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主人公?

 にこやかな笑みを浮かべ、階段を降りて来たのはスピナジーニ親子だった。

「やはり殿下でしたか。お声が聞こえて来たもので。せめてご挨拶をさせていただきたいと思って参りましたの」

そう言った夫人の顔を皆で凝視する。王子は堪えきれずに吹いた。半歩後ろにいたシシリーは、目がチカチカするくらいの真っピンクのドレスを着ている。やはり子爵家から連れて来た侍女は、あまり役には立たないようだ。

「殿下、こんばんは」

「ふ、ふふ。ああ、わざわざありがとう。ふふ、すまない。急いでいるので、今日はこれで失礼する」

やっぱりアルノルド王子は笑い上戸のようだ。なんとか堪えようとしているようだが、堪えられていない。


「せっかくです。私たちも一緒にお見送りしますわ」

こちらにやって来た夫人がそう言いながら、お父様に寄り添うように並んだ。お父様は表情を変える事なくふっと横にズレた。

「ぶっ!」

盛大に吹いてしまったアルノルド王子。

「はは、すまない。日が暮れている中、レディたちを外に連れ出す事など出来ない。気持ちだけ受け取っておこう、ブハッ」

一息で言い切ったアルノルド王子は、そのままお父様とお兄様を連れ立ってエントランスを後にした。いつの間にかクーはお兄様の肩に乗っていた。

『きっと外で大爆笑してるんだろうな』

そう思いながら閉じられた扉を見ていると、スピナジーニ夫人からキッと睨まれる。

「殿下はどうしてここに来たの?」

「え?ああ、私をここまで送ってくださったのです」

「はっ⁉︎」


目が吊り上がった夫人の顔を見て、我慢していたものが込み上げて来そうになる。そんな私の様子に気付かない夫人は、グイッと顔を私に近づけて来た。

「あなたを送ったってどう言う事?」

馬鹿みたいに濃いメイクの顔面がすぐ目の前に寄ってきた。


「街のカフェでお茶をしていたもので」

何とか堪えて返事をすると、キッと更に目が吊り上がった。

「何ですって⁉︎」

『ああ、もう無理』

流石にもう我慢が出来ない。

「ふっ、ふふふ。ごめんなさい。私、疲れたので失礼させていただきますわ」

何やらキーキー言っているけれど、ガン無視して部屋へと戻る。大爆笑しなかった自分を誉めたいわ。


部屋に入るとアネリが待っていた。

「お風呂になさいますか?」

「そうね。ちょっとゆっくり浸かりたいかも」

湯船に顎まで浸かる。暫くぼおっとしていると、やっと込み上げる面白さが去ってくれた。

「それにしても……本当にあの本は一体何なのかしら?」

考えれば考える程謎だ。手紙が挟まれたまま動向を確認している風でもなく、こちらに何も接触して来ないのも不気味だ。馬車の暴走はあったが、本当に本の送り主と同一人物が仕組んだ事かはわからない。それでもそれ以降は何もないのだ。

「そうですね。本の通りに出来事は起こっているのに、ズレが生じている……何と言いますか、実は主人公はシシリー様ではなくお嬢様なのだという方がしっくり来ますよね」

アネリの言葉に妙に納得させられる。

「それね。確かにそう考えた方が納得行くのよ。でも絶対に、主人公は私ではないわ」

「何故です?」

「主人公になれる程、性格良くないもの」

「ああ、お嬢様は悪役気質ですからねえ」

すんなり納得されるのも腹が立つわね。でも、その通りだから仕方がない。私は主人公のような博愛主義者ではない。


「このまま続けて行く事に意味なんてあるのかしら?」

ここまで本の通りに話が進まないのであれば、もう続けて行く必要はないように思える。どうなるか確認したいけれど、このままでは私が別の意味で追い詰められて行く気がする。アルノルド王子との婚約が真実になっていってしまいそうだし、皆で過ごす時間を楽しく感じて来ているのだ。

『ん?それは別にいいのか?いやいや駄目よ。ゆくゆくはシシリー嬢の侍り隊になる人物ばかりなのよ。あれ?でも仮に私が主人公だったらいいのか?ああ、それは駄目。主人公なんて面倒くさい』


お湯の気持ち良さで思考がお馬鹿さんになっていると、アネリが真剣な声色で話し出した。

「意味があるのかはわかりませんが、続けるべきだと思っています」

「それはどうして?」

何となく、こちらも真剣に聞き返してしまう。


「だって。私が楽しいですから」


アネリは、もの凄いいい笑顔でそう言った。


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