第99話 修学旅行・2日目
修学旅行も2日目を迎え、各班ごとに時間内であれば自由行動となる。
夜月の班であるA班は班長の優子を中心に回る事となった。
最初に回るところは……
「ここからでしたら最初は下賀茂神社に参りましょう」
「確か赤い橋がある神社だったわね」
「縁結びが有名なんでしょ? あたしも行ってみたかったんだ!」
「へえ、中村って恋愛気にしてたんだな!」
「どういう意味だよ河西!」
「うるさいぞ河西と中村。あんま騒ぐとバカだと思われるぞ」
「黒崎ー! 冷静ぶってんじゃない!」
「とにかく縁結びが有名ならそこに行ってみようよ!」
「縁結びよりも水に浸しておみくじの結果を見る水みくじが有名なんですが……まあいいでしょう」
こうして最初に行ったのが下賀茂神社で、各自おみくじを引いて水に浸して結果を見る。
夜月の恋愛は『長く待てば自ずとやってくる』と言われ、きっと澄香の事だろうとふと思った。
しかし女子たちは何やら落ち込んでいて、みんな『矢を引いて待ちすぎて獲物は逃げてしまった』と書かれていて、『もう既に遅しなんだ』とショックを受けていた。
そうならないように神さまにお祈りをしてから下賀茂神社を後にし、次の銀閣寺に向かう。
銀閣寺はもうすぐメンテナンスの時期に入るので今が入り時で、夜月たちは急いで銀閣寺へ向かった。
「銀閣寺って銀色じゃないけどそう呼ばれているの?」
「クリスさんの言う通り見た目は木造で銀色ではないですね。けどどこか日本的な雰囲気があっていいと思いますよ?」
「うん! クリスは金閣寺より銀閣寺の方が好き!」
「クリスって結構マニアだな……」
「俺もそう思う……」
「金閣寺は日本の名所というけど、金色すぎてあまり日本らしさを感じないんだ。だからクリスは一度銀閣寺に行ってみたいって思ってたの」
「クリスくんは下手な日本人より日本人らしいね。私もその気持ちに感化されたよ」
「はわわっ! 名女優にそう言われて嬉しいっ!」
「それは芸能界での話だ。今は同級生として対等な関係だし、そんな謙遜しなくていいよ」
クリスは憧れの銀閣寺に行けて満足し、本殿に入り浸って写真を何度も貼った。
郷田や黒崎はクリスの日本人らしい感覚に感心し、世奈もまたその感性に感化されて日本人らしさを思い出そうとしていた。
次の場所は八坂神社で、夏に祇園祭りの本場とされていて優子にとっては聖地でもある。
「この八坂神社を中心に祇園祭を行っていたのです。今は各神社が協力して京都の安定と平和を願う大規模なお祭りとなっています。昨日行かれた人妖神社も協力しているのですよ」
「祇園祭行きたかったなー」
「俺も行ってみたかったな」
「晃ちゃんと一緒ならいいんだけどな……」
「どうした?」
「何でもないよ!?」
「そうか」
八坂神社でまたお参りしてから清水寺へ行き、展望台まで登って京都の風景を見る。
そこには仏教でありながらも様々な宗教の象徴も改築され、西暦の頃よりも多様性あるお寺となった。
昼ごはんには優子の行きつけだった喫茶店へ行き、オムライスやハンバーグ、ハヤシライスなどを食べて一服した。
昼食を終えたという事で優子が案内した場所は、まさかの小さなビルの中で連れてかれたみんなは困惑していた。
そのビルの正体は……?
「優子さん……このお店は……?」
「ここはわたくしと同じ女子生徒には……着物を体験していただきます」
「えっ!? 着物!?」
「はい、着物です」
「着物はいいとしても、先生の許可は取ったの?」
「有希歩さんが憂いているだろうと思いまして、もう既に先生の許可はいただいております。その代わりわたくしの奢りという形になります。女子の皆さんには着物で可愛くなっていただきますね」
「うわあ緊張してきた……!」
「憧れの着物を着れるんだ……!」
「マジで!? 女子の可愛い着物見れるの!?」
「河西じゃねえけどドキドキするわ……」
「男子はどうすればいいんだ?」
「女子の着物姿をよくご覧になられてくださいませ。わたくしは普段から着ているので今回はお預けですが、皆さんの着物姿をお楽しみくださいませ」
そう言って優子は着付け室へ入っていき、瑞樹やあおい、クリス、有希歩、つばさ、さやか、世奈、そして麻美の着付けを手伝う。
店員さんも協力してくれるので優子一人では大変だった作業が捗り、髪形も少しだけアレンジを加えた。
男子たちは河西が覗きに行こうとするも、黒崎が気付いて止めに入り、郷田は仕方なく河西を掴んで止めに行った。
夜月は幼なじみやマネージャーの着物姿がどんなものなのか楽しみにしていた。
阿部は無口がより悪化し、もう女子の着物姿だけでも緊張してうつむいていた。
時間が経って女子たちがついにお披露目をする。
「どう……かな……?」
「うう……恥ずかしい……!」
「わーい! 日本の着物だー!」
「本格的な着物は衣装でもはじめてだな」
「あんまり見ないで……!」
「マジでこれ映えるって! さすがプロだわ!」
「メガネはそのままにしてもらったわ」
「今度和物の曲を演奏するなら着物で演奏しようかな?」
「うひょー! やっぱり似合うじゃん!カワイイ!」
「マジか……みんなサマになってんじゃんか」
「ああ……みんな似合ってんぞ」
「……っ///」
「やっぱりみんな男子に人気だからかいい感じだね」
「あれ? 晃ちゃんどうしてそっぽ向いてるの? もしかして照れてる?」
「そんなんじゃねえよ。幼なじみもついに着物を着るようになったんだなって思うと緊張すんだよ」
「あ、こいつあまりの可愛さに誤魔化したな」
「河西みたいにそういう目で見てねえからな?」
「どういう意味だよー!」
「みんな似合ってるよ。陰キャな僕でもわかるよ」
「そう言ってもらえると嬉しいわ」
「さあここから金閣寺に参りましょう。これが2日目ラストですわ。3日目は平等院鳳凰堂と伏見桃山城、そして映画村に参ります。4日目は学年で合流して嵐山へ参ります。そこで時雨殿という百人一首の施設でかるたを体験しましょう」
「全部優子が考えたんだ! すごいね!」
「皆さんに京都の魅力を知ってほしかったのですわ。西暦の頃とは随分変わりましたが、それでもいい街であることに変わりはありません。もうここには凶暴な活動家もいませんし……」
「何か言った?」
「いえ、なんでもございませんですわ! それよりも金閣寺に行って着物で歩いてみましょう!」
優子は自前の着物に着替えて金閣寺に向かい、女子たちのペースに合わせるように男子たちも小股でゆっくり歩く。
すると女子メンバーのあまりの美貌に男性観光客や地元民はみんな女子たちに釘付けで、いかに東光学園マドンナメンバーである池上荘女子たちが可愛くて美しいかが伺えた。
他にも優子だと気付いた地元民には『お嬢! おかえりなさい! 修学旅行を楽しんで!』という声が多数聞こえた。
金閣寺に着き、あまりの黄金の姿に見惚れたA班メンバーは写真を撮って収めた。
クリスは銀閣寺ほどのテンションではなかったがハイテンションで、外国人にそれだけ人気なんだと日本人である夜月たちは思い知った。
さらに『着物姿はもう二度とないだろう』と思ったのか、優子が『集合写真を撮ろう』と言いだして写真を撮る。
金閣寺から戻って夕方になり、チェックポイントである二条城に集合して各民泊先の人々に合流する。
A班が泊まる家は優子の実家である大和家大和家で、黒服の男性がお迎えに来た。
「お嬢……いえ、優子さま。よくぞご無事で戻られました」
「黒磯、『皆さんの前でお嬢はおよしなさい』って言いましたわ?」
「申し訳ありません。いつもの癖で……」
「大丈夫ですわ。ではお客様をご案内しましょう」
「かしこまりました。東光学園の優子さまのご友人さま、ようこそ京都にお越しくださいました。わたくしが案内役の黒磯京太郎でございます。それでは皆さま、こちらのお車にお乗りください」
「黒塗り……!」
「しかもめっちゃ人が乗れるじゃん……!」
「お嬢……? 大和の家ってもしかして極道なんじゃあ……?」
「おいおい夜月、いくらなんでもそれは……」
「夜月さまでしたね? あまり詮索なさらないようお願いいたします。あまり詮索されると優子さまを怖がってしまい、ご友人として今後接してもらえなくなると寂しがりますので……」
「別にどんな実家だろうと大和……さんから遠ざける真似はしないですよ。ここにいる俺たちはありのままの大和さんを見てきて接し、美しい中身だってのはよく知ってますから」
「夜月さん……黒磯、もう身分を明かしてもよろしいですか?」
「はい、優子さまがそうおっしゃるなら」
「実はわたくしの実家は京都でも有名な極道をしています。ただし政治家や弁護士、教師などで目立つ左翼活動家を島流しにするために活動している愛国極道をしています。反日極道とは敵対関係にあり、その反日極道は京都から川崎へ逃げて今の政権に至ります。わたくしはそれを阻止するために関東へ赴き、利害が一致した東光学園に入学をしたのです。本来なら平安館女学校に通って武士道精神を学ぶはずでしたが、彼らの日本の内部崩壊を阻止するためにあえて東の地へ渡ったのです」
「そうなんだ……」
「もし大和に危険がせまったら、男子である俺たちが守ります」
(コクコク……)
「お嬢、いいご友人を持ちましたね……! 黒磯は感動しています!」
「黒磯……わたくしも池上荘にお世話になってよかったですわ……。さあ皆さん、ここがわたくしの実家ですわ」
そこは木造建築の広い敷地で、庭はもはや庭園と言ってもおかしくないほどの規模だった。
中には多くのお弟子さんがいて筋トレや組手、射撃などをしていた。
他にも大和家は茶道の流派でもあるので茶道教室を開いて大和流を宣伝していた。
優子以外のメンバーはかしこまった態度になり、『和風のお金持ちなんだ』と実感した。
同じお金持ちの有希歩もかしこまった態度になり、自分とは違う路線のお金持ちだからどうすればいいかわからなかった。
これから泊まる際の世帯主へ挨拶するが……
「おかえり優子。そちらが今回の客人だね?」
「はいおじいさま。こちらがわたくしがお世話になっている同じ寮の方々ですわ」
「うむ。今日と明日はこの家でゆっくりくつろいでくれたまえ。明日の観光は我々が車で送迎して差し上げよう。今日は長旅の疲れがあるだろうから銭湯に浸かってゆっくり休みたまえ。サウナや水風呂、アロマセラピーに整体マッサージもあるぞ」
「ありがとうございます」
大和家に泊まり、優子以外は客人としておもてなしされて少しだけリラックスできた気がした。
多くのお弟子さんも優しく接してくれて、夜月の事情を知ってるお弟子さんは差し入れとして、いなり寿司を差し上げたりもした。
さらに野球が好きな父親の好意で、夜月は木製バットを借りて素振りしたりと部活で体な鈍らないように全員をサポートした。
長旅で疲れ切ったメンバーは全員布団に入ってすぐに寝付き、優子は全員分の布団をかけて消灯した。
つづく!




