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お揃い

 飛び込んだクーを優しい仕草で抱きとめたアルノルド王子は、私とクーを交互に見てフッと微笑んだ。

「お揃いなんだな……可愛い」

甘さを含めた笑みに見つめられ、にわかに心臓が騒ぎ出す。私とクーのマントがお揃いなのだと気付いたのだろうが、だからといってそんなにも甘やかな表情をするものだろうか。王子は余程クーが可愛いらしい。

「あ、ありがとうございます。殿下もどうぞキャンドルを飾って来てください」

礼を言いながら、ふとクーを抱いている王子の手を見ると、王子の手にはまだキャンドルがない。きっと私を救う為に走り寄って来てくれたせいだろう。私は入り口にいる司祭様の元へ行きキャンドルを受け取ると、アルノルド王子に渡した。


「ありがとう、ではせっかくだからクーにも手伝ってもらうか」

王子がそう言うと、クーは嬉しそうに五尾を大きく振った。クーを抱いたままキャンドルと金貨を片手に持った王子は、魔力を注ぎ始めた。

「綺麗な魔力だわ」

アルノルド王子は炎と雷を使うようだ。赤い魔力と金色の魔力がいい具合に混り合って、煌めくオレンジのオーラを纏っていた。封入を終わらせた王子はクーを抱いたまま、脚立をトントンと軽快に昇る。支える隙もなくあっという間に一番上に到着した王子は、クーにキャンドルを持たせると、先程クーが置いた私のキャンドルの隣に飾らせた。

『並んでる』

二つのキャンドルが睦まじそうに並んでいるのを見て、なんだか知らないけれど顔が熱くなる。なんなのかしら?と思っているうちにアルノルド王子が降りるモーションに入った。


脚立を支えようとした私に向かって王子が言った。

「大丈夫だ。危ないからそのままで」

「え?」

どういう事なのかわからず、反射的に動きを止める。すると、数段降りたアルノルド王子は、肩に乗せたクーの背を支えながらふわりと飛んだ。タンと小気味良い音をさせて着地したアルノルド王子。肩の上では余程楽しかったのか、クーが楽しそうに五尾を振りながら「キャン」と鳴いた。

「はは、楽しかったか?」

王子が聞くと再び「キャン」と鳴くクー。そんな二人を見てドキドキする私……ってなんでよ?

「どうかしたのか?」

動揺している私を王子が不思議そうに覗き込んで来た。肩の上のクーまで首を傾げている。

『ああ、ダメよ。この組み合わせは私の心臓をおかしくさせる』

荒ぶりかけた鼓動と呼吸をなんとか整え、平静を保ってみせた私はアルノルド王子を軽く睨んだ。

「支えもなしに、あんな高い所から飛ぶなんて、危ないですわ」

苦言を呈した私を見たアルノルド王子は、何故かとても嬉しそうに表情を崩す。

「心配してくれたのだな。ありがとう」

うっ。胸に何かが刺さった。

「ど、どういたしまして」

動揺を隠しきれずいっぱいいっぱいになった私の返事は、訳のわからないものになってしまった。


アルノルド王子の祈りが終わるのを待って二人で教会を出ると、目の前に王家の馬車とティガバルディ家の馬車が並んで待っていた。窓からはお父様とお兄様が睨んでいるのが見える。このままではまた、二人がアルノルド王子に絡んで来るに違いない。そうなる前に王子と別れようと、挨拶の為に口を開きかけた時だった。

「そうだ。リア、これを」

アルノルド王子が、内ポケットから小さい箱を出して私に見せた。

「これは?」

「雪祭りの時にレンゾ殿にブローチをあげていただろう。その代わりという言い方はおかしいかもしれないが、良かったら貰って欲しい」

照れながら王子が箱の蓋を開ける。中には金色に輝く三日月のブローチがあった。

「これ……」

三日月の上には座っているように、イエローダイヤで出来た五尾のキツネがいた。

「以前、月の光を浴びていただろう。これは満月ではないが、なんとなくそのイメージで作ってもらったんだ」

照れたような表情で説明する王子。

「ありがとうございます。とっても素敵です」

まさかプレゼントを貰うなんて思っていなかったからか、本当に嬉しくて自然と満面の笑みになる。そんな私に王子が提案してきた。

「つけても?」

箱の中からブローチを出し、自分のマントの首元を指で指しながら言ったアルノルド王子に、コクンと頷いてみせる。王子の大きな手がふわりとマントに触れた。ブローチをつけている王子の顔の近さに少しだけ落ち着かない気持ちになりつつも、つけられたブローチにそっと触れた。

「ありがとうございます。本当に嬉しいです」

クーも私の腕の中から、自分を模したキツネを興味深そうに眺めていた。真っ白なマントの上につけられた、金色の三日月とクーはとても綺麗に輝いていた。


「何かお礼を」

そう言った瞬間「リアちゃん、帰るよー」とお父様に呼ばれてしまう。お父様の言葉に苦笑しながら、王子は首を横に振る。

「礼など。私が贈りたかっただけだ」

そして、私の手に口づけを落として、颯爽と去って行った。

『リア、心臓壊れそうだよ』

胸に抱いていたクーが心配そうに私を覗き込む。

「本当にね。壊れそうだわ」

呆けたまま返事をした私は、なんとか馬車へと乗り込んだ。馬車の中ではお父様とお兄様が、何やらギャンギャン言っていたけれど、私の耳には一切入って来なかった。だから気付かなかったのだ。私を憎々しげに睨んでいる視線があった事など。


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