忘れてた
話は自然と先日の収穫祭の時の話になる。
「皆はとても楽しい時間を過ごしたみたいだね」
レンゾ様の言葉に、シシリー嬢との事を思い出した。
「そう言えば、私の兄と一緒にシシリー嬢に付いていてくれたんですって?」
「ああ、そうなんだ。突然背後から抱きつかれてね。強盗かと思って、咄嗟に彼女の事を投げ飛ばしてしまったんだ」
「それは……」
アルノルド王子が言葉を失っていた。
「仕方ないですよ」
「私でもきっと投げたな」
パウル様とミアノ様はレンゾ様に慰めの言葉を掛けていた。
「ありがとう。でもまあ、女性を投げ飛ばしてしまった手前、そこでさよならって訳にいかなくてね。ヴィート殿も疲れていた様子だったからお詫びを兼ねて、一緒に行動する事にしたんだ」
軽くウィンクをしてみせるレンゾ様。思わずドキッとしてしまう。しかもそれは私だけでない。ここにいる皆がドキッとしたであろう事がわかった。中性的な雰囲気の彼は、男女関係なく魅了出来そうだ。
「本当はね、ミケーリア嬢に会えないかなと思っていたんだ」
「私?」
思ってもみない言葉に驚いてしまう。
「収穫祭に家族で行くって話をしていただろう。もしかして会えるんじゃないかなってね」
「そうだったのね」
「今度はさ、一緒に行かないかい?雪祭りだっけ?ダンドロッソでは雪自体降らないからね。そもそも祭りも年に一度しかないし。良かったら案内して欲しい」
レンゾ様のお願いに、私は素直に頷いた。
「そうね。じゃあ、そうしましょう」
雪を見た事がないレンゾ様には、雪祭りならではの楽しみ方を教えてあげよう。そう思っていると、アルノルド王子が声を上げた。
「私も一緒に回ってもいいだろうか」
アルノルド王子の言葉に、ついキョトンとしてしまった。しかも……どうした事だろう。アルノルド王子の頭に再び大きな耳が見える気がする。大きな三角耳を、へりゃりと下げている彼に、胸がキュンとしてしまった。
「殿下が行くのなら私も行かなくてはな」
「そうですね。では、皆で行きませんか?」
王子の発言を受けて、二人の護衛がそう提案してきた。
「それなら、皆で行きましょう」
きっと収穫祭の時のように楽しくなるだろう。そう思った私は、自然と笑みを浮かべるのだった。
週末。【光の乙女は恋を知る】を持ちながら、これからの事を考えていた。
「本当なら今頃シシリー嬢は、常に彼らと行動を共にしているはずなのよね」
「そうですね、でも現実では全くそんな様子はない……というか、お嬢様が侍らせておりますね」
「侍らせてません。この間の事は不可抗力です」
アネリに反撃しながら本をめくる。
「ええっと。次は冬期の休み中ね。結構あるわね」
まずはお兄様への社交界デビューのプレゼントを探しに街へ行くと……ん?お兄様の社交界デビュー?
「あああ!忘れてた!」
本の事ばかりでお兄様が正式に社交界デビューするのだという事を忘れてしまっていた。慌てて本をベッドに投げ部屋を出る。階下で家令を見つけた。
「お兄様の舞踏会の服は、全部決まっちゃった?」
一瞬だけ驚いた表情をした家令が、ニッコリと笑みを返した。
「黒のタキシードと白のシルクシャツは決まっております」
男性の社交界デビューの服装は基本、黒の燕尾服かタキシード、白のシャツという決まりがある。ただ、それ以外は特に決まりがないため。そこでどう個性を出すかが課題だ。
「じゃあタイはまだ決まっていないのね?」
「はい、左様でございますよ」
家令に確認を取り部屋に戻る。
「アネリ、街に行くから支度して」
「はい、かしこまりました」
着替えを済ませて早速、街へ買い物しに向かう。
「迷うわね」
美しいお兄様には、どれも似合う気がする。
「シルバーのタイも綺麗だし、ああでもクラバットにお兄様の瞳と同じ色の宝石を着けてもいいわね」
悩みに悩んで、シルクのクラバットにオーバルブリリアントカットのアメジストを選んだ。
「ああ、良かった。本に気を取られ過ぎて、危うく忘れてしまう所だったわ」
店を出て、馬車を停めてある通りへと向かう。すると、二人組の男性に声を掛けられた。
「お嬢さん方、この後時間ある?良かったらそこのカフェでお茶でもしない?」




