もしやこれも?
【義兄であるヴィートの社交界デビューのお祝いに、贈り物をしようと街に買い物に来たシシリー。
「何にしたら一番喜んでもらえるかしら?」
悩みながら店を覗いていると、背後から肩を掴まれた。
「お嬢さん、良かったら僕とお茶でもどうですか?」
見知らぬ男性に声を掛けられ、ポケッとしていると腕を掴まれてしまう。
「ね、すぐそこに美味しいスイーツのお店があるんだ。一緒に行こうよ」
掴んだだけでなく、男は強引にシシリーの手を引っ張った。
「ちょ、ちょっと」
抵抗を試みたが、無駄なあがき。ぐいぐいと引っ張られてしまう。どうしようかと困っていると、男の腕をガシッと掴む手があった。
「おい、離せ」
「アルノルド殿下!?」
男の手を掴んでいたのはアルノルド王子だった。男は焦った顔であっという間に逃げて行ってしまった。
「大丈夫か?」
優し気な声色にホッとしたシシリーは、笑顔で「大丈夫です」と答えた。】
ふと、本の一場面が浮かんだ。またもやシシリー嬢の役を私が代わってやっている。でも確かこの出来事は、冬期の休みに入ってからだったはず。時期などは多少前後する事もあるのだろうか?それとも休みに入ればシシリー嬢と今度こそ、本の通りの出会いをするのだろうか?そう考えた途端、チクリと小さく胸が痛んだ気がした。気のせいかと首を傾げていると、目の前にアルノルド王子の手が見えた。
「行こうか」
気付けばいつの間にやらアネリは消えていた。先に戻ったようだ。クーは私の腕から抜け出していて、ちゃっかりアルノルド王子の肩に乗っていた。
「はい」
アルノルド王子の手に自分の手を乗せる。王子は笑みを浮かべてそのままキュッと握った。
アルノルド王子が連れて来てくれたのは可愛らしいカフェ。若い女性たちやカップルがたくさんいた。クーがいるのでテラス席に通してもらう。
「殿下がこのような可愛らしいカフェをご存じだとは……なんだか意外です」
私の言葉に、アルノルド王子は少し照れた様な顔になる。
「実は以前見かけた時に美味そうだと思ったんだが、一緒にいたのがミアノとパウルだったんだ。流石に男三人で入る勇気はなくてな」
趣の違うイケメン三人がこのカフェにいる姿を想像すると、自然と笑みがこぼれた。
「ふふ、もし入っていたらきっと、周りの女性の視線がお三方に集中したでしょうね」
今だってそうだ。皆の視線がアルノルド王子に集まっている。カップルで来ている女性でさえ、アルノルド王子に見惚れている。
サラサラな金の髪はテラスで陽の光に照らされて、キラキラと輝きまくっているし、赤い瞳はピジョンブラッドのルビーのようだ。背は高く足も長くて、見た目でこの人に欠点はないと言えるだろう。
『ムカッ』
あれ?何だろう、ちょっとムカつく?いやいや、そもそも比べる相手ではない。気にしたところで勝てる訳じゃなし……あれ?なんか泣きそう。
「ミケーリア嬢?」
「あ、はい」
名前を呼ばれて我に返った。
「どうかしたか?何やら考え込んでいたようだが」
「いえ、何も。ぼおっとしておりました」
卑屈になっていましたとはとても言えない。
「そうか?具合が悪い訳ではないのか?」
「いいえ、もう全然。元気モリモリですわ」
「そうか」
『うっ』
とってもいい笑みを返されてしまった。周りにも見えたのだろう。小さな声が上がった。
「注文は何にする?」
店員が持って来てくれたメニュー表を受け取ったアルノルド王子が、私にも見えるようにテーブルに置いてくれた。店員さんの髪やシャツが乱れていたように見えたけれど……そんなに忙しいのかしら?
「うーん、悩みますね。殿下は何にしますか?」
そう言うと「ミケーリア嬢」と被せるように呼ばれてしまった。驚いてキョトンとしてしまう。
「すまない。出来たら殿下とは……」
確かにそうだ。後の王がここにいる事が周りに知れたら、大騒ぎになってしまうかもしれない。ん?でもこんなキラキラ、隠せないのでは?一瞬、そんな思いが頭をよぎったが、まあそこは深く考えてはいけない。
「ああ、そうですよね。ではなんと?」
「そうだな……アルでもルドでも好きに呼んでくれて構わない」
おお、いきなり愛称で呼べと。




