豪華すぎる警護
週末。いつものようにアネリとクーと一緒に、屋敷のみんなへのお土産を選んでいる……のだが。
「毎週末土産を買って帰っているのか?」
「本当にリアは優しいのですね」
「お茶会に行った時に思ったけど、リアのお屋敷は暖かい雰囲気に包まれていたよね」
ミアノ様、パウル様、レンゾ様が、私がお土産を吟味している背後で喋りまくっている。アルノルド王子は私と並んで、どれがおススメかと店員さんに聞いていた。そんな店内は、ざわざわしている。周囲の女性たちの目は皆ハートだ。それはそうだろう。様々なイケメン取り揃えております、状態だもの。王子に色々質問されている店員さんなんて、ずっと顔が真っ赤になっていて可愛い。
『なんか、いたたまれない』
女性たちの間ではきっと、なんであの女はイケメンを侍らせているの?と思われているに違いない。私はさっさとお土産を選んで、先に店を出た。すると、当然のようにレンゾ様たちも一緒に店を出る。少し離れた後ろでは、アネリがニヤニヤと見ているのが嫌だ。そんな風に思っていると、少し遅れてアルノルド王子が袋を持って店から出て来た。
「ルド様もお土産を?」
「ああ、父上と母上、それと側近に買ってみたんだ」
少し照れながらそう言った王子が無性に可愛く見えて、ごく自然に笑みがこぼれた。
「ふふ、きっと喜ばれると思いますよ」
「だといいのだが」
二人でふふふと笑い合っていると、ミアノ様が私と王子の間に身体を入れてきた。
「二人でイチャつくな」
「そうですよ。リアにそんな風に笑みを向けられるなら、私も買えば良かったです」
パウル様も文句を言う。
「じゃ、今から買って来たら?待っているよ」
レンゾ様が揶揄い半分で言うと、二人は大きく首を横に振った。
「リアの警護のためにいるのですから、リアを置いて今から買い物なんてしませんよ」
「ああ、それに買って帰ったところで、私がそのまま食ってしまうだけだからな」
ミアノ様の言葉に皆が笑った。帰った早々、乱雑に包装を剥がし食べ始めるミアノ様の姿が安易に想像出来てしまった。そんなこんなで無事?に屋敷まで送り届けられた。
「ありがとうございます。よろしければお茶でも飲んでいかれませんか?」
私が皆を誘った時だった。屋敷からお父様が出て来たのだ。
「ちょうど良かった。皆揃っているようだ。これから王城へ向かうんだけれど、皆も一緒に行くかい?」
「私たちも一緒に?」
不思議に思って聞くと、お父様が優しい笑みを浮かべた。
「そう、みんなでね」
王城へ到着すると、案内されたのはお父様の執務室だった。中ではお兄様も待っていた。
「まずはリアに質問だ。あの件はまだ皆には言っていない?」
すぐにあの本の事だとわかった。
「ええ、言っていないわ。まずはお父様とお兄様にと思ったから」
私の返事にお父様が満面の笑みを浮かべた。お兄様なんてアルノルド王子たちを小馬鹿にするような視線を向けている。
「ふふ、リアはいい子だなぁ」
ニマニマしながら私の頭を撫でるお父様に、王子が冷静な声色で問いかけた。
「あの件と言うのは?私たちも呼んだという事は、教えてもらえるという事でいいんだろうか?」
お父様は私を見て大きく頷いた。だから私も覚悟を決めるように大きく呼吸をしてから頷いた。
「私が少し待って欲しいと言った原因です」
お兄様が仕事机の上に置いていたピンク色の本を、ローテーブルの上に置いた。皆が不思議そうに本を眺めている。
「手に取っても構わないだろうか?」
王子が聞くとお父様が頷く。
「もう調べ終わりましたからね。大丈夫ですよ」
王子が本を手に取り、パラパラと捲った。捲りながらどこかしらの文章が目に入ったのだろう。大きく目を見開いて今度はしっかり読んでいた。
「これは、一体……?」
私はなるべく簡潔に話して聞かせた。初めのうちは信じられないような表情を見せていた皆も、終わる頃には真剣な表情を浮かべていた。
「この本の通りであれば、私たちは皆、本来はシシリー嬢に想いを寄せていたという事か?」
信じられないという表情で、本を凝視している王子。
「予言書、とは異なるものなのですよね」
パウル様も本の内容に驚いているようだ。ミアノ様とレンゾ様は考え込んでいるのか言葉が出てこない。黙って王子の手にある本を凝視していた。
しばし沈黙が続く。沈黙を破ったのは、アルノルド王子だった。本をローテーブルの上に静かに置き、それから向かいのソファに座っている私を見つめた。
「リア、君はこの本を読んだ時、どう思った?」
「どう、とは?」
本そのものに対しての思いを聞いているのか、中に書かれている自分と王子との関係の事を聞いているのか、質問が抽象的過ぎてよくわからない。でも彼の真紅に輝く瞳が、なんとなく前者ではないと物語っていた。




