第100話 修学旅行・3日目
修学旅行も3日目になり、大和家で民泊してみんなで朝食を食べる。
どれも家庭でも食べる和食ばかりではあるが、専属の料理人が作ったものなので味も見た目もおいしそうなものばかりだった。
実際に食べてみると優子以外はあまりのおいしさに感動し、料理人に伝えられたところ凄く照れた表情で喜んでいた。
朝食を終えて身支度を済ませ、夜月たちは昨日の車に乗って平等院鳳凰堂へ向かう。
「皆さまお待たせ致しました。どうぞこちらへお乗りください」
「やっぱり高級車だから緊張するね」
「日本の極道は義理と人情を大事にするって日本の映画でも言ってたよ?」
「クリスどんだけ親日家なんだよ」
「お兄ちゃんも親日家だったからその影響かな?」
「私も実家が極道の先生が主演のドラマに出たことあるが、実際にそうなのかと疑ってたが大和家ではそれが本当のようだね」
「ええ、何だか守ってくれてる感があって安心するわ」
「それに俺たちの部活や学力事情も知ってたみたいだし、本当にいろいろと助かったぜ」
「だな。大和がここまでしてくれたことに感謝しないとな」
「いいご友人をお持ちになられましたねお嬢」
「そうですわね、皆さんはわたくしにとってかけがえのない仲間ですわ」
「BGMも欲しい頃でしょう。何か一曲お流し致しますか?」
「はい! それなら『スマイリング娘。』の『ラヴフューチャー』をお願いします!」
「河西くんは遠慮がないね……」
「かしこまりました。皆さまのご趣味も既に把握済みです。ではお聞きください」
黒磯の気遣いと遊び心ですっかり夜月たちも馴染んできて、もはや実家が極道だというのを忘れているかのようにリラックスした。
『スマイリング娘。』は今は『SBY48』に押されつつあるが、それでもアイドル界の王者として君臨しているスーパーアイドルグループだ。
その曲で盛り上がったところでカラオケ大会が始まり、歌うのが苦手な郷田は高音が出せずに苦戦していたようだ。
ただし郷田は低音で歌うのは得意で、音域が高くないというのがわかった。
平等院鳳凰堂に着き、全員で車を降りて黒磯の案内で回る。
「すごいね……これが10円のモデルになった平等院鳳凰堂なんだね」
「まるで水に浮かぶ神秘的な寺のようだ。こんな幻想的なものが日本にあるなんてな」
「本当に信じられねえな。大和はこういうところによく行くのか?」
「はい。京都の神社や寺院には数々のパワースポットがあり、それを感じてスピリチュアルなパワーで日々を送るのです。すると神や仏はわたくしたちを温かく見守ってくださるのです」
「そういや平安館のやつらも似たようなこと言ってたな」
「平安館をご存知なのですね」
「まあ……去年の秋に因縁のある相手なんだがな」
「そういや晃ちゃんは明治神宮大会で平安館に負けたんだよね」
「まあな……」
「不思議なご縁ですわね。夜月さんの野球の健闘を祈りますわ」
「おう、サンキュ」
「何か喉が渇いてきたなー。どこかでお茶したいなー」
「中村さま、平等院にはおススメのお茶スポットがございます。よろしければお飲みになられますか?」
「いいの? 是非! みんなはどう?」
「そうね、そろそろお茶にして一服しましょう」
「そういや京都のお茶って美味しいんだっけ? 一度飲んでみたかったんだ」
「俺も気になってたんだ」
(コクコク……)
「決まりですわね、ではあちらの喫茶店に参りましょう」
喉が渇いた夜月たちは敷地内にある喫茶店に入り、淹れたてのお茶を一杯飲んで一服した。
本格的な宇治抹茶を飲み、少し苦味はあるが美しい味で日本独自のお茶文化に触れた夜月たちは日本文化に触れた気がした。
休憩後にミュージアムの方に入り、仏閣や彫刻などを目にして美しくも威厳のある見た目に全員見惚れていた。
それを優子はほほえましく見守り、『京都に案内してよかったと』心から思った。
平等院鳳凰堂を一通り回り、次は伏見桃山城へ向かった。
「これが京都にある日本の城かー」
「やっぱり大きいね」
「すごーい! これが日本のお城なんだね!」
「うふふ、クリスさん京都に来てから嬉しそうですね」
「さすがアメリカ人……」
「そういや渡辺先輩から聞いたけど、ロビン先輩やホセ先輩もそんな感じだったらしいぞ」
「あーね、サッカー部でもブラジル人留学生のロナウド先輩もそうだったわ」
「バスケ部でも去年ケビン先輩がハイテンションだったのと同じだね」
「外国人留学生にとって京都は日本の聖地なのかもな。ラグビー部の留学生の先輩たちもそう言ってた」
「……。」
「陸上部の留学生も同じか。京都には惹かれる何かがあるんだろうな」
「だな。それにしても……」
「キレイ……!」
「ここでデートしたらロマンチックなんだろうな~……」
伏見桃山城周辺の城下町では紅葉並木が綺麗に並んでいて、見る者全員を魅了していった。
天守閣に登って展望台を除くと、赤く染まった木々がゆらゆらと揺れて自然を感じた。
途中でお好み焼き屋で昼食を取り、満腹になったところで映画村へ向かう。
その映画村ではまさかのイベントが行われていた。
「飛び入り参加オーケー、ミスター紋付き袴コンテスト……」
「これって観光客も参加してもいいんだな」
「せっかくだし出てみたら?」
「勘弁してよ……」
「お嬢、これはチャンスかもしれません」
「そうですわね。男子の皆さん、全員このコンテストに出ましょう」
「え、何で?」
「衣装なら借りれますし、もし優勝すれば東光学園の宣伝になるかもしれないですわ」
「なるほど、じゃあ参加しようかな」
「河西……俺は冗談じゃねえぞ。こんなガサツなヤンキーに紋付き袴なんか……」
「野球部の宣伝にもなるなら悪くない考えだな。俺はやってみるぞ」
「僕も陰キャで目立ちたくないけど、大和さんが張り切ってるし断れないね」
「阿部はどうだ?」
「……やる」
「郷田はどうなんだ?」
「俺はサイズが入るのか不安だが、面白そうだしやってみるか」
「ちっ……わかったよ。俺も参加するから仲間外れは勘弁してくれ」
「決まりだね! じゃあ私たち女子は客席で待ってるね!」
「修学旅行の思い出に参加するのですね! かしこまりました! いい思い出になるようサポートいたしますね!」
「俺たち全員同じ寮にいるんっす! さっき客席に行った女子9人も同じ寮っすよ!」
「河西、馴れ馴れしいぞ」
「そうなんですね! ではよりいい思い出にしないとですね! 頑張ってください!」
こうして男子たちは思わぬイベントに参加し、ミスター紋付き袴コンテストに出場した。
予選の結果は全員合格でベスト8まで進出。
夜月は普段から野球部で投稿や配信などしていたから知名度はあり、その票を稼いでいった。
しかしこの決勝ラウンドで男子たちにとって最悪なコンテストだった。
「ではこの日本刀で……抜刀して藁を斬ってもらいます!」
「あっ……!」
「どうしたの優子?」
「そういえば看板にあったルール説明に日本刀で藁斬りがあるって説明するの忘れてましたわ……!」
「お嬢……!」
「あちゃー、これはみんな終わったかなー……」
女子たちの想像通り夜月、河西、黒崎、林田、郷田、そして阿部は藁を斬れずに終わってしまい、おまけに郷田に至ってはサイズが合わなかったのか胸元が少しはだけてしまうアクシデントが発生。
その肉体美に女性から黄色い歓声と嬉しい悲鳴が聞こえ、林田の隠れてた片目も見えて想像以上のイケメンっぷりに同じような声が聴こえた。
河西と黒崎、阿部は元々の顔がイケメンなので斬れなくても歓声があり、夜月も色黒で短髪なので映えると女性の間でプチバズりが発生した。
結果は……
「ミスター紋付き袴コンテストの優勝は……花柳小次郎さんです! おめでとうございます!」
「うむ、誠に感謝する。そなたらの刀の腕は初心者といったところだが、磨けばきっといい腕になり藁を斬る事くらい容易くなるだろう。そなたらはどこの学校の生徒だ?」
「えっと……東光学園です」
「ふむ、東光学園か……覚えておこう。そなたらの思い出がいいものであらんことを願っている。ではまた会おうぞ」
「あの人、スッゲーイケメンだったな」
「刀の扱いにも慣れていたしね」
「何者なんだあいつ……?」
「花柳小次郎……? 思い出した! 黒田先輩が言ってたけど、あの月ノ姫というアイドルグループのプロデューサーじゃねえか!」
「えっ? あの世界一の和風アイドルユニットのだよな!? 去年の文化祭に来なかったか?」
「え? 来てたのか?」
「そうか、夜月は文化祭当日は秋季大会で出られなかったんだよな。月ノ姫は去年の文化祭のシークレットゲストで来てくれたんだ。コンサートホールはもう満員で月を彷彿とさせる黄色いサイリウムが綺麗だったぞ」
「マジか、見たかったなあ……」
(あの夜月晃一郎という者、僅かながら妖魔力を感じる……。彼は只者ではなさそうだ……)
(俺、何か花柳さんに見られてる……?)
花柳小次郎という月ノ姫のプロデューサーにも出会い、そして去年の文化祭のシークレットゲストが月ノ姫だと知った夜月はショックを受けた。
クリスや有希歩から月ノ姫のことは聞いていて、和風な曲に魅入られて少しだけ応援してたのだ。
大会とはいえ応援していたアイドルを見れなかったのは悔しかっただろう。
映画村でのイベントも終えて大和家に戻り、夕食の時間になり宴会場で食事をする。
宴会場ではお弟子さんが漫才や演劇をしたり、芸者や舞妓たちが日本舞踊を踊って盛り上げたり、三味線や尺八の演奏を聴いて感動したりした。
いつも通り銭湯に入るのだが、夜月と瑞樹は男湯と女湯越しにこんな会話をする。
「マジか、ボディソープが切れたか……。瑞樹ー! ボディソープ切れたからこっちに投げてくれ!」
「はーい! それっ!」
「おー、サンキュ!」
「あ、こっちはシャンプーが……。晃ちゃん! シャンプーをこっちにちょうだい!」
「わかった! そらっ!」
「ありがとう!」
「なあ、お前ら二人って……」
「思ったんだけど瑞樹と夜月ってさぁ……」
「「めっちゃ息が合ってるし本当に恋人じゃないの?」」
「いや、あいつとはそんな関係じゃないし!」
「こ、晃ちゃんはただの幼なじみだから! そんなんじゃないから!」
「ふーん(へぇ~)……」
「何だよその目は!」
「もう!つばさ酷い!」
こんな会話が聞こえて黒磯たちは男湯の更衣室でクスクスと笑っていたのは秘密だが、無事に銭湯でリフレッシュした後はいつもの大部屋に戻り、それぞれ寝間着用の浴衣をまた着る。
こうして3日目を終えて次の4日目へ入るのだった。
つづく!




