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閑話

 冬季休暇に入った。

ここにいるのはアルノルド王子、ミアノ、パウルの三人。


王城にあるアルノルド王子の執務室。真剣な表情で顔を突き合わせている三人。口火を切ったのはアルノルド王子だった。

「ミアノ。本気なのか?」

「何がです?」

「……ミケーリア嬢の事だ」

「ああ、プロポーズか。本気ですよ」

するとパウルが口を挟んできた。

「なるほど。私も本気ですよ」

「え?」

二人の驚きの声に、満足そうに微笑んだパウルが語り出す。


「実はですね。冬季の休みに入る前に我が家に招待しまして。その時にそのつもりでいてくれと話をしました」

「……お前もか」

小さく息を吐いた王子にパウルがニヤリと笑う。

「そういう殿下も、でしょう」

「……ああ」

ミアノもニヤリと笑った。

「じゃあ、私たちは皆ライバルという事だな」

「そうなりますね」

「だな」

ほんの一瞬、実は婚約者なのだと告白してしまおうかと考えたアルノルド王子だったが、それは卑怯だと思い開きかけた口をつぐむ。

『婚約の話などあってないようなものだし、彼女の意志で私自身を選んでもらいたい』


 今でこそこのようになんでも言い合い、何にも代え難い信頼関係を築いているが、この三人がそんな仲になったのは、実は割と最近の事だった。


パウルの父親であり青竜騎士団長でもあるオスティアーゼ公爵と、ミアノの父親であり紅竜騎士団長であるプロスベーラ侯爵が、アルノルド王子の剣の師匠として順番に教える事になったのが10歳の時。それ以前から、城内でお互いを見かける事はあったが、話をした事はなかった。王子の剣の稽古に、ミアノが乱入してきた時から少しずつ交流が始まったのだ。


「お前は大人しく待っとれと言っただろう!」

自分も訓練を受けたいと、訓練場に入り込んで来たミアノ。父親に怒鳴られてもどこ吹く風状態。

「俺だって父上に教えてもらいたい!どうして赤の他人であるアルノルド王子には教えるのに、自分の息子である俺には教えてくれないんだ⁉︎」

プロスベーラ侯爵は、ミアノに自身で剣を教えることはしなかった。何故なら親子間ではどうしても甘えが生じてしまうから。ところがミアノはそれを納得する事は出来なかった。何故なら青竜騎士団長であるオスティアーゼ公爵は、以前から息子であるパウルに教えているという話を聞いていたからだった。その成果なのか、パウルがめきめきと上達しているという話も、ミアノには面白くなかったのだ。


片やパウルはと言うと、これまたミアノとは反対の感情を抱いていた。王子に剣を教えるようになった父親が、ますます自分に厳しく訓練をすることに腹立たしさを覚えていたのだ。器用な王子は、スポンジのようにすぐに吸収する事が出来た。パウルは自分が不器用だという認識があり、人の何倍も努力をする事で克服してきた。だからこそ、何でもすぐにこなしてしまう王子の事が気に食わなかった。


 アルノルド王子はというと、これまた二人の事を苦手に思っていた。今までほとんど交流がなかったのに、いきなり馴れ馴れしく寄ってくるミアノ。反対に何もした覚えがないのに、見かける度に睨みつけてくるパウル。両者とも苦手だった。


 そんな三人が互いを信頼し合う仲になったのは14歳の時。訓練中に王城の裏手に広がっている森に魔物が現れたという知らせを聞いた時だった。騎士たちと共に討伐に向かった際、他の騎士たちとはぐれた先に大きな魔物がいた。山羊のような大きな角を持っていて、身体は馬よりも大きかった。


魔物はカツカツと前足を踏み、今にも飛びかかろうとしている。

「やるしかないな」

アルノルド王子が真っ先に剣を抜く。王族、しかも次の王となるであろう王子が、逃げ出すのではなく、自分たちよりも先に戦う決心をした事に驚いたのはパウルだった。

『この方を守る!』

自然とそう考えたパウルは自身も剣を抜き、魔物と王子の間に入った。その時、同時に王子の前に立ったミアノと目が合う。言葉は交わさなくとも、同じ考えなのは瞳の輝きで分かった。


三人は、自分たちよりも倍以上の大きさの魔物に果敢に立ち向かい、見事に勝利を収めた。


その事件をきっかけに、急速に三人の結束が固まった。そんな三人が同時に同じ女性に想いを寄せたのだ。


「彼女が誰を選んでも、恨みっこなしですよ」

「勿論」

「ああ」

三者三様に、静かに闘志を燃やしたのだった。


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