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もしかして

 自室に戻ると、アネリがぬいぐるみを部屋に並べてくれた。可愛らしく並んでいるぬいぐるみたちを見ながら呟く。

「やっぱり、あの本を置いたのはシシリー嬢かもしれないわ」

私を吹き飛ばした時、シシリー嬢はしきりに自分の指を確認していた。まるで、どうして私に向かってしまったのだろうかと考えるように。そして今日のお兄様から聞いた話。キョロキョロ誰かを探す様子だったとか、わざと迷子になろうとしているかのようだったと聞いた時。なんとなくだが、彼女が本を置いたのではないかと思ったのだ。


「それにしては、お粗末ではありませんか?」

しかし、私の考えをアネリが否定する。

「もしシシリー様があの本の持ち主なのであれば、最初の式典に遅れるなんて初歩的なミスはなさらないでしょう。それに……あの方はとても用意周到に物事をこなすようなお方ではありません」

確かにそうだ。彼女は正直、鈍くさい。天然がまずい方向へ向かっているような人物だ。仮に私の部屋に本を置いたとしたら、絶対に顔に出てしまっていたはずだ。

「ううん……けれどなんとなくシシリー嬢も、あの本を知っていそうなんだけどなぁ」

私同様、彼女もまた本の内容に沿って動いているような気がする。すると、アネリがフムと少し考えたような仕草をした。

「もしかしたら、シシリー様もお持ちなのかもしれませんね、あの本を」

「……なるほど」

それであれば少しは納得出来るかな。犯人は、私とシシリー嬢に本を渡した。二人が自分の役をしっかりこなせるように、といったところか。


「お嬢様は仮に、シシリー様があの本をご存じであったとして、情報を共有しようと思いますか?」

アネリの突然の質問に、私は迷う事なく首を振る。

「ん?それはない」

「ですよね」

彼女が味方であるとは思えない。真犯人が私とシシリー嬢それぞれに本を渡したのだとしても、どうして彼女の為に私が色々してやらねばならないのか。いや、実際に今は本の通りに動いてはいるんだけどね。でもそれは、あくまで自分の為にしている訳で、彼女の為にしている訳じゃないもの。それに、友達どころか好きでもない相手と協力し合うなんて、鳥肌立っちゃうもん。

「これからも本の通りに動いてはみるけど……それは彼女とは全く関係ないわ。ただ、どういう結末になるのか知りたいからだし」

もう今更、死ぬだのなんだのという脅しは信じてないし。なんて言うの?もう意地だよね。いつかは本の通りになるのかなって。実験しているようなものよ。


「皆と過ごすのも、嫌じゃなかったしね」

今日が純粋に楽しかったから、恋愛云々は抜きにして皆いい友人になれると思う。

「これからも本の通りにこなしていくわよ」

「それは楽しみですね。本の通りにならない事が」

アネリが良い笑みでそう答えた。



『確かに本の通りにこなしていくって言ったわよ。皆と過ごすのも楽しいとも言った……でもね……これは望んでないわよねぇ』

ここ数日、すっかり秋が深まり肌を掠める風が冷たかったのだが、今日は快晴で穏やかな気候だったのでクーと外でランチタイムを過ごす事にしたのだ。


そんな私たちが、教室を出て行こうとした所でミアノ様に声を掛けられたのだ。

「昼飯か?」

「はい、今日は天気がいいので外で食べようかと」

「へえ、外で?確かに屋上庭園とか気持ちよさそうだな」

「ふふ、ですよね。それでは」

「ああ……」

そんな軽い会話をしただけだったのに。

「いや、ミケーリア嬢と話していて、確かに今日は暖かいしいいなと思ってな」

大きなサンドイッチをどっさり持ってやって来たのはミアノ様だった。

「ミアノから話を聞いて……私も一緒にいいだろうか?」

足元に寄って行ったクーの頭を撫でながら言うのはアルノルド王子。

「殿下が来るのであれば、私も付いて来るべきだと思いまして」

美しい笑みを見せながら立っているのはパウル様だ。

「皆がミケーリア嬢の後を追っているのを見て、面白そうだなって」

一番後ろでニコニコして来たのはレンゾ様だった。


「……」

黙ってしまう私を見て、申し訳なさそうな表情をしたアルノルド王子。

「すまない、皆で押しかけて来る形になってしまった」

一番へりくだってはいけない人に、そんな顔をさせてしまってはもう何も言えなかった。


「いいえ。せっかくですから皆でランチに致しましょう」

「ありがとう」

小さく息を吐きながらも皆で一緒に過ごす事を提案すると、嬉しそうな顔で礼を言ったアルノルド王子の顔が何故か眩しく見えて、私は軽く目を閉じてしまった。


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