表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/71

豪胆な騎士の繊細な想い

 屋敷に戻った私は机の上に置かれていた【光の乙女は恋を知る】を開いた。その中には私だけでなくシシリー嬢も、花祭りに老婆からバラのブレスレットをもらう事も、毒に侵される事も記されてはいなかった。



【春祭りの華やかな雰囲気と、花々の香りが溢れる街を、シシリーたちは散策していた。彼女の腕には5本の色とりどりのブレスレットが付いている。義兄であるヴィート、アルノルド王子、レンゾ王子、そしてパウルとミアノから贈られた物だ。

『皆の頬にキスをしてしまった』

自分がこんな大胆な事が出来るなんてと、動揺を隠しきれないシシリーにヴィートが優しく笑いかける。

「ふふ、照れてしまっているのかな?」

「だって……私ったら皆の頬に……」

顔を赤らめて小声で言うシシリーに、アルノルド王子が甘やかな声で言った。

「シシリー、君がまだ本当に誰を想っているのか、今はまだわからないでいるのだろう。それでもいい。私も皆もシシリーの気持ちがハッキリするまで待つから」

アルノルド王子の言葉に、皆も大きく頷く。

「私たちの気持ちは変わらない。だからゆっくりでいい。後悔しない答えを見つけてくれ」

ミアノはそう言うと、シシリーの頭を優しく撫でた。

「皆……ありがとう」

シシリーは皆の気持ちが嬉しくて、素直に礼を述べたのだった。】



「全く違うわ」

私の髪を梳かしながら、アネリも首を傾げている。

「そうですね。ブレスレットを皆様からいただいたまでは一緒ですが、その先が明らかに違っています」

今までは多少の差異はあっても、ほとんど本の通りの出来事が起こっていたのに。今回だけは違うのだ。

「やっぱり私って死ぬのかな?」

「そうなるのでしょうね」

アネリちゃんたら、やっぱり冷たい。私が屋敷に戻った時は「よくぞご無事で」って涙ぐんでいるように見えたのに。

「泣いてませんから」

「何で⁉︎」

私が考えていた事が読まれている。マジで恐ろしいわ。そんなアネリは一見、心配しているような表情をして、鏡越しに私を見た。

「これからもお嬢様の命が脅かされ続けるのでしょうか?」

うん、口元が笑ってるよ。どうしてそんなに楽しそうなの?私、本当に死にかけたんだけど?こちらも鏡越しに、ジト目でアネリを見る。すると、アネリの表情がキリリとしたものに変わった。

「お嬢様、私が一緒にいる時は絶対にお守りしますから」

「アネリ……ありがとう」

ゴメン、恐ろしいなんて思ってゴメン。なんだかんだ言っても、やっぱりアネリは頼りになる。感動した私を見つめていたアネリが首を横に振る。

「礼には及びません。だって」

瞬間、真っ黒な笑みを浮かべた。

「だって、お嬢様が死んでしまったら、この本の行く末が見られませんから」

ああ、そうだねぇぇぇ。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

屋敷に戻った私は、中庭の奥に作られた訓練場へ向かった。訓練場といっても小さい物だが、親父に頼んで作ってもらった物で、大いに気に入っている。殿下とパウルとの仲が深まってからは、ここにも何度か招待し、3人で打ち合いをしていた。


トレーニングをした後、剣を手に取り素振りを繰り返す。気に入っているのは特注で作らせた通常の剣よりも大きな剣だ。普通の剣ではどうしてもパワーを活かせない。大きな剣を振ると風を切る音が心地良かった。一通り訓練をこなした後、部屋に戻って入浴を済ませ食事を終わらせると、自室のベッドにドサリと大の字に寝そべった。


今日は早い時間から王城へミケーリアの見舞いへ行った。花祭りでリアが倒れた時は、本当に驚いた。私の腕の中で力なくもたれている彼女に、言い得ぬ恐怖を感じた。私との打ち合いで嬉々として私の剣を飛ばした元気一杯の彼女が、死ぬのかもしれないと思うと身体が震えた。初めて彼女を見たのは入学初日。殿下とぶつかって逃げるように去って行った彼女の美しさに、少しばかり鳥肌が立ったものだ。それでも高位の令嬢に興味がなかった私は、彼女の事も同様に興味を持つ事はなかった。

見た目ばかり美しくても、人形のように無表情で話す時は口元を隠す。なんでも「はい」とこちらの言う事に返事をするだけ。高位の令嬢なんてそんな女ばかりだと知っている。どうせ彼女もそんな女たちの一人だろうと思っていたのだ。


ところが彼女は全く違っていた。嬉しそうに剣を振り私との勝負も嬉々として挑んでいた。だからといって男勝りなのかと思えば、子供のように子ギツネと戯れる。男女共に接し方を変える事なく振る舞える姿にも好感を持った。ぱっと見はプライドが高そうに見えるのに、実際は全く違っていい意味で所謂令嬢らしさというものがなかった。天然なのか鈍感なのか、少しばかり人の気持ちに疎いところも可愛いと思った(まあ、そこは私も人の事は言えないのだが)私がプロポーズした時、間髪入れずに断ってきたのも気に入った。私の事を軽くあしらうのすらも悪くないと思う。何をしても可愛いと思ってしまうのだ。そんな彼女が死ぬかもと思った時は、本当に苦しかった。彼女に想いを寄せているのは私だけではない。殿下とパウルは勿論だが、他にもきっとたくさんいるのだろう。しかもあの子ギツネが聖獣だと?もう最強じゃないか。やはり欲しい。そう思ってしまう。諦めたくない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ