん……夜月くんはハッキリものを言うから凄く為になるんだ……。厳しくも優しく上げてくれるから提出しててやりやすい……」


池上荘(いけがみそう)のメンバーの自主練に付き合ってる夜月らしいな。オイラもそんな友達欲しかったぞ」


「じゃあ早速まずは文芸部と漫画研究部は合作の会議を。私と奥原さんで野球部の指導をしてくわね」


「お手柔らかにお願いします……」


 (ヨウ)は自信がないのか有希歩にお手柔らかにするようにお願いする。


 実際に夜月を中心に何かしら文を書いて物語や詩を作ってみる。


 中には小学生が書くような文もあるが有希歩はそれをバカにせず最後まで面倒を見続ける。


 そしてついに発表会が始まった。


「全員出来たわね? どれどれ……なるほど。野球部は全員短編(たんぺん)()を書いたのね。時間が短いから無理もないわね。まずは(さかき)くんね……なるほど、夏に燃えるセミの気持ちを詩にしたのね。たった一週間の命で人生の全てをかけるなんて熱いわね。こういうの私は好きよ」


「あざっす!」


「園田くんは遠距離恋愛を想う彼氏を詩にしたのね。(あわ)くて切ない寂しさが伝わるわ。誰か好きな人でもいるのかしら?」


「それは秘密だ」


「そうでしょうね。山田くんは……飼っているハムスター自慢のようね。自分の飼ってるペットって可愛いものね。そのハムスターの気持ちを書くなんてペット想いのいい人ね」


「へへへ、オイラんとこのハムスターは世界一可愛いからな!」


「清原くんは……死んだ不良が自殺したはずのいじめられっ子に憑依(ひょうい)して第二の人生を送る物語を一話分書いたのね。その表現が(あら)いけど漫画にしたら面白そうね」


「おう」


「夜月くんは木下(きのした)くんとの合作でアイドル学園ものを書いたのね。何の取り柄もない子が努力でトップになるあれの続きね。こういうジャンルはライトノベルでは難しいけどよく続いてるわね」


「おかげさまでな」


「兄貴の試作品を読んで合作(がっさく)してみたかったんですよ」


「楊くんは……中国語? ちょっと外国語部の協力が必要ね……」


「申し訳ありません、つい癖で」


(パク)くんはやっぱり日本育ちだから日本語が上手ね。異世界転生ものが好きなのかしら? それも集団で転生なんて斬新(ざんしん)ね」


「普通なら一人だけ転生だけどありきたりかなと思いまして……」


「尾崎くんは……文芸の才能を感じないわね。もしかして国語は苦手?」


「これでも成績は10段階中7ですけど?」


「なるほどね、『文を書くのは苦手だけど作者の気持ちを理解する能力は部で一番』ね。感想文が優秀だもの。人には得意苦手があるから安心してね?」


「はあ……」


「津田くんは字が読めないわね……。えっと……詩なのは伝わったけど、どんな内容かしら?」


「すんません! 途中で寝てしまって何も考えてません!」


「そうね、最初は読める字なのに途中で急になぞり書きだものね。けど最初の分を読んだ限りは世界観は好きよ。後は居眠りせずに完了させることね。じゃあ次は漫画研究部と一緒にその書いた文を漫画化してみましょう」


「えっと……ここからは私が案内するね……。夜月くんは寮でやった続きを描いてね……。木下くんは何度も池上荘に遊びに来て合作してるみたいだから夜月くんと一緒に続きをよろしくね……」


「はいっす」


 こうして各自書いてきた文を漫画化していく。


 コマ送りに野球部一同は苦戦を強いられていたが、楊は元々漫画も好きなので技術は素人並だが漫画の描き方をそれなりに把握しているようだった。


 セリフの吹き出しの位置も完璧でキャラの動きがよく見えた。


 有希歩も楊の書いた文の正体が日本人による台湾の旅だとようやく理解し、台湾の事を想っていると伝わった。


 こうしてそれぞれ漫画化した作品をさやかが評価する。


「やっぱりみんないきなり漫画を描くのは難しいよね……。でもみんな諦めずに最後まで完成させて凄い……。絵の上手さは今回は見ないから……わかりやすい世界観で描いてるかを見てみるね……。棒人間でも私は文句言わないから安心してね……?」


「ほっ……」


「でも……楊くんと尾崎くん、朴くんは少しだけ慣れてるね……」


「まあこいつらとはたまに同人誌出してますからね」


「それで慣れてるんだね……。凄くわかりやすい絵で読みやすい……。夜月くんと木下くんは……二人とも息の合った工程(こうてい)で進んでてお互いの事を理解し合ってるんだね……」


「小学校の頃からの付き合いだしな」


「そうだね。兄貴とは長い付き合いだよね」


「後輩にタメ口を許してるのね……」


「いちいち指摘してたら偉そうなのに大したことない先輩みたいで嫌じゃん。それにその方がこいつにとってリラックスできるからいいんだよ」


「なるほどね……」


「じゃあそれぞれみんなの実力もわかった事で、合作の会議に参加してくれるかしら?」


「え? いいんですか? 俺たち素人の意見なんか通るんですか?」


「朴くん、素人だからこそ貴重な意見が出る事もあるのよ? いくらプロが最初に評価しても最後に読まれるのはその素人だもの。素人に感動を呼ばなければ売れないし意味はないの。プロが酷評(こくひょう)しても、プロと比べたら素人の方が人数多いでしょ? だから素人だからって私たちはバカにしないし、見下したりもしないわ」


「それに最後は多くの素人が評価して、名作かどうかがわかるから素人の意見は一番重要なんだよ……?」


「なら安心っすね」


「じゃあ会議開始!」


 こうして文芸部と漫画研究部、そして硬式野球部による合同合作会議が行われた。


 今回は夏のコミックマーケットに出展する合作で、東光学園を舞台に学校の七不思議(ななふしぎ)を男子生徒が全部解いていく物語だ。


まずは七不思議のテーマを考え、ホラー路線ろせんにすることになった。


 その七不思議は……


 ピアノが勝手に演奏される音楽室。


 三年二組にいる受験での自殺した霊。


 中庭にいる第三次世界大戦で戦死した兵隊たちの霊の行進。


 失った骨の一部を探す人骨標本(じんこつひょうほん)の理科室。


 血の流れる全ての廊下の水道。


 校長室にいる動く石像。


 そして屋上にいる自殺した霊の溜まり場となった。


 しかし実際はホラーと見せかけたコメディで全部誤解またはオカルト研究部による大規模なドッキリによるオチにするが、いかにコメディとバレずにホラーに寄せるかを話し合う。


 すると文豪(ぶんごう)ぶりを見せた楊がある意見を出す。


「最初は物悲しげに表現して読者の恐怖と同情を誘い、一個づつ解明していくごとにだんだん異変に気付いて、自殺した霊たちは『実は天国から先祖に感謝してもらうためにわざわざ降りてきて子孫の様子を見に来た』って事でどうでしょう? それもギャグ路線だけどシリアス的な要素もさらっと入れてしまいましょう」


「じゃああの軍人たちの行進は平和になった日本を守るために見守ってるという事にしましょう……」


「それなら人骨標本はオカルト研究部と科学部、声優部の協力で作られたって事にしよう。んで主人公は理事長の直系の孫でその誕生日に幽霊たちにも付き合ってもらうとか」


「全校でドッキリ大作戦ね。タイトル詐欺がアニメでも結構多く出てるから面白そうね」


「あのさ、だったらそれを知ってながら知らないふりして付き合う同級生や先輩も入れようぜ!」


(さかき)くんそれ名案ね。幼なじみにするかオカルト研究部の先輩で中学からの知り合いにするか考えましょう」


「じゃあそれをまとめ用のメモにするね……」


 こうして話し合った結果、前半から中盤まではホラー系の七不思議の物語になるが、後半に進むにつれてだんだんコメディ化し、クライマックスでドッキリながらも少しだけ感動を呼ぶ話にまとまった。


 野球部たちもいかに面白くするために真面目に意見を出し、文芸部や漫画研究部も『なるほど……』と納得させるほどのものも出した。


 こうして慣れない事の頭の回転や上下関係を恐れない意見交換を身に付けた野球部たちは、精神的にチームワークも上がり精神と頭脳、そして団結力が上がった。


 次の2日目は男子バレーボール部に参加予定だ。


 合同活動を終えて有希歩とさやかは……


「野球部って文化部だろうと見下さないしいいよね~」


「う、うん……そうだね……」


「奥原さんって夜月くんだっけ? 彼を見てる時の目が凄くウットリしてたけど、もしかして好きなの?」


「そそそ、そんな事……あるかも……。でも私みたいな地味子(じみこ)はきっと夜月くんは興味ないよ……」


「やってみないとわからないじゃない! それに……会長も何だか彼に気があるみたいだよ?」


「えっ……?」


「私はただ、彼を推薦(すいせん)してこの学校に入れさせただけよ。深い意味なんて……」


「とか言って長田先輩、ずっと夜月先輩の声を聴くたびに珍しい笑顔で……」


「忘れなさい……? お願いだから忘れなさい……?」


(会長の必死な顔、初めて見た……。これは重症な恋心だなあ……)


 いつも通り有希歩とさやかは同じ部員にいじられ、好意を抱きつつもまだ自分に正直ではいられないようだ。


 さやかは自分に自信がなく、有希歩はただ推薦をしたわけではなさそうだが、果たしてどんな感情なのか。


 つづく!

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