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危険なナンパ

 私たちに声を掛けて来たのは、割と身なりの整った男性二人だった。顔に覚えがないので商人の息子、もしくは下位の貴族かもしれない。私も商人の娘風の服装だったから、アネリを連れていると言えどちょっと裕福な家の娘だとでも思い、軽い気持ちで声を掛けたのだろう。

「しない」

ぶっきらぼうに答える。二人の身なりは悪くないが、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべていて品がない。いい気分で買い物を終わらせたと言うのに、こんな人たちに声を掛けられるなんてがっかりだ。


冷たい一言で拒絶を示したにもかかわらず、二人の男たちはまだニヤニヤしている。なんなのこいつら、変態?

「そんな事言わずにさ。君たちみたいな美しいレディたちとお茶が出来るなら今日一日が、今までで一番素晴らしい日になる事は間違いないと言えるよ。だからさ、是非一緒にお茶を飲んで私たちを幸せにしてくれないかい?」

二人を見るアネリの視線が冷たい。勿論、私も彼らを睨むように見た。

「あなた方が幸せだろうが不幸だろうが、そんな事私たちには関係ない」

冷たく突き放す物言いをしているにもかかわらず、彼らはずっと私たちの後を付いて来る。

「今の冷たい言い方……たまらないね」

やっぱり変態だった。黙っていたアネリのこめかみがピクリとした。

「お嬢様、我慢出来ません。やってしまっていいですか?」

「アネリがやってって……それはもう命がなくなっちゃうよね」

「……ギリギリ、では?」

「駄目だから」

アネリのギリギリは瀕死、というかその場では死なないというだけだ。


『僕がやろうか?』

私の腕に抱かれていたクーが楽しそうに言った。

「駄目よ。クーもなんだか危険だわ」

なんとなくアネリと同等のような気がする。そんな不穏な会話が繰り広げられている事も知らずに、尚も私たちの背後をくっついてくる二人。こいつらはこの殺気を感じる事が出来ないのかと呆れる。

「はあぁぁ」

大きく溜息を吐いた私は、後ろを向いた。

「断っているのにも関わらず、どうしてそんなにしつこく出来るのかしら?随分と可哀想な頭をしていらっしゃるようね。私たちが大人しくしている間に、諦めて消えた方があなたたちの身のためよ」

『あなたたちの命のためにもね』

心の中でそう続けながら言ったのに、何故か二人のテンションが上がった。

「ふうっ、俺、気の強い女好きなんだよねえ」

そう言った一人の男が、私の腕を掴もうと手を伸ばした。ああ、駄目だ。本気の馬鹿には何を言っても理解出来ないのだろう。クーが唸り出すのと、アネリが暗器を手にするのを私は止めなかった。


そんな時。

「彼女に触るな!」

少し離れた背後から声が聞こえた。と、思ったらあっという間に差を詰めた声の主は、私に伸ばしてきた男の腕を掴み捻り上げた。

「いでででで」

痛みに変な声を出した男。

「この野郎!何しやがる!」

もう一人の男が、声の主に殴りかかる。しかし、彼は捻り上げている手を離さないまま、向かって来た男を蹴り飛ばした。

『足、長っ』

足のリーチの長さに心での中で突っ込んでしまった。イケメンで足も長いとかズルくない?


腕を掴まれた男はとうとう「離してくれ、悪かった」と命乞いを始めた。

「ならばさっさと消えろ!次に会ったら骨の数本は覚悟するんだな」

声の主はそう言って投げるように男を離す。二人の男はよろけながら逃げて行った。


「大丈夫か?」

振り向いた声の主は不安そうな表情で私を見た。私が怯えているとでも思ったのだろうか。

「大丈夫です。ありがとうございました、アルノルド殿下」

そんな彼を安心させるように穏やかな笑みを浮かべて彼を見ると、王子もホッと息を吐いて笑みを見せた。

「間に合って良かった」

「ふふ、殿下は凄いですね。声が聞こえたのは少し離れた所からだったような気がしたのですが」

「ああ、魔力で跳躍した」

「なるほど。本当に殿下のお陰で助かりました」

あの二人の命が、とは言えない。アルノルド王子と話をしながらチラリとアネリを見た。すると凄く不満そうな顔をしている。クーもちょっと拗ねているようだ。嫌だ、ストレス溜まってるのかしら?


「買い物をしていたのか?」

王子は私の腕に抱かれているクーに笑いかけながら言った。

「ええ、お兄様の社交界デビューのお祝いを」

「そうか……まだ買い物は続くのか?」

「いいえ、馬車に戻ろうとした所でこんな事になってしまったんです」

私の答えにアルノルド王子が少し何かを考えるような顔をした。


「ミケーリア嬢の予定が空いているのなら、少し私に時間をくれないか?」


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