雪祭り
雪祭り当日。陽が落ちる少し前、約束通り時計台の前で待ち合わせをした。
「うわぁ、先週見た時より凄い!」
全員が揃った後。ほぼ等間隔で作られている大きな雪像に、レンゾ様は興奮した様子で見て回っている。先週は留守番だったクーも大興奮だ。
『リア!凄い!いっぱい大きいのがある!』
家で雪だるまを作ってあげた時も喜んでいたが、それ以上の喜びようだ。
「ふふ、喜んでもらえて良かったわ」
クーの頭を撫でていると、レンゾ様が私を呼んだ。
「リア、あれ!先週見た時は何かわからなかったけれど、ドラゴンだったんだね」
「え?あ、本当だわ。ドラゴンだったのね」
『ドラゴン、カッコイイねぇ』
私たちがはしゃいでいる後ろで何やら圧を感じる。何事かと後ろを見ると、三人が固まってこちらを恨めしそうに見ていた。
「どうかしましたか?もしかしてドラゴン、怖いですか?」
三人に向かってからかい半分でそう言うと、ミアノ様が引きつった笑顔でレンゾ様の肩をガシッと掴んだ。
「今、リアって呼んだか?」
ポカンとした表情のレンゾ様は、満面の笑みになった。
「え?ああ、呼んだよ。私たちは親友だからね」
すると、ミアノ様がくるりと首を回し私を見る。
「何故?」
「え?ですから親友なので。私もレンゾと呼んでますし」
そんな私にパウル様も一歩大きく近付いてきた。
「本当に親友だからですか?」
「ええ、そうですけれど?」
「もしかして……私も親友扱いですか?」
「へ?」
一瞬、何を聞かれているのかわからなかった。でもすぐに理解した私は笑ってしまう。
「ふ、ふふ。いいえ。親友はレンゾ一人だけです」
「そうだよ。親友は私一人だけ。ねー」
二人で鏡合わせのように首を傾げて笑う。
『僕は?』
すると、何故かクーが焦ったように言い出した。
「クーは私の大事な家族でしょ」
『家族……そっか、家族だよね』
私の返事に満足したのか、クーは五尾を嬉しそうにブンブン振っている。そんなクーを横目に、今度はパウル様が真剣な眼差しで私を見た。
「リア、私の事はどう思っているのです?」
どうと聞かれても困る。私はまだ誰の事も特別には思っていない……はずだ。
「どう、と聞かれても」
そう返した私の言葉にミアノ様の声が被った。
「パウル?どうしてお前まで?」
どうしてお前までリアと呼んでいるんだ?と聞いているらしい。ちゃんと理解したパウル様がいい笑顔で答えた。
「先日、我が家に招待した時に許可を得ました。ね、リア」
「え?ええ、そうです」
私たちの答えにミアノ様の頬がプクッと膨れた。
「なんでパウルの家に?おい、ずるいぞ。私も愛称で呼びたい」
そんな大きなガタイで拗ねるように言われても、可愛くも何ともないけどと思いながら、私はミアノ様を見た。
「どうぞ」
「え?」
頬を膨らせたまま目を見開いているミアノ様の顔が、なかなか面白い。
「ですから、どうぞ」
「いいのか?」
今度はポカンとした表情になった。そんな彼の顔を見て笑ってしまうのは仕方がないと思う。
「ふふ、いいですよ。家族は勿論、女性の友人何人かにもそう呼ばれておりますし。それにレンゾやパウルだけではなく、ルド様もそう呼んでおりますし」
ミアノが今度は違う所に反応した。
「は?ルド、様?」
そう言いながら、私と王子を交互に見ている。忙しい人だ。
「ええ、そう呼んで欲しいと」
途端にミアノ様の顔がニヤリとした。
「へええ、殿下まで。いつの間にそんなやり取りをしていたんだか……じゃあリア、私の事もミアノと呼び捨てにしてくれ」
「わかりました、ミアノ」
早速呼んでやると、ミアノ様は満足そうな笑みを見せた。
『呼び方ひとつでそんなに嬉しそうに……』
男性というのは呼び方に大きな意味を持つものなのか。それとも私が気にしなさ過ぎなのか。どちらなのかはわからないが、取り敢えずは解決したようで良かった。
それからは皆で楽しく見て回った。雪像を見て感想を言い合ったり、美味しそうな屋台を見つけては食べたりした。歩いているうちに、街中から少し離れた場所にある公園に辿り着く。
『わーい』
広々とした空間にクーのテンションが上がったらしく、私の腕の中から飛び出したクーは、とても嬉しそうに雪原を駆け回る。
「ここまで来ると人も少ないな」
ミアノ様が大きく息を吸い込みながら伸びをする横で、パウル様も楽しそうに微笑んだ。
「誰の足跡も付いていない場所を見ると、つい踏んでみたくなりますよね」
「寒いが、気持ちいいな」
アルノルド王子も小さく微笑みながら、ルビーの瞳を細めた。
「不思議だなぁ。隣の国なのに、ダンドロッソではこんな白い世界は見る事が出来ない。本当に綺麗だ」
しみじみと雪を見ながらレンゾ様が言う。
「せっかくなのですから、この白い雪を使って遊びましょう」
しゃがみ込んだ私は雪の玉を作り出した。
「どうやって?」
不思議そにこちらを見たレンゾ様に向かって、私は作った雪玉を投げた。




