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試験

 春祭りが終わると、学院中、どこを見ても男女のカップルが目についた。右も左もカップルだらけである。勿論クラスの中にも何組もカップルが出来上がっていた。

「春祭りの威力、恐るべしね」

「皆、とても幸せそう。このまま婚約まで進むカップルもいるのだろうね。なんだか見ているこちらまで幸せな気持ちになるよ」

私の呟きを拾ったレンゾ様が、隣に座りながらニコニコしていた。

「確かにそうね。幸せのお裾分けね。まあ、若干胸焼け気味にはなりそうだけれど」

あまりにも甘やかに漂う空気に胸をさすりつつも、みんなが幸せな未来に続くといいなと思う。そんなほんわりとした気持ちも掲示板を見た瞬間、すぐに霧散する事になってしまう。

【試験範囲について】と書かれている貼り紙を見てレンゾ様と揃って溜息を吐く。あと10日程で大切な試験が始まるのだ。ハッキリ言って恋愛どころではない。この試験の結果で、次の学年でのクラスが決まる。次の学年もAクラスでいるためには、真剣に頑張らなくてはいけない。


「レンゾは国に戻ってしまうのよね」

彼はダンドロッソ王国の第二王子で、元々1年間の留学期間だと決まっていた。親友と呼べる彼がいなくなってしまうと考えると、少しばかり胸が痛い。私の言葉にレンゾ様も眉を下げた。

「そう。この試験結果次第では、行きたくない国へ留学させられるなんて事もあるかもしれないんだ」

そう言って大きく溜息を吐く。お兄様が国王になる時に、レンゾ様は外交を担う事が決まっている。その為に交易のある国を何ヵ所か留学という名目で周っているのだ。そして次に訪れる国は、学院での成績次第で決められる。レンゾ様の成績がとても良かった場合は自身で選べる事になるらしい。反対に成績が芳しくなければ、どこへ行かされるかわからないという事のようだった。

「レンゾなら大丈夫よ」

授業態度は勿論いいし、小テストなどでは常に上位の成績を取っている。だから心配はないだろう。

「実は私はね、もう1年この学院で学びたいって思っているんだ」

「え?」

驚いた私の顔を見て、ふふふと笑いながらレンゾ様は続きを話し出した。

「最初にこの国を選んだのはね、隣国な上に友好国だという理由も勿論あるけれど、周辺国で一番国政も経済も安定していると思ったんだ。王都だけでなく、地方でも様々な特産品を作り出して国全体が潤っている。そういう国って珍しいと思うんだ。それに蒼竜と紅竜の両騎士団も、強いし統制がしっかり取れている。1年もいないのに、これだけ素晴らしい国だとわかるんだよ。もっと知りたくなるし、なによりリアやみんなともっと一緒に過ごしたいよ」

国を誉められた事も嬉しかったが、私たちともっと一緒に過ごしたいという言葉が素直に嬉しいと感じた。

「じゃあ、一緒に勉強しましょう。トップ3くらいに入る事が出来れば、きっとレンゾが好きに選べるでしょ?応援するわ」

「うん、ありがとう」

嬉しそうに微笑むレンゾ様を見て、私は全力で応援すると固く決意した。それからは放課後に二人で勉強をした。途中からはアルノルド王子やミアノ様、パウル様も勉強に加わった。



 試験が終わると、掲示板にはトップ30位までの発表が張り出される。それ以外の順位の者たちには個別で通知が来る事になっている。


「見事に入ったわね」

堂々の第2位にレンゾ様の名前が載っている。左隣に並んでいる彼に言えば、嬉しそうな顔で掲示板を見つめていた。

「リアこそ」

「ふふ、そうね」

因みに私は第3位。そして右隣にやって来たアルノルド王子が第1位だ。

「ルド様は流石ですね」

合計点がほぼ満点に近いなんて。どうやったら取れるわけ?と思ってしまう。因みにミアノ様は5位、パウル様は8位だ。

「これで次の学年もリアと同じクラスになれそうだな」

楽しそうに笑いながら言うパウル様に、ミアノ様も頷きながら言った。

「ふふ、嬉しいです。2学年になっても仲良くしてくださいね」

まだ少し先の話だけどね。そう思いながらも「こちらこそ」と言って笑っておいた。順位も見た事だし、教室に戻ろうかとその場を離れようとすると、背後から素っ頓狂な声が聞こえた。

「あれ?私の名前、ないなぁ」

見ずともわかるその声に、無意識に溜息が零れてしまうのは何故なのか。そして、彼女の独り言なのかなんなのかわからない言葉にツッコミを入れるべきなのか。

「うーん。おかしいなぁ、こうなるとどうなるんだろう?」

彼女のその言葉に、何か引っかかった。もしかして本の中で何かあったのだったか?内容を思い返してみる。



【試験の結果が張り出されているらしいと聞いて、試しにシシリーは見に行ってみた。

『私なんて30位以内に入っているかもわからないけど』

などと心の中で言い訳しながら行ってみると、すぐにレンゾに見つかる。そして嬉しそうな笑顔を向けられた。

「凄いじゃないか。あんなに自信なさげだったから心配していたけど、謙遜だったんだね」

「え?」

訳もわからずレンゾに一番前に連れていかれたシシリーは、すぐに自分の名前を見つける事が出来た。

「ウソ……」

驚き過ぎてそれだけしか言えない。シシリーの名前は3位という数字のすぐ横に書かれていた。

「頑張ったな、シシリー」

いつの間に隣に並んでいたのか、アルノルド王子が私に優しい笑みを向けている。その背後にはパウルとミアノの姿も。口々に誉めてくる皆に恥ずかしくて顔が赤くなっていると、少し離れたところからもの凄い嫌な視線を感じた。視線の先にいたのは義姉であるミケーリアだった。シシリーと視線が合ったミケーリアは、殺さんばかりに睨みつけそのまま踵を返して去って行った。ミケーリアの順位は4位だった。

「お義姉様……」

去って行った後ろ姿に聞こえるはずのない呼びかけをする彼女の肩を誰かが抱いた。

「気にするな」

アルノルド王子だった。落ち込む彼女を励ますように、努めて明るい声で王子が言った。

「せっかく全員上位に入ったのだから、お祝いをしないか?城に招待するから祝杯でもあげよう」】


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