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ティガバルディ家

 扇子を閉じる小気味の良い音が鳴った次の瞬間、アネリは右サイドにいる2人を次々と斬って行く。木の上から飛び降りたクーも九尾の姿になり、鋭い爪で左サイドの2人を確実に仕留めて行った。呆気に取られた男が、慌てたように私にナイフを突きつけようとしたが、もう遅い。ナイフを蹴りで弾いた瞬間、男の足元から蔓が伸びる。蔓は勢い良く男の足元に絡みついた。ナイフを弾かれた事にしか集中していなかった男は、バランスを崩して地面に倒れ込む。

「なにしやがる!」

今更怒声を響かせても遅すぎる。蔓は元気良く男の身体に腕ごと巻き付き、あっという間に簀巻き状態になった。既に終わらせていた2人が、地面に転がっている男を覗き込んだ。

「これ、どうするんです?」

「うーん。とりあえず王城に持って行く?」

「面倒じゃないですか?」

「そうだけど、余罪もたくさんありそうだし」

私とアネリが会話している最中もガーガーうるさい男の口に、小さくなったクーが倒れている他の男の服を破って詰め込んでいた。

「クー様、グッジョブです」

アネリがニヤニヤしながら簀巻き男をヒョイと肩に担ぐ。一体そのパワーはどこから来るのだろうかと思いながら見ていると、なんと馬に括り付けていた。

「それは馬が可哀想では?」

ボソリと呟く私をよそに、アネリは私とクーを中に押し込むと御者を端に寝かせ、馬車を動かした。

「本当、頼りになるアネリちゃん」


門の警備をしている騎士たちに奇異な目で見られながら王城へ入る。警備の騎士から連絡が入ったのだろう。馬車の乗車場に到着すると、数人の騎士が待機していた。事の成り行きを簡単に説明して男の身柄を預けた後、中庭へ案内される。私が中庭に来た途端、先に来ていたのかレンゾ様、パウル様、ミアノ様が駆け寄ってきた。

「襲われたんだって⁉︎」

「ケガはしていませんか?」

「犯人は⁉︎」

三人に一気に捲し立てられる。

「お、落ち着いて。私は大丈夫ですし、犯人も主犯格の男を捕らえました」

なんとか三人を落ち着かせようと宥めていると、王城の方からアルノルド王子が走って来た。宥めなくてはいけない人間がまた増えたと思っていると、真っ直ぐこちらに走ってきた王子に、勢いのまま抱きしめられる。

「え?」

驚いた私から声が漏れた。しかし、王子は私を離そうとはしない。

「今、リアが襲われたと聞いて」

やっと離れた王子は、私を上から下まで何度も見た。恥ずかしくなって俯いてしまった私の頬に、王子の手が触れた。

「良かった。ケガはないようだな」

真紅の瞳が細められ、優しく微笑んだ王子の姿に、私の心臓があり得ない程大きな鼓動を始める。

『今更襲われた恐怖がやって来たのかしら?』

小さく首を傾げた私の視界に、アネリの姿があった。今日は私の近くに待機するようだ。そんなアネリの目は、それはもう楽しそうに細められていたのを私は見逃さなかった。


「では、あの時の老婆が依頼主だという事ですか?」

襲われた経緯を話すとパウルが、顎に手をやりながら言った。

「しかし、なんでリアを狙うんだ?ティガバルディ家に反感を持っている連中とかか?

「ティガバルディ家を恐れる連中はいても、反感を持つ連中なんているのでしょうか?それこそ命知らずと言っても過言ではありませんよね」

まあ、確かにね。国随一の魔法の力を持っている家系だ。お父様とお兄様が本気でかかれば国を落とす事もやってのけるだろう。

「そんなに凄いの?リアの家系って?」

レンゾは興味津々の様子で私を見た。これに答えたのはアルノルド王子だった。

「ティガバルディ家は代々、魔力が高い。しかしそれだけではなく、魔法を扱うセンスが飛び抜けているんだ。魔法は魔力だけ高くても、扱い方が間違っていれば大した力にならない。ティガバルディの人間は、魔力も扱いも並外れて素晴らしいから王族でさえ一目置いている。だからこそ決して敵に回すような人間は出て来ないという訳だ」

王子の言葉にレンゾが納得する。

「確かにリアの魔法は繊細で力強いもんね。なるほどね。なんだかますますリアの親友になった事が自慢だなって思うよ」

私を見たレンゾが笑った。私もレンゾを見て笑った。そして、再び私を襲うように依頼した老人の話に戻る。

「老人、ではないかもしれませんよ」

パウルの言葉に、視線が集まる。でも確かに、そう言われればそんな気がしなくもない。だが、なんせほんの一瞬の事だったので、正直あまり覚えていないのだ。途中からそれどころではなくなってしまったし。本には一切触れられていない人物の登場に、なんだか胸の中がモヤモヤする。私が本の通りに動かなかった事で、世界が大きく変わってしまった、なんて事はないよね。

「まあ、ここでどんなに考えても、リアを殺そうとする理由も、犯人の正体もわからないんだよな。であればだ。私たちがリアを守るしかないと思わないか?」

ミアノがそう言うと、皆が大きく頷いた。


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