追い詰められている気がする
突然キリリとしたイケメンの表情に、思わず生唾を飲んでしまう。
「ミケーリア嬢」
「……はい」
声が小さくなってしまった。この方の真剣な表情は、首の後ろがゾクリとするほど美しい。
「先日ミアノに……ミアノにプロポーズされていましたよね」
「プロポーズ?ああ、確かに。剣の訓練に誘われるような軽いノリででしたが」
「受けるのですか?」
「いいえ」
「……え?」
「ですから受けません」
「即答……ですか?」
「ええ」
受けるも何も、あの場ですぐに断っている話だ。それなのにどういうわけか、拍子抜けしたように肩をガックリとさせるパウル様。
「なんだ……心配して損した」
「はい?」
よく聞こえなかった。聞き返した私を少しだけ柔和な表情になったパウル様が見つめた。
「心配したんです。まさかアイツがあんな急にプロポーズをするなんて、想像もしていなかったので」
「そうですか……」
シシリー嬢ではなく、私にプロポーズをしてしまったから驚いたって事かもしれない。そんなふうに思っていると、徐に手を掴まれてしまう。
「私は、初めてお会いした時から、あなたに好印象を抱いておりました」
「……はい?」
予想外の言葉が聞こえ固まった私に、パウル様は話を続けた。
「足を怪我したにもかかわらずしっかりと立ち、貴族として間違いを正す気概を見せ、救護室に連れて行けばとっととご自分で治してしまう……なんて規格外な方なのだろうと、初めはそう思っておりました。しかも剣を持たせればミアノといい勝負が出来るほど強い。なのにクーと戯れている姿は少女のように可憐。本当に今まで会った事のないタイプです。惹かれない訳がない」
めちゃめちゃ褒められている。多分、私は真っ赤になっているだろう。身体中が熱いもの。
パウル様の手を握る力が強まった。
「私もあなたにプロポーズしたい。でも、今してしまうとミアノの二番煎じになってしまう。ですから今はしません。ですが、そう思っているという事だけは知っておいてください。それと、まずはあなたの名を愛称で呼ぶ事を許してくださいますか?」
「う……はい」
恐ろしいくらい美しい笑みで聞かれてしまった。この顔を見て、いいえと答える事の出来る強者はいないだろう。私だって完敗なのだから。
「では【リア】と呼ばせていただきますね。どうぞ、私の事は呼び捨てにして下さい。ね」
「……うう……わかりました」
美しい笑みで有無を言わせない。どこか、お兄様を思わせる。
『この方には勝てないかもしれない』
何となくそう思ってしまった。
結局、屋敷に到着するまで手を離してもらう事も出来ず、馬車から降りてやっと離れると思った瞬間、甲にキスを落とされた。
「ではまた、明後日に」
爽やかな笑みを残して、パウル様は去って行った。
「ああ、もうどうしたもんよ」
部屋に戻った私は、着替えもせずにベッドにダイブする。
「お行儀が悪いですよ」
アネリに怒られるが、精神の疲労が半端なくて身体が動かない。
「ねえアネリ。もう本の通りに動くのやめていいかな?」
「何かあったのですか?」
アネリに今日の事を話して聞かせる。
「それは……」
流石のアネリも展開の差異に言葉を失ったようだ。
「ね、このままだとどんどん追い詰められそうで……」
「ふふふふふ」
ところが、私の言葉はアネリの地を這うような笑い声に遮られた。
「楽しいです……楽し過ぎます、お嬢様」
「へ?」
「お嬢様、完全に主人公ポジションですね。ヴィート様は実兄ですし、レンゾ様もどうやら対象外のようですが、他の御三方は完全にお嬢様に想いを寄せていらっしゃる様子。ハーレム結成ですね。男女逆転の場合、ハーレムと言うのかは存じませんが」
捲し立てるように話すアネリは、恐ろしい笑みを浮かべていた。
「アネリちゃん?」
「ふふふふ、やめてはダメです。お嬢様は、ちゃんと最後まで続けてお一人に決めなければ。このままでは御三方にも失礼ですよ。今の時点でどなたかに想いが傾いてはおりませんか?」
怖い……アネリの笑みが黒過ぎて怖い。
「えっとお。おりません?」
「何故疑問形なのです?」
「だってえ。対処しきれなくて一杯一杯なんだもの」
怒涛の展開について行けないのに、冷静に自分の気持ちなんて分析出来ない。
「いいですか?心を預ける方が決まるまで、しっかりと本の通りに参りましょう」
「……うわーん」
私はアネリにも勝てなかった。クーがそんな私の口元を慰めるように舐めてくれたのだった。




